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科学者の住まう不純喫茶  作者: 赤井ひよこ
1 不純喫茶ルカ
4/7

1-4 不純喫茶ルカ ドリンクはまるでメロンソーダのようで

「・・・・・・・くん!葵くん!葵くん!」

『ん・・・・・あ?』

「お疲れ様、気分はどうだい?」


ーーなんだ?頭が少しぼーっとする。そうだ、僕は白い繭玉ーーコクーンに入れられて、ジウさんにクローニングドリンクを調整してもらうために僕自身のデータを取られたんだった。


『少しぼーっとしますけど、特に何ともないです』

「コクーンの中で寝てしまったのかな?データ採取時間は10分もないのに君はずいぶんぐっすりと寝ていたよ」

『あああ、すみません』

「全然構わないよ、それより!葵くん、君すごいね。運動能力、俊敏性、動体視力全てトップクラスだ。身体情報だけじゃなく、DNAにもその特徴は見て取れる、サラブレットか何かかね。・・・・・・確かにこれは身長さえあればプロスポーツ選手以上のポテンシャルと言えるねぇ」

『コクーンでそんなことがわかるんですか?』


 コクーンの中で僕を縛り付けていたアームはもう外れていて、僕はコクーンから降りて、ジウさんの眺める画面の方に近づいた。ジウさんは目を輝かせながら巨大な湾曲ディスプレイにかじりつく。


「あぁ、測定される身体的特徴、体組成、各部位の機能性能、脳波のデータとDNAデータを取得、データベースを参照することでスコア化を行うこともできるが、被験者自身のデータを照らし合わせることで、被験者特徴がポテンシャル由来かはたまた後天的な要因によって発現したのかわかる。」

『・・・・全然何を言ってるのかわからない、です』

「つまりだね、君の当方に話してくれた話には虚偽がなく、葵くんは身長以外では素晴らしいハイスペックの体を持って生まれてきたってことなんだよ。本当に身長は恵まれないみたいだね、この先伸びる未来もない」

『あぁ、何と・・・・』

「そう言うことだから、葵くんの身長に関する情報を書き換えるクローニングドリンクを調合してあげよう。・・・・・ここの成長因子の配列には少々引っ掛かりを感じるが、」

『ありがとうございます!!』

「当方はドリンクの調整に入るから、さっきのカウンターの前で座って待っていてくれ」

『わかりました!』


 ついにクローニングドリンクが飲める、長身が手に入る、飛び跳ねたい気持ちを抑えつつ僕はカウンターに腰掛けた。

「・・・・・理想のDNA配列は、葵くんのこの配列をデータNo.06238のこの部分に置き換えたこれで、これだと負荷がかかるかもだから、他の部分も強化して・・・・・、ドリンクとしての調整はこの型を選択し・・・・・・」

何かジウさんは楽しそうにブツブツ言いながら作業をしている。入り込むと周りが見えなくなるオタクタイプだ、作業が完了するまで大人しく待とう。カウンターの目の前には相変わらず美しくも禍々しい化学実験用のガラス器具が並んでいる。ビーカー、三角フラスコ、試験管・・・・僕が名称をわかるのはそれくらいだ。縦にも横にも球体やら円柱状やらがつながったガラスの装置、これは何に使うんだろう?そんなnことをぼんやりと考えていると、

「よし!完成した!」


 ディスプレイから大きな声が聞こえてきた。声の主はディスプレイの影にすっぽりと隠れて確認できなかった。

目線をカウンター前のガラス装置に移すと、何やらガラスの中を緑がかった液体や気体が循環しだした。コポッ、ゴポゴポゴポ・・・・・・。少々奇妙な光景に恐れながらも目が離せなくなっていた。気が付いたら、ジウさんはカウンターの中にいた。


「物珍しいかい?このクローニングドリンク生成装置、少々古典的な作りに見えるけど、趣があっていいだろう?当方は好きなんだ、錬金術が流行った時代の科学が一番ね。」

『・・・・・・』


透明なガラスの中を何度も何度も緑色の透明な液体が往復する、気体となった液体だけ次のガラス管の中に落ち溜まっていく、それがカスケード状に次々と流れている。最終的にたどり着いた液体はほんの数mL。緑色のこれをジウは試験管に採取し、僕の前に差し出した。


「さぁさぁさぁ、お待ちかね、クローニングドリンクだよ。スペシャル葵くん仕様、メロンソーダ味だよ。・・・・・・ほんとはこれが飲みたかったんんだろう?」

ーーこれがあのクローニングドリンク。

僕は生唾を飲み込んだ。ジウから試験管をそっと受け取る。見た目はまさにメロンソーダ。透明な緑が輝かしい。

『・・・・・いただきます』


味もメロンソーダそのものだった、一口分しかなかったのでもっと飲みたくなってしまう。

「どう?ご感想は?」

『おいし、かったです』

「ふはははは、カタコト!そうだね、あまーいあまーいメロンソーダにしたもの、美味しいはずだよ」


 コクーンでのジウさんから喫茶店主のジウさんに戻ったようだ。体の変化は特に感じない、何がどう効くのか全然実感がない。


「不思議そうな顔をしているね、まあすぐには実感湧かないさ。身長が伸び始めるのにも1-2年はかかるかもしれないしね。でももう心配はいらないよ、このドリンクを飲んだその瞬間から君の遺伝情報が書き変わるトリガーが引かれたんだ。必ず変化は訪れるよ」

『・・・・・そうですね、気長に待ちます。そういえば副作用とか、ないですよね?』

「ないよ、ただそうだね、経過観察はしたいから、定期的に当方を訪ねてきて欲しい。それも1年に1回くらいで十分だけれど」

『わかりました!定期検査もしてくれるってほんと太っ腹ですね!!』

「あー、うん、そうだね。・・・・・・葵くんのデータが予想通り有益なポジティブデータだったからね」

『・・・・・?よくわからないですけどよかったです』

「これにて裏メニューの提供は完了だ、また気になることがあったらいつでもおいで」

『はい!ありがとうございます!』


「最後に、クローニングドリンクでは身長というディスアドバンテージをゼロにしただけだ、これをうまく使うかどうかは葵くんの行動にかかっている。いくら便利な道具を手に入れても使い方をまちがってはいけないよ」

『もちろんです、ジウさん、こんな僕の話を聞いてくれて、手を差し伸べてくれてありがとう』


 僕はそうお礼を言って、不純喫茶ルカを後にした。とっても体が軽い、僕は今から生まれ変わったんだ、そう思った。





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