紫の触手、黒い岩
「オラァァッッ!!」
メタルは大量に迫ってくる触手を右ストレートで弾く。
「いくら伸ばしてこようが無駄だぜ!」
キルノに向けて駆け出す。
迫ってくる触手を掴み、ひきちぎり、殴って弾く。
「うおおっっ!!!」
そのまま大ジャンプして、キルノの頭上からパンチをお見舞いする。
「ぐぎゃぁっ!?」
キルノは即座に触手でメタルを包み、地面に投げつけた。
「いてて…やるじゃねえか…!」
「メタル…君の腕は何度も再生する。
私の内部破壊触手は普通に使っていてもあまり意味がない…なので。戦略を変える。」
キルノは後退りし、近くに生えていた木の影に入る。その瞬間、消えた。
「はあ?なんか消えたぞ!」
「前にもこんなこと…」
カナエは記憶を掘り起こす。
あの時だ。
この前、メタルがキルノに勝った時。
キルノは倒れて消滅した。
「くそっどこ行きやがった野郎…!」
「ここだあッ!!!!」
その瞬間、キルノがメタルの頭上から現れた。
差し伸べるように右手を向けると、手の甲に伸びる触手が放たれ、メタルの両腕に絡みつき、侵食していく。
「アゴァ!?」
「横しか見れない阿呆はドジするものさ!」
そう言ってキルノは手を引いた。
バラバラ、とメタルの両腕が崩れていく。
「メタル!」
背後でカナエが心配そうに呼びかける。
「くそってめぇ…」
「君の腕は再生する。
この感じだと、腕以外の部位も再生しそうだ。
だがひとつ…他の体の部分と明らかに違う性質を持っている部分がある。」
そしてキルノは、人差し指をピッと立て、得意げにこう言った。
「それはその“穴”ッ!狙うはそこだぁぁっ!!」
キルノは駆け出し、引き抜くようにして触手を放つ。
その触手は、腕がなくなり防ぐことができなく
なった“楕円”に向かっていた。
「ちっくしょおおおおっっ!!」
メタルが楕円を思いっきり閉めるも、もう間に合わ
ないと悟った瞬間だった。
「なっ…!」
触手が飛んできた“マチェット”により切り飛ばさ
れた。
どうやら、マチェッターが残った力を振り絞り、
投げつけたようだ。
「今だぁぁあっっ!!!」
メタルは地面を蹴り上げ、キルノの顎を膝で突き飛ばした。
「グギャァァ!?」
「今だ逃げるぞカナエぇっ!」
「う、うん!」
メタルは腕を生やすとともに、倒れるマチェッターを見る。
「しょぉがねえなぁ〜〜!」
マチェッターを素早くマチェッターを背負い、逃げていく。
キルノはそんな光景を薄目で見ながら、
疲れ果てたように倒れた──────
──────店員に案内され、三人はテーブルについた。
ブレザーを着た女、その対面に黒い岩とマチェットの男。
「お金出すのは私だから、全注文は私の許可を得てからね!」
カナエはそう言って、意気揚々と注文用タブレットの操作を行う。
周りをジロジロと観察するマチェッター。
他のお客たちが、“しゃぶしゃぶ”を楽しみ、肉を美味しそうに頬張っている。
「……なんでしゃぶしゃぶ店?」
マチェッターが言った。
「腹ごしらえだ。気にするなよ。」
メタルはそう言うと、箸入れから3本取り出し、
自分、そしてカナエとマチェッターの前に置く。
「俺はお前を殺そうした。敵だぞ。」
「お待たせいたしました。」
マチェッターの発言を遮るように、店員が肉、野菜などの具材を机に置いていき、テーブル中央のIHコンロの電源をつけ、鍋をセットしてだし汁を注いでいく。
「きゃー!?もう美味そうなんだけど!?」
「俺はしゃぶしゃぶで豆腐とか野菜食わないからな。
お前が食えよカナエ。」
「黙りなさい。私に従ってもらうわ。」
「……」
マチェッターは先ほどの発言をかき消され、
モヤモヤとした気持ちを纏いながらため息を
つく。
「…まあそう言う話はもうちょっと腹に溜めたあと、な!」
そう言って、メタルは肉を鍋に入れようとする。が、先に野菜を入れろとカナエに怒鳴られ、
しょんぼりしながらカナエが野菜を入れ終わるのを待つのだった─────
─────ぶくぶくと音を立てるだし汁。
マチェッターはそれをヒビのはいったガスマスクごしに眺めていた。
「…あなた、食べないの?」
カナエが、だし汁の中で肉を泳がせながら訊いた。
「もしかして、右利きだったか?」
そう言ってマチェッターのなくなった右腕部分を見るメタル。
