ツノの騎士、黒い岩
「ん〜〜〜!!!いい風!!!」
デッキの手すりにつかまり、外を眺めて叫ぶカナエ。
「いい風も悪い風もあるかよ変わんねえよ!」
メタルはその後ろからノソノソと歩いてくる。
現在、二人はホワイトシティを抜け、船に乗って次の街へと向かっているのだ。
街と街は広く深い海でつながっており、街から街への移動手段は、泳ぐか、セーフティの用意したクルーズ客船での移動のみ。
「なあつかよ、船なんだし迂回すりゃいいんじゃねえの」
「この海は広く見えるけれど、実際は一本道。
端まで行くと透明な障壁で塞がれてて、街を迂回するのは不可能よ。」
「へぇ…にしてもなんかおかしくねえか?
海挟んでんなら街じゃなくてもはや島だろ?」
「10年くらい前までこの海はなかったそうよ。
地獄はかなり変化の激しい世界なの。
村や集落、街がぽんぽんできたりなくなったり
して、判別が面倒になった結果、地獄での人が住んでいる地域一帯は全て“街”で統一されたらしいわ。」
「なるほどな。」
メタルも手すりに両肘を置き、カナエの横で
ボーっと水平線を眺める。
太陽に照らされ、煌びやかに光る海。
シンプルな青色は、ホワイトシティからの脱出を意味しているかのようだ。
「次の街は?」
メタルが呟くように訊いた。
するとカナエは片手に持っていたパンフレットを押し付けるように渡してくる。
「…サン・マウン…?」
次の街の名はサン・マウン。
メタルはパンフレットを開き、読み進める。
どうやら自然豊かなジャングルに囲まれた街
らしく、現地の先住民族“クラパラ”は皆同じ世界の同じ地域から来た人々だという。
「みんな同じ世界から来てこっちでも一緒に暮らすとかすげえな。」
「たまにあるのよ、集団でこっちにやってくるみたいな。
地獄では“前世の記憶があるほど前世の要素を引き継げる”、って話したでしょ?
この街もクラパラの人たちの要素、つまり、
街全体をクラパラのみんなが前世から引き継いで生まれたものってわけ。」
「そんなことできんのかよ!?」
「少なくない事例よ。」
メタルは興味を持ったのか、パンフレットを楕円にめり込ませるかのように読み始めた。
「“夜明かしの祭り”…?」
最後の1ページ下半分に書かれた内容に注目する。
どうやら、サン・マウンは基本夜が明けないらしく、クラパラの人々が儀式をすることによって明かすことができるらしい。
それが何年も続き、今や毎夜祭りとなっているそうだ。
「え!?お祭りあるの!?ちょっと楽しそうね!」
カナエがメタルの肩を掴んで覗き込んできた。
「は?何言ってんだお前?セーフティの本丸に近づくためだけの旅なんだから、祭り楽しんでる暇なんてねえだろ…?」
メタルの言葉にハテナを浮かべるカナエ。
「あなたこそ何言ってるの?各地の祭りやら食べ物やらは楽しんでいくのが旅の流儀ってもんでしょ!?」
「くそっ!非効率的すぎる!」
「あんた効率とか考えるキャラじゃないでしょ!」
ため息をついてパンフレットをメタルから奪い取るカナエ。
「まあ、別に一日中いて楽しめるような場所でもないし、飯屋3軒ぐらい巡って、祭りだけ楽しん
だらすぐ次の船乗るわよ!」
「……」
メタルは呆れて言葉を出せなかった─────
─────船が着港し、二人はサン・マウンの大地を踏み締める。
「やっとついたぁぁっっーーー!!!」
「あっ!おい!」
早速カナエが飛び出してしまった。
カナエは港からつながる大きな道を外れ、わざわざジャングルの中へ。
「カナエえぇぇぇっっ!!!そっちには多分
飯屋もなんもねえええええ!!!!」
「でもいい匂いがするわよっ!!!」
確かに、カナエの言う通り、ジャングルの奥からは焼肉のような食欲を誘ういい匂いが漂ってくる。
「ご当地飯ッ!」
草木をかき分け、ひらけた場所に辿り着く。
その先に待ち受けていたのは…
「なんだてめえらぁ!?」
3人の明らかな“ワル”たちだ!
カナエを見てすぐに、腰からナイフを抜き取り、臨戦態勢に入った!
「はあああ!?ご飯はぁ!?」
「カナエあれをみろぉっ!!!」
メタルが指差したその先に、匂いの正体は
あった!
ワルたちに囲まれた“豚の丸焼き”だ!
「嘘でしょ…!?」
「おいおいおい…俺たちこう見えてここらじゃ有名な盗賊3人組だったりするんだぜ…?
