嘘で生きる
あれから感情を抑えるために、小さな嘘はずっとついていた。
母をのぞく家族一同は、父方の祖父母の家に居候することとなった。
祖父は事業をしていて、大きな持ち家に潤沢な資産があった。
僕たち子供には選択肢はなかった。
子供が育つには、お金がいる。
そしてお金はあればあるほど、不自由なく生活できる。
だからここに来たのだ。
祖父は厳しい人だった。
ろくでなしの息子が、結婚に失敗し、借金をこさえ帰ってきたのだ。
もちろん怒りは常に満タンだった。
父だけでも、追い出してやろうと思っていたようだ。
しかし、祖母にとっては腐ってもかわいい息子。
穀潰しでも、家に置くことにした。
いつか、変わるはずと信じて。
祖父の怒りは、その子供である僕に向かった。
母と離れ悲しくて泣いていたら、投げ飛ばされた。
「ここが嫌なら、あの女のとこへ行け」
行けるなら行きたかった。
でも連絡先も、どこに行ったのかもわからない。
行きようがないのだ。
それに母は精神疾患があり、僕たちに手を上げたり、目の前で手首を切っていたりと、いい思い出だけではなかった。
本当は僕の家族でついていきたい人なんて誰もいない。
でもここにいれば、衣食住だけでなくおもちゃも買ってもらえる。
いい子でいなきゃ、じいちゃんに嫌われないようにしなきゃ。
僕は泣きながら、叫んだ。
「もうママに会いたいっていいませんから、いい子でいますからここに居させてください!」
これも記憶の中にある、大きな嘘の一つ。
僕が行きたい場所は、どこにもなかった。
でも逃げるすべも知らないから、嘘をついた。
嘘は僕の生きるすべになった。