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ジーク・アルスター

俺はジーク。アルスター家の長男にして次期当主のジーク・アルスターだ。俺は今喜びに満ちている。何故なら物事があまりに自分の思い通りに運んでいるからだ。

「いやーいい朝だな。」

ご機嫌に俺は階段を降りダイニングへと向かう。

「おはようございます。」

両親に挨拶をし、席に着く。

「学園の方は問題ないか。」

親はそんな俺に質問をする。

「はい、上手くいっております。」

本当にすこぶる順調だった。

弟にも同様の質問をする両親。弟のことなどどうでもよい。むしろもっと俺について聞いて欲しい。そう思いながら朝食をさっさと食べ俺は学園へ行く準備をする。


「おい。準備してあるか。」

俺は従者に確認する。

「はい。ご用意しております。」

従者は俺の前に花を差し出す。

「よし。」

そう言って、従者から花をかっさらう。

「行くぞ。」

俺は従者を顎で使い、馬車を用意させた。まだ始業時間には早い時間に出かける。これも作戦の内だ。俺は馬車の中でうとうとしながら学園に着くまでを過ごした。



「着きました。」

その言葉で俺は起き、さっさと身なりを整える。

「花。」

そう仏頂面でいい、従者が預かっていた花を受け取る。

「いってらっしゃいませ。」

従者の言葉は聞き流し、俺は学園へと足を踏み入れる。


そしてまだ動ききっていない学園の空気の中を切って一直線に目的の場へと向かい、ある教室の前で止まる。中を確認すると目的の人物が今日もいた。

(よし。)

心の中でそう声を出し俺は彼女に話しかける。

彼女は俺に気が付くと笑顔で返してくれ、花を送るとすごく嬉しそうだった。さらりと真摯に、迷惑がらない範囲で会話を終わらせその場を去る。

(今のは、良い感じだった。)

自分で採点し、ほくそ笑む。


彼女との出会いは、それはそれは運命的だった。

あれは数か月前。あるパーティーでのことだった。その日は偶然が重なり俺もそのパーティーに参加することになったのだった。正直面倒くさかったが婚約者からの招待ということで無下にもできず俺はそのパーティー会場へ渋々向かったのだった。


そこで俺は運命の人に出会った。花咲き乱れる庭園でさっそうと現れた女性。アベリア嬢。会った瞬間に惹かれるものを感じた。その後もアベリア嬢の弟に彼女のことを聞いたり、彼女に直接話しかけたりした。俺はもう確信していた。彼女こそが俺の、次期当主である俺のそばに立つ女性にふさわしいと。奥ゆかしく、俺の一歩後ろを下がりついてくるそんな理想の女性だと俺は彼女を認識した。

正直今まで婚約者だからと一応の体裁は保ち、フロミス嬢にアプローチなどもしていたが、そんなこともうどうでもよい。彼女はアベリア嬢と違い自分の好みとは違うし、運命の人ではないからだ。


そこから俺は考えた。婚約関係というのはそう簡単に解消できるものではない。が、アベリア嬢と結婚するためには、婚約を解消しなければ話にならない。どうするのが一番自分にうまく事が運んでくれるか。


作戦を思いつく前、弟にポロリと婚約解消した後のことを考え、フロミス嬢の家と結婚しないかなんてことを話したこともあった。まあ、弟は聞き流していたから気にもしていないだろうが。


そんなこともあったが、いろいろと考え噂をうまく使うことを思いついた。まずは、従者に命令し、アベリアの私物を盗んだり捨てたりと小さい事件を起こす。その後、事件のことが周りにある程度広まったところで、フロミス嬢の仕業だと、説得力のあるように自分たちの婚約関係が問題で起こったことと周りに話信じ込ませる。噂というのは、何人かに話せば一が十になり広まるものだ。うまく流した噂と事件が絡まりあい、フロミス嬢の黒い噂が立ち上がった。俺は話術には自信があったが、上手くいったことに笑わずにはいられなかった。そして今現在、思惑通り、フロミス嬢への逆風が吹いている。このままいけばいずれ親も婚約関係を真剣に考えだすだろう。


昼休み。俺は再び教室へと向かい、アベリア嬢に昼食の誘いをする。しかし今日も理由をつけて断られてしまう。やはりまだ婚約者のいる身、彼女は俺を心配して断っているのだろう。そんなこと心配せずとももうすぐ一緒にいられるようになるだろうから、ダメージは追わない。俺はなんてことないようにその場を去り、食堂へと一人向かったのだった。


食堂では思わぬ人物を見かけた。フロミス嬢だ。フロミス嬢とは、たびたび会っていた。それは噂のことについてだった。彼女は俺が流したことには気づいていないが、アベリアのことについてどう思っているのかなど色々と噂に関して聞いてきた。彼女の元まで噂が来ているのなら話は早かった。俺は彼女を一方的に非難し、婚約解消のこともちらつかせ、話をした。彼女は噂については否定する。しかし俺はフロミス嬢のせいでアベリアが学校生活を楽しめずにいるなどアベリアのことを話すと彼女は少しおとなしくなる。噂をうまく使えることで俺はフロミス嬢との婚約解消に向けて有利に事を運べる立場になっていた。そのためフロミス嬢と会う時俺は笑みを浮かべずにはいられなかった。俺の企てた計画にまんまとはまり窮地に落ちいっている彼女が俺にはおかしくてしょうがなかったからだ。


「こんにちは。フロミス嬢。久しぶりだな。」

俺は笑顔を浮かべ優しく話しかける。

「最近はあまりお会いできず申し訳ありません。何分私も次期当主ですから。いろいろと考えることがありまして。」

そう言うと彼女は表情を硬くして答える。

「いえ。問題ありません。」

俺はそれを見られて満足したためその場を去った。


うきうきとした気分のまま昼食を食べると、俺はまたアベリアに会うために教室へと向かうのだった。


放課後家に帰ると俺は従者に明日も花を用意するよう言いつける。今日の花はいまいちだったと文句をつけることも忘れない。

机に向かいにやにやと明日のことを考えているとある考えが浮かんだ。

(そうだ。アベリアに手紙を書こう。)

今までのアプローチは少々回りくどかった。しかしそろそろ本格的にしてもいいのではないかと思ったのだ。

机の引き出しを開く。すると、いらない手紙がいっぱいに入っていた。


「おい。」

従者を呼ぶ。

「この引き出しに入っている手紙はすべて処分しろ。」

「よろしいのですか?」

従者は少し不安そうに聞く。おそらくフロミス嬢の手紙など大事だと思われるものもあるからだろう。

「何度も言わせるな。持っていけ。」

俺は不機嫌そうに言い放つ。

「はい。承知いたしました。」

従者は急いで手紙を取り出すと、部屋から出ていった。


便箋のみになりすっきりとした引き出しはするすると動く。俺は気分が良くなり、特上の白くすべすべとした便せんを取り出す。どんな書き出しがいいだろうか。そんなことを頭で考えて、ああでもないこうでもないと文を作る。頭の中はもうアベリアのことでいっぱいだった。

「待っていてください。アベリア。」

頭の中での俺は正義のヒーローだった。格好よく登場し、彼女を窮地から救う白馬の王子。

「ふふ。」

そんなことをしていたからか。ジークは気づかなかった。そんなジークのことを見つめているクランの存在に。

「あいつはだめだ……。」

そんな風に実の弟に言われていることなどつゆ知らず、ジークは意気揚々と便箋にペンをはしらせ、ジークの一日は終わっていったのだった。


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