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090 傭兵証の発行

 往来を行く人々の眩いばかりの笑顔が、今が戦時中である事を忘れさせる。

 誰も彼もの表情には陰りがない。

 心の底から今を楽しんでいるような、喜んでいるようなそんな顔。


 私は多少面を食らいながら、ようこそと歓迎してくれた番兵さんに話しかけた。


「あ、あの身分証が欲しいんですけど、どうすればいいでしょうか……」


「それならギルドに行けば大丈夫ですよ、あなたも傭兵ですか? 可愛らしいのに」


「あ、あははぁ! そうですよね! 可愛らしいですよね! 私!」


 ここは謙遜するとこだったと思う。

 でもでも、ちょっとした自信を打ち砕かれそうだったんだもの。

 つい肯定しちゃったよ。


「ええ、可愛らしいですとも。傭兵かどうかを聞くのは無粋でしたね、すみません。ギルドはこの中央の道を真っ直ぐと進んでいくと、左右への分岐がございます。その分岐地点の巨大な建物がギルドになりますね。この商業都市を取り仕切っているのも元々ギルドですので、この街の中心地点にあるんですよ」


 すごく丁寧に教えてくれた。

 商業都市としての話もギルドに行けば聞けるかな。


「ありがとうございました!」


「いえいえ、どうぞ良い旅を」


 ありがとう、なんか頭に熊さんみたいな耳のついた人。

 亜人国家って言うんだからあの番兵さんも亜人なのかな。

 感じのいい人だったなぁ。外の番兵とは大違いだ。 


「と、それよりも……」


 本当にすごい賑わいだ。いくら横のフォートギアが滅んでるからって浮かれ過ぎじゃないだろうか。

 街並みが綺麗な事も相まって、人々がより輝いて見える。

 

 建物は全体に高いな。そこは流石、商業都市というところだろうか。

 ただ、ちょっと気になるのは、冒険者っぽい人たちの姿が多いということ。

 まぁ比較対象がダンダルシアの記憶しかないから、これが普通だって言われたらそれまでなんだけど。

 とか言ってる間に着いたね。


「ほぁー……横に長くない……?」


 T字路のような突き当り、そこにあったのがギルドだ。

 ここに来るまでは他の建物で見えなかったが、やたらと横に長い。学校かってくらい長い。


「とりあえずぅ、入りましょうねぇ~……」


 街の人々の笑顔に当てられてか、私はちょっとテンションが高いまま扉を開ける。

 中はもう大盛況という他ない感じ。

 すんごい人でごった返してる。


 ああ、商業関連の手続きとかか……。冒険者以外にも沢山利用する人がいるとこうなるんだね。


「さて」

 

 キョロキョロと窓口を探すが、それっぽいのは見当たらない。

 窓口自体はあるけど、それはどれも商人らしい人たちでもっちゃもちゃになっている。


「うーん……?」


 困っていたら冒険者らしい人たちが入って来た。

 ここはその動向を見守らせてもらおう。

 

 お、え、あー。

 そうなのかー。


「ここじゃなかったのか……」


 冒険者らしい彼らはこのフロアの最奥にある扉から先へ進んでいく。

 こそこそと後を付けていった先は、冒険者のような風貌の人しかいない場所だった。


「冒険者用のフロアと商業用のフロアは別だったかぁ……」


 まぁなにはともあれ、まずは身分証を作らないとね。

 空いてそうな窓口は……ああ、あれか。


「あの、すみません」


「はい、どういったご用件でしょうか」


「えーと身分証が欲しいので、冒険者登録をしたいんですけど……」


 私がそういうと、窓口のお姉さんはキョトンとした顔で見返してくる。


「失礼ですが、冒険者の登録はここではやっておりません。傭兵としての登録でしたら出来ますが……」


 えっ!

 もしかしてここって傭兵用のところ!?

 し、しまった恥ずかしいぞ!


