序章「三」彷徨者、変身する
主人公のヒーロー好きが反映されて得たモードチェンジスキル、創生変態。
剣、格闘、射撃、省エネモードなどがあります。
身体を駆け巡る血潮が、酸素を筋肉に伝え、隆起させる。
「──超変身・格闘形態!!」
纏っていた鎧が弾ける様に外れ、異空間に収納される。身体は硬質化し甲虫めいた外骨格が形成され、手足や関節以外の各部を薄く覆い、顔もまたメキメキと変形し、不意に視界が広がる。相対するマンティコアの眼に映る己が顔は触覚と、二つの複眼を備えたものへと変化する。
「な、なんじゃそれは……貴様やはりただの呪禁騎士やその進化体では無いな、まるで蟲人どもの様な姿になりおってなんのつもりじゃ?」
マンティコアが訝しむのも無理はない、見た目も、実際にも先程の鎧姿より何段階も防御力は落ちているだろうから。
「──何のつもりかって、そりゃあ」
簡単さ。
煙を上げながら変態を遂げた身体は奴の言うように確かに蟲じみていた。棘のついた薄く、しなやかな外骨格と、肥大化した太腿、防具はサバトンを除いて全てが解除されて異次元収納の中に瞬時に格納された。
石畳が足先から凹みを作り放射状にヒビを広げた。
「おまえを、倒す為、だッ!!」
ズドン!!
まるでロケット砲の様に飛び出した俺の身体は、瞬時にマンティコアの横腹へと棘を備え硬質化した拳を突き刺していた。
「ぐっぶ……ぶぇぇっ、っぶばぁ!?」
紫色の胃液?を吐き散らし、腹部を陥没させたまま壁へと吹き飛び叩きつけられたマンティコアは、バウンドし三度転がり途中柱にぶつかってようやく止まった。
「──必殺グラップラーナックル、なぁんてな?」
ふしゅー、と細く息を吐きながら両手をクロスした後左右に振りおろす、いわゆる押忍ッ、てやつだ。
「ごぼ、がっ、な、なんなのだ貴様ぁ……その姿、突然激変する動き……捨ておけぬ、捨ておけぬぞ、我が、我が命をもって、貴様はここで死んでゆけ……!」
ぞわり、と全身が総毛立つ感覚。
──警告、眼前の適性体より強烈な呪詛を感知、自壊型スキル『死の誘い』と推測されます、回避を推奨。
「くわぁぁぁぁぁぁ!!」
絶叫、そしてマンティコアの皺くちゃの顔の口腔内から真っ黒な凶々しい光が溢れた。
「──悍ましいもんをっ、吐き出すんじゃっ、ねぇッッ!!!」
あれを喰らうのは不味い、そう感じた瞬間足が動いていた。音すら置き去りにしそうな速さを持って、土煙と石畳の破片を残して姿がブレるような移動──からの、顎下から突き上げる様な、強烈な蹴り。
「パグん!?」
今にも吐き出そうとしていた黒光が、口を強制的に閉じさせられたことで封じられ、鼻や目から逆流し、噴き出す。
「ウォゥラララララ、チェリャア!!」
右、左、右、上段、下段、中段、瞬時に叩き込まれた複数発の蹴りにマンティコアの顔が面白い様に跳ねた。
「終わりだッ、グラップラーキィックッ!!!」
天井近くまでの飛び上がりからの、天井を蹴り返して得た重力加速と遠心力を加えた蹴りがマンティコアの脳天に落ちる。メシャア……ッ、と鈍い音を立てて頭蓋が踏み砕かれた感触が伝わってきた。
「お"っご……」
一瞬遅れ、頭とは逆にマンティコアの胴体がシーソーの様に反対側に跳ね跳び、ズシン、と地面に沈む、同時に吐き出さんとしていた黒い光が、その身体を蝕むように侵食し、見る間にグズグズと崩してゆく。
「正当防衛だぜ?」
───経験値を会得しました、レベルが180→182に上がります。
格闘スキルがDからC に上がりました。
ふむ、異世界に来て変身ヒーローの真似事ができるとは思わなかった。
創生変態……最高に熱い能力だ。
力を抜けば身体は徐々に縮んで行き、最初の騎士姿の時よりも一回り小さくなり、随分と見覚えのある顔に変わって行く。
ドロップアイテムと言うやつだろうか。
ゴロリと、マンティコアの死骸だった塵の中から転がり出た拳大のクリスタルに映ったのは人間、弥勒純としての顔だった。
「………身体だけ筋肉質になってて違和感あるな……裸だし」
創生変態した後はリバウンドなのかこの姿に暫く固定される様だ、言わば人間化、ないしは通常素体とでも言うべきか。
「ちょっと風通しが良すぎるよなぁ……」
とりあえず、主に両足の間が涼しすぎる為、異次元収納から麻の衣服を取り出していそいそと着込むのだった。
次回、ワンダラー、文字通りワンダリングする。




