ブレザーの女、黒い岩
「思い出したぁぁぁっっっっ!!!」
「ウグォッッ!?」
メタルがキルノの腹にタックルをお見舞いする。
そしてその突き飛ばしたキルノを、左腕ですぐさま掴み上げる。
「俺は両利き手だったぜ…」
「なにぃっ…?」
「ついでに言うと…」
すると、メタルの右腕が新しく生え、一瞬にして復活した。
「俺の身体は再生するんだなあこれがぁ!」
「なにぃ…!?!?」
「オラァァッッッ!!!」
顔面を右拳で思いっきり殴り、突き飛ばす。
「ギャバァァァっ!」
キルノは日が遮られてできた影に大の字で倒れ、消滅した。
少女とメタルは安堵の息を吐く。
少女は立ち上がり、キルノの消えた影を見た。
「これで終わり、よね…」
「しらね、そうなんじゃねえの。」
「…」
少女は歩き出した。メタルは黙ってついていく。
階段を登り、外の空気が流れ込んでくる。
屋上だ。
すでに時間は夕方のようで、メタル達が立っている場所からは白い世界を夕陽が橙色に照らしているのがよくわかる。
「ふぅ…」
少女は手すりにつかまり、夕焼けを眺める。
髪が、風によって靡いた。
「なあおい、そういやお前、名前は?」
メタルは訊いた。
「…カナエ。」
「いい名前だな?」
メタルは顔の楕円を上に向けた弓のような形にする。
「…あんたそれ笑顔?」
「ニッコリだ。」
「よくわからない身体ね。」
「俺もよく知らないぜ。さっき再生すること知ったし。」
カナエがメタルに振り向く。
「とりあえず、お腹空いたでしょ?」
そう言ってカナエは財布を取り出した────
────カナエは麺を啜る。
「やっぱり、ラーメンはこってりな方が
いいわね」
カウンター席に座るカナエは、そういうと、
続けて何度も麺を啜り、噛んで、飲み込む。
「お前無駄に食いっぷりいいな。」
隣に座るメタルがガハハと笑ってそう言った。
「フッ。食事ってのはどれだけ食べ物を美味しそうに食べられるかの勝負なのよ。」
ドヤ顔でそう言い、水を飲むカナエ。
「よくわかんねえけどこのラーメンはうめえな!」
メタルは、楕円に無理矢理押し込むことで食べれているみたいだ。
「あんたそれ…どうなってんの?」
ついに気になったのか、訊いてしまう。
「この穴、口と鼻と目、全部詰まってるっぽいんだよな!
食べ物押し込んだら食えるし、味するし、匂いもする!ちなみに実際に見えてるのは上半分ぐらいの範囲っぽいぜ!」
「へ、へぇ〜。」
「それで、だな。」
メタルは、箸を一旦置くと、本題に入った。
「色々聞きたいことあるけどさ、明らかにこの地獄、俺の知ってるような人間が集められてねえんだけど。
触手生やす人間とか見たことねえし、そもそも俺自身もよくわかんねえよ!」
カナエはラーメンを食べながら答える。
「そりゃあ、みんながみんな、あんたの“知ってる世界”からきてるわけじゃないから。」
「おい食いながら喋るな。」
「パラレルワールドとか、並行世界とか、異世界だとか…あと多次元宇宙なんかも、聞いたことない?」
カナエは一旦麺を飲み込み、店長に水のおかわりを要求する。
「あー…つまり、変な触手生やしたりするような奴もいる世界があるってわけだな、んで、その
世界からの悪人もここにくるってわけか?」
水を注いでくれた店長にお礼を一言言うと、メタルの問いに「そうよ」と返す。
「巨大ロボットがバトルしてるような世界から、かわいい動物が喋ってるような世界まで、色々ね。
まあ、ほとんどはあんまり特徴のない似通った世界
から来てるけど。」
「ふ〜ん。」
メタルは話を聞きつつ、ラーメンを楕円に押し込む。
「今日襲ってきたキルノって奴の世界はきっと、惚れた女性を一方的に襲うような習慣か文化でもあったんでしょうね。」
冷めた声色で言い放つカナエ。
「お前みたいなただの人間はああ言う怪物にやりたい放題されちまいそうだな。」
メタルはパッと思い浮かんだことを口に出した。
「この世界じゃ前世の記憶を持ってれば持ってる
ほど、前世の“要素”を引き継ぐことができるの。
あんたの再生とか、キルノの触手とかね。
この辺の住民のほとんどは前世になんか悪事を
やったかなあ、ぐらいの感覚で、ほとんど覚えてい
ないようなのが大半だから、あんまりただの人間と変わらないわよ。」
「…ところでさ。
お前は前世、どんな悪事を働いたのか覚えてねえのか?」
「……覚えていない、と言うより、多分、何もしていないわ。」
「え、でもここにきた時点で悪人なんじゃ…」
「確かに、基本的にはそうよ。」
水の入ったコップを両手で包み、話を続ける。
「ここにきて前世でどんな出生や人生を送ってきたのか覚えてなくても、どんな悪事を働いたか覚えてる奴は多い。
でも、その逆は、多分いないわ。私以外ね。」
