文化祭、初日。登校。
この世でもっとも信頼出来るものは何か?
友情?努力?力?才能?愛?
いいや、どれも違うね。
この世でもっとも信頼出来るもの、それは。
金だ!!
金元直人
生活習慣は大事だ。
それが欠けるだけで心はくすみ堕落と言う底無し沼に嵌まっていく。それは身だしなみや日々の生活態度でも言えることだが、ようにするに、気をしっかり張っていないと人間はどこまでも落ちぶれていくと言うことだ。ゆえに、俺、金元直人の朝は早い。文化祭当日の今日は更に早い。まずシャワーを浴びて制服に着替え、朝御飯を作り、優雅に一息休憩を挟んで文化祭の支度をして家を出る。元・忍者。現・執事の佐々木と向かうのは学校。……ではなく、俺が雇っている護衛、龍崎虎子の家だ。
「毎朝お家に伺うなんて、まるでお付き合いしているみたいですよね」
俺を背負い走る佐々木に汗はなく、むしろ見ているだけで涼しくなりそうな爽やか笑顔を向けてくる。時速は80キロを越えているだろう。さすが忍者、もはや人間兵器だ。
「アイツが彼女?あんなガサツな女こっちから願い下げだ。そんな事いいから前を見て走れ佐々木。事故ったらシャレにならないぞ」
「ははは!まさか!忍者である自分がそんなミスをぉぉお!?」
何に足を引っ掻けたのか分からないが、佐々木がコケて、俺が宙に吹き飛んだ事は間違いなかった。佐々木は上手いこと俺を真上に高く投げた後、コンクリの壁に頭から突っ込み。俺は鞄からパラシュートを開き安全に着地する。なに、これぐらいの準備はしていて当たり前だ。何も不自然じゃない。そう、全ての事において準備万端な俺にとって何も不自然ではないのだ。
「ぼ、ぼっちゃま……。どうか私の事は置いて先に……」
コンクリに顔が埋まっている為良く聞こえないが、きっとそう言っていたのだろう。
「分かった。そうする」
どうせ30分後には超人的な回復力で復活するんだ。心配する必要はない。
「そういう……ちょっと冷たい所、嫌いじゃない……です……よ……。それと……、今日は頑張って下さい……ね」
グッと親指を立たせてくる。やかましいわ。俺はそそくさとその場を立ち去った。本日は晴天なり。そうなると客も多いだろう。さて、何人の客がどれだけのお金を落として行くのか楽しみだ。俺は軽い足取りで龍崎の家へと向かった。
龍崎の朝は非常に遅い。話を聞けば夜中の3時ぐらいまで起きていて目覚めるのは気分次第。そのまま学校をサボるのも珍しくはない。これでは俺の護衛として役に立たないため、こうして朝からわざわざお越しに来てやっているのだ。部下の管理は上司の役目。雇い主として仕方なく来ているのだ。今日は早めに行くと伝えてはいるが、佐々木のトラブルで遅くなってしまった。まぁ、奴の事だ。どうせまだ起きてはいないだろう。アパートの二階の一番奥が奴の家。どうせいつものように直ぐに出てこないだろうと予想しながら、チャイムを鳴らすと。
「おっせーぞ、直人。約束の時間15分遅れてるぞ」
龍崎がすぐに出てきた。いつものボサボサな長い金髪が、今日はビシッと整っている。いや、むしろ、何故だかいつも以上に綺麗な格好をしている風に感じる。いつもは寝起き状態で出て来て俺の事を待たせるはずなのに、今日は意外にも準備万端のようだ。さてはコイツ。
「文化祭が楽しみだったなお前」
「お前があんだけ念入りにラインしてくるからだ馬鹿。一時間毎に確認の連絡してくるか普通。アホか。お前が楽しみにしてたの間違いだろ」
「ふっ、用意周到と言ってほしい。現に毎日約束の時間に準備してこないお前がこうやって珍しく用意しているんだ。俺のおかげだろう?それと言っとくがな、俺は文化祭楽しみにしているぞ。何故ならお金が稼げるからな!!」
「お前、ボンボンのクセにどんだけ金好きなんだよ……。せっかく文化祭なのに他にないのかよ」
「金はいいぞ!!この世で一番信用出来るからな!!」
「あー……、分かった分かったから家の前でそんな事を大声で言うな。ほら、行くぞ」
呆れながら、ずけずけと俺を抜かして進んで行く龍崎は、どこかガッカリした様子だった。何故かはわからない。俺は何か悪い事を言ったか?いや、わからない。考えてもわかないことを考えるのは合理的ではないと判断して俺も歩を進めた。
金元直人「おい、護衛なのに俺を置いて行くな!」
龍崎虎子「別にこんな所で襲われないだろ」
金元直人「そうじゃない!大事なお金を払ってるんだからその分ちゃんとしてくれって事だ!大事だ!大事なんだぞお金は!!分かってるのか!?大事だぞお金!!11円でうめぇ棒が一本買えるんだぞ!!」
龍崎虎子「なんでボンボンなのに金銭感覚が一般人以下なんだよ……」