文化祭。初日。登校中。~龍崎虎子の思惑~
確かに、あいつは一般的に見たら『善人』じゃないのかもしれない。
お金に卑怯で、人間不信。ワガママで情緒不安定。
だけど、『悪人』じゃない。
形はどうであれ、その証拠に私は金元直人に救われたんだ。
私にとっては、惚れる理由なんてそれだけで十分だ。
龍崎虎子
『文化祭の伝説』。学校内の一番大きな桜の木の下で男と女がぶつかり合うと永遠の恋が結ばれるらしい。つまり、好きな男に桜の木の下でタイマンを挑めば結婚できる。という事なんだが。コイツ、金元直人はそんな噂を知らないらしい。現に、一週間前に下駄箱に入れた私の医名の手紙を『ただの果たし状』だと勘違いして私の前で「ふ、ふざけるなー!!」と叫び破り棄てた。その日はショックでご飯が喉を通らなかった。。なんて鈍感野郎なんだ。何も噂を知らないなんて。知可子に金元へ噂を流すようにお願いをして、また手紙を書いては下駄箱に入れるが、またも目の前で発狂されながら破り棄てられて悟った。この方法じゃコイツには駄目だ。どんだけアピールをしても気付かない鈍感野郎を相手するには、もう、この際拉致って桜の木の下でサンドバッグにするしかない。次の質問で金元の様子を伺って、駄目そうならそうしようと決意した。
「なぁ、休憩中、何するんだ?」
「何するって、何が?」
「いや、だから、手紙貰ってたろ」
「あの果たし状の事か!!行くわけないだろあんなもの!!相手が待っている場所に自分から向かうなんて阿呆極まる!!むしろ読まずに捨ててやったわ!」
指をワナワナと動かし「あぁああ!!」と発狂する金元。コイツは少しでも不安を感じるとすぐに発狂するし、あとお金の事になるとかなりうるさい。こんな奴に何故惚れたのかとたまに思う。が、うん、それでも好きなのは惚れた弱味という奴だ。ーーそして、一方的な好きで済ませる程、私は、大人しい女子じゃない。私は、作戦の決行を固く決意した。
「それに、そもそも休憩中は用事がある。お前にはその護衛に付いて貰うぞ、龍崎」
「用事?」
「あぁ。大事な大事な金儲けだ!楽しみだな!」
休憩中も金儲けって。
「あのさ……。せっかくの学生生活もっと青春しようと思わないのか?」
「ふふ、そんなモノをエンジョイ出来るほど俺は他人を信じれないんだよ」
自信満々に言う金元の顔は言葉とは裏腹にどこか死人のような表情だった。一息つくと、金元は話を続けた。
「人はいつか裏切り、努力は一部の人間しか実らず、愛は一瞬で冷めてしまう。そう、形なんて残らないんだ。この世の中で唯一残るのはお金だけなんだよちくしょーーーーう!!」
そして今度は泣き始める。普段はクールなクセに変なスイッチで情緒不安定になる。赤ちゃんでもこんな喜怒哀楽は激しくないぞ。いや、だからこそ、ここで母性とやらを発動するべきだ。日頃二人の弟と妹の面倒を見ている私の面倒見の良さがここで火を吹くぜ。
「安心しな。あんたには私がいるだろ」
「そうだな。お金で雇った佐々木と龍崎だけが俺の信用出来る人間だ!」
拗らせ過ぎだろそうじゃないだろなんでそうなるんだよ。今のはどう考えてもそういうことじゃないだろ。分かんないのか、ここまでして分からないのか。もはやここでサンドバッグにした方が話が早いか?待て落ち着け私。そうじゃない。ここは私の寛大さを見せるとこだ。自分でさっきそう考えたじゃないか。
「あぁ、任せな。私がお前をちゃんと守ってやるさ」
「任せたぞ、相棒!」
何故だろう。何故か一歩違う方向に進んでしまった気がする。
佐々木「こちら佐々木。坊っちゃんと龍崎さんの姿を確認。繰り返す。こちら佐々木。坊っちゃんと龍崎さんの姿を確認」
???「こちらピンク。わ、分かりました」
???「マリオネット、了解したぜ。さぁ、楽しい楽しい文化祭を始めるぞ!!」