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序章「八」“イービルデス“

昨日は更新できずすみません、今日は文字数多めです。


 アルカトラズ迷宮、12層。


「ようやくここまで戻って来れたがいちいち徒歩で戻らねばいかんのはどうにも面倒だな」


「仕方ない、15層の階層主(フロアボス)を倒すには私達ではまだ安定して倒せるとは言えない」


 ナハトの呟きに律儀に答えを返すのは双剣士のヤヨイ。石畳に剣の鞘を突き立て、顎を乗せる様な体制で腰を折り曲げ、少々だらしないポーズで小休止中。


「まあ10層に〜〜も〜どれば〜〜、攻略済みのボス部屋に〜〜?ポ〜タルが〜ありますから〜〜街まですぅぐに戻れますよう」


 ……エルゥの話から察するにここは本当にゲームじみた、それも狂った君主とかが治めた街みたいな縦構造の迷宮が広がっているようだ。まああのゲームと違ってワープポータルがあるみたいだから若干易しい仕様なんだな。


「しかしなんだやけに雑魚が多くないか?流石にこうも連戦だと格下相手とは言え辛いものがあるな」


「ヤヨイ、弱音を吐くよりもう少し安全な戦いを心掛けてくださいね……回復も無限にはできませんしポーション類は高価ですからやはり数はありません」


 と、よく聞いたらミアのクラスは司教(ビショップ)であり攻撃魔法も回復魔法も器用にこなす万能職だった、だからか今はヤヨイの突撃癖に苦言を呈しているのだ。


「そうは言うけど敵のリーダー格やキャスターを先に潰そうとするとどうしても多少無茶になる」


「ははは、大丈夫ヤヨイは私が必ず護るからね!!」


「いやいらないけど」


「はっは、照れなくともいいのに!」


 ぶれねえなこの勇者(褒めてない)


「ナハトの方が猪突猛進でしょ、反省して」


 確かに後ろからみてるとこの勇者まじで大剣ぶんぶんぶん回すだけで戦術とかまるで考えなしである。


「え、私が?そうかい?しとめられると思うから斬り込むだけなんだが」


 ……こいつ、もしかしたら悪意ある傲慢な実力者、ではなく単純に脳筋バカなのか……なんかそう思ったらさほどむかつかなくなってきたな。


「まあ、私は敵を倒して貢献しているがどこかにはアーティファクトに頼りきりで前に出られないチキンもいるようだから、私のは勇敢さの現れだと思ってくれたまえ!」


 ……前言撤回、こいつは性格悪い脳筋だったわ、後は考えなし。


「付き合いこそ短いけどミロクは的確な援護射撃をしてくれてるわよ?おかげで攻撃魔法を無駄撃ちしなくてすんでるもの、貴方、剣と攻撃魔法はすごいけど他はてんでダメよね、反省して、後もっと考えて動いて」


 うわ辛辣。


「み、ミア……ぼ、僕なりに考えて動いているつもr」


「は?下町の子供だって探索者ごっこで遊ぶ時あなたより考えて位置どりもするし敵対する相手を誘導したりしてるわよ、あなたは?真っ直ぐ突っ込んで力任せに斬り伏せるだけよね。あんなので死なないのは格下ばかり相手にしてるからよ、格上に出会ったら死ぬわよ、700%くらい」


「7回も死ぬのかい僕!?」


「実戦でそうなれば真っ先に死ぬし奇跡的に生き残っても次の瞬間もう一回死ぬわ」


 あ、ナハトの顔がぴえん顔になってる。


「まあまあまあ、ミア〜そのあたりにし〜とこ〜?」


「エルゥ、君は僕の味方なんだね、嬉しいよ!」


「あ、話が〜長いと〜〜魔物が寄ってくるといけないから〜〜他意はあ〜りませ〜ん?」


「エルゥにそれ言わせるの笑うわね」


 ヤヨイまで乗っかってもはやナハトに味方はいなかった。


「……ミロク、君は!?」


「え、俺にそれ聞くの?マジで?あたま大丈夫?」


「ひどい!?」


「あ、しまったつい」


 もはやコントである。

 などと、緩んでいたのだろう、俺たちは。

 なんだかんだと楽に進めていたからだ、しかし。


 ──そこに、唐突に、理不尽に、それは顕れた。


 悪寒、悪意、死の気配、それは全員に(おこり)のような震えを(もたら)した。


「──っ、な、何!?」


 突然視界が奪われる。

 闇、そして悪寒と震えを齎す濃密な障気。


「な、ブラインドネスの魔法……違う、ダークゾーン!?」


──警告、マスターと同じ、ないしそれ以上の脅威が出現しつつあります、かなりの力を有した彷徨う魔物──ワンダリングモンスターです!


「ッ、まずいみんな構えろっワンダリングモンスターだ!」


 慌てて意味はわからないが聞いたそのままに警告する。

 

「ワンダリング……嘘でしょ階層関係なく現れるネームド……探索者殺しの死神じゃない!」


──個体名ヤヨイの言葉を肯定、ワンダリングモンスターは階層間移動しないと言う迷宮の魔物の習性を持たずに様々な階層へ移動して歩く厄介な手合いです、またその殆どが強力かつ特殊な能力を持つ個体です、可能ならば撤退を進言します。


「……撤退しようにも視界が塞がれちゃどうしようも!」


「おのれ魔物、わかるぞ、邪気が見える……そこ、か!」


 え、ナハトお前何して?


「ナハト、迂闊に攻撃したら──!?」


 真っ暗闇な回廊の中、ナハトが斬り込む先を見れば確かにそこは濃い闇が渦巻いているように見える。


「心配無用、一閃の元に斬り……斬れない!?」


 そう、ナハトの大剣がぶおん、と空気を裂く音だけが虚しく響く。


「──まずい、実体がないタイプ!?」


「ぐ、む、なんだ、闇が絡みついて……はなれ、う、あ、ああああ!?」


 闇が伸び、影の触手がナハトに絡みつき首を絞め口を塞ぐ。


「手が、手が、すり抜けッ苦し、ぁがあぁ!?」


 見る間に白目を剥き口の端から泡を拭き始めるナハト。


「あ、あ、触れない、昏い、闇──まさか」


 エルゥが珍しく間延びしない切羽詰まった震え声で呟いた。


「──イービルデス……ヴァサゴ!!」



さっそく酷い目にあう勇者は助かるのか?

次回、イービルデス②

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