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第一曲 Part.3 世界の仕組み

「人は、死ぬとまず魂と身体が分かれます。そして、今の亜里沙さん、あなたのような所謂幽霊(ゴースト)の状態になるのです」

亜里沙は頷いた。少年は続ける。

幽霊(ゴースト)となった魂は、死後の世界(アフターランド)へと行きます。そしてそこで、生まれ変わるために何年か過ごさなくてはなりません」

「どうやったら生まれ変われるの?」

「亜里沙さん。あなたには首輪が付いているでしょう?」

「え?あ、うん。そういえば・・・」

亜里沙はそっと、自分の首に巻かれた首輪に触った。今の自分は鏡にも映らない存在なので首輪自体を見てはいないが、皮製のそれが付いているのは感じる。何の飾りのつもりなのか、その首輪から一本の短い鎖が垂れていた。どちらも、亜里沙が幽霊(ゴースト)になってから気がついたものだ。

「その鎖は、いくつ連なっていますか?」

「ええと・・・」

亜里沙は鎖を数えた。

「7つ」

「その通りです」

少年は頷いた。細い指で器用にコートの上のボタンを外し、首元をさらけ出す。そこには、亜里沙と同じように首輪が付いていた。黒い皮製の首輪だ。首輪から垂れる鎖に、3つの綺麗な石が嵌っていた。それぞれ色が異なっている。上から赤、青、黄色だ。

「死んだ者は皆、同じように首輪を嵌められ、その首輪には鎖が7つ連なっています」

亜里沙は頷きつつも頭の片隅で気づいた。この少年も、かつては生きていて、何らかの理由で死んだ存在なんだ。

「その石はお洒落?」

「いいえ。これは次なる石(ネくストーン)です」

分からない、と首を傾げる亜里沙に、少年は丁寧に言いなおした。

次なる石(ネクストーン)、すなわち(ネクスト)の生へ向かうための(ストーン)です。略して次なる石(ネクストーン)と呼んでいます」

次なる石(ネクストーン)・・・」

亜里沙の瞳が少しだけ輝いた。少年は亜里沙を興奮させないようにと出来る限りの配慮をしつつ言った。

次なる石(ネクストーン)を7つ集め、首輪から垂れる7つの鎖の穴に嵌めると、幽霊(ゴースト)は自動的に生まれ変わることが出来ます」

瞬時に亜里沙の瞳が輝いた。興奮し、身を乗り出す。

「その石、どこで手に入るの?!」

死後の世界(アフターランド)、もしくは悪夢の道(ナイトメア・ライン)です。特定の場所とは決まっていないので、その2つの広い範囲を日々暮らしながら探すしかないですね。一つところに留まって石が転がり込んでくる幸運を待つもよし、死後の世界(アフターランド)中を旅して探すもよし。まぁ、そう簡単には見つかりませんよ」

「そうなんだ・・・」

亜里沙は見る間に落ち込んでいった。期待の光が消え、瞳は漆黒に染まる。少年はそんな亜里沙を元気付けようと言った。

「時間は掛かりますが、最後にはちゃんと転生出来ます。主に一つところに留まって偶然の幸運を待つ幽霊(ゴースト)ばかりですし、そう絶望的にならなくとも大丈夫ですよ」

亜里沙はまだ少し弱っているようだったが、瞳に光を取り戻し、首を上げた。少年は話を続ける。

死後の世界(アフターランド)までは悪夢の道(ナイトメア・ライン)を通っていかなければなりません。死神の仕事は、幽霊(ゴースト)を無事に死後の世界(アフターランド)へ送り届けることなのです」

「ちょっと待って」

亜里沙は手を上げて話を制した。少年は素直に口を閉じる。亜里沙は顎に手を当てて考え込む動作を取った。

「ここまでの話はなんとなく分かったの。だけど、次なる石(ネクストーン)悪夢の道(ナイトメア・ライン)にもあるって言ってなかった?どうして死後の世界(アフターランド)限定なの?」

「確かに次なる石(ネクストーン)悪夢の道(ナイトメア・ライン)でも見つけられます。死後の世界(アフターランド)よりも見つかる確率が高いくらいです。ですがその分、悪夢の道(ナイトメア・ライン)は危険地帯でもあるので、通常の幽霊(ゴースト)の方にはご遠慮戴いております」

「どうして?」

悪夢の道(ナイトメア・ライン)怨霊(ベンジフール)の巣窟ですから」

亜里沙は眉を寄せた。

怨霊(ベンジフール)?やっぱりそれって危険なの?」

怨霊というと、現世では危ないものとして捉えられる。怨霊に取り付かれた人のためにお祓いをする陰陽師もいる始末だ。この死神の少年がいう怨霊も、やはり同じ類なのだろうか。

「はい」

少年は神妙に頷いた。

怨霊(ベンジフール)は、幽霊(ゴースト)や同族の怨霊(ベンジフール)を見境無く襲います。強いものが弱いものを飲み込み、合体し、更に強くなります。同族同士ならそれで済みますが、襲われたのが幽霊(ゴースト)だとまた違ってくるのです」

「どう違うの?」

少年の神妙な雰囲気に、亜里沙も心なしか声が低くなっていた。

幽霊(ゴースト)怨霊(ベンジフール)は、そのままでは合体出来ません。水と油のようなものなのです。代わりに、傷を付けられた幽霊(ゴースト)は、その傷に込められた怨霊(ベンジフール)の特異な力によって喰われ、やがて怨霊(ベンジフール)となってしまうのです」

「そんな・・・」

亜里沙は震え上がった。先ほど少年を警戒していた時よりも更に上の恐怖を感じた。

怨霊(ベンジフール)に感情はありません。獣同様です。怨霊(ベンジフール)は常に自身の身体を駆け巡る痛みに苦しみ、それが故に暴れまわると言われています。あくまで予想ですが。それよりもはっきりと分かっているのは幽霊(ゴースト)怨霊(ベンジフール)に変わり行く過程が死ぬほど苦しいということです。それは拷問のようだと」

亜里沙は恐怖に声が出なくなった。少年は続ける。

怨霊(ベンジフール)は転生することが出来ません。つまり、一度怨霊(ベンジフール)に傷つけられたが最後、完全に身体が変化する前に次なる石(ネクストーン)を7つ集めないと転生は出来ないのです。しかし残された時間は少なく、多くの幽霊(ゴースト)が7つの次なる石(ネクストーン)を集めきる前に怨霊(ベンジフール)へと成り果てていきました」

少年は淡々と話しているが、聞いている側の亜里沙の身体は細かに震え、顔は青褪めていた。

 そんな亜里沙に、少年はいつものように小さく笑いかけた。

「大丈夫です。僕が守りますから。死神は怨霊(ベンジフール)に対抗し得る特別な力を使えるんです。亜里沙さんには傷一つ付けさせませんよ。それが僕達、死神の仕事なんです」

「ありがとう・・・」

亜里沙は震える身体を両手で抱きしめながらも、やっとのことで礼を言った。

「あの、あなたの名前は?」

少年は柔らかに笑った。

「本当の名前は業務上お教えできません。ですから偽名(コードネーム)でお答えしましょう。僕はラグナです」

「そっか。私は佐伯亜里沙・・・って、そういえばさっき私の名前呼んでたよね?」

「死神局ではお客のリストが作成されていて、僕達死神はそれぞれ担当を割り当てられますから。今回の担当は亜里沙さんだった、それだけです」

「・・・そっか」

亜里沙は力なく笑った。

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