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008 いざダンジョンへ!

「じゃあローズちゃん、ここで待っててね」

「はい」


 ダリアと私を置いて、ザミさんが部屋を後にする。


 先日クライムさんが話していたダンジョンへの挑戦のため、ギルドの待合室で待機中だ。

 信頼のおける冒険者と一緒に行くって話だったけど、パーティなんて組んだことないから少し不安……。


 ガチャっと扉が開かれる。 

 

「おう、待たせたな。おら、お前らも入れ」


 クライムさんが部屋に入ってきた。

 その後ろから、ぞろぞろと見知らぬ3人とザミさんが入ってくる。 


「あ、君がローズちゃんだね。僕はフィオ・ネレクタル。気軽にフィオって呼んでくれるかい? よろしくね」


 青髪の好青年で、かなり整った容姿をしている。

 その顔はとても可愛い感じがするが、男なのはちゃんと分かる。

 腰に剣を下げてるけど、大きな盾を持ってるしこっちがメインかな?

 

「私はミランダよ。よろしく」


 露出が異様に多い褐色の女性だ。 

 大きな斧を背負ってるから純粋なアタッカーかな?

 胸が大きくて今にも零れ落ちそう。


 ザミさんも着やせするだけで大きいみたいだし……。

 なんでこの世界の人っておっぱい大きいの?


「拙僧はゲイル・フォーオナーと申します。治癒系の魔術師です。どうぞよろしくお願いします」


 うっすらと髭が生えた神官みたいな恰好のおじさんだ。

 治癒の術師がいるのは心強い。


 3人とも青色のプレートを首から下げている。

 階級がふたつも上だ。

 

「ローズ・クレアノットと言います。今日はよろしくお願いします!」


 3人との軽い挨拶が終わると、ザミさんが前に出てくる。


「ローズちゃんはいこれ。待ちに待った名前入りのプレートだよ」

「わぁ! ありがとうございます!」


 やった!

 私の名前がちゃんと彫られてる!

 ああかっこいい……。


 これで私も正式な冒険者に!


「よし、プレートも受け取ったな。これでお前は今から正式なギルドの一員だ。ギルドの看板を背負ってるってことを意識して励めよ」

「はい!」

「で、この3人が昨日言ってた奴らだ。もう長いことこのギルドで活動している中堅でな。腕も俺が保証する。今日はこいつらから色々と学ばせてもらえ」

「分かりました! よろしくお願いします!」

 

「じゃあさっそくダンジョンに行ってこい。パーティでの動きなどについては移動中に話し合え」

「了解しました。クライムさんは行かないんですか?」


 フィオと名乗った青年が疑問を口にする。


「俺が行く必要はないだろ。お前らがしっかり面倒見てくれるって信じてるからな」

「え、ええ。お任せください」


 フィオは少し緊張した様子だ。


「それじゃあ行こうかローズちゃん」





 ◆




 ダンジョンへは、ギルドで用意してくれた馬車に乗って向かう。

 普段は歩きだが、今回は特別に貸し出してくれたそうだ。

 移動中、フィオが仕切りながら会話を進める。 


「ローズちゃんはダンジョンに入るのは初なんだよね?」

「あ、はいそうです」


「じゃあ今のうちに簡単に説明しちゃうね。この大陸に存在するダンジョンは入口が全部で8つあるんだけど、入口によって出てくる魔物の質が変わるんだ」

「入口が8つ……? ダンジョンが8つじゃなくてですか?」


「ああ、ダンジョンは地下で全部繋がっているんだ。だからこの大陸のダンジョンは実質ひとつしかない。大陸と同じ名前で、ミルドダンジョンって呼ばれているよ」


 大陸名ミルド。

 この世界の中で、ひと際大きい大陸がそれぞれ東西南北に位置している。

 それらを4大陸と呼んでひとまとめにしている。


 西のフォームデルト大陸。

 東のスフィラ大陸。

 南のフィクシアル大陸。

 そしてここ、北のミルド大陸。


 小さい物も含めればもっと沢山の大陸があり、北東には『竜の島』と呼ばれる危険なものも存在する。


「それで、今向かってる入口は、8つの中でも一番安全な入口なんだ。白プレートがひとりで入ったとしても、無理をしなければそうそう死ぬことはないよ。と言っても、一般の人が入ったら危ないから、入口はギルドが管理してるんだ」


 とりあえずチュートリアルになりそうな場所でよかった。

 いきなりドラゴンとかに出くわすとかは勘弁してほしい。

 

「で、ダンジョンの攻略に関してだけど、現在の最高到達階層は58階層で、僕らは20階層まで行ったことがある。31階層からは、別の入口からのルートと合流するから、どのルートもそれ単体の最終階層は30ってことになる。そして今回は5階層を目指すよ」


「5階層までの魔物はどんなのが出るんですか?」


「うんとね、3階層までは地上にいるのとそう変わらないよ。ゴブリンとかホーンラビット、それとフィールドボアとかかな。4階層からは、スケルトンとかスライムとかも出てくるから気を付けないといけないよ」


 ふむふむ。

 3階層までなら、私でもソロで行けちゃうかも?


