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第一曲 Part.11 真実

 涼しい風が吹き付け、二人の髪をさらさらと撫でる。亜里沙もラグナも互いに顔を合わせようとはせず、漆黒に染まった夜空を眺めていた。静かな空気の中、亜里沙はさっきとは別の意味での緊張を感じていた。露わになったラグナの異様な左目。それと同じ色の怨霊(ベンジフール)の瞳。この共通点が、彼が死神であるということに関係を持っていることはきっと確かだ。そして今から、彼自身が真実を語ると言う。何も感じないわけがない。

 ラグナはもう、すっかり落ち着いていた。穏やかな中に見え隠れしていた怨霊(ベンジフール)に対する警戒心も、今では最初から無かったもののようだ。彼は今、ただの一人の少年だった。死神でもなく、幽霊(ゴースト)でもない。ただ荒れた土地の中に自然と出来た窪地に身を休め、空を眺める少年だった。

 ふと、隣でラグナが動く気配がした。亜里沙が気になって彼に目だけを向けるのとラグナが口を開いたのは、ほぼ同時だった。

「亜里沙さん。これを見てください」

亜里沙は首を廻してラグナの方を向いた。向いてしまってから、後悔した。ラグナは、長い前髪を掻き揚げて左目を亜里沙に見せようとしていた。

 うろたえ、目が泳ぐ。彼は左目を閉じているとはいえ、いきなりのことに対処しきれず、あからさまに顔に困惑が出る。気まずい空気を不本意ながら作り出してしまった自分に嫌悪した亜里沙とは対照的に、ラグナは本当に、心から優しい笑みを見せた。

「すいません、驚きますよね。でも、見ていただきたいんです」

亜里沙の心の中で、何かがコトリと音を立てて嵌りこんだ。すると、亜里沙自身がどこかに嵌りこんだような、落ち着いた安心感が全身に溢れた。全てが許されるような、心からありのままでいられることを受け入れられた気持ち。それがとても心地よくて、亜里沙はつい彼が望む場所に目をやってしまった。

 彼の左目は、ぴったりと瞼が閉じられていた。開いたらまたさっきと同じような、黒い眼球に赤い瞳が亜里沙を見据えるのだろうか。それはその目の持ち主ではない亜里沙には分からなかった。だが閉じられた状態であっても、衝撃的なものであることに変わりは無かった。彼の目には、縦にくっきりと裂かれた痕があった。当時は大量に出血しただろうし、目にも危害が及んだだろう。生々しい傷痕は、昔から変わっていないように思われた。

 亜里沙が固まっているのを微笑みで受け止めながら、ラグナは前髪を元に戻した。元のただの穏やかな彼が戻ってきたように思えて、つい落ち着いて息を吐いてしまう。だが次の彼の一言は、逃げられない現実を亜里沙に突きつけた。

「僕の左目はかつて、怨霊(ベンジフール)に傷つけられたんです。つまり、これは僕の怨霊痕(ベンジフールマーク)

亜里沙は何も言うことが出来なかった。ゆっくりと、彼の言葉が水のように浸透していく。それはさっきまで亜里沙が悶々と考えていたものと見事に合致していた。何故だか申し訳なくなって、目を逸らす。

 それなのにジェナスは、辛そうな溜息一つつかない。それどころか、口調が段々と明るくなっていく。

「死神っていうのは、簡単に言えば怨霊痕(ベンジフールマーク)を持った幽霊(ゴースト)のことなんですよ。怨霊痕(これ)を身体に宿してしまった以上、じっとしていることなんて出来ません。こうしている間にも、身体は刻々と怨霊(ベンジフール)に近付いて行くんですからね。一刻も早く、次なる石(ネクストーン)を7つ揃える必要があったのです」

亜里沙は変わらず黙っていた。こんな時こそかける言葉があるだろうに、見つからない。

次なる石(ネクストーン)は、死後の世界(アフターランド)よりも悪夢の道(ナイトメアライン)の方が見つかりやすいってことはもう言いましたよね。・・・迷っていることなど、出来ませんでした。危険だろうがなんだろうが、苦しみを経て怨霊(ベンジフール)に成り果てるよりはずっとマシですよ。不幸中の幸いと言いますか、怨霊痕(ベンジフールマーク)のお陰で特異な力も発揮出来ますからね。たとえ怨霊(ベンジフール)に遭遇してしまったとしても、その場しのぎくらいな可能です」


『死神は怨霊(ベンジフール)に対抗し得る特別な力を使えるんです』


(違う)

 亜里沙は思った。胸の奥が熱くなる。

(その場しのぎなんてものじゃない)

 先ほど、呆気なく分解されてしまった怨霊(ベンジフール)達。あれは、その場しのぎで済む力ではない。成長しているのだ。ラグナが、怨霊(ベンジフール)として。

「そうして次なる石(ネクストーン)を探すうち、彼らは気づいたのです。この力で守ることが出来る、自分自身ではないもう一つの存在を」

亜里沙は小さく息を呑み、ラグナの顔を見た。丁度ラグナも亜里沙の方に首を傾ける。二人の視線が、交わった。

「それは、幽霊(あなた)です」

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