第1章 迷宮迷子「三」凶報
直打ち考えなしのパンツァーはやはり詰まると時間かかりますね……今日はなんとかアップ。
はぁ、はぁ、と絶え絶えな息を殺す。
無理矢理に抑え込んだせいで肺腑が痛みを訴えるが無視して口を塞ぐ。
「……逃げ、きれた?」
なんだ、あの化け物は、なんであんなものがあんなところで出てきた!?
「ナハト、離せ……もういい一人で歩ける」
どうやらパニックから立ち直ったらしいヤヨイが唇を血が出るほど噛み締めて、絞り出すような声でそう言った。
「あ、ああ……」
二人を床に下ろし、腰を下ろせば止めていた肺が、早く酸素をよこせと荒々しく再稼働した。
「……ミア、ミアはどうなったんでしょう」
エルゥが、いつもの間延びした口調ではなくそう漏らす。
「知るかよ、チクショウ……あんの魔物野郎もしミアがどうにかなったら絶対殺してやる……!!」
「──貴様も勇者を名乗るなら現実を受け止めろ、私たちはあの男に助けられたんだぞ、それをなんて言い草だ」
「あいつが俺たちを騙していたことに変わりはないだろうが!!」
「やめ、やめてください!!」
何もかもが狂い始めていた、ナハトも、ヤヨイも、エルゥも、そしてミアとミロクの──
「……とにかく、街まで一度戻って助けを呼ばなくちゃならないわ……イービルデスはどうしようもないとしても、生きているかもしれないミアをそのままになんてできない」
「あたりまえだ……ミアは、ミアは僕の!」
ここに至って尚身勝手なナハトの物言いだが、それを咎めるものはいない。
「……そう、ですね〜〜とに〜かく〜生き残って、伝えて〜〜全部、それからです〜〜」
「やっといつもの調子が出たじゃないエルゥ、地上まで回復なしできついけどなんとか頑張ってもらわないといけないもの、その意気」
ただ、生き残る。
皮肉にもその意思だけが今この三人を団結させていた、それも今までにないほど強く。
少し遠くから聞こえる魔物の足音。しかし彼らに不安は無い、恐怖もない。
そう、あのイービルデスに比べれば何のことはないのだ、と──。
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背の低い、しかし鍛えられた筋肉をした小人族の青年──ゾラと、絡み合うようにして人族の娼婦が荒い呼気を吐いていた。
「……あんた、そんな小さな身体してんのに凄いね、へたな体力自慢よりよほど逞しいじゃないか、アタイの方が先にへばりそうだよ」
「は、今日はちょっとめでたい日でな……いつもよりアガってんだよ」
ゾラが娼婦を抱き寄せ、力任せに腰を振り始める。やがて懇願する様な嬌声が部屋に響き、すぐに娼婦が痙攣した後ぐったりと力を抜いた時。
「はぁ、はぁ……やっぱりあたしが先にへばらされちまったね、面目丸潰れじゃ無いかい……ねぇ、あんたなら今度から無料でいいからまた──」
側にある椅子にかけられていたゾラの外套が、内側から淡い光を放っていた。
「え、なんだいこりゃ……何が光って?」
「──ハ、ハハハハハ!?」
確信があった、今夜そうなる事はわかっていたのだ、わかっていても。
「ゅんっ!?」
ゾラは興奮のあまりにへばりきっていた娼婦の身体を今一度強引に引き寄せ、爛々と血走らせた眼で笑いながら乱暴にシ始めた。
「ああ、遂に、遂にだ……遂に!!」
「ちょ、まっとくれよあたい、あぐっんひぃ!?」
微かに抵抗した娼婦の頬を平手で殴りつけ黙らせると、ゾラはさらに激しく、深く、貪った。
「ああ、生きている、俺は生きているぞ……待っていろ、今度こそ必ず俺が……!!」
やがて、今度こそ完全に身体を弛緩させ気を失った娼婦をベッドに横たえるといささか以上に額の多い、金貨を傍のテーブルに置くと呟いた。
「……聞こえてねえだろうが乱暴にしちまった詫びだ」
夜が明け始め、白む空を窓越しに眺めながら手早く服を身につけると外套の内ポケットから取り出した宝石護符を握りしめ、部屋を出る。
「……さて、早いが探索者組合に行くとするか」
予想の通りなら、そろそろ目撃情報や事件の一報が届く頃合いだろう。
「ああ、タノシミダ……」
言葉とは裏腹に、その目は笑っていなかった、むしろ……何もしらずに子供が見れば泣き出しそうな歪んだ表情。
街路にまろび出た彼を避ける様に早朝の薄明かりの中、大衆食堂の残飯をつついていた渡大鴉が慌てて飛び去った。
そして、その半刻後。
ギルドに凶報が届く事になる。
イービルデスの出現、そして知らされる死者と行方不明者の続出。
──ミロクがナハト達を逃がしてから半日の出来事である。
次回、探索者組合




