白い街、黒い岩
「ァガァッ…!」
燃え盛る建物の中、俺は壁に投げつけられた。
オレを投げつけた少年は、片手に“水の剣”を持ち、オレの首が切れる寸前で刃を置く。
「なんでこんな酷いことをしたんだ…!」
少年が怒りに満ちた声で言った。
俺は考えるより先に口を開く。
「なんでだろうな!」
少年は顔を歪め、剣を掴む手を震わせた。
「…死んで償え…悪党が!」
少年は俺の首を切り裂いた────
────“大男”が目覚めたその場所は、汚い路地裏のような場所だった。
「なんだぁ…ここ…?」
目の前には白い壁、頭上には白い空と輝く太陽。
大男はゆらゆらと進み、路地裏を出た。
周りをぐるっと見る。グレーの車道と白いビルがたくさん
立ち並び、人々が行き交っている。
呆気に取られていると、どっと肩に“何か”がぶつかった。
「失礼。」
肩にぶつかった“何か”は、黒いスーツを身に纏った人だ。
いや、人ではないかもしれない。
頭は確かに人だが、よく見てみると、服から出ている手は
紫色で、短い触手のようなものが6本、手の甲から飛び出している。
「マジでどこだよ…ここ…」
大男は歩く。
何も覚えていない。気づいたらここにいた。
少しして、ガラスの前で立ち止まる。
自分の姿が反射して映る。
全長が2メートルほどで、全身が“黒い岩”に包まれている
かのようにごつごつとした外見になっていた。
顔も口や目などといった人間としての基本的なパーツはなく、代わりに1つの丸くて大きな楕円がマグマのような赤い光を発し、大男の意思でピクピクと動かすことができた。
「へぇ〜……いいじゃん!」
意外にも大男は気に入ったようだ。
再び歩き出し、そのへんで弱そうな奴を探す。
ここがどこで、“誰が権威者”かわからない今、この男は弱い奴から状況を聞き出そうとしているのだ。
「なあ、おいちょっと。」
目の前を歩いている、自分より体が小さく、女子高生のようにブレザーを着た“少女”の肩を叩き、そう言った。
しかし少女は気づいていないのか、それを無視して歩みを止めない。
大男はめげずに肩を叩き続ける。
「なあ!おい!なあ!おい!なあ!おい!!」
「なにっ!うるさいわね!」
長髪の髪を振り、やっと少女が振り向いた。
「あんた誰?私知らない人と必要のない会話はしたくないんだけど!」
少女はかなりイラついているようだ。
大男は咄嗟に思いついた名を名乗る。
「俺は〜…“メタル”だ!」
「メタルってよりかはロックでしょあんた…」
「うるせえな!」
メタルは自分が自信満々に名乗った名前に文句をつけられ、少しイライラしたものの、本題に移った。
「…で、俺は目覚めたらなんも知らなくてよ、
なんかここにいたんだけど…ここどこだよ?」
少女は呆れたかのようにため息を吐く。
「なるほど、ね。」
一呼吸置き、少女は言った。
「ここは“地獄”。あんたは死んだのよ。」
メタルは首を傾げた。
少女はそんなメタルを見て、続けて話す。
「あんたは死んでこの世界、“地獄”に来たの。
人から恨まれ、憎まれた悪人が死ぬと、この世界にやってくるのよ。
前世、何をしたか覚えてない奴らも多いけど、送り込れる時にこの辺の情報は脳に入ってるのが普通よ。」
「へぇ〜…悪人が集う世界にしちゃあ結構平和に見える
けどな?」
「まあ…そうね。前世で何をしたか、どころかその動機すら覚えていない奴が殆どだから、この世界だとおとなしく、
静かに暮らしてる、なんてことも多いみたいよ。」
「ふぅ〜ん。まあでも、ここに来た時点で何か悪事を働いたってことは確定なんだな!お前も悪人ってわけだ!」
すると少女はビクッと肩を振るわせ、
「私はちがっ……話はここまでよ!さっ、どっか行って!」
と怒鳴って走り去ろうとする。
「ちょ、待ってくれよ!俺来たばかりで何をしたらいいかわからねえ!」
そんな肩を逃すまいと掴むメタル。
「あぁ〜もう!だったら人助けでもしたら!?
どうせ前世は悪人なんだからその分の罪でも償って生きなさいよ!」
バッとその手を振り払い、少女は逃げていってしまった。
その光景を、ポカンと見届けるメタル。
そうしているうちに、メタルの腹からぐ〜っと音が鳴った。
「…とりあえず、なんか食いてえな。」
呟き、歩き始める。
コンビニらしきものが見えた。
「入るしかねえ…!」
メタルはコンビニの自動ドアが開くのを丁寧に待ち、入店した。
「いらっしゃいませー。」
店員の掛け声を耳に入れずに、早歩きで、すぐそばの棚にあったチョコバーなるものを手に取る。
「じゃ、これもらっていくぜ!」
メタルが店から出ようとすると、慌てて店員が止めた。
「お客さん!お金払ってもらわないと!お金!」
メタルは頭が真っ白になる。
「金が、必要なのか?」
「そうです!」
「地獄なのに?」
「そうです!」
「死んだあとも金が必要なのかよ〜〜!?!?」
「そうです!!」
メタルは呆気に取られた。
まさか死後の世界も金によって物の取引が行われているとは思わなかったのだ!
まあそもそも、少し考えて動けば、コンビニの物を勝手に取っていくなんて行為は到底しないだろうが!
