092 ボッチ兵団の自己紹介
出発して10分くらい。
それぞれ一緒の仲間と会話をしながら、まるで遠足にでも行くかのような様子だった。
私はぼっち兵団だから喋る相手がいません。
なのでギルドに置いてあった兵団情報誌を広げながら歩いています。
大きく広げれば口元を隠せるのだ。
これでヒソヒソとクラウンと会話する事が出来る。
どうや? 寂しくないやろ?
「ローズ、もう少し紙を近づけてくれ。よく見えん」
「ん」
情報誌と言っても紙1枚ぺらだが、今の私たちが知りたい情報が載っていた。
勿論タダではなかった。手書きだからなのか、これ1枚で大銅貨3枚も取られた。
しかし情報はお金を出してでも欲しかったので仕方あるまい。
そしてこの兵団情報誌、つまりはベテルギウスに存在する兵団が紹介されているのだ。しかもかなり細かい。
既に新規傭兵団の欄に薔薇の王冠の名前が載っている。
1番目立つ形でベテルギウス実績ランキングなどという記載がある。
なになに、1位カラード(団員数216名)、2位 ターミナル(団員数17名)、3位 アグネアストラ(団員数42名)。
実績の度合いについては書かれていない。
これじゃどれくらい頑張ればいいのかが分からないし、本当に合ってるのかも分からない。
まぁでも有名どころなのは分かるから、とりあえずはいいか。
「随分と数が多いな、このカラードというの」
「あ、それよりもこの3位のやつ、あの3人の兵団じゃない? アイシャさんも、自分のとこの団員がって言ってたし」
ランキングに書かれた兵団名の横に、エンブレムの記載がある。
前を歩く3人組の女性たちの服には、縫い付けられる形で同じエンブレムがあった。
「自分たちの兵団のエンブレムを目印に付けているのか。いいなローズ。俺たちもやろう」
やろうって言われても。
付けるの私だけなんだけど。
「あ、16位のヘカトンケイルってのは、向こうの6人組のだね」
更に前を歩く6人組の男性たち。
ひとりだけ大荷物を持って大変そうに歩いている。
その荷物持ちの人が背中に抱えている大盾に、ヘカトンケイルのものと思われるエンブレムが彫られていた。
「自分の装備にエンブレムを……! ローズ! あれもやろう!」
だからさ、それやるの私だけなんだってば。
多少呆れながらクラウンに相槌を打っていると、前から軽い罵声が聞こえてくる。
「さっさと歩けよグズ!」
6人組だ。
荷物持ちの男性に、何も持たない若者が文句を垂れている。
そして私や女性3人の方をチラチラ見ていた。
あれかな、悪ぶってればカッコいいって勘違いしてるあれかな。
よく見れば荷物持ちの男性は髭だらけで小汚い感じのお爺さんだ。
お年寄りを労われない奴は総じてカッコ悪い。
死ぬほどダサいぞ。
「タラタラしてんじゃねぇぞ!」
「す、すみません……」
お爺さんは文句も言わず、謝罪の言葉を口にしながらも懸命に歩いていた。
「ローズ、ダメだぞ。お前はか弱い弓使いでなくてはならない。あれを助けるのは作戦に支障をきたす」
分かってる。分かってるよ。
そもそも誰かに手を差し伸べる資格など、私にはないのだ。
約1時間で、気分の悪い集団移動は終わりを迎えた。
無事にヘルメスに到着したのだ。
あの男性らのせいで雰囲気が悪かったのもあるんだろうけど、結局誰にも話しかけられなかった。
女性陣がアイシャさんの兵団なら、話しかけられるだろうなって身構えてたのに。
待ってて何もなかった時って悲しいね。
へへ……。
「さて……」
食料を保管しているというここ、ヘルメス。
第一印象はなんかすごい整頓されてるって感じ。
というのも、小さめの同じような形の小屋がいくつも並んでいるのだ。
目測だが、横に20戸くらいが並び、それが12列。
多いなって思ったけど、実際にこれが多いのか少ないのかは私には分からなかった。
あの小屋それぞれに食料が保管されているんだろうか。
それ以外に言えることと言えば、見晴らしがいいってことくらいだろうか。
木々が少なく、バカでかい岩が1個あるのを除けば障害物になるものが周りにはほとんどない。
後は小さめな川が流れてるくらいか。
「ローズ、ひとまず札を渡しに行こう」
「あ、そうだね」
並んでいる小屋よりも少し大きめの建物がある。
恐らくは宿舎として利用されているだろうそれの、入口のところにフルプレートの傭兵さんが立っていた。
胸には情報誌で見たカラードのエンブレムが刻まれている。
