キウーダン家
そして2週間後。
「それでキャサ。」
フローラはキャサを呼び聞く。
「ええ。調べはつきました。」
キャサは淡々と言い、1枚の紙をテーブルに置いた。
「ありがとう。」
礼を言いフローラは、キャサからその紙を預かる。紙には調査結果が書かれていた。
調査用紙
キウーダン家ご令嬢ウェンディ・キウーダンについて
学園の生徒であるという事実は確認済み。
ただしそれは昨年までのこと。今年からは学園を自主退学している。学園に通っていたとすれば今はジーク様と同じ2年生。
病気を理由に養生しているということになっているが実際は健康上に問題はないようだ。
メイドの噂では、彼女の遠縁の親戚との婚約が推しすすめられているという話がある。どうやらジーク様とのことが話題になるのを恐れたのではないかとのこと。
ジーク様がご令嬢の実家に顔を出したことがあるがその際は仲睦まじい様子だった。しかし通いに来られたのもご令嬢が学園に通ってすぐの頃1度か2度。それ以降は見たことがない。おそらく恋仲になったのは1年の初期の頃。その頃はまだご令嬢はジーク様に婚約者がいることを知らなったのではないかと推察される。
以上、キウーダン家ご令嬢についての調査結果。
「ありがとうございます。」
「助かったわ。」
2人は読み終えるとキャサにお礼を言う。
「いえ。2週間ではこれくらいです。」
キャサは礼をしながらそう話す。
「いえ、これだけのことを調べてくれたら十分よ。」
フローラは首を振り答える。
「そうですか。やはり私は優秀ですか。」
キャサはにやける。
「いや、そうは言ってないけど…。まあ、ね。」
「フローラここは褒めなきゃ。」
アリーに耳打ちされる。
「ああ。」
「よっ。天才!」
「さすがね。キャサ。」
2人のその声にキャサはうんうんと耳を傾け聞き入る。そして何が帰ってくるのかとまっている2人にキャサはこう言う。
「では私はこれで失礼いたします。」
そしてその場からさっさと去った。2人は唖然とする。
「まったくもう。」
そんな風に言いながらもキャサが去るのを温かく見送る。
と2人は改めてキャサから受け取った紙を見る。
「彼女も被害者の様ね。」
調査結果を読み2人はそう思った。
これは推察だ。弱小貴族で辺鄙な場所にある男爵家の令嬢は世間知らずだった。そのため、入学後すぐにジークの罠にはまってしまったのだ。結婚を視野に入れて彼女は交際していたのかもしれないが、ジークは遊びだった。それを知らずにジークと付き合ってしまった男爵令嬢は婚約者がいることをある日知ってしまう。おそらくジークに詰め寄ったことだろう。私とは遊びだったのかと。しかしジークはそこも考えてのことだった。ただの1男爵令嬢である彼女は勝てなかった。失意の下、彼女は学園を去ることを選んだのだった……。
「こんなところかしら。」
2人は想像をめぐらし、大方の予想をつけた。
「碌なことしないわね、あいつ。」
ジークのことを思い出し悪態をつくフローラ。2人は、「けっ」とジークのことを頭の中で蹴とばしながら今後のことを考える。彼女も被害者なのはそうだ。しかしジークの所業はバレていない。それはだめだ。そのためには………。
「彼女にもっと話を聞きたいわね。」
フローラは髪をいじりながらそう呟く。
「そうね。」
アリーは同意する。彼女にもっとジークとのことを聞き、協力してほしいと思っていた。
次の日。休み時間にクランがフローラとアリー2人で話をしている下へときた。
「そういえば、あれはどうなった?」
周りに配慮をしたのか、指示語を使って聞いてくる。
「「ああ、あれね。」」
2人も察する。
「かなりわかったわよ。」
そう言って、フローラはキャサが調べてくれた調査結果が書かれた紙をクランに渡す。クランは気を使いその紙をさっと読むと、フローラへ返す。
「すごいな。わずか2週間でこれだけのこと。本当に優秀な人なんだな。」
驚きの声をだすクランに、フローラは紙をしまいながら誇らしげな顔をする。そしてこの後のことも気になっているクランに2人は今後のことを話す。
