マチェットの男、黒い岩
────早朝。
まだ朝日も昇って間もない時間に、メタルは鼻歌交じりでコーヒーを淹れた。
カーテンを勢いよく開けて、太陽を眺めながら、コーヒーを楕円に流し込む。
「相変わらず真っ白な街だなあおい…。
でも、こうしてみると東京とそんな差がねえ気がするなあ。」
そんなことを呟きながらコーヒーを飲んでいると、
一瞬、人影が通り抜けたように見えた。
「…ん?」
窓に顔を押し付け、隣室、カナエの部屋の窓を見る。
そこには、マチェットを二つ背負い、ガスマスクを
つけた“青い男”が窓に張り付いている姿が。
「や、やべぇ〜!?」
メタルは慌てて自室から飛び出し、隣室の扉を突き破る。
すでに、青い男が窓を突き破っており、起きたてで髪の毛ボサボサなカナエの顔は困惑と恐怖でいっぱいだ。
「何してんだッてめぇ〜〜!!!!!」
駆け出し、青い男を右ストレートで殴る。
「俺の名はマチェッター…!」
その男、マチェッターは名乗りながら二つのマチェットを抜刀し、メタルの右ストレートを受け止めた。
「ちょっとメタル!そいつ誰よ!」
二人から離れたカナエがそう訊いた。
「知るか!とりあえず敵だろ!」
メタルは軽くそう返すと、体格差を活かして左手で頭をわし掴み。そのまま床に何度も叩きつける。
「ウブオァァッ!?」
「派手な登場の割にはよぇ〜な!
身長も低いしよぉ!!!!
そのガスマスク、破壊してやるぜえええ!!!」
床に頭をめり込ませ、右拳で床ごと落とし込む。
「よしっ。」
マチェッターを6階分ほど下の階に突き落とし、
安全が一時的に確保されたので、カナエは急いでブレザーに着替えた。
「にしてもちゃんとした宿泊施設で争ってるのに、なんでセーフティは来ないのかしら…」
カナエはメタルと共に部屋を出ながらそう呟く。
「昨日お前がキルノに襲われてた時もセーフティ来なかったしそれと同じじゃねえの?」
「あの建物は廃れた雑居ビルよ?通報する人もいなければ何か役割を持ってるわけでもない。
ここはちゃんと機能してるホテルだから、こんなに暴れたらセーフティがすぐ来るはずなのに…」
カナエとメタルは階段を使い、下の階に降りていく。
しばらく降っていると、目の前の踊り場にマチェッターが現れた。
「に〜がぁ〜さァァァァァんッッ!!」
ブンブンとマチェットをふりまわしメタルに襲いかかる。
「お前復活はやすぎるだろ!」
慌てて両腕を前に出し防御する。
マチェットの刃と、メタルの岩でできた腕が擦れ合い、火花を散らした。
「ハァァァッッ!」
マチェッターが思いっきりマチェットを引くと、なんとメタルの腕がかち割れてしまった。
「うそぉっ!?」
「何してんのよメタルぅっ!」
メタルはよろよろと体勢を崩しながらも、重心を前に集中させ、ガッとマチェッターにタックルを繰り出す。
「うぎゃっ!?重いんじゃぁ…!」
マチェッターを下敷きに倒れる。
そしてカナエに顔も向けず、「逃げてろ!」と叫んだ。
「…まだくたばんじゃないわよ!」
カナエはメタルから顔を背け、階段を下っていく。
階段を下る音が遠くなってきたところで、下敷きになって暴れているマチェッターを睨むメタル。
「おとなしくしてろよなあ〜マジで!
後少しで俺の両腕復活しそうなんだワ!」
「知ったことか!」
マチェッターは足を勢いよくあげてメタルを突き飛ばし、起き上がった。
先ほどと位置関係が逆転し、マチェッターが階段側に。
「いってえなあ…!
