表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/242

085 王の中にいたもの

無理な思考と描写を変更しました。

サブタイトルを修正しました。


私が気づいた限りの違和感の排除及び緩和を行いました。


 翌朝、取り切れない疲れを抱えてドロリと体を起こす。

 特に襲撃されたりはなかった。


 目覚めた王の様子から、襲って来てくれる事を期待していたんだが、そう上手くはいかないようだ。

 裏で動いてるやつがまだいるなら、俺たちは邪魔なはずなんだが。


「ふぅ……」


 まだこいつらは寝てるな。なら今のうちに昨日の事を整理しよう。 


 まず戦争が継続させられていたのは議会の意思によるものだったが、これは黒寂の意思だと言っていい。

 あいつらは戦争をさせたいんだろう。

 何故戦争をさせたいのかはハッキリとは分からないが、そこはニクス王の言葉がヒントになる。

 

 漠然と王も操られていると考えたが、根拠は明確にしておこう。

 つい先日まで動いていた傀儡の8賢者が、死体となって発見され王が目覚める。

 基点としてはあの女の「傘が破壊された事」で間違いない。

 タイミングが良すぎるんだ。十中八九、あの王には何かある。


 そこで昨日の発言だ。

 血を捧げよってワードが、そのまんま過ぎるな。

 これがストレートに目的だと考えれば、戦争をさせたい理由は血が欲しいからだ。

 多くの血を流せって事だったし、大量にいるんだろう。

 問題はなんのために捧げるかだが、これは検討も付かん。


 まぁ今はいい。戦争が起きる背景が分かればいいんだ。


 分からねぇのが、今になって王が目覚めた事。

 議会のトップは王って話だったし、それなら初めから王を操ればいいだろうって事。

 最高顧問なんてもんになってもだ、王が眠っている必要はない。 

 

 ガタンっと、テーブルを蹴った音が響く。


「んむ……。ん……」


 オーサスが目覚めたようだ。その拍子に目の前のテーブルを蹴ったらしい。


「ああ、おはようライアス。もう起きていたのか、少年はまだ眠っているようだな」


 その後すぐ目覚めたロンメルを入れて、これからどうするかを話し合った。

 勿論朝食を食いながら。

 城の人間ってのはこんなもん食ってんのか。

 肉がやわらけぇなおい……。水も綺麗だし野菜は新鮮だ。

 っと、呑気に食い物の感想を言ってる場合じゃねぇな。


「さて、これからどうするかだが、ひとまず新しい情報源であるニクス王の身辺を調査する。勿論王自身もだ。これは俺が給仕として張り付いて常時監視しようと思う。これにはオーサスの口利きが必要だ。頼めるか?」


「ああ、人手は足りていないはずだ。問題ないだろう」


「よし、次に当初の予定通り城内を調べる。これはどこにでも入れるだろうオーサスに頼みたい。ロンメルは一緒についてって欲しい。いいか?」


「任された」


「了解です」


「んじゃあタイムリミットを決める。昨日の時点でディオールとヴォルドールの大規模戦闘は開始されているはずだが、ローズが上手く食い止めている可能性もある。もしも奇跡的に争いを止められていれば今日には軍が退いてくるだろう。だが今のニクス王がそれを見れば追い返すだろう。戦場に戻れと。その時に軍の連中に見つかると俺たちがやばい。逆にもう始まってしまっているとすれば、今度はローズの奴がやばい。あいつの事だ、俺たちが戻らないと戦争を止めるまでずっと戦い続けるだろう。という事で今日の日没がリミットだ。異論は?」