私よりも先に来ていたアグネアストラの3人が、札を渡していた。
それが終わるのを後ろで待とうかと思ったらすぐに呼ばれた。
「次の兵団の者、こちらに」
トテトテとフルプレートマンの前まで歩き、札を突き出す。
「ふむ、ローズクラウン? 聞かない兵団だな。新規の兵団か?」
「あ、はい。そうです。今回は傭兵として勉強させていただければと参加しました」
「そうか。よい心がけだ。そちらの兵団に愛想が尽きたらカラードに来るといい。向上心のある者は誰だって歓迎している」
「機会がありましたら、是非」
「待っているよ。ではしばらくそこらで休んでいてくれ、準備が整い次第ここでの1週間について説明を行う。その際にはここから呼びかける故、出来るだけ声の届く範囲にいてくれ」
「分かりました」
了承の旨を伝え、私はそこからそそくさと離れた。
さて、休んでいてくれとは言われてもだ。
どうしたものか。
「ローズ、あれを見ろ」
クラウンに言われて顔を向けると、恐らく前任者であっただろう傭兵たちが商業都市ナロッゾへ戻っていくのが見える。
8人ほどの集団だが、誰も彼もボロボロになっていた。
ある者は肩を借りながら、ある者は脚を引きづって歩いている。
「けっこう大変なのかな……?」
「どうだろうな。なんにせよ、戦闘に近しいものがあるのは間違いなさそうだ。なら、傭兵というものを見極めることが出来るかもしれんな」
今回の護衛依頼、私は出発前から短弓を装備していた。
初心者傭兵として後方支援に回るためだ。
後方に回りたい理由は、様子見したいから。
つまり、現状の傭兵がどういう感じなのかを観察しておきたかったのだ。
おあつらえ向きにも、ランキング1位のカラードがいる。それなりに大きな戦闘が起こってくれれば1番いい。
最悪、この依頼は失敗してもいいとさえ思っている。
護衛って付く依頼は正直嫌いだしね。というか成功したことないです。
「おーい! 集まってくれぇ!」
お、早かったな。
もう説明とやらかな。
声の指示に従い、私は宿舎へと向かった。
◆
「――と、説明は以上だ。質問は?」
ごく簡単な説明が終わった。
かいつまんで言えば、増援要員である私たち10人でローテーションを組んで、食料を狙う野盗やコソ泥をやっつけろというものだった。
常時ここに駐屯しているカラードの面々はその警護には参加しないらしい。
あくまでも報酬評価をする監督役なのだそうだ。
にしては、数が多い気がする。
ここにいるだけでも12人。
他にも、外で見張りをしている人もいる。
監督役にこんなに人員が必要だろうか。
「質問がないようなら、各兵団ごとに挨拶をしてもらおう。君たちは君たちで連携を取ることになるからな。まずはそうだな。アグネアストラがいいだろう」
指名された兵団の代表ひとりが、前に出てきた。
黒髪を後ろで結んだポニーテール風の女性だ。きつめの顔だけど美人さん。
腰に携えた剣から、剣士だろうと思う。全体的に黒い衣装に身を包んでいて、装飾はけっこう派手だ。
「アグネアストラのエルモアです。私の傭兵クラスはB。我々は3人とも前衛職になります。1週間どうぞよろしくお願いします」
「では次、ヘカトンケイルだ」
あのお爺さんをいびり倒していた6人組の兵団だ。
ガタイの良い身長のかなりデカイ男性が前に出てくる。
黒髪で前髪が長く目が見えない。テンパだろうか。
腰にはメイスが据え付けられて、左手には小さな丸い盾がくっついている。
神官系? こういうのってなんて言うんだろう。
というかこれ、私もやるの? こっぱずかしいんだけど。
「ヘカトンケイルのザガンだ。俺の傭兵クラスもBだ。俺は前衛職だが、残りは後方支援を担当する。1週間よろしく頼む」
あ、やば。
私のクラスどうしよ。
「次、ローズクラウンだったか。前へ」
これ公開処刑じゃないだろうか。
そんな事を思いながら前に出る。
人前で、それも注目された状態で喋るとか緊張する……。
「あ、えと……薔薇の王冠のローズ・クレアノットです。わ、私はその……クラスは測定不能でし……た。ゆ、弓で後方支援を頑張ります……ので、1週間よろしくお願いします……」
は、恥ずかしい。焦り過ぎてちゃんと喋れなかった……。
この依頼を受けたことを、私は今猛烈に後悔している。
「ローズクラウンで、名前がローズ? 自分の名前を入れたのか? だせぇな」
「クスクス」
~~~~~~ッ!!