「クソが!じゃあ俺はどうせ悪人だからこれは盗むぜ!」
「おやめくださいっ!
呼びますよ、“セーフティ”!」
すると店員はポッケから小さなボタンを取り出す。
「セ、セーフティ…?」
「とりあえず、そのチョコバー返してください!」
「あっ…!」
店員はチョコバーを無理やり奪い取ると、メタルにこう言った。
「お金がないなら、仕事なりなんなりして稼いでくださいよ。」
「えっこの世界でも労働の概念が…?」
「あるに決まってるでしょ!だから俺はコンビニ店員してんだよ!!」
呆気に取られたままメタルは店外に蹴り飛ばされて
しまった。
立ち上がり、目線を上げる。
目の前に広がるビルに、白い壁と混じる看板が掛かって
いた。
どうやら仕事の求人のようだ。
大々的に書かれた赤い文字が目立つ。
それは、“ヒーローになってみないか?”の一言。
「…ヒーロー、か。」
メタルは少女の言葉を思い出す。
“罪でも償って生きなさいよ!”
メタルはグッと拳を握り締め、走り始めた───
───広く、白い部屋の中、ブレザーを着た少女は走る。
「なんで…私がっ…あっ!」
躓き、転んでしまった。
白い部屋とは言え、外の日差しの当たっていない部分は影になり、暗くなっている。
ここは汚い雑居ビルの一室だ。
「逃げないでくれ、少女よ。」
その声を聞いた少女は、後退り、背を壁に当てる。
声の主は影から現れた。
一見、黒いスーツを身に纏った男性のように見えるものの、よく見ると、手は紫色で、触手のようなものが甲から6本、飛び出している。
「ふはは……!」
黒く、長い前髪を手でかきあげる。
目は赤く光り、少女を捉えていた。
「あんた…何が目的なの…!」
少女は問う。その問いに、男は答える。
「君に惚れた…だから私は君を襲う…何か間違いでも…?」
「間違いだらけよ…!」
男は、自分の行為が間違いだらけと言われ顔を歪める。
「うるさいな!その口は塞がせてもらうっ!!」
手の触手を伸ばし、少女に向けて放つ。
「…なんでっ……!」
少女が目を瞑ったその時───
───“黒い岩”は現れた。
「オルラァァァァァァァァァァァッッ!」
壁を突き破り、触手を弾いて、少女の前に立つ。
「…あんたっ…さっきの!」
少女は、メタルの足元に転がる突き破られた破片を見る。
どうやら看板の一部であり、赤い文字で、“ヒーロー”と書いてあったようだ。
「……助けに来てくれたの…?」
メタルは背を向けたまま。
「…その看板の文字にイラついて突っ込んだだけなんだが…。」
「は?」
これは嘘ではない。
メタルは看板にイラつき、破壊しようとタックルを繰り出したら偶然この場に居合わせてしまっただけだ。
そしてメタルは顔を向ける。
「おい女。てめえがこの世界の経済やらなんやら教えてくれなかったせいで俺は蹴り飛ばされたんだぜ?」
「なにいってんの?」
「説明不足だって言ってんだよバカ!」
「おいちょっとまったぁ!私を無視するなあ!」
そんな二人の会話に割って入る者が一人。
触手の男だ。
「その少女は私が惚れた!私のルールに従い、
襲わせてもらう!」
男は、伸ばした触手を手の甲に戻しながら言う。
「フッ…つまり、おめえは俺様とこの女を賭けてバトルしたいってわけだな!」
男に指を指してそう言った。
「なんでよ!」
背後からツッコミがやってくる。
「俺はお前を助ける、助けられたお前は俺に色々教える!飯も奢る!これだろ!」
「…意味わかんない……!」
少女がガクッと肩の力を抜くと、男が口を開いた。
「ええい!君たち二人の会話はそこまでだ!
名乗ろう!私はキルノ。君は?」
突然始まった名乗り合い、メタルは名乗る。
「メタルだぜっ!」
「気に入った…!」
キルノは両手をメタルにかざし、12本の触手を放つ。
「ウオッシャァァァッッッ!」
それと同時に駆け出すメタル。
放たれ、目の前に来た触手を一本一本弾いて向かう。
「ヒイイイ!よええっなぁぁっ!!!」
3本弾いたところだろうか、
「…ばかめ。」
キルノが呟いた。
すると、急に触手が動きを変え、メタルの背後に回り込み、ぐるぐると右腕に絡みつく。
「うおおお!?なんだこりゃぁぁっ!?」
絡みついた触手たちは、メタルのゴツゴツとした右腕の、岩の隙間にゆっくりと侵入していく。
「私はただ触手を伸ばすだけではない…!」
メタルはなんとか左手で抜き取ろうとするも、全く抜けそうにない。
「私は…“内部から破壊”する!!!」
パリン、と音がすると共に、メタルの右腕が粉々になった。
「うぎゃぁぁぁっっ!?」
「メタル!?」
その衝撃的な光景に、少女さえもメタルを心配した。
「フッ!右腕を失う気分はどうだあ!?メタルぅ!」
メタルはよろめき、跪く。
顔がガクッと下がった。
まるでロボットが機能を停止したかのようだ。
「ちょっと!メタル!」
少女がメタルに駆け寄り、揺さぶる。
「フハハ…今回は私の勝ちということだな…!」
キルノはメタル達の目の前にやってきた。
「ひいぃっ…!」
少女はメタルから手を離し、後退る。
「さてと、トドメを刺そうかな。」
キルノが手をメタルの首に向け、触手を放とうとしたその
刹那──────