だが、もうおまえは終わりだぜぇっ!?」
空気を弾くようにして、メタルの両腕が、切断面から飛び出てくる。
「ふん、何度生やそうが関係ない。」
マチェッターは構えてそう言い、
「何度でも切り飛ばしてやるってか?」
メタルは腕を組んで苦笑する。
しばらくの間、二人は動かず睨み合い、緊張が
この場を包み込んだ。
最初の動いたのは、マチェッターだった。
「さらばだ堅物っ!!!」
「あっおいてめえっ!」
マチェッターが背を向けて階段を降りていく。
メタルは必死になってそれを追った。
「戦いを前にして逃げるとか正気かよおおっ!!」
メタルは滑るようにして階段を降りながら、そう叫んだ。
「目的は戦いんじゃねえんだよ!黒岩ァ!」
二人の追いかけっこはしばらく続く────
────ホテル1階、ロビーにて。
「ちょっと!不審者が暴れて私のこと追いかけてるんですけどっ!」
受付に駆け込み、そう訴えるカナエ。
「それが…セーフティボタンやさまざまな権限にアクセスできない問題がちょうど発生しておりまして…!」
どうやら、ホテル側で何か不祥事が起こっているみたいだ。
カナエは冷や汗をかいて玄関の方を見る。
その汗の期待を裏切らない、とでも言うように、
“ヤツ”はいた。
「やあやあ。お嬢ちゃん。」
キルノだ。
手の甲から触手を大量に伸ばし、周囲にあった家具を吹き飛ばしていく。
それに恐怖したホテルスタッフたちは、固まったカナエを気にすることもなく、逃げていった。
「ふふ……!」
不気味な笑みを浮かべ、ゆっくりとカナエに近づく。
「なんなの…あんた…」
恐怖から出た咄嗟の問いに、キルノは答えた。
「私は金持ちだからねえ…このホテルを買収し、
セーフティとの関係、ホテルとしての存在を消させてもらったよ…」
淡々とした説明を終えると、両手を大きく広げ、カナエの目を見つめる。
「今!抵抗せずに私のものになるというならば!
乱暴はことは控えよう!」
触手をバタバタとさせ、目を輝かせる。
その触手は、だんだんとカナエの脚に迫っていた。
恐怖でかたまり、カナエは逃げることさえしない。
「てめえええ逃げんなぁぁぁっっ!!」
そんなカナエの動かしたのは、一つの叫び。
「メタルっ!?」
カナエは振り向き、階段の方を見る。
メタル…と、追いかけられているであろうマチェッチェー。
「あっおい!」
マチェッターは急に足を止めた。
あまりにも急な停止で、メタルはマチェッターを通り過ぎ、階段からずり落ちて転んでしまう。
「キルノ、お前はゆっくり待ってるはずだろ?
なんでここにいるんだ?」
目の前に倒れているメタルを気にもせず、キルノを睨みながら、早歩きで近づく。
「貴様が遅いからだろう!
だからこの手で直接やってやろうと思ってね!」
「俺の仕事だ、俺にやらせろ…!」
キルノの目の前に来て、そう訴えるマチェッター。
「ふん。雇い主の方針には従ってもらいたいな?」
お互い、睨み合う。
緊迫した空気があたりを包む。
そして…
「しねえっ!!!」
「雑魚は引っ込んでろ!!!」
二人の戦闘が始まった。
マチェットと触手が絡み合い、弾かれ合う。
「あいつらさ、俺たちのこと無視して戦ってんだ
けど…つかなんでキルノ生きてんだ…」
トコトコとカナエのもとにやってくるメタル。
「よ、よくわからないけど逃げましょう…!」
メタルとカナエは、勝手に争い合う二人をよそに、スタッフ用の裏口を使い、ホテルから脱出したの
だった───
───しばらく逃げ続けて、二人はへとへとだ。
「流石に…ここまでくれば…安心よね…!」
はあはあと息を吐きながら、近くにあったベンチにずしんと腰をかけるカナエ。
大通りの公園、昼時で人は少ないが、先ほどの殺伐としたホテルから脱出できたのだと確信できるほど、
ここはのどかだ。
「おいあけろよ俺も座りたいんだけど…」
ベンチを支配するかのように座るカナエに言う。
「あんたが座ったら多分ぶっ壊れるわよ。
つか岩なんだし、地べたに座っときなさいよ。」
メタルは楕円をゆがめながら、地面に大の字で倒れる。
「これからどうすんだ…追われるのは疲れるし…あの触手生きてるし…」
呟くと、メタルはピコっと顔を上げる。
「あ、そういやさ、地獄で死んだらどうなんの?
もう俺たち死んでるわけだし、これ以上死なないんじゃねえの?」
「さあ…でも、“死ぬ”って概念はあるし、死体だって出るわよ。この世界。
寿命や成長はないっぽいけどね…」
空を眺めながら語るカナエ。
「へぇ…」
質問に答えられ、顔を再び落とす。
「……どうしよう……」
カナエが疲れと不安が混じった声で、つぶやいた。
「ふん、さっさと私のものになればいいものを。」
メタルとカナエは驚き、声の主に目線を向ける。
キルノだ。
「てめえ…追いつくのがはえーっな!」
メタルはカナエを背に隠し、腕を組む。
「雇用した人物の解雇に手間取って、少々遅れてしまったよ。本来、もう少し早く着く予定だった。」
そう言うと、触手でからめたマチェッターを背後から出し、みせつける。
マチェッターは服がボロボロになり、右腕がなくなっていた。
ぶん、と乱暴に地面に投げ捨て、触手についた血をハンカチでふくキルノ。
「さて、ラウンド2といくかい?」




