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083 開き直った武力介入

 目を開けると、強烈な日差しが突き刺さって痛い。

 ここは、ディオールの王と会話した場所だ。 

 今どれくらい経ってるんだろう。

 日はまだ高いから、それほど時間は経過していないと思うけど……。


 ひとまず合戦の場であろう平地に向かおう。

 そう思って振り返ると、遠方で空を飛んでる鳥の姿が見える。

 近づいてみると案の定クラウンだった。


 影の中に入り込んですかさず喋り出すクラウン。


「お前あんなところで何してたんだ! ディオールとヴォルドールがぶつかってからもう2日も経過してるぞ!」


 ふ、2日……!?

 え! そんな長い間私あそこに突っ立ってたの!?

 やばばば!


「な、なんだ……。なんかいつもより表情が柔らかいな……。なにかあったのか……?」


「んーん。なんもないよ! それよりも状況を教えてくれる?」


「そ、そうか。まずロンメルの救出だが、結果としては成功した」


「やるじゃん、それじゃあ今はどこかに退避中?」


「い、いや……。それがな、戦争行動を指示しているっていう議会。ロンメルを拘束するよう指示した奴らだが、全員死んでいた……」


「ほ、ほう?」


 クラウンの話を聞きながら戦場へと走る。


「その死体だがな。死後数か月と思われるほど腐敗が進んでいた。もうだいぶ前から議会は黒寂の独断で動いていたって事になる」


「なら戦争やめてくれるんじゃないの?」


「それがな、病で伏せっていたという王が目覚めたんだ。今はその王の命令で戦争は継続されているが、どうもその王の様子がおかしい」


「おかしいって?」


 おっと、話に夢中になって木にぶつかるとこだった。


「心神喪失というか、とにかく戦えとしか言わないんだ。他の全てを廃してでも、ディオールを討ち滅ぼせと、それしか言わない。ロンメルが集めた情報では、非常に聡明な王で名君とまで言われた王らしいから、他の臣下どもも違和感に困惑していた」


「ふーん」


 それってやっぱ、黒寂の奴らがなんかしたんだろうなぁ。

 もしかしたら思ってるよりも簡単に戦争なんて終わらせられるかも。


「ふーんってお前……!」


「そっちはライアスさんとロンメル君が動いてるんでしょ? あのふたりならなんとかしてくれるよ。私もこっちが終わったらちゃんと向かうから」


「こっちが終わったらって……どうするつもりだ」


「君にも協力してもらいましょうかクラウン君」


「あん?」


 30分もしないうちに到着した戦場は、それはもうひどいものだった。

 ゴーレムの残骸に魔術師と魔装兵の死体の山。

 戦況的にはディオールがだいぶ押している様子だった。

  

 あの黒い騎士。魔術攻撃を受け付けないのかな。

 単純に痛みを感じないせい?

 炎に巻かれても電撃に焼かれてもへっちゃらなご様子。


 でも数はだいぶ減ってる。


「ねぇクラウン。あの黒い騎士って今どれくらいいる?」


「少し待て……。……残り42376体だ」


 こまかっ!

 そんなに正確に分かるの!?


「見えてる分だけでそれだ。確認できていない分がいる事を考慮すれば43000と思った方がいいだろう」


 半分くらいやられてるってわけだね。

 仕事が楽になるなぁ。


 んで、ヴォルドールだけどぉ……。

 んー……?


「ねぇクラウン、魔術結晶体ってどれ?」


「それならまだここには来ていない」


「え? そうなの?」


「あれは操縦者という名の魔力供給源が必要らしくてな。オーサスの奴が拒んだことで動かせる奴がいなくなったらしい」


 はー……そういう仕組みなのか。

 ていうかあのおじさん、実はすごい人だったのかな。あんなムッキムキで魔術師なの?


「まぁいいや、いないならいないで仕事が減るだけだし。クラウン、私の声の拡張って出来る?」


「出来るが、何をする気だ……?」


「それは見てのお楽しみだよ!」


「見るのか……?」


 乱戦となっている戦場のど真ん中へと、一足飛びで着地する。

 同時に、私を中心に円を描く形で派手な剣を地中へと突き刺して演出も加える。


 戦闘中だった面々は、突然の乱入者に困惑しているのか、一時的に動きが止まった。


「いい? クラウン」


「あ、ああ」


『――えー、こちらは戦場荒しのイズミ・サクライです。即刻戦闘行為を中断し、武器を捨ててその場に這いつくばりなさい。5秒以内にこれに従わない場合は敵対行為とみなし、この場で即処刑します』


 おーおー困惑している。

 まぁ従う奴なんていないよね。

 それでも、従っておけばよかったと後悔する事になるぞ~。


「イズミ……! 血迷うたか!」


『ご~……よ~ん……』


 ディオール・ペンドラゴンが叫び声をこちらに向けている。

 だけど、もう迷わないし私は私を疑わない。

 民のためなんて言い訳ももうしない。

 