今私は顔面真っ赤だろう。
だってすんごい顔が暑い。あーなんでそのまま本名で登録したかな私!
冒険者感覚で登録しちゃったからだよ! 大失敗だよ!
穴があったら更に掘ってダンジョンに開通させたい気分だよ!
「よし、下がっていいぞ。ひとまず話をする取っ掛かりはこれでいいだろう。後は諸君らに任せる。では1週間宜しく頼んだぞ」
私たち用に別の宿舎が用意されていた。
私を含む今回の増員兵団は皆そこに移動し、役割を決める話し合いが始まった。
「じゃあ役割分担を決めましょうか。とりあえず素案を私エルモアから出そうと思うのですが、よろしいですか皆さん?」
「ヘカトンケイルに異論はない」
「ろ、ローズクラウンも問題ないです……」
「ぶふっ」
おい誰だ今噴き出した奴。
私が恥ずか死するだろう。やめろ。
「……ではまず、戦力の確認から行いましょう。アグネアストラは全員がクラスBですので、まずは戦闘要員が3人。残り、ヘカトンケイルの戦闘要員は何人ですか?」
「5人だ、この爺さんはただの荷物持ちだからな」
「分かりました。それでは現状8名で護衛任務に当たることになりますね」
え、私は?
「ヘカトンケイルのおひとりと、ローズクラウンは戦闘以外でのサポートをお願いします。内容に関しては護衛作戦に沿って決めますので、おふたりはあちらの椅子に座って休んでくださっていて構いませんよ」
お、おおううん……。
完全な後方支援になって願ったり叶ったりではあるんだけど、戦力外としてみなされるのは割とショックだ。
「はい……」
恥の上塗りはしたくなかったので、ひと言了承の言葉を発し、言われるがままにお爺さんと一緒にその場を離れる。
すると、椅子に腰かけようとしたところで、お爺さんに話しかけられた。
「ほっほ、お嬢さんも大変ですなぁ」
「いえ……、測定不能は事実ですし……」
このやるせなさはどうしようもない。
「せっかくです。この爺めがお茶のひとつでも入れて差し上げましょう。気分が変わりますぞ」
正面から見たお爺さんは、髪の毛もボサボサで、大量の髭も相まって顔の露出がほとんどない
でも、優しく笑いかけてくれたであろうことはなんとなく分かった。
カチャカチャと、宿舎内に用意されていた食器類を持って外へと出ていくお爺さん。
外の川で洗ってくるつもりなのだろう。
よし、私も手伝おう。
話し込んでいる8人を尻目に、私はお爺さんを追いかけて外へと出た。
まだ日はあるが、既に傾きつつある。
赤くなった空が、3つある月を不気味に照らしていた。
「あ、あの! 私も手伝います!」
「おや、すみませんな。ではお願いしましょうかね」
「はい!」
お爺さんは持っていた食器を全部私に渡してきた。
ん? と思ったが、手伝うと言った手前これを突き返すわけにもいかず、そのまま川まで持っていく。
しかしこれ、随分と重い。お爺さんよく持てたな。
「着きましたぞ、食器をそこに置いてくださりませんか。洗うのは私がやりましょうて」
「あ、はい!」
平な地面を探し、そっとコップやら皿やらを置いていく。
すると、その中から明らかに食器ではない丸い鉄球のような物が出てきた。
鉄球とは言ったが、感触は柔らかい。陶器で出来た食器類とぶつかっても割ることは無さそうだけど、なんでこんなものが。
「ところでお嬢さん」
ひとつずつ、丁寧に洗いながらお爺さんは話し始めた。
「その黒い物体、重さがね。300kgを超えてるんですよ。よく持てましたね、そんな重いものを」
――ッ!?