「す、すいません! 間違えました!」


 慌てて立ち去ろうとしたが、冒険者用の窓口がどこにあるのかは分からない。

 立ち去っておいてカッコ悪いけど仕方ない……。


「あ、あの……冒険者用の窓口ってどこでしょうか……」


「ございませんよ」


「……え?」





 ◆





 窓口のお姉さんは親切にも色々と教えてくれた。

 今、大陸中で傭兵の需要が爆上がりしている理由や、ダンジョンが機能しないために冒険者が傭兵に職を変えている事など。

 各国の衰退状態は悲惨なものらしいのに、まだ戦う気でいるのが信じられない。

 傭兵を雇ってまで他人の畑を狙うんじゃないよ。


「それで、どうされますか? 冒険者にはなれませんが、傭兵にならば登録可能です」


 うーん、どうしようか。

 正直、傭兵にはなりたくない。

 でも身分証は欲しい。

 などと悩んでいたが結局傭兵として登録した。

 傭兵の仕事をしなきゃいいだけだしね。


「では次に、所属する傭兵団を選択してください。勿論ご自分で結成されてもいいですし、様子見で無所属でも構いません。ですが、大き目の傭兵団に所属すれば仕事には困りませんよ」


「あ、いえ結構です」


「分かりました。では、傭兵証を発行しますので、こちらにお掛けのままお待ちください」


 そう言ってお姉さんは奥へと消えていく。

 特になんの調査もしないで傭兵になれるんだ。お手軽ですね。


「新進気鋭の新傭兵団! 栄光の騎士(グローリー・ナイト)! 団員募集中! 腕に覚えのあるものは名乗りをあげろぉ!」


 突如広めの待合場のような場所から、人の叫び声がした。


 び、びっくりした。

 突然誰なの、大声出して……。


「既に中堅入り確実の幽玄の風(ファントム・ヴィント)! こっちは既に団員50人! 大所帯の安心感は外せないぜぇ!」


 あー、団員の募集かぁ。

 随分活発なんだなぁ。

 冒険者みたいなパーティの少人数コミュニティと違って、ある程度組織として成り立つ傭兵団ってのはちょっと面白そうではある。

 でも傭兵団って言われると黒寂の名前がどうしても浮かんでくる……。


「駆け出しの傭兵ならどこかに所属しないと仕事も貰えねぇぞ! うちにこいうちに!」


「いいやこっちだ! 有望な傭兵は優遇するぞ!」


 要は新人勧誘ってわけね……。


「お待たせしました」


 おっと、むさくるしいおじさんたちの勧誘合戦を見てる場合じゃなかった。


「こちらが傭兵証になります。身分証明に使える物ですので無くさないようお気を付けください。それと発行料金として小銀貨1枚になります」


「えっ!?」


 お金かかるの!?

 先に言ってよ!


「どうされました?」


「いえ、どうもされてません……」

 

 私は無表情のまま小銀貨1枚を手渡す。

 それなりな大金を取られたし、せっかくだ。もう少し情報を集めよう。


「あの……――」




 ◆




「は~。なんだかんだ疲れたなぁ……」


 ギルドを後にし、適当に買い物をしながら宿を探しだし、今は硬くないフカフカのベッドに横なっている。

 体は拭いたけど、まだなんか気持ち悪い……。

 いやしかし、商業都市と言うだけあって宿が本当に沢山あった。おんぼろ安宿から高級セレブ宿まで色々と揃っていた。

 せっかくなので高級セレブ宿にしましたぁ……フヘヘヘ。

 なにあの家具ぅ~、オシャレ~。

 装飾も全部綺麗だ~。ウヘヘヘ。


 そしてなんと、この宿にはお風呂があるらしい。

 後でゆっくり入るのだ……。


「じゃあさっそくだ。情報をまとめて現状を確認しよう。いいなローズ」


 ずっと影の中に入ってたクラウンが、厚みを持った影になって喋り出した。


「あ、うん。いいよ」


 身分証となる傭兵証をもらった後、窓口のお姉さんから情報を入手した。

 その中でも一番大きい話が、この国が現在お祭り状態である事。

 これは、この国の王が死んだ事によるものだそうだ。


「しかし、いくら亜人差別の風潮が強かったとはいえだ。王が死んで祭りとはな。よっぽど嫌われていたようだな」


「そうだね、けっこう無理な政策とかしてたみたいだし」


「なぜ差別などするのか……。それとこの国の伝説だな」


「あーえーと……なんとかバルバロイさん……?」


 なんだっけ、名前覚えてない……。


「ペラノード・バルバロイだ。お前ちゃんと聞いてなかったのか……」


「き、聞いていたとも! うん!」


 そうそう! ペラノード・バルバロイさん!

