序章「壱」転生者、ネームドになる。
現代から気づけば迷宮に転生したミロクの物語。
彼はオタク気質の一般人。
第二回からその人となりを語る予定です。
まずは、始まりの一幕を。
ザク、ザク、ザク──
何か、柔らかい物に棒を突き立てるような手応え。耳をすませば、僅かに湿った土が飛び散るような音がした。
レベルが上がりました──存在値が一定に達しました、自我の会得を確認、対象のユニークモンスターへの進化を開始します。
「進化?」
思わずまろび出たのは記憶にある甲高い自分の声と比べ随分と低く、渋め……落ち着きあるバリトンボイスだった。次に唐突に開けた視界に映ったのは、語るも憚られる無残な肉塊だった。コレが漫画やアニメならモザイク処理がなされる事間違いなしだ。
「……ッ、うおっ!?」
両手に握りしめていた棒ではなく西洋風の剣を放り投げ、数歩飛び上がるように後退する。目の前には相変わらず肉塊……否、人であっただろう無残な姿の骸が転がり、湿った土ではなく肉片と血が飛び散り周りを赤黒く汚していた。
「もはや判別も難しいがこれは鎧を着込んだ人の死体、だな」
まじまじとそれを見て、観察している自分の冷静さにどこか違和感を覚えつつも思考を続ける。見れば周りは薄暗い石造りの床と剥き出しの土に水晶の様な結晶が突き出した、床だけ整備された洞窟の様な場所だった。
「しかし、視界も狭ければ口も……なんだか喋りにくい」
つ、と鎧を着込んだ右手で自然と被っていた兜の面頬を開け自分の口に触れてみれば両端に紐のようなものがあり、どうやら口が縫い付けられている様だった。……この状態でよくきちんと発声できていたな俺。
「っ、な、なんだこれ口が?」
驚き、思わず口を目一杯開いた瞬間、ブチリと嫌な音がした。
「痛ぅっ!?」
唇の端が裂けた様な熱さと痛み、いや文字通り裂けたのだろう、集中してみれば口の真ん中にも違和感、おそらくは知らぬうちに口全体を縫い付けていた紐だか糸だかを引きちぎっていたらしい。ぼたぼたと血が滴り口腔内に鉄錆臭い味が広がる、が次の瞬間には痛みが嘘の様に消えて唇の違和感が失せていく。
「これ、唇の肉が再生してるのか?」
しゅわしゅわと泡立ちながら肉が盛り上がる感覚と共に痛みが消えた。
──対象の完全進化を確認、呼称を呪禁騎士から改めます。名称を設定してください。
まただ、さっきから頭に響いてくるこの声。
「名称?この場合名前と言うより職業みたいなものか?」
──否、これまでの種族名とは異なる固有名を設定可能。ネームドとしての呼称を設定してください。
(会話が成立してる……?)
「……弥勒でどうだろか」
ふと浮かんだ単語、それは確かに自分の名前だと感じられるのに乖離感が激しい。
──弥勒、弥勒純。
ああ、そうだ自分は確か──
視界が白む、眩さに目を細めるとフラッシュバックの様に記憶が、引き出されていくのを感じた。
──ミロク、個体名『ミロク』で登録致します、称号『彷徨い歩くもの』と併せてネームド、『彷徨う醒騎士ミロク』に呼称を変更しました。
──ステータスを開示します……開示を一時停止。
自我構築に伴う不確定ノイズの発生を確認、記憶野の領域制御、失敗、外部からの介入の可能性……攻性プロテクトの破壊を確認、ノイズ除去失敗、魂領域への侵食、防御──失敗、本機はこれより制御権を破棄、以降ほぼ全ての権利を主介入者に譲渡、今後は補助にのみ機能を割り振ります──アカシックレコードとのダイレクトリンクが解除されました、魔神種による支配が失効、記憶領域に新たな書き込みを確認。
「なんだ、何を……?」
──ようこそ、新たなるマスター、ミロク。
本機はこれより貴方のサポートに従事します、以後お見知りおきを──
頭蓋に染み渡る様な声、それを子守唄にするように意識は瞬時に記憶の海に沈んでゆく……、やがて閉じた瞼の裏にはオフィスビルが建ち並ぶ懐かしい光景が広がっていった──。
主人公、なんでこうなったか思い返すの図。
次回、回想。