「ニクス王の件はどうする? 解決できなかったら?」


「そこは放ってはおかない、俺が残って監視を続ける。どう考えたって怪しいしな。黒寂の好きにさせないために、多少のリスクは負ってでも王の異変は探る必要がある」


「軍が戻ってきたらヤバイんじゃなかったのか」


「やばいのはお前とロンメルだ。俺は顔が割れてないはずだから問題ない」


 オーサスの顔は少し安心したようだった。


「なんにせよ、ローズへの連絡が遅くなりすぎるのはまずい。日没にはお前らふたりはローズの元へ行ってくれ」


「了解した!」


 元気に答えるオーサスとは対照的に、静かに頷くロンメルは少し元気がない。

 疲れが溜まってるのかもしれない。


「クラウンは軍が戻って来ないか上空から監視しててくれ、特に異常が無ければ日没と同時にローズの元へ先に飛んでくれ。お前なら夜でも目は利くだろう?」


 馬鹿にするなと言わんばかりだ。

 怒気の混じった音で喉を鳴らしている。


「よし、じゃあ行動開始だ」



 ◆




 こちらライアス・ギルツグランツ。

 現在、給仕兼護衛として謁見の間の入口扉の傍で待機中。勿論、謁見の間の中だ。王が見えないと意味ないからな。

 俺ともうひとり、別の給仕さんと一緒に、扉の横でずーっと立ち尽くしている。

 怪しまれないよう、一応恰好は執事服を貸してもらった。

 どうにもこういう畏まった服装はむず痒くなるが、ドレスコードというのが大事なのは理解しているつもりなので我慢する。


 呼ばれたら即、召使のようになんでも言う事を聞かねばならないが、一向に呼ばれる気配がない。

 ちなみに、給仕は中央の赤いカーペットを踏んではならないらしい。踏んだら首が飛ぶから気を付けろと脅された。


 ロンメルは休ませて、オーサスが城の暗部を調査中だ。

 具体的に言えば魔術結晶体の製造場所の調査。


 魔術結晶体とは、平たく言えば高純度の魔石のみを使って作られたゴーレムだ。

 普通のゴーレムと違うのは、その体を構成する魔石たちの魔力を繋ぐパイプ役に、魔力値の高い人間が必要だという事。

 スーツでも着込むように中に人間を設置し、その人間の意思で動かせるという優れものだ。

 当然、魔術の行使も出来てその威力は桁違いに上がる、魔力障壁によって対物理防御も対魔法防御も他の追随を許さない。

 英雄が相手でも引けを取らない超兵器である。

 と、オーサスの奴が自慢げに話していた。


 問題は魔力値の低い人間だと、その魔力循環に耐えきれず死んでしまう事だそうだ。

 実際に見たわけではないので、どれくらい凄くてどれくらい危ないのかよく分からん。

 とにかく、それを作り出した場所が、この国で最も怪しい場所だという。


 そこで王に掛けられたであろう呪い(暫定)の媒体でも見つかれば話は早いんだが、ともかく俺はこっちに集中するか。


 ――昼過ぎ。


 朝からずっと玉座に座りっぱなしだった王が、食事のために立ち上がった。

 食事は自室でひとりで取るらしく、何人かの給仕が王の個室へといくつもの食事を運んでいく。

 運び終わると皆追い出された。

 様子を見たかったが、誰ひとりとして入ることを許されず、扉の外で待つしかなかった。


 戻って来てまた玉座に座る王。

 モコモコなファーが付いた、如何にもって感じのマントを羽織っている。

 食事を摂ったからか多少顔色が良くなっていた。

 昨日痩せ細っていたように見えたのも気のせいだったのかもしれない。

 細い事は細いが、異常な程ではない。ちょっと痩せ気味って程度に見える。


 ――日が沈む少し前。


 ここまで異常はない。2度の食事に立っただけで、それ以外はずっと玉座に座っている。

 謁見も無いのになんでそこに座り続けるんだよ。

 この調子なら王の自室を調べた方がよっぽど良かったかもしれん。

 目を離すわけにもいかないからそれは出来なかったが……。


 ……まずいな。もう時間が無い。

 一度状況を確認するため、扉の横にいるもうひとりの給仕に断りを入れ、謁見の間から出る。当然使用人が使う別の扉から。

 するとちょうど、オーサスの奴がやってきた。

 聞けば収穫は無し。軍が戻って来ている様子もないという。


 仕方がなくオーサスには、クラウンにローズの元に戻るよう伝える事と、ロンメルと一緒にいつでも出れる準備を頼み別れた。

 謁見の間に戻ろうとして、少しふくよかな女性の給仕に声を掛けられる。


「あなた、ナタリアを見てないかしら」


 ナタリア……?

 誰だよそれ、知らねぇぞ。


「いえ、見ておりませんが……何か?」


「それがねぇ、昨日からずっと姿が見えないのよ。人手不足なのに困ったわぁ……。どこで油を売ってるのかしら。見つけたら私のところに来るよう伝えておいてくださらない?」


「畏まりました。そのように」


「じゃあお願いね」


 そう言って女性は立ち去っていく。

 お前が誰だかも分かんねぇよ俺は……。

 と、心の中で悪態を付きつつ、俺は謁見の間へと戻った。




 あ、あれ……? 

 俺がさっき断りを入れた給仕の姿が無い。王は相変わらず玉座の上に鎮座している。

 どこに行った……? 王をひとり残して消えるなんてありえるのか?

 いや、王に何かを命じられて……それはない。使用人がここから出ようと思ったら、専用の扉を使うはずだ。

 俺はそこから入って来た。すれ違っていない。


「そこの給仕。こチらに参レ」


 ここまで一度も話しかけられなかったのに、突然呼び出された。

 やばい、どうする。応対はもうひとりの給仕がやる予定だったし、なんて喋ればいい……!