 過去、亜人廃滅主義を掲げたこの国の王を討ったとされる国の英雄。

 そして、その彼はなんと槍の達人だったという。大陸の歴史上、彼を超える槍使いはいないとまで言われる腕前だったそうだ。


「亜人差別をする者が過去に討たれ、それを讃える伝説まであるというのにな。何故そんな奴が王になれたのか」


「それよりもその槍の人」


「ああ、俺も同じ考えだ」


 恐らく、そのフフフンノード・バルバロイさんが槍のブロックマスター。

 退く事を知らない熱血漢って話だし、なんとなくピンときた。

 きっとジャガーノートにも果敢に挑んだんだろうな……。

 さっきの今で名前忘れたけど。


「王がいなくなったこの国を、今一時的な代理として治めているのが、ミルノード・バルバロイだったな。ちゃんと覚えてるかローズ」


「お、覚えてます!」


 バルバロイだけ覚えればいいやって思って忘れてました。

 こいつ、忘れてたな。みたいな目でクラウンが見てくるので目を逸らす。


「とにかくだ、そのバルバロイには会う必要がある。それよりも問題は……」


 問題は終わらせようと意気込んでいた戦争が、傭兵による代理戦争状態になっていることだった。


 国力を出来る限り損なわず、富国に勤めながらも多国から奪い取るというスタンスに移行した利権強奪戦争。

 傭兵が失敗すれば、依頼金を支払う必要はないし、傭兵が成功すれば利益が見込める。

 傭兵は使い勝手のいい消耗品ということになる。なんとも狡賢い。

 そしてクラウンの読みでは、ある程度国力が回復すれば、また兵を動員した戦争に戻るだろうとのこと。

 使い捨て同然の傭兵たちはどう思っているんだろう。


「富国をやめろとは言えない。自衛手段としての兵の徴収だってやって当然だ。そこに俺たちは口を挟めない。だから国の方針そのものを変えさせる必要がある」 


「戦争をするだけの力が戻る前に……」


「そうだ、だがローズ。その前に傭兵団をどうするかだ。聞けば既に軍の一個大隊と変わらない力を持った組織があるらしいじゃないか。まずはそいつらを止めるのが先だろう」


「それよりも、そもそもそういう仕事を斡旋するギルドがいけないんじゃない?」


「ギルドを破壊するつもりか?」


 それをしたら関係ない人にも影響が出るのは目に見えている。

 この国なんて特にそうだろう。


「それはちょっと……」


「なら、他国侵略に繋がる依頼を受ければ無駄に命を落とす。というような風潮を作ってやればいい。誰もそれを受けなければいいのだから。その状況を作り出しながら各国への説得に回る。大体こんな方針でどうだ?」


「うーん、そんな感じでいいかな?」


「お前の戦争廃止の説得は、滅ぶか戦争をやめるか。の二択を迫ることだからな、力を示す方法が課題として残るがそこは俺に考えがある。任せておけ」


 お、クラウンに妙案ありの様子。

 なら任せちゃおう。


「一旦ここまでをまとめるぞ。主目的は傭兵団への牽制、そして国の主要人との接触。これをまだ戦争継続の意思を持っているだろう7ヵ国で繰り返す。本当に戦争継続の意思があるかは実際に接触してみないと分からないから、確認の意味も含めて接触する。対象はベテルギウス、セルコンディスタ、ヘキドナ、カタディアン、フラウフォーファー、ゴルバディン。そしてエメロードだ」