 私は私のために、私に出来る事を自分勝手に実行する。

 従わないのならば屈服させる。


『さ~ん……に~い……い~ち』


 カウントダウンが終わったら何が起こるのか。

 それが気になっているのだろう。

 両軍ともに動かない。

 

 私は言ったはずだ。武器を捨ててその場に座れと。

 それが出来ないのならば。


『……ぜ~ろッ!』


 即処刑。

 それは言葉の通り実行に移される。

 無数の剣や槍、その他刃物類が一気に飛散していく。

 魔術師も魔装兵も、ゴーレムも英霊も関係ない。

 触れるもの全てを貫きながらも、尚も突き進み新たな穴を穿ち続ける。


 まさに波紋のように広がっていく血しぶきと共に、戦場中至る場所から叫び声が聞こえてくる。


 不思議だ。

 一部とはいえ記憶を取り戻したからだろうか。


 以前よりもこのスキルが上手く扱える。

 今ならあの呪具だって使いこなせる気がする。


「あの女を殺せぇ! 戦場荒しの報奨金は生きてるぞ!」


 これだけいれば全員に被弾させるのは難しい。

 防いでいた強者もいたようだ。

 でも直撃した人たちはその場に崩れ落ちている。

 致命傷になってる人はいないようで、ちょっと安心した。

 まぁ見える範囲での話だから、何人か死んでるかもしれないけど。


 向かってくるゴーレムの集団に、黒い英霊たち。

 彼らがここに到達する前に、この呪具の発動は完成する。


 私は、バラバラとビー玉のようなものを巻き散らかした。

 それは闘気と思念を込める事で魔獣を顕現させる事が出来る一回こっきりの呪具。

 しかもオートで動く優れもの。

 以前は一体出すだけでも相当疲れたものだけど、今は30体出してもなんともない。

 力こそ全てとはこういう事!


 手動で動かすタイプの方が強いらしいんだけど、それは魔力がないと動かせないらしく私は持っていない。

 これら呪具は、呪具のブロックマスターであるアイリーンさんからの頂き物。

 一番長い事籠ってたと思うけど、正直あまり上達しなかったのは苦々しい思い出である。


「おああああ! なんだこの魔物! 魔物使いかよ!」


 さっきからヴォルドール側から私の悪口がいくつも聞こえてくる。

 よく見ろ! その魔物継ぎ目とかあるだろ! 縫った跡とかあるだろ! それ実際はただのぬいぐるみだぞ! 

 攻撃力は本物ですけどね。


「ぎゃあああ!」


 さて、雑魚はぬいぐるみに任せて私はこっちをなんとかしよう。

 

「どういうつもりだイズミ……。お前のやっている事は屍の上に平和を築く行為だと、諭しただろう……」


「それは、あなたがやろうとしている事も同じですよね」


 そうなのだ。

 よくよく考えればこの王様は私が言った理想論を否定しておいて、自分はそれを実行しようとしている。

 私はやっちゃ駄目で自分はやってもいいって事かな。

 なんとも我儘で傲慢な人だ。

 

 素直に尊敬する。


「其方がやっていい事ではない。ただの小娘に何を背負う事が出来ようか!」


「何も背負うつもりなんてありませんよ。私はただ、私の目的を私の出来る手段で実現させるだけです」


 おっと矢が飛んできた。

 話し込んでるところなんだから空気を読んで欲しい。


「死者の想いを背負う覚悟も無く、屍の山を築くつもりか貴様は……!」


「それは生き残った者の自己満足です。出来れば殺さない方が理想だとは思いますが、私は死者の想いよりも生きている者の想いを優先する。生きている限り私は私の想いを優先する」


「所詮は私欲の塊であったか……! 小娘ぇ!」


 言葉を並べるのが上手い人だ。

 その言い方をされるとちょっと傷つくんだけど。


「お好きに罵りください。私はもう迷いません。自分の行動が、最も早い戦争終結への道だと信じています。そのために、私は人類の天敵にでもなんでもなりましょう」


「……よかろう、余はディオール騎士王国の騎士王ディオール・ペンドラゴン。国の誰よりも多く戦い、国の誰よりも多く勝ち、国の誰よりも多く負け、国の誰よりも多く生き残った。老いてなお、騎士王国最強を自負する余の剣技に、余の聖剣の前に散るがよい……! 義を持たぬ愚者よ……!」


 その言葉を最後に、私と騎士王は刃を交えた。

 なるほど確かに強い。最強と自称するだけの事はある。

 年老いたその体で放つ豪快な剣は重く鋭い。

 少し前の私では苦戦したかもしれない。

 