「会いに行くわ。」
少し学園からは遠い場所にキウーダン家はある。そのため、今度の学園の休日に出かけることを2人はクランに伝える。
「そうか。わかった。」
納得したクランは、頷くと席へと戻っていった。
その週末。
「え。クラン。」
フローラは指をさし、用意され準備万端の馬車をさす。
「ああ。用意した。」
何てことないように、馬車の前で待っていたクランは言う。
「そうじゃなくて。何故いるの?」
今度は2人が驚く番だった。
「兄貴の馬鹿な行為のせいで起こったことだ。俺が直接行って謝罪をすべきだと思った。」
まじめな顔でそう言うクランに、何も言えなくなる。
((本当に兄弟なのか。))
そんなことを思わずにはいられない。
賑わい彩のある町を抜け、人や建物がまばらな地区へと出る。
「人が少なくなってきたわね。」
町育ちの二人にとっては、珍しい光景だった。
「ここら辺は農業が盛んだから、人家が少ないのはそれが原因だろう。」
まじめに返すクランは家の騎士団の遠征について外によく行くため通る道だという。
「もうすぐだ。」
クランは呟く。フローラとアリーは互いに顔を見合わせ頷きあう。
そして馬車は、周りの家よりも豪華な装飾が目立つ家へと向かう1本道へと入っていった。
馬車は、「がこっ」と音を立て止まる。サポートされながら、馬車から降りた2人は屋敷を見つめた。ウェンディ・キウーダン、彼女はいったいどんな人なのだろうかと考えながら。
「こちらでお待ちください。」
メイドによって広間に通され、紅茶やお茶菓子が出される。
そこから待つ。待つ。
「少し、待たされるわね。」
フローラがそう言う。
「まあ、行くことは伝えたけれど急だったから。」
アリーも少し長いと思いつつ、まあまあと納得させる。
そして再び待つ。待つ。
メイドたちも気を使い、ちょくちょく顔を出し謝りながら、お代わりなどを持ってくる。
しかし待つ。待つ。
「ちょっと化粧室をお借りしてもよいですか?」
フローラは立ち上がり、待ってもらっていることについて謝りに来たメイドに言う。
「はい。」
メイドは申し訳なさそうに言い、案内する。
そしてフローラは化粧室へと入る。
「どうもありがとう。帰りは大丈夫よ。」
そう言いフローラは鍵を閉める。外のメイドがいなくなるのを確認すると、戸をゆっくりと開ききょろきょろとあたりを見回す。
「よし。」
業を煮やしたフローラは自ら繰り出すことにしたのだ。
(さて。どこにいるか。)
フローラは考える。その時。
「お嬢様。いい加減覚悟をお決めください。」
遠くから声が聞こえてくる。
「ここか!」
通路を歩き、声が聞こえたであろう戸に手を掛け開ける。するとそこには…庭が広がっていた。木々が生い茂る庭の中1本の木の下にメイドが集まっている。
(何かしら?)
そう思い近づくと、彼女がいた………。いたが……。彼女がいたのは木の上だった……。
「え?」
フローラはこれには驚く。かわいらしい見た目をした女の子が木の枝に腰かけているのだ。しかしもっと驚いたのは彼女だった。
「ええええええええええ。」
叫び声をあげたその拍子に、木から落ちそうになる。
「ひ。」
思わず小さく悲鳴を上げる。何とか持ちこたえた彼女は木に抱き着く。
「ふー。」
安心したのもつかの間。
彼女は急に木からよいしょとにじり降りてくる。やっと降りてきてくれるのかと安堵したメイドたち。しかし違った。彼女は木から降り立つと、ぺこりと一瞬礼をする。そして走り出した。
「は!?」
メイドもフローラも驚愕する。まだ逃げるつもりらしい。
「逃がさないわよ。」
フローラも負けてはいない。数秒後、彼女の後を追い走り出す。
「都会っ子も負けちゃあいないわよ。」
フローラもおてんばさには自信があった。じわじわと彼女に近づいていく。そして腕を出し彼女を掴む。
「捕まえた。」
にやっと彼女に笑いを向けるフローラ。そんなフローラに彼女が向けたのは怯えの顔だった。