「早くせんか……足リぬデあろう」


 足りない……? 何がだ?

 中央のカーペットを踏まぬように、横に逸れながら王の元へと近づく。

 段差の前で立ち止まると、王は立ち上がった。

 立ち上がった事で、背中が不自然に膨れ上がっているのが分かった。

 

「もっとだ、モッと寄レ」


 近くに寄れという王、要件ならばそこで言えばいいのに何故?


 そう思っていた矢先、マントが落ち、王は不意に背中を向けてきた。

 その背中には、過去に幾度かだけ対峙した事のあるあいつが引っ付いてこちらに牙を剥けている。

 ギョッとした瞬間にそれは飛び掛かって来た。


「――!?」


 帯剣を許されていない俺は、護身用程度の短いナイフでそれの牙を受け止めた。


 それというのは、青紫の小さい体に、不快感を視覚的に与えてくる造形。

 ボツボツと体中から飛び出たイボに鋭い爪、鋭利で狂暴な牙。

 多少形状は違ったが、特徴的な部分は全て酷似している。


「お、落とし子だとォオ……!?」


 ジャガーノートの落とし子。悪魔の子。

 予想もしなかった珍客に、俺の思考は混乱している。


 押し込んでくる牙を強引に弾き、なんとか距離を取った。

 一撃で仕留めきれなかったからか、落とし子は様子をみている。


 こいつが出て来た事で、王はその場に倒れ込んで意識を失っている様子だった。

 生きているかどうかの確認をしている余裕は残念ながら無い。


「タタ……エ……ア……ソエ……!」


 し、しゃべ――。


「うおおおッ!」


 爪を伸ばしての斬撃が、横に飛んで躱した俺の脚を軽く斬り裂いた。

 血は出ているが深くはない。動きに支障はない。


 喋りやがった……。落とし子に喋れる知性なんぞないはず、喋った個体は見た事も聞いた事もない。

 いやまてそれよりも、まともな武器がないんだが。


「ギイィアガアアア!」


「ぬぉおっ!」 

 

「ギァガアア!」


「ふんぬッ!」


「ギェァアア!」


「ぐおおお!」


 とにかく、とにかく俺は避けた。 

 初撃でナイフは欠けてしまい使い物にならない。

 捕まればそのまま食われるだろうし、致命傷を負っても動けなくなっても同じ。

 とにかく避け続けるしかねぇ。


 またも伸びた爪が襲い掛かってくる。


「ぬぉおおお!」


 予備動作が分かりやすいおかげで、かなり躱しやすい。

 そしてどうやらこの個体はそれほど強くはないようだった。

 初めに受けた脚の傷以外にダメージを負っていないのがいい証拠だ。

 かつて対峙した落とし子ならば、俺はとっくに死んでいるだろう。


 だが、強くないと言っても決して弱いわけではないし、倒そうにも武器が無い。 

 ここから逃げる事も考えたが、生きてる可能性のあるニクス王をあのままにして逃げるわけにもいかない。


 どうすべきか思案していると、突如激しく木を打ち付ける音が響く。

 勢いよく謁見の間の扉が開かれたのだ。入ってきたのは、オーサスのおっさん。

 その後ろには心配そうな顔でオロオロしている給仕たちもいた。

 

「ギッ!?」


 大勢に姿を見られ、慌てて落とし子はニクス王の元へと駆けていく。

 自身の能力を理解しているのか、やはり一定の知性があるようだ。

 出遅れた俺はもう間に合わない。むざむざ王を人質に取られるとは……。


「ヌぐ……うゥ……グッ……」


 落とし子が入り込んだ王は頭を抑えながら立ち上がる。


「ニクス王!」


 オーサスは王の名を叫ぶが、言葉による返答はなかった。

 王ではない事がバレているのを理解しているのか、王の顔で不気味な笑みを零し、出入り口に向かって走り始めた。


「ど、ドけェ……!」


 王は人の身でありながらその爪を伸ばし、扉ごとオーサスたちを横に引き裂こうと攻撃した。

 身を低く躱すオーサスだったが、後ろの給仕たちは状況に付いていけず、爪の餌食となる。

 4本の爪に5つの輪切りにされ、地面へと転がっていく。

 

「オーサス! 逃がすな!」


 走りぬけるニクス王は、オーサスの腕を掻い潜り謁見の間の外へ。

 そのまま近場の窓を突き破って暗闇の広がる庭園へと姿を消した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
■ 本小説の世界の中で、別の時代の冒険を短編小説にしました。
最果ての辺獄

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