なんでそんな重い物を持たせた!?
試されたのだろう驚きにどう反応するべきか迷い、私は中途半端な警戒態勢を取った。
「大丈夫、敵対するつもりはありません。それに身構えても意味はありませんよ。私はただの奴隷ですから、命令が無い限り誰かに危害を加えることが出来ません」
奴隷……?
お爺さんが長い後ろ髪をかき上げると、悪趣味な首輪がされているのが見える。
奴隷に付ける首輪か何かだろうか。
「これは隷属の首輪と言ってね、その名の通りどんな命令でも強制的に従わせる外法の魔術道具です」
「奴隷……」
食器を洗う手を止めることなく、お爺さんは話を続ける。
「見たところ、我々の中で最も強いのはお嬢さんだと思うのですが、なぜ測定不能などと嘘をついたのですか?」
「う、嘘はついてないです。測定不能だったのは本当です」
「おや、そうなのですか。なら私の予想よりもずっとずっと強いのかもしれませんね」
……どういう意味だろう。一応話は聞いているが、クラウンも警戒態勢だ。
何かあればすぐにでも動ける。
「知っておりましたか? ナロッゾにある鑑定石。あれは一般的な冒険者を対象とした鑑定石なのですよ」
一般的な……?
どこもそうじゃないの?
「ふふ、分かりませんか? 一般的な冒険者の限界はA++。総合評価Sというのは、英雄のために存在する評価値です。ですので、Sクラスに至るステータスもまた、測定不能になるのですよ」
それは以前聞いた事があるけど、そうだとしてもだよ。
私はA++だった。Sではない。測定不能にはならないはずだ。
「ふむ、まだ解せないとった様子ですね。じゃあもう少し詳しく言いましょうか。一般的な鑑定石で見れるステータス数値は、500が限界です」
……!
そういうことか!
私の膂力とか速度はそれを超えてる! だから測定不能だったのか!
「どうやら得心いった様子。ということは、お嬢さんの総合評価はA++。だが一部ステータスが500を超えているといったところですかな」
「う……」
顔に情報を出し過ぎた。
このお爺さん侮れないぞ……。
「そもそも、500は基本限界値です。それを、一部であろうと超えることは通常ありません。お嬢さんはどこかで扉を開けてしまったんでしょうな」
◆
翌朝、私はひと際大きな岩の上で目覚めた。
ヘルメスから移動したわけではない。あの場にあったでっかい岩の上だ。
作戦会議後、私とお爺さんに言い渡されたサポート任務は炊事だった。
うん、頑張った。頑張ったんだよ。
でも家事が壊滅的だったんです私。
結果的に追い出され、高さのある岩の上で夜間の警戒役を仰せつかったのだ。
寝てたけど、ちゃんと警戒はしていたよ。クラウンが。
まさかあんなに家事が出来ないとは思わなかった。
どうしよう私……。12歳までずっとお父さんに着いて回ってたせいもあってか何ひとつ出来ない。
お嫁にいけない……!
予定はないけど……!