 いっぱいあるぅ~。嫌になる~……。


「そんな顔をするな、俺だって早くルシアのところへ帰りたいんだ。そのためにはやるしかない」


 確かにそうだ。私も早く帰りたい。

 

「国の位置関係は把握してるか?」


「してません」


「そうか……」


 部屋の中にちょうど大陸の地図が置いてあったのを拝借し、クラウン先生の授業が始まった。

 大陸の東側だけで言えば、全部で9ヵ国存在するという。

 上から時計回りに外側を言うと、ベテルギウス、セルコンディスタが上部。

 1番東側にクレイドル。

 その下に続いて、ゴルバティン、ヘキドナ、イシュバル。

 それらに囲まれるように大陸内部にカタディアンとフラウフォーファー。

 そのふたつの左側、この大陸の中心にエメロード。

 

 ついでに大陸西側。

 エメロードの真上にフォートギア。

 そこから反時計回りにディオール、ヴォルドール、そしてフォスキーア。

 1番西側に……スピリア。

 そこから下へ、ダンダルシア、レグレス。

 ダンダルシアの領土がエメロードに次いで馬鹿広いので、西側がフォートギアを含めて7ヵ国。

 エメロードを西側とすれば、西と東で8ヵ国ずつとなる。

 

「あの、クラウン先生。このフォスキーアって行ってないんだけど」


「そこは小国だからな、かなり初期のほうでヴォルドールに降伏している。ちなみにそこにはダンジョンの入口があるぞ」


「え!? 聞いてないんだけど!」


「言ってないからな」


「なんで言わないの!?」


「聞かれてないからな」


「なんで聞かれてないの!」


「それは知らん」


 ぐぬぬうぬ……

 こいつぅ……。


「まぁ正直なところ、お前に伝えるタイミングが無かっただけだ。スピリアの後は大変だったからな……」


 うぐっ……。

 それを言われると何も言い返せない。

 あ、でも……。


「ここに来る前なら、余裕があったんじゃ……」


「そこはあれだ、忘れてた。いや待て、ただ忘れてたわけじゃない、俺も色々思うところがあったんだぞ。そ、それよりもだ、お前が結局作った傭兵団、名前が素晴らしいな本当」


 誤魔化す気ですねクラウン先生。

 まぁいいでしょう、とりあえずいいでしょう。

 私もその名前はちょっと気に入っているから、そこを褒められたらこれ以上の追求をやめるのもやぶさかではない。


薔薇の王冠(ローズ・クラウン)なんて随分と洒落(しゃれ)た名前を思いついたものだ。まぁ俺とお前の名前を取っただけだが、俺の名を使ったのは褒め称えられるべきだな」


 結果として、どこにも所属していないと勧誘がひどかったので傭兵団を結成した。

 当然クラウンは団員に含まれないので私だけのボッチ傭兵団です。


 悲しくなんてないのだ。

 そう、悲しくはない。


「兵団用のエンブレムを作れるらしいが、作らなくてよかったのか?」


「うーん、勧誘避けなだけだったしね。別にいいかなって」


「そうか。……それで話を戻すが、当面はベテルギウスで活動するってことでいいな?」


「うん、いいよ」


「なら話は大体終わりだ。細かいことは明日でもいいだろう。さっさと風呂とやらに行ってこい、俺はここで待ってる」


「そうだった! 行ってきます!」


 ドタバタと最低限の着替えだけ持って部屋を出る。

 下着とかも売ってたから色々と新調したのです!

 ヴォルドールとディオールにも服飾のお店はあったけど、あまりデザインが良くなかった。

 それに比べてここはすごい。

 流石商業都市って感じで、可愛いしセクシー感のある大人なランジェリーが盛り沢山。

 おかげさまで! 大人な私を演出できます! 見せる相手はいないけど!


「えーと浴場は……。ここか!」


 私は意気揚々と、上機嫌で宿屋の大浴場へと足を踏み入れた。

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■ 本小説の世界の中で、別の時代の冒険を短編小説にしました。
最果ての辺獄

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