マチェッターは、一言「ちがう」と否定し、一呼吸置いて答えた。
「……マスクを取りたくない。」
「食べなさい。あなたの分も払うことになってるから。」
「そうだ。全部お前が食べる前提の分量で注文してるからな。」
「その割には残りが少なく見えるが…」
「この岩が二人分食い散らかしてるからね!」
「はっ!?散らかしてはねえよ!」
顔を近づけ、睨み合うカナエとメタル。
そんな二人を見てマチェッターは呆れたように青いガスマスクを手で覆う。
「はあ…食べるか。」
マチェッターはガスマスクを外し、テーブルにゆっくりと置いた。
「あら、綺麗な瞳。」
「宝石みてえな色してんな!」
その素顔は、無性髭を生やした青年だった。
口や輪郭、鼻はこれと言って特徴がなかったが、
目だけは違った。
彼の目は、赤く、宝石のように輝いていた。
「…薬の副作用さ。」
マチェッターはメタルとカナエの顔を一目見ると、肉を箸で掴み、だし汁に泳がせながら語る。
「俺は前世で、建設現場で働いててさ。
そん時、事故って片目を失っちまったんだ。
翌日、怪しい黒服どもが現れて、目を治して
くれるって言うもんだから、ついていったんだよ。」
肉を小皿の胡麻だれに移し、頬張る。
噛んで、噛んで、噛み切り、飲み込むと、話を
再開する。
「そしたらこのザマだ。
謎の薬を飲まされ、次の日には目がばっちり治ってたが…赤くなってた。」
「おいおい…赤くなるのが嫌だったのか?」
メタルがジュースのストローを楕円に突っ込ませながら訊く。
「そうじゃない。
この目はただ赤いだけじゃなかったんだよ。
赤いこの目は“悪魔の目”だ。
俺はその日から、飛んでるものを見るとぶっ殺したくなるようになってよ。」
パクパクと食べながら、無言で話を聞くカナエ。
「今は感じないんだが…そんときはかなりキてたみたいでな。
殺したくて殺したくてうずうずしてた。
方法は覚えてないが、旅客機を墜落させて、たくさんの人を殺しちまったみたいなんだ。」
「んっ!?そりゃやばいわぐほっあ!」
カナエは驚きのあまり食べていた肉を喉を詰まらせてしまった。
「あーもうてめえほら水飲め水」
メタルはやれやれと言ったように水を渡すと、マチェッターに顔を向ける。
「それで、殺して、どうしたんだ?」
マチェッターは左手を睨みながら、話を再開
する。
「俺は…人をたくさん殺しちまった。
殺して、もう戻れないと思った。
だから悪に堕ちようと思ったんだ。
一度殺そうと思った奴は絶対に殺し、一度始めた悪行は投げ出さない。
金とか、野望とか、そんなものは関係ない。
ただ俺は、悪党に成り下がった自分を…戻す勇気がなかった。」
拳を作り、強く握りしめる。
「私たちを襲ったのも、悪党活動の一環って
わけね。」
水を飲み干し、わかったような口調で言い放つ
カナエ。
「そうだ。」
その返答が出され、しばらく沈黙が続いた。
カナエもマチェッターも、特に言うことが思いつかない、と言ったように。
「……どうでも良くね〜?」
沈黙を破ったのはメタルだった。
「お前がぶっ殺したやつはもう死んでるし、何をしようにも本人たちには伝わんねえからさ…」
一呼吸置き、メタルは言った。
「とりあえず、生きてる俺たちを助けてくれよ!」
「え…?」
「俺たちはお前に襲われた。でも生きてる。
だから俺たちに謝罪の意を込めて協力しろって
ことだよ!」
「な、なにを言っているんだ…?
俺は味方ではない、どちらかと言うと敵側の人間なんだぞ。まだお前らを殺す気でいるんだぞ!」
「でもさっきマチェット投げて助けてくれ
たろ?あれはなんだったんだよ?」
「あれは…キルノも殺したかったから…」
「じゃ、交渉成立だな!とりあえず今は共闘と行こうぜ!俺たちをぶっ殺すのはキルノ殺した後でいいだろ?」
「ちょっと、“俺たち”って何よ!?私殺されたくない!」
カナエがすかさずツッコミを入れると、メタルは反発し、再び二人は顔を近づけ、睨み合う。
そんな二人を見て、マチェッターは呆れたようにため息をつくと、青いガスマスクをゆっくり撫でた。
「わかった。今だけ協力してやる。」
その一言で、二人はマチェッターに顔を向けた。
「じゃあ早速作戦会議だ!」
メタルはそう言うと、高らかにジュースを天に掲げた。