「ローズさん! お食事の用意が出来ましたので降りてきてください!」
キリングさんの声がする。
キリングとは昨日の只者じゃない雰囲気むんむんのお爺さんの名前だ。
ひとまず岩から降り、宿舎へと足を運ぶ。
それと同時に8人が外に出てきた。
広いこの敷地を警戒に行くのだろう。岩場は確かに高さがあるが、全てを見渡せるわけではない。
被害を最小限に抑えるなら徒歩警戒は必要だった。
「よぉ、弱小兵団の団長さん。ちゃんと見張りは出来たか? 仕事が出来ねぇならさっさと帰ったほうがいいぞぉ?」
イラァ……。
ここに来る道中でキリングさんをいびりまくってた男性だ。
名前は知らない。
こいつぶっ殺したろかな。
「まぁまぁ、エルモア様がこちらを見ておりますので、どうかお早く……」
「チッ……野盗が出たら精々隅っこで震えてるんだな」
悪態を付きながら男性は警戒へと向かった。
キリングさんがこの場にいなかったら殴っていたかもしれない。
気持ちを落ち着かせて宿舎の中へと入る。
テーブルには軽食が置かれている。
冷めてしまってはいるが、手作りの温かさが伝わってくるようだった。
「いただきます!」
モムモムとそれを食べていると、クラウンが耳元で喋り始める。
「おいローズ! ひと晩中飛び回ってた俺の分は!?」
ハッ……!
仕事してたのはクラウンだった……!
ど、どうしよう。傍でキリングさんが食器を片付けてるし……。
まぁこの人ならいいかな……?
一応ひと言断っておこう。
「あの、キリングさん」
「はいはい、お待たせしました。そちらの方にもどうぞ」
……。
「クラウン……」
影から這い出てきたクラウンは鳥の姿へと戻る。
「気づいてたんですか」
「ええ、ローズさんは時々ひとりでボソボソと喋っていましたからね。何かがいるなとは思っていました。それがまさか、クラウンフォーゲルだったとは思いませんでしたがね……」
本当に侮れないお爺さんだ。
クラウンはこれでも災害指定魔獣なのに、その姿を見ても驚かないし、なによりクラウンフォーゲルだって言い当てた。
つまり見た事があるんだろう。
なんでこんな人が奴隷なんかになってるの?
昨日の会話も、普通の人からは出てこない話ばかりだったし。
元は高名な冒険者とか? 没落貴族に仕えてた優秀過ぎる執事とか?
想像はすれど言葉には出さなかった。私はあまり人の過去を詮索するのが好きじゃない。
私自身、詮索されるのが嫌だからだけど……。
考え事をしながら食べていたら、あっという間に食べ終わってしまった。
クラウンも同様だ。
「ご馳走様でした!」
「クェエ!」
「ほっほ、お粗末様でした」
夜間の警戒が仕事になった私は、この時間は基本的に自由だ。
食事のお礼を言ってすぐ、敷地内を探索することにした。
「さてと、どうしようかクラウン」
「あの爺さんは気になるな、扉の話とかも興味深い。だが、お前が聞かないなら今は置いておく。ひとまずは保管されているという食料を見るべきだろう。気になることもあるしな」
気になること?
なかなか言い出さないクラウンを伴い、小屋のひとつに入り込んで食料とやらがなんなのかを確認した。
保存の効く干物とか、乾燥したパンとか、そういうものだろうと思い込んでいたが、全然違った。
私たちが守っている食料。
それは、大量の馬草だった。
「……ふむ。大陸中が慢性的な食糧難だという話があっただろうローズ。にもかかわらずナロッゾでの食事は豪華そのものだった。小さな食堂だって普通に経営していたな。そしてここ、食料保管場所には、大量の馬草。各国が食糧難で喘いでいる中、これだけの馬草を確保し、それに護衛を付ける余裕まである。どういうことだと思う」
「分かりません」
既に情報を処理しきれない私は考えることを放棄した。
「分からない事がある時のお前はいつも素直だな。まぁいい。端的に状況だけ述べれば、ベテルギウスには戦争をする余力が残っているということだ」
「え!? でもそれは――」
「まぁ聞け。ほぼ全ての兵を動員した大規模な衝突、それにより各国は多くの兵を失ったという話だったが、この国は亜人国家だ。死んだという王は亜人差別の主張が強い王。その王の命令に対して亜人の兵が反発し全員が戦線に参加していなかったとしたらどうだ?」
この国の人間と亜人種の割合は分からないけど、仮に半々だとしても半分の兵が残ってることに……。
「想像できたか? 兵力が枯渇した他国に対して、この国はまだ攻め込む力を持っている。なのにだ、各国に合わせて傭兵起用の風潮が強い。僅か1ヵ月足らずで大隊規模の軍と同程度の力を持つという傭兵団が既にあるほどだ。何故だと思う」
「え、それは分かんない」
「俺にも分からん」
なんだそれは!