そう言って、一気に水を飲み干した。
「私はどんな世界で、人生を送ってきたかも、どんな死に方をしたかも覚えてる。
普通そこまで覚えていたら、悪事の内容も覚えてていいはず。でも私は…覚えていないの。
やったと言う感覚すらもない。」
「そんなこと言ったら俺だって悪いことした記憶ないぜ〜?」
すかさずメタルがつっこむ。
「でもあなた、悪いことした記憶どころか、その他の記憶もないんでしょ?」
「……」
黙り込む。
確かにメタルは、今のところ腕が再生するぐらいしか記憶にない。
「私ははっきりさせたいの。
なんで私がこの世界に来たのか。
私は悪事を働いたのか。」
しばらく間を置き、メタルが話し出す。
「…面白そうだな、乗った。」
「はい?」
カナエは慌てて聞き返した。
「俺、暇でやることないし、お前の謎が
明らかになるまでついていってやるよ。
護衛だ護衛。」
「……過酷な道になるわよ?」
「まあなんとかなるぜ。お前に興味が湧いてきたし、
それに、俺自身の前世も気になるし、なんで何も情報が送られずにこの世界に来たのかも気になる。
どうせ何もやることなくて暇だし、いいだろ?」
「…変な人。」
「人じゃねえかもよ?」
メタルは岩でできた肘でカナエを突き、ニヤついた。
この二人の空間に無理矢理入りこむ者が一人。
「なあところで嬢ちゃん兄ちゃん、食ったらならそろそろ店でねえか。」
ラーメン屋の店長だ。
「あっすいません…」
二人は店をあとにした────
────ブレザーの女と黒い岩は、夜になった白い街を歩く。
「つかお前どっから金手に入れたんだよ?」
「数日前までコンビニバイトしてたのよ、バイト。」
カナエはそう言って、ポッケに財布をしまう。
「…なあてかよぉ…どうすりゃこの謎たちは解ける
んだ〜?お前なんか方法知ってんの?」
メタルは後頭部で手を組みながら言う。
「多分だけど、“セーフティ”に聞けばいいと思う。」
「なーんか聞き覚えあるなあ…。」
メタルが記憶を掘り起こそうとする最中にも、カナエは話を続ける。
「セーフティは、地獄の秩序。
危険人物や生物が交わるこの世界を管理できる絶対的で最強の存在ね。多分運営的なポジションよ。」
「多分って…」
「セーフティの下っ端は割とそこへんにいるのよ。
お店を続けたり、地獄の人々が生活していくために、暴れる極悪人を取り締まるために現れたり、壊れた
インフラを直したりね。」
「じゃあそいつらに聞けばいいんじゃね?」
「そういうので現れるのはセーフティの道具に過ぎないし、喋ったりはしないわよ。
目標遂行のために動いて、消えてくだけ。
全てを管理してる本体はまた別にいるの。」
「ま、よくわかんねえけど。そいつはどこにいるんだ?」
「この街から…最短で3つほど街を跨いだ先にいるらしいわ。」
メタルは驚いて楕円を大きく広げる。
「おいおい嘘だろ…?遠くねえ…?」
「遠いわよ。それに、セーフティがしっかりと管理してるのはこの“ホワイトシティ”ぐらいで、他の街は地獄にやってきた悪人が支配してたりすることが多いわ。」
「はぁ〜!?無能じゃねえか!セーフティ!」
「まあまあ、それでも現状でわかってる地獄でトップの存在なんだから、会いにいくしかないわ。」
カナエはとある建物の前で立ち止まる。
「なんだここ?」
「ホテルよ。」
「…同室かね?」
メタルは楕円を、まるで口角の上がった口のような形にさせた。
カナエは察して、はぁ、とため息をついく。
「なーに想像してんの。お金はあるからあんたは別室、わかったらさっさとチェックインして寝る!」
メタルの背中を押してホテルに入っていく───
───どこかの小部屋、キルノは、ホテルへメタルを押し込もうと奮闘するカナエを観察していた。
「何をしているんだ彼女は…」
そう呟くと、背後から何者かが近づいてきて、跪いた。
「きたか、“マチェッター”?」
キルノは振り向き、確認する。
そこには、青いレザージャケットを着込み、ガスマスクを装着した男が、“マチェット”を足元に置いて跪いていた。
「君の任務は、あの女をここに持ってくる。
それだけだ。岩の方は勝手にしろ。」
「…久しぶりに大暴れできそうだな。」
マチェッターはガスマスク越しに、どす黒くくすんだ声を放つ。
「悪党にはぴったりな仕事だ。」
そう言うと、マチェットを掴むと共に立ち上がる。
「おっと、夜襲は禁物だ。何かをやっていたら男性と大変だからな。襲うなら朝、な。」
すぐさまホテルへ向かおうとするマチェッターを制止する。
「…わかった。」
「ならよかった。」
キルノはニッコリと笑顔を見せると、すぐさまホテルを睨んだ。
「絶対に私の手中に収めてやる…!」




