序章「弍」転生者、回想す。
現代での出来事を思い出す弥勒。
死ぬ間際の記憶──
そして、今。
──その日、俺は出不精の自分には珍しく編集者との打ち合わせの為に出版社へと出向く為に街を歩いていた。
「……太陽が恨めしい、クソッ、なんで外になんか行かなきゃならんのだ。どうせなら日がな一日絵を描く方が建設的だろうに」
「はいはい、純君はそうやっていつまでも日の光を浴びないから不健康になるんだよ、髪くらい整えたらいいのに」
隣を歩く幼馴染、今では内縁の妻と編集者から認識されている酔狂な事に変人である自分を長らくサポートしてくれている女性──神薙碧が茶々を入れる。
「碧、お前のサポートは助かってるし、ありがたいけどいつまでも俺なんかに構わなくていいんだぞ……ルームシェアしてるせいでいつのまにか俺の、その──奥さんだなんて言われてるがおまえとはそんな関係じゃないんだから、さ」
そんな、もうおきまりの台詞を吐けば彼女は一瞬だけ不機嫌な顔をした後にすぐに揶揄うような笑顔になり言った。
「なぁに、私が奥さん役じゃご不満ですか、贅沢者めぇ〜んん〜?」
うりうり、と頬を拳で突かれて反射的に身を捩る。
「ちょ、やめ、違う、お、俺なんかにお前はもったいないって話だよ、バカ!」
「…………はぁ、馬鹿はどっちかなぁ」
盛大にため息を吐いて俯くとやれやれと両手を上げるポーズでこちらを半目で睨む碧。
「なんだよ」
「あによ」
数秒睨み合い、どちらともなく噴き出した。
「ぶっ、いや、まあ悪い気はしないけどホント俺の事あんまり気にすんなよ……いつまでもあの事を負い目にしなくてもいいんだからな?」
「あはは、いまさらもうそんな昔のことは忘れましたよ、もう習慣だもんね。それに私今の生活嫌いじゃないし不満はまあ、少ししかないかな?」
少しだけ悲しげな顔に訝しみながら俺は問いかける。
「……なんだよ不満って?」
「…………察しろ、ぶわぁか!」
「痛っ、脛を蹴るな、脛を!!」
などと、戯れているうちに出版社のビルが見えて来た、後はこの幅の広い交差点を渡れば──そう、思った次の瞬間だった。
耳をつん裂く様な高い音。悲鳴と、怒号。
「え、な、何、やっ!?」
音の先を見れば、歩道にまで乗り上げたトラックがガードレールを薙ぎ倒しながらこちらに迫っているところだった。
「碧っ、危な──!」
咄嗟に隣の碧を庇う様に抱きしめて、跳ぶ。
「純……!?」
最後に見た幼馴染の表示は驚きと、わずかな喜悦を滲ませた複雑なもので。
───衝突、破砕音、そして身体を苛む強烈な熱さ──痛みによる熱感。
「いや、いやぁ!?純しっかりして純!?」
碧の声が遠くに聞こえる。
「えっ、何、これ──」
どこか戸惑う様な碧の呟きを最後に俺の意識は途切れ、やがて……
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──眼を、開く。
ああ、そうだ、そうだった。
「俺は、死んだのか──」
呆然としながら身体を起こせば、それは暗い色合いの全身鎧に身を包む異形の姿、携えた剣の刃を立ててみれば、そこに兜を被った顔が写っているがろくな見た目ではない。
「はは、なんだコレは……まるでアンデットか何かじゃないか骨でこそないが生気のない肌、痩せこけた顔……アニメか漫画みたいな事になってるな、えぇおい?」
ふと、もしやお約束ならこう唱えればアレが出るのだろうか、と思い立ち唱えてみる。
「──ステータス」
覇気の無い声で呟いた言葉は考えた通りの現象を引き起こした。
宙に浮かぶ透明なモニター。
そこには様々な情報が記されていた。
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彷徨う醒騎士ミロク
レベル180
職能:彷徨者
HP5550/5550
MP666/666
筋力:860
体力:555
器用:300
速力:200(700)
魔力:666
信仰:30
幸運:7
スキル
剣術:D 槍術:D 斧術:D
格闘:D 弓術:D 魔術:B
アビリティ
□創生変態:EX
□鑑定:D
◯自己再生:S
装備
武器類
右:呪禁騎士の剣
左:カイトシールド(背部収納)
頭:呪禁騎士のフルフェイス
胴:呪禁騎士の鎧
手:呪禁騎士の籠手
腰:神秘のベルト
脚:呪禁騎士のチェインホーズ
靴:呪禁騎士のサバトン
アイテムボックス内/予備兵装類
呪禁騎士の両手槍
呪禁騎士の両手斧
魔銃『ペネトレイト』(残弾xx)
麻の衣服
レザーブーツ
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と、強いか弱いかあまりわからないがまあ、スライムとかに負ける様な感じはしない、騎士と言うからにはそれなりの攻撃力と防御力はあるのだろうし。
と言うか、銃まであるのか?
大体アビリティの創生変態ってなんだ、僕は変態じゃないぞ……いや、多分生物学的な意味合いの変態なんだろうけど。体の一部を何かしら変容させたりできるのか?どこまでできるのか効果の検証はしてみたいな、いや、しかしコレは。
「幸運低くないか?いや、死んで化け物になってるんだから高いわけがないのか……?」
等とステータス画面とにらめっこをしていると、不意に背後に気配が感じられた。
「ハテ、何やらおかしな気配ヨナァ?」
背後にあった石畳の通路の奥からそう喋りながらのっそり、と姿を現したのは巨大な複合生物だった。頭は皺だらけの老人、身体は虎、尾は蛇で飛ぶには適さないであろう蝙蝠の羽の様なものが背に見える、こいつはファンタジーが好きならまずわかるだろう有名な怪物だ。
「マンティコア……?」
「ひょひょひょ、おうともよ、貴様は──呪禁騎士にしては魔力も生命力も高い様に見える……なるほど進化したか、だが───」
「だが、なんだ?」
汗が出るでもなかったが、しかし喉がひりつく様なプレッシャーを感じる、せめて隙を見せぬ様に剣を握り、半身に構えるが……
「魔神様のくびきより解き放たれておるな、貴様……かの方より賜りし栄誉を自ら捨てよったのか、であるならば……生かしてはおけまいなぁ?」
魔神?そういえばあの声が「魔神種による支配から」だのなんだの言っていたな。
「どうしようってんだい、爺さん」
「知れたことよ」
奴の前腕が撓んで、力むのがわかった。
「疾く、死ねぃ若造ッ!」
まるで暴風のような勢いでその爪が俺を切り裂こうと迫ってくる。──早い、重い鎧を着込んだ今の俺には避けられない。
「くっ、そがぁ!?」
慌てて、背にしていた盾を意識すると不思議な事に左腕に瞬時に盾が現れる。
ガイィ、ンッ……と音をたててやつの長い鉤爪がカイトシールドの表面を滑って力を流される、僅かに体勢を崩した。
「クソ、こちとら右も左もわからねぇってのにぶっつけ本番だと、巫山戯るな!」
「死ねと、言うにぃ!!」
爺の顔が焦れた声で怒鳴り、涎を撒き散らす。
「ああ、もう、どうにでもなりやがれ……」
使い方は、本能のようなものだろうか、何となく解った。
「──創生変態──」
今のままでは奴の動きについていけず、いずれやられるだろう。
ならば、早くなればいい。
「──超変身!!」
その意思に応えるように、脚が、腕が、身体が───隆起した。
次回、転生者──変態。
漢は、肉体で語れ。