「そういえば、ダンジョンの方が稼ぎがいいってクライムさんが言ってましたけど、どうして稼ぎがよくなるんですか?」


「ああ、それはね。ダンジョン内部では魔物が魔石化するからだよ。地上だと死体が残るけど、ダンジョン内は魔素の濃度が高いせいで結晶化するらしいんだ。僕も詳しいことは分からないんだけどね。んで、魔石はけっこうな額で取引されるから、良い稼ぎになるってわけ」


 ほほー。

 魔石回収がメインになるわけですな。


「魔石化しないこともあるので、期待しすぎはダメですぞ?」


 ゲイルさんが忠告を入れてくる。

 魔石化は運要素が絡むってことかな?


「5階層までだけど、ドロップした魔石を回収しながら行けばそれなりの収入になるはずだよ。本当に稼ぎがよくなるのはその先だけどね。それじゃあ次は戦型を決めておこっか」


 お、ついに本格的な作戦会議!

 役割分担でちょっと気になってたんだけど、これ前衛3人だよね?


「と言っても難しいことをするわけじゃないし、すごい単純だよ。僕とミランダが前衛、そして後方でゲイルが支援を行い、ローズちゃんがゲイルの護衛をするって感じ」

「ほほ、いつもの戦型に護衛が付いた感じですな。拙僧の防衛力アップは有り難い」

「できた余裕の分、しっかり支援してくれよ?」

「お任せください」

「ミランダもそれでいいかい?」

「……ああ」


 ほっ。

 前に出るもんだと思ってたけど、後ろにいていいなら気が楽かな。

 突然加入した面子とじゃ連携もできないだろうし、当たり前と言えば当たり前かもだけど。


 それよりもミランダさんが気になる。

 ミランダさんはあまり乗り気じゃないのかな……。

 ずっと私のこと見てるし、やっぱ新米を抱えてなんて嫌だよね。


 せめて足を引っ張らないようにしないと……!


「あ、あの。私頑張りますので! よろしくお願いします!」


「はは、そんなに気負わなくて大丈夫だよ。見学だと思って気楽に行こう」


 フィオが眩い笑顔をこちらに向けてくる。

 ふおあー。

 こいつ笑うと可愛さが数倍に跳ね上がりやがる。

 そしてこの状況での優しさが胸に響く。


「お、ちょうど着いたね。皆降りるよ」


 柵が設けられ、その入り口らしき場所には人がふたりほど立っていた。

 ギルドの見張り番だろう。

 馬車から降り、その前まで移動する。


「お疲れ様ですフィオ様。クライム支部長から話は聞いております。どうぞお通りください」

「ありがとうございます」

「お気をつけて」


 すんなり通してもらえた。

 こういう時、段取りがしっかりしてるとスムーズでいいね。


 少し進むと、暗い口をぽっかりと開けたダンジョンが見えてくる。

 これからこの中に入るのだ。


「う……」

「怖いかい? 大丈夫。皆最初は怖いものさ」

「そうですぞ、拙僧も最初は腰が引けておりましたもの」


 腰の引けたおじさんの姿を想像したら、少し面白かった。


「大丈夫だ。何かあれば私が守る」

「ミランダさん……」


 どうやら嫌われてはいないのかも。

 ミランダさんの守ってくれる宣言は素直に嬉しい。


「それじゃあ行くよ? 準備はいい?」

「はい!」






 薄暗い洞窟内部。

 微かに壁が光っているが、辛うじてぼんやり見える程度だ。

 松明の存在は欠かせない。


 フィオが先頭を歩き、その手には握られた松明が辺りを照らしている。


「ああそうそう、たまに魔石が落ちてることもあるから、見つけたら拾っておくといいよ」

「分かりました!」

「ローズ殿、大声はやめておいた方が良いですぞ。音に反応して魔物が集まってくることがありますので」

「あ、すいません……」

「いえ、謝る必要はありません。知らないことはこれから知っていけばいいのですから」


 このおじさんメッチャ優しい。

 ナイスミドルってこういうのを言うのかな。


 しばらく歩いていると、不意にフィオが立ち止まった。


「ミランダ……」

「……分かった」


 フィオがミランダに合図を送る。

 どうやらこの先に魔物がいるようだ。


「ローズちゃん、見てみなよ」


 手招きされて通路の角まで向かう。

 覗き込むと、少し開けた空間で5匹ほどのウサギが壁に齧りついているのが見える。

 更にその奥には大きなカエルが2匹、ぴょんぴょんと飛び跳ねている。

 そのサイズは人間の子供くらいはある。


「うぇ……」


 カエル自体は別に苦手じゃないけど、あれだけ大きいとさすがにキモイ……。


「僕とミランダが前に出るから、ローズちゃんは事前に話した通りゲイルの周囲を警戒してくれ」

「分かりました」

「よし、じゃあ行くよ。ゲイル」


「承知! 【ライトパルス】!」


 ゲイルが魔術を行使すると、松明の光など比にならないほど洞窟内が明るくなり、奥の通路までがよく見える。

 それと同時にミランダとフィオがウサギの群れへと走っていく。


「はぁ!」

 