「そこまで言っておいて!?」
「仕方ないだろう。ここからは推測が枝分かれする。情報が足りな過ぎて絞り込めないんだ。単純に準備期間なのか、はたまた偶然なのか。どれも可能性としてありえなくはない。だが、大隊規模の兵団が既にあるというのには違和感を覚える。偶然という線は恐らくないだろう」
ふぅん。
前から思ってたけど、もしかしたらクラウンは私より頭がいいかもしれない。
もしかしたらだけど。
考えるのはクラウンに任せようかな……。
「おい、そこで何をしてる。盗み食いか?」
後ろから声がした。
話に夢中になってて気づかなかった。
「ひとりでボソボソと気持ち悪い……。妄想の友達と話でもしてたのか?」
ああ、こいつか。
隅っこで震えてろとか言ってた奴。
「何が保管されてるのか気になっただけです。盗み食いしようにも、ここには馬草しかないので食べれませんよ」
「あ? お前なら草でも食えんじゃねーの?」
なんと失礼な。
ここでこいつを喋ってると殴ってしまいそう。さっさと退散しよう。
「それじゃ私は行きますので」
「待て」
横を通り抜けようとしたら通せんぼされた。
なんだ。何の用だ。殴られたいのか。
「お前さ、どうせ何も出来ないんだし、俺の女になれよ。そうしたら一生食わしてやるぜ? こう見えても俺のステータスはC+なんだ。そこら辺の奴には負けねぇし、これから更に強くなる。悪い話じゃないだろ? 除け者扱いされてる今の状況だって、俺ならなんとかしてやれる」
え、きもい。
へらへらと気持ち悪い笑いを浮かべながら寄って来ないで欲しい。
「なぁ? どうだ? ここにいる間、俺の相手をしてくれるだけでもいいぜ?」
よし、ここはか弱い女の子設定を超活かそう。
「イヤアアアアア!」
「――!?」
私は全力で悲鳴を上げた。
正直自分でもびっくりするくらいの大声だったと思う。
「どうした!」
私の悲鳴を聞いてすぐ、アグネアストラの面々が駆けつけて来てくれた。
私はか弱そうに崩れ落ち、一瞬で服をちょっとだけ乱して肩だけを覗かせておいた。
それを見てエルモアさんとは別の、茶髪の女性が鬼の形相で怒号をまき散らす。
「きさまぁああ! 何をしている! この不埒ものがああ!」
「お、俺はまだ何もっ――!」
「うるさい!!」
鉄拳が男の顔面に直撃する。
小屋の壁まで吹き飛び、頭から地面に落ちた。
ピクピク痙攣しながら気を失っているようだ。
「大丈夫か! クソッ! 女と見ればすぐに下半身で物事を考えやがる……! 男は本当にクソしかいねぇ!」
何か過去にあったのだろうか。
助けてくれたのはありがたいけど、明らかに怒り方が異常だ。
「おいどうした!」
今度はヘカトンケイルの面々が遅れて現れた。
惨状を見て察したようで、代表のザガンという男性が謝罪の言葉を口にする。
「……すまない。うちの新人が粗相をしでかしたようだな。きつく言い聞かせておく」
そう言って、奥に入って来る。
ノビているあいつの状態を軽く確認すると、担いでそのまま外へと出て行った。
完全に立ち去ろうとするザガンさんに対して、鉄拳を放った女性が後ろから声を掛ける。
「待ちな、詫びだけで済むと思ってんのか」
「……どうしろと?」
「それは今夜話し合う。そんな変態野郎がいる兵団と一緒に任務なんて、気持ち悪くてしょうがねぇからな」
「……分かった。その裁定には従おう」
変態を担いだまま、ザガンさんはその場から立ち去った。
うん、思い付きでやったけど、思いのほか大事になってしまった。
まぁいっか!




