文化祭。初日。いきなり回想中。~桃井知可子の憂鬱~
誰だって素敵な恋はしたいでしょう?
頬が蕩ける程のとっても甘くてロマンチックな恋。
だけどそれは夢物語で、実際は上手くいかないローリングデイズ。
だけど、頑張れ私!負けるな私!
たとえ今は夢でも、叶えれば真実なんだから!
桃井知可子
「とうとう、始まっちゃいましたね。文化祭……」
私、桃井知可子は憂鬱に打ちのめされていました。今日と言う日が来てほしくなかった。もはや学校を休みたかった。でも休めなかった。その理由はただ一つ。
親友の龍崎虎子。とらちゃんが『文化祭の伝説』をとんでもなく勘違いしているからだ。(ちょっぴり私の責任でもある……)
事の始まりは8日前。とらちゃんからのラインがきっかけでした。
❮あのさ、知可子。私さ、金元に告白しようと思うんだ❯
深夜一時、恋愛物のアニメを見終えてとってもハッピーな私に送られてきた衝撃的な告白。ただでさえお花畑な私の頭の中がこれ以上ないほど百花繚乱狂い咲いて、気がつけば一人部屋のなかで声をあげていました。恋愛なんて見向きもしていなかった、金色の女帝と呼ばれこの学校の頭を張っていた彼女が、こっそり真夜中友達の私に打ち明ける色恋話!!そんなモノを知って大人しい私ではありません。直ぐに電話をすると彼女は恥ずかしそうに言いました。
「も、もしもし?」
気まずそうに、照れ臭そうに、恥ずかしげな一言。電話越しでもとらちゃんの顔が真っ赤になってるのが容易く分かるそんな一言に、私は全力で言うしかなかった。
「可愛いかよ!!」
「うるせぇ!」と返されるも、それもまた王道。尊いかよ、です。珍しくしおらしかったとらちゃんへの質問攻めは楽しくて、そもそも、そうなるのも時間の問題だと思っていた私からすると、伏線回収をし始めた漫画を読んでいるような高揚感を覚えていました。家族の金銭的ピンチを救ってくれた御曹司が、代わりにボディーガードとして雇うと言いつつも朝からずっと世話を焼き続けるなんて、もはやゾッコンラブな証拠。そして、その甲斐があって惚れた少女。つまり、とらちゃんと金元君は両想い!毎日毎日ニヤニヤしながら見ていた二人がとうとう付き合う事になるんて、夢みたい!!ーーその頃の私は、本当に、心からそう思っていたのです――。
「それじゃあ、文化祭の日に告白するなんてどうかな?」
「なんでわざわざクソ忙しいときーー」
私は、とらちゃんの言葉を遮って言った。
「もしかして『文化祭の伝説』、知らないの?」
「なんだよ、それ」
流石、乙女モードなとらちゃん。私が思っている以上に食い付きが良いです。釣る側にとっても冥利につきます。
「文化祭中、学校の一番大きな桜の下でね……」
思わず言葉が詰まったのは、その先は乙女の私にはとてもとても言える言葉ではなかったから。そして、それをしてその行為が明るみになった場合、彼女は間違いなく停学。そうなると出席日数ギリギリな彼女は留年してしまう。だから、余計に、言えるはずがなかったのです。『学校内の一番大きな桜の木の下で男と女が性行為をすると永遠の恋が結ばれる』なんて!……ど、どうしよう。
「大きな桜の木の下で?」
とらちゃんに答えを急かされ、私の動揺がヒートアップ。【どうしよう!?】が頭の中を駆け巡っても解決策がサクッと出てくる程頭が良くない私の脳内回路は見事に爆発した。(今の座布団一枚貰えるくらいに上手かった!)
「校内で一番大きな桜の木の下でどつきあいをすれば永遠の恋が結ばれるらしいよ!!」
「本当かそれ!?」
間違いじゃない間違いじゃない!ある意味間違いじゃない!むしろ突き合う的な意味で言うと正しいのです!!!そう私は間違った事は言ってない!!『私は悪くない』!!
「まぁ、情報通の知可子が言うなら間違いないんだろうな」
だとしてもなんやかんやで納得するとらちゃんってばどうなの!?
ーーーーその後、後悔と謝罪の意味を込めてとらちゃんを全面バックアップする事にしたのが、今日までの経緯である。だ、大丈
夫、嘘はばれなきゃ嘘じゃない。そう、結果良ければ全て良しなのです!ーー。
桃井知可子「もうやだ無理なんでこんな上手くいかないの……」
マリオネット「どれもこれもお前が蒔いた種だけどな!!わっははは!!」
桃井知可子「一番最悪なのは、こんな愉快犯に手を借りてしまったですよ……」
マリオネット「任せろ!後は流木に乗ったつもりで俺に流されているんだな!」
桃井知可子「どこにも安心出来る要素がないんですが!?」