 ミランダの斧が状況を飲み込めていないウサギたちを薙ぎ払っていく。

 一振りで5匹を正確に捉え、あっという間に死骸が5つできた。


 今度は襲撃に気づいたカエルが1匹、飛び跳ねてフィオに向かっていく。

 カエルの体当たりを盾で防ぐと、振り回すように横へと吹き飛ばした。


 体が開いた隙を付き、後方に残ったカエルが舌を長く伸ばしてくる。

 だがそれはフィオまで届かない。


 間に立ちふさがったミランダの斧が、舌を地面に叩きつけていた。

 そのままフィオと位置を入れ替え、先ほど盾で吹き飛ばされたカエルのもとへ飛びその頭を斧で叩き潰す。


 舌を潰されたカエルは痛みで悶えながらも、戻した舌を再度伸ばして横に薙ぎ払ってくる。

 

 待っていましたかとでも言うように、剣を抜いて前に出るフィオ。

 横から来る舌に向かって垂直に構え、それを両断する。


 舌を失ったカエルは口を閉じて転げまわっている。

 目の前まで来ていたミランダの姿に気づいた時には、その視界は真っ黒に染まり沈黙する。


「すごい……」


 ふたりの連携はとても綺麗だった。

 信頼から来るのだろうけど、その動きには迷いが無い。

 10数秒で空間にいた魔物を全て撃破してしまった。


「お、魔石が何個か出ましたぞ、ローズ殿、拾っていきましょうか」

「あ、はい!」


 ミランダは余韻の浸っているのか。倒したカエルの前で動かない。


 き、決まった……!

 雑魚とは言えここまで完璧に決まったのなら、ローズちゃんから黄色い声援が来てもおかしくない!

 抱き着いてきてもいいんだよ……。

 可愛い女の子は皆このミランダさんにくっついていいんだよ……。


 ミランダはローズをチラっと見る。

 だが、ゲイルと一緒になって魔石を拾っていてこちらを見ていない。


 あのエセ神官……!


 可愛いものが好きなミランダは、ここに来るまでの間ずっとローズを見つめていた。

 どうやったらイチャイチャできるだろうかと。

 そればかりを考えて。


「よし、魔石も回収したし先に進もう」


 フィオの合図で一行はその歩を進める。




「ミランダ殿、先ほどの攻撃は少し力み過ぎではありませんでしたか?」

「いいんだよ。仕留めそこなう方が危ないだろう」

「いやいや、余力を残して戦うのは重要ですぞ? 常に全力ではすぐ息切れしてしまいます」


 この野郎……。

 さっきはアピールタイムの邪魔して、今度はローズちゃんの前で説教する気か!


「そういう配分はちゃんとできてるよ!」

「いいえ! できておりません! 私の治癒も万能ではないのですぞ!」

「ナヨナヨ神官は口を出すな!」

「なんですとこのマッチョゴリラ!」

「「あああん!?」」


「ちょ、ちょっとふたりとも! ローズちゃんもいるんだよ!」


「「あ……」」


 フィオがその脚を止めてふたりをなだめる。


「全く、ローズちゃんも険悪なムードになったら嫌だよね?」

「あ、はい……。皆さんのことはよく知らないですけど、仲間内でもめるのはあまり良くないかなって……」

「ほら、ローズちゃんもこう言ってるし、さっきの暴言もひどいよ? ローズちゃんあんなの言われたらどう思う? やめてほしいよね?」


「え……。き、傷ついちゃいますから、やめてほしいとは思います……」


 なんでこんなに振ってくるの!

 新参者の私に振るの止めて! 


「聞きましたかミランダさん。先ほどの暴言で拙僧の心は深く傷ついていますので、悔い改めて猛省するように」

「お前も言っただろうが」


 ミランダとゲイルが寄ってくる。


「申し訳ありませんローズ殿。以後気を付けますので、どうかお許しください」

「あ、いえ私はそんな……」

「すまない。どうか許してくれ……」


 えええ。

 なんで私に謝罪するの?

 謝る相手はお互いじゃないの……。


「ははは、ごめんねローズちゃん。このふたりはいつもこうなんだ。喧嘩するほど仲がいいってやつなんだよ。さっきまで怒鳴り合ってたと思えば、すぐ庇い合って戦ったりしてね。おかげで僕はいつも気苦労が絶えないんだよね……ほんと」


 後半になるほどフィオの口調が暗くなっていく。


「も、申し訳ないフィオ殿……」

「すまねぇ……」


 そうなんだ。

 まぁでも、意見を言い合えるのは良いことなんだろうな。

 それが喧嘩に発展しちゃうのは冒険者の気質とか?


 馴染みの薄い私がいる前では、できれば遠慮してほしいけど……。


「ほら、さっさと進むよ。もうそこに階段が見えてるんだ。次は2階層に突入するよ」

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■ 本小説の世界の中で、別の時代の冒険を短編小説にしました。
最果ての辺獄

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