目の前に現れたってことは…もう命はねえん
だぞ!?」
「メタルなんとかしてっ!」
カナエがメタルの背中を叩き押す。
「しょぉがねえなあ!?」
ゴキゴキと肩を鳴らし、3人と睨み合うメタル。
「へへへっ…石ころが俺たちと何秒渡り合えるかなあ…?」
盗賊の一人がナイフを振りながら煽る。
「答えは1秒だ!」
メタルは駆け出し、煽ってきたやつの頭を殴り気絶させる。
「こ、こいつやべぇっ!?アニキぃ!
例の“牙”使っちまえええっ!!」
「喋ってる場合かぁっっ!!」
「ぐぎゃぁっ!」
隙をついてもう一人の肩を掴み、豚の丸焼きに投げ込むメタル。
「もうお前だけだぜ?盗賊さんよぉ〜!」
「おおおとなしく降伏しなさいよ!」
カナエは木の影に隠れながら横槍を入れた。
「え、ええい…!」
窮地に陥った盗賊の取った行動はというと。
「これだぁぁ!」
ポケットから謎の“牙”を取り出した!
瞬時にメタルの楕円に投げ込む。
「あちょっ!」
ごくん、とメタルは飲み込んでしまったようだ。
「う、うおおおおお!?!?!」
するとメタルの全身の関節がありえない方向に折れ曲がり、
「ぎゃぁぁぁぁぁっっっ…ゔっ!」
最終的に楕円を閉じて気絶してしまった。
「ちょちょ!?メタルしんだ!?」
木の影から飛び出し、小走りでメタルに駆け寄るカナエ。
体を揺するも、メタルは起きない。
「ボディーガードは死んじまったなあ?
さ、仲間の分まで痛ぶってやろうか。」
ポキポキと手を鳴らし、カナエに近づいてくる。
「うそ…!」
カナエに手を伸ばそうとした瞬間だった。
「はああああっ!」
“人”が降ってきて、盗賊の腕が切り裂かれた。
「ぎゃ…ぎゃあ…!?」
盗賊は突然の出来事に尻餅をつき、自分の切り裂かれた腕を見たあと、目線を上げた。
そこには、大剣を片手に持った、“騎士”がいた。
「ひ、ひえええええええっっ!!!」
盗賊は騎士を見るに、すぐさま退散していった。
ひと段落つき、安心の息を吐くカナエ。
「た、助けてくれてありがとう。あなたは…?」
騎士に喋りかける。
騎士の鎧は、西洋風で、赤茶色に染め上げており、所々に金色のラインが刻まれていた。
そして目立つ、兜に生えた一本のツノ。
騎士はカナエの問いに答えず、ゆっくり兜を掴み、上げていく。
兜が完全に脱がれ、現れたのは黒髪の少年の顔だった。
「俺の名はジュウト。」
騎士はジュウトと名乗った。
兜を腰におさめて、メタルを眺めてしゃがみ込む。
「この感じだと、土地柄も知らないでジャングルに入ったんだね。」
「ま、まあ…」
カナエは流し目でそう言った。
「“サンの牙”を飲み込んだのか…。」
ジュウトは、鎧の腰に括り付けられている緑色の液体が入った小瓶を取り出すと、メタルの楕円を無理やり開けて液体を流し込む。
「うはぁ!?」
メタルは目覚め、起き上がった。
「くそあの盗賊どこ行きやがった!」
立ち上がり、ファイティングポーズを取る。
「もう逃げたわよ…」
「…?」
「俺が一人倒させてもらった。」
よっこらせと立ち上がり、大剣を肩に乗せる
ジュウト。
「お前誰!」
「この人はジュウトさん。私を助けてくれたのよ。ついでにあんたを起こしてくれたのも彼。」
「おおそうかよ…そりゃありがとな。」
メタルはジュウトに一言感謝を伝えると、一つの疑問を繰り出した。
「で、なんで俺たちを助けたんだ?
お前はこの街の警察的な役職なのか?」
ジュウトの眉がぴくりと動く。
「そんなんじゃないさ…ただ…」
ジュウトは兜を被りながら、言った。
「誰かを助けたかっただけだ。」
「よくわかんねえな。」
メタルはどうにも理由に納得できないようで、楕円を歪めている。
「…まあいいさ、おれは一旦これで。
サン・マウンを楽しんで。」
ジュウトはそう言ってジャングルの奥へと消えた。
「…で、俺らどうする?」
メタルはカナエに楕円を寄せて言った。
「どうするって…旅行再開でしょ!」
カナエは再び駆け出して行く。
「おまえ!少しは学べよ!!!」
そう怒鳴りながら、メタルは追いかけた。




