ジャック
「はじめまして。アルヴァル伯爵家子息ジャック・アルヴァルと申します。」
その男性は礼儀正しくフローラたちに挨拶した。
「あなたが。ジークをぶっ飛ばしてくれた方ですね。」
フローラは嬉々として言う。
「あ。君たちも知っているんだね。」
ジャックは恥ずかしそうに頭をかく。
「まあ、あれだけのことをしでかしてしまったからしょうがないか………。」
そしてジャックは、あれは頭に血が上ってしまいやってしまったこと。本当は殴るべきではなかった。と反省した様子で語った。
「私たちもすっきりしました。」
アリーも彼をほめそやす。
「いや。どんなことでも不意打ちは良くなかった。」
しかしそんなフローラたちの言葉にも喜ぶことなくジャックはまじめに返す。
「変なところでまじめなのよね。」
キディはそうジャックを見て言い微笑む。
そしてキディはフローラたちのこともジャックに紹介する。
「ああ。君たちが。」
ジャックは納得したようにフローラたちを見ると礼をした。
「え。そんな。」
フローラたちは顔をあげてくれるよう頼むが、彼は顔をあげない。
「君たちがいなければ、今回の彼の悪事は暴かれなかった。それにウェンディの心が晴れることもなかったはずだ。本当に、ありがとう。」
彼はお辞儀をし続ける。アリーはそんなジャックから視線をキディへ移し、なるほど。と目配せする。キディも、ね。と返す。フローラは、そんな2人に気づかずどうにかしてジャックを起こそうと奮闘する。しかしジャックは頭をあげない。
キディがそんな攻防を面白がり堪らず笑う。
「ほらジャックあなたもうやめてあげなさいよ。フローラが困っているわ。それにそろそろウェンディのことも話してあげて。」
「ウェンディ様お元気ですか?」
フローラとアリーは顔を輝かせる。そしてジャックもウェンディの名前が出るとぱっと顔をあげた。
「ウェンディは、うん。元気だよ。本当に、本当に明るくて眩しいよ。」
ジャックははにかみながらどこか遠くを見て話す。その様子はどこかふわふわしていて甘い。
「ウェンディ様のこと好きなんですか?」
フローラがその様子を見てずばっと聞く。
「え。」
これにはジャックは驚く。しばし沈黙し顔を染めていたジャックは恥ずかしそうに言う。
「えと。そうですね。お慕いしています。」
そのかわいらしいジャックに女性陣はテンションが上がる。
「ですよね。ですよね。」
「やはり!そうなんですね。」
「いや。でも僕の一方的な思いだから……。」
そんな3人に対し少し寂しそうにジャックは話す。
ジャックがウェンディのことを好きになったのは、ウェンディがまだ学園に居たときのこと。少し生真面目だったジャックは学友ともめたときがあった。その時に話を聞いて立ち回りわだかまりを解いてくれたのがウェンディだったという。
「ジャックのまじめなところ私は好きよ。一本芯が通っているその感じ。でも時には考えを逆の立場から見てみるのも新たな発見があっていいと思うわ。それはあなたの糧になりゆるぎないものになるはずだから。」
そんな事を言ってジャックのことを励ましたウェンディにジャックは恋をしたのだった。
「でも彼女は僕のことを何とも思っていないでしょう。」
ジャックは意気消沈しながら言う。
「そうかしら。」
そこにキディが挟む。
ウェンディも今回ジャックがジークを殴ったことを知っている。
「とても嬉しそうにしていたわよ。私のことを思ってそこまでしてくれる人がいたなんてって。それにあなたのこととてもやさしくていい人だって言っていたわ。」
キディはジャックを励ます。
「そうですか。それなら僕はもうそれだけで………。」
ジャックは満足そうに微笑み、部屋の外へと行こうとする。ジャックはキディの言葉だけで満足してしまったのだ。しかし女性陣はそんなことでは終わらせない。
「「「ちょーーーーーーーーーーー。」」」
女性陣はそんな彼を引き留める。
「何故どこかへ行こうとするんですか。」
「いやだって。」
反論しようとするジャックにフローラは言う。
「まさか自分よりもウェンディ様にふさわしい人はいるなんて思っていませんよね?」
「い、いや。」
「あなた知らないの?」
キディは怒りながら言う。
ウェンディはこのままでは遠縁の親戚との結婚が進められてしまう。ジークとの件が明るみになり彼女の立場は本当に悪くなった。それこそ遠縁などのつてがなければ貰い手がいない状況になってしまうほどに。そこで誰でもいいから、適当に見繕われいち早く結婚させようとウェンディの両親は考えているのだ。だからウェンディは結婚相手がどんな人かも知らずに遠い地へ追いやられてしまうかもしれないのだと。
「それは、本当ですか?だって彼女に落ち度はないのに………。」
ジャックは言うがキディは首を振る。
「ウェンディに落ち度はないわ。でもね。知らないことの罪ってものも怖いけどあるのよ。」
悔しそうにしながらキディはジャックに伝える。
「あなたはどうするの?」
そう問いかける。
「僕は…。」
数秒の後ジャックは言う。
「僕は彼女にプロポーズしてきます!」
叫ぶと一目散に外へと向かっていった。しかしすぐに戻ってくる。
「あ、あの彼女の好きな花を教えてください。」
息を絶え絶えにしながらキディに尋ねる。キディは笑いながら彼の問いに答えた。
「コスモスよ。」
「ありがとうございます。」
元気に感謝の言葉を口にすると、再び駆け足で、キディの家門を出ていった。
「良い人ですね。」
その様子を見つめながらアリーは呟く。
「でしょう。あなたたちが考えている婚約者としてふさわしい男性とはああいう人のことだと思うわ。」
キディはウェンディのことを思いながら、そうフローラたちに話す。
「「そうですね。」」
一生懸命に走りウェンディの下へと駆けるジャックの背にフローラたち2人はキディの言葉に強く共感するのだった。




