第一章 迷宮迷子「四」喧騒
探索者組合。
このベルオーヴに限らず、迷宮や遺跡が存在する場所にはほぼ必ず存在する世界的な業務斡旋所であり、また自警団に近い意味合いももついわゆる“何でも屋”であり、悪く言えば遺跡荒らし、盗掘屋──などと揶揄される事もある巨大組織だ。
そのシーカーギルドベルオーヴ支部長である犬人族のエノク・ダルメシアは、くわえた葉巻煙草から紫煙を燻らせながら事態の深刻さに眉を顰めた。
「もう一度聞かせろ」
「はい……死者12、行方不明者1、重軽傷者7……この半日の被害報告です、判明していないものもあるでしょうまだ増えますよコレは」
目の前の部下から出された報告は信じがたいモノで、被害にあったのはどれも中〜上級に値する実力者ばかり。
「目撃者の話を聞くにやはりイービルデス、かの災厄が再び……それも深層入り口付近の15層から中層に出現し猛威を振るっています」
「万が一にもこいつが迷宮入り口……封魔門を超えてしまえば街は壊滅的な被害を被るだろうな……獄炎と天嶮の二人は間に合うか?」
宮廷魔術師にして最強の探索者の一人、人族である獄炎モナフィ・マクドガル、そして地人族、天嶮のドーガ・ドーラ。
「二人ともこうした有事の際には必ず事にあたる契約を締結してはいましたがよりによって2人ともがこの街を離れたタイミングであんなものが出てきましたからね……到着までは約半月と言うところでしょう、間に合うかは我々次第だと」
はあ、とため息を吐きながらエノクはその犬面を器用にしかめてみせると点けたばかりの葉巻煙草を灰皿に押し付けた。
「──100レベル以上のランカーを集めて捜索と足止め……もし可能なら撃破をこころみろ、ただし無理だと判断したら足止めに徹して絶対に死に急ぐなと伝えておいてくれ」
「はい、それでは依頼を張り出し……いえ、指名依頼の形で該当する探索者に連絡を入れさせます」
「ああ、せわしなくしてすまんなカミラ」
エノクの対面で話していた受付嬢でもまとめ役を任された女、カミラは銀縁のメガネをくい、と上げるとシニカルな笑みを浮かべる。
「いえ、それが仕事ですから」
「そうか、助かる」
綺麗なお辞儀をするとカミラは形の良い腰をふりながら退室する。それを見て思わず妙な気持ちになりかけてかぶりをふるとエノクは再び引き出しから取り出した葉巻を専用のカッターで先を切り、火を点ける。
「──まあ、総出となればその間の街の方は留守にもできんよなぁ」
そうぼやいて執務机の端に設置された水晶板に指を滑らせるとやがて誰もいないところから声が聞こえてきた。
「ハイ、ええ、そう言うわけで──」
魔道具による通話に応じた相手に事情を説明しながら協力を要請する。
『了解した、街を護るのは元来我々の使命でもあるのだ、邪険にはすまいよ今だけは貴様らの頼み事も聞いてやろう』
などと、高圧的な物言いながら相手が頼みを聞いてくれたことに安堵し、礼を述べてから通話を切る。
「……ふん、俺とておまえらに頼み事なんざ誰が好き好んでするもんかよ第一縄張り意識をぶつけて嫌味を垂れ流すのはおまえら騎士団だろうに……ま、それで街の治安がまもられならいくらでも卑屈になるがな」
騎士団、つまりは貴族。
平民が多くの割合を占める探索者組合はどうしても貴族からは煙たがられ、かと言って貴族も好んで迷宮などに分け入りたくもないため暗黙の内に互いが棲み分けをして、有事の際には協力すると言う話自体は付いている。
「それでもあいつらにとっては俺たちは都合のいい防波堤くらいの認識だろうな」
「まあいい、とにかく急がねえと……50年前の悲劇の繰り返しだけは避けないとな」
と、部屋の外、ここは二階なのだが下の階からえらく大きな声で罵り合うさまが響いてくる。
「──ああ、この忙しいのになんだクソ」
どうも騒ぎはなお大きくなりそうな気配を感じたため、エノクはドアを開けると下の階に面した階段に向けて叫んだ。
「一体なんだ、うるせえぞテメェら!!」
その怒声に、一瞬だが喧騒はなりを顰めたのだった。
次回、俺は勇者だ。




