4人
「ごめんなさい。ごめんなさい。」
彼女はひたすらそう謝り続ける。
「えと、そんなに委縮しないで下さい。」
フローラは少しやりすぎたと思い、宥める。
「でも私のことを、罵りに来たのですよね。」
彼女は依然として怯えながら言う。
「違いますよ!」
「え、でもフロミス様の妹君ですよね。だから………。」
「お姉さまも私もそんなことしません!」
声を張り上げるフローラ。
「ああ、ごめんなさい。」
また彼女を謝罪の嵐にし、焦るフローラだった。
そして時間が立った広間で。
「ということで、連れてきたわ。」
少々疲れをにじませながら、フローラは彼女を紹介する。
「お待たせしてしまいごめんなさい。あの、えと、ウェンディ・キウーダンです。」
オドオドしながら話す彼女に何をしたんだという目でアリーとクランはフローラを見る。
(何もしていないわよ。)
心外だというように頬を膨らませ2人を見る。
「あの、それで今日は何を…。」
目で会話をする私たちに、恐る恐る聞き出すウェンディ。
「そう!今日は大事な話をしに来たの!」
とその前に。とフローラは2人を軽く紹介する。しかしクランを紹介すると彼女をまた怯えさせてしまう。
「だからあなたのことを糾弾しに来たわけじゃないから。」
そう言い、座らせ紅茶を飲ませ落ち着かせるとしっかりとなぜ彼も来たのか聞かせ納得させる。
「はあああ。」
どうやらすごく緊張しているようで、紅茶を飲むと長い震えた息を吐く。しばらく落ち着くのを待つ。そして紅茶を3杯ほど飲ませるとやっと私たちの顔を見られるようにウェンディはなってきた。
「さて。落ち着かれたようですし、伺いますね。」
フローラは手をパンと叩き場を仕切る。そして話す。自分たちがなぜここに来たのか。
「はい。お話は分かりました。私とジーク様のことを知りたいのですよね。」
少々震えながら話を聞き終えたウェンディは言った。
「ええ。」
そして彼女は話し出した。ジークとのことを。
ジーク様と会ったのは入学してから間もないことでした。私が学園の中で迷っているところを助けてくれたのです。ジーク様は迷って困っている私を優しくエスコートしてくれました。本当に優しかったんです………。それが出会いでした。そこから度々ジーク様の方から声を掛けてくれるようになったのです。私もそうして彼とお話ししているうちに…。
そしてしばらくたった日の放課後、ジーク様から告白されました。私は、はじめ信じられなくて本気なのか聞いたんです。そうしたら結婚を前提にと言って、ひざをついて申し込まれました。だから私もそのつもりで、了承し受け入れたんです……。
手紙に花束に、アイの言葉。いろいろなものを受け取りました。それに家にも招待いたしました。そして父にも挨拶してくれたので、私は本気だと思っていました。でも……。ある日、聞いてしまったんです。ジーク様がフロミス様と婚約関係にあるということを………。私はその時のことを今でもはっきり覚えています。天地がひっくり返ったようでした。でも私は信じられませんでした。だって…。
そして私はジーク様と会い、確かめました。フロミス様とのことは本当なのかと。そうしたら彼は…。彼は笑ったんです。何だ。バレたのかと。私もさすがに憤り彼に迫りました。私とのことは遊びだったのかと。しかし彼は当たり前だと。お前のような意味を持たない爵位の令嬢などと本気で付き合うわけがないと言って……。
その後もジーク様と話し合おうとしても彼は会おうとせず、むしろ手紙で私を攻めました。自分の立場を悪くするつもりかと。もう私は絶望しました。
父にもその話を伝えました。父は一緒に怒ってくれましたが、上の爵位の人には勝てないと。あきらめないといけないと言われ私はもう。それで学園を去ることを選びました。これが私とジーク様のすべてです。
そう話し終わるとウェンディは立ち上がり、深々と頭を下げこう言った。
「フロミス様には本当に申し訳ないことをしました。それにこうしてわざわざ来ていただいてすみません。本来は私が謝罪に伺うべきでした。」
3人は静かに話を聞いていた。
しかしその最後の言葉を聞き、フローラは立ち上がる。
「いいえ。やはりあなたが謝ることはありません。どう考えてもあいつが100%悪いです。」
「あ、あいつ。」
「そうでしょ。ウェンディ様ももうジーク様なんて言うのはおやめください。」
そんなフローラをアリーは紅茶をぐっと飲ませて一息つかせる。
「手紙などの証拠もあります。諦めるなんて悔しいではありませんか。」
アリーもその間に拳を握りしめ、そうウェンディに伝える。しかしウェンディは、悲しげに笑いそんなことしても私の家では勝てないと言うのだった。
「そんな。」
「いいのです。今日は来てくれてありがとうございました。久しぶりに人と話して、しかも私の気持ちに寄り添ってもらってとても嬉しかったです。ですからもう十分です。」
そう泣きそうな表情になり言う彼女にフローラとアリーは何も言えなくなってしまう。
すると。クランが席を立った。
「クラン?」
フローラが不思議そうに声を掛ける。
「すみませんでした。」
クランはそう言い、深く深く頭を下げる。
「え。いえあなたが謝ることではありません。頭をお上げください。」
ウェンディは慌てて頭をあげるように言うがクランは上げない。
「いえ。本来であればすぐにでも謝罪に来るべきでした。本当に本当に申し訳ありませんでした。」
依然頭を下げたまま、クランは誠心誠意謝罪をする。これには思わず、フローラもアリーも感心してしまう。
「もう本当にいいのです。その謝罪お受けしますから本当にもう頭をお上げください。」
ウェンディは優しく笑い言うのだった。その様子にクランもようやく顔をあげる。
「どうぞ座ってください。」
そして渋々というようにクランは席に着くとこう切り出す。
「いえ、あなたはあきらめてはいけない。絶対に。」
「でも……。」
「ご婚約されるからですか?」
「なぜそれを…。」
「聞きました。」
本当はキャサの調査から知ったのだがクランはそう言い話す。
「確かに今蒸し返すのはあなたにとってももう今更でしょう。それに虫のいい話だ。」
「いえ…。」
ウェンディはうつむく。
「しかし考えてほしい。あなたを失意の下へ追いやった男は今ものうのうと暮らしあまつさえ再びあなたのような女性を傷つけ楽しんでいる。それは自分の欲望を満たすためだ。」
クランはウェンディをはっきりと見据え話す。
「あなたには彼にしっかりと罰を与える権利があるはずだ。これ以上被害者を出さないためにも。何よりもあなた自身が前を向いて生きていくためにも。怯えて過ごすことなどないようにするためにも。」
そこまで聞いてウェンディは初めて顔をあげる。
「私が生きていくためにも……。」
「そうです。」
その様子を見てクランはまじめな顔で頷く。
「しかし私1人にそんな力など。」
再び下を向く彼女に今度は二人が言う。
「いいえ。1人ではありません。」
「私たちがついています。」
自信たっぷりの顔をして、2人はウェンディを安心させる。そしてウェンディの手を握り言うのだった。
「見せてやりましょう、あの男に。女性に対して無慈悲な行いをしたものがどんな末路をたどることになるかを。」
ウェンディの冷えている体を包み彼女に勇気を与える。
「あなたの味方は大勢います。それを思い出してください。」
ウェンディは優しく包まれた体を抱きしめる。
「私はあきらめるのが早すぎたみたいですね。」
そう言って笑うと彼女は、はっきりと答える。
「手伝わせてください。あなたたちが考える最高の作戦に。」
彼女は涙を拭き去った。