「ぬぐぅ……! がかッ……! 馬鹿な!」


 切り結びながらも、私はまだ自分から攻撃をしていない。

 正直ちょっと興味があったからだ。騎士王と呼ばれる男の実力に。


「何故打ってこない……! 余を愚弄する気か……!」


「私は愚者ですので」


「皮肉か貴様……!」


 言われた事を言っただけなんだけど、煽りに見えたかな。

 まぁちょっと煽ったつもりはあります。はい。


 騎士王の剣撃は苛烈さを増していく。

 だけど、どれだけ強力になろうと、その剣が私に届く事はない。


 剣を弾いた隙をついて金色に輝く鎧だけを斬り裂く。

 体には当たらないように注意しながら。


 それを何度も何度も繰り返す。

 一応、この人だけは殺さないように気を付けているのだ。

 国を治めるにあたって、ディオールにとってこの人はきっといなくてはいけないから。


 それくらいの分別はあるのです。


「ぬぅうあああああ!」


 騎士王の攻撃はどんどん単調になる。

 攻撃力自体は増しているが、隙だらけだ。

 すると後ろから、黒い英霊たちが援護にやってきた。


 騎士王を守るように割り込み、同時に5体の英霊が仕掛けてきた。

 こいつらには遠慮する必要がない。

 すぐに消してしまおう。


「やめよ!」


 騎士王の怒号に、英霊たちは攻撃を中断して下がっていく。

 え、なに?


「すまぬな。いらぬ邪魔立てが入った。続きだ」


 騎士道精神的なやつかな。

 でも割り込んでくるの遅くない?

 もう王様の鎧ズタボロだよ?


「ゆくぞ……」


 剣を地面と水平に、刃は天に向け、手の甲で顔を隠すように騎士王は構えた。

 闘気と聖気が混じりながら練り上げられ、今度は圧縮されていく。

 何をするつもりかは分からないけど、量が尋常じゃない。


 でもいいでしょう。

 これを打ち破れば諦めてくれるだろう。

 殺してはならない相手なら、心を折るしかない。


 私は脱力した状態で、碌に構えも取らない。

 別に舐めているわけではない。

 重心は腰より少し上へ、膝は軽く曲げていつでも動けるように。

 これが最善の状態というだけ。


 次の瞬間、騎士王は今までで最も鋭い動きを見せた。


「【聖天撃】……!」


 斜めに振り下ろされた剣から、稲妻が走るような凄まじい衝撃波が放たれた。

 それは数瞬のうちに私の元まで到達する。


 私は拍子を合わせ、右下から左上へと空気の断層を断つように切り上げた。

 以前よりも遥かに大きく発生した面断ち(おもてだち)は、衝撃波の進む道を消し去っていく。

 巻き込むものを細切れに刻む騎士王の攻撃は、効果範囲が大きかったせいでヴォルドールの軍勢に直撃した。


「なんと……よもやこれが通じぬとは……」


 ちらっと見える後ろの惨状はとんでもない。

 あらゆるものが細かく千切れて散乱し、元が何だったのかも分からない。

 あんな恐ろしい戦技を私に撃ってきたのか……。


 なんて怖いお爺ちゃんだ……。


「ふ……。もはや余に勝つ術はない。首を取るがよい。戦争を終わらせるには御首級(みしるし)が必要であろう」


 超いらない。


「軍勢を退いてくださればそれで結構です。とっととお帰り下さい」


「なに……?」


 あー、これ以上相手にするのは面倒くさい。

 さっさとヴォルドール側の鎮圧に行こう。


 あの王様まだ何か喋ってたけど、無視してヴォルドール軍の元へと向かう。

 ぬいぐるみたちが抑え込んではいたけど、だいぶ分が悪い。

 火力を集中させられると、さすがに負けちゃうか。

 まぁでもいい時間稼ぎになったよ。


「クラウン、もっかいいい?」


「あ、ああ」


 随分と大人しい様子のクラウン。

 表に出てくる事もなく、ひと言も喋らない。

 どうしたんだろ。

 まぁとりあえず、最後通告しよう。


『――えー、こちらは戦場荒しのイズミ・サクライです。ヴォルドール全軍に対して、最後通告を行います。武器を捨ててその場に這いつくばりなさい。既にディオールの騎士王は降伏しました。後はヴォルドールだけです。これに従わない場合は、全員魔獣の餌にします』


 響き渡るこの声に、戦場の兵たちは時間が停止したかのようにピタリと止まる。

 当然私の出したぬいぐるみも止まってる。


 まだ3万以上は残っているだろうディオールの英霊たちは、剣を引き後ろへと後退していく。

 その様子を見て、ヴォルドール側では迷いとどよめきが広がっていた。


「騙されるな! これはディオールの奸計である! 這いつくばればその――」


 えい。


「――まま魔獣のえがああああ!」


 うん、ナイスヒット。

 弓だと加減が難しくて、貫通したら奥の人に当たっちゃうもんね。

 こういう時加減しやすい投げナイフって便利。


 小うるさい指揮官を黙らせたことで、ヴォルドールの兵たちは次々と武器を捨てて這いつくばり始めた。

 敵がすぐ傍にいればそんな事は出来なかっただろう。

 あの黒い英霊たちが下がってくれたのは実にナイスだった。


 しかし、けっこう簡単に降伏してくれたな。

 王様との戦闘が、良い宣伝効果になったのかな?

 周りに同調しただけかも?

 まぁなんにせよ結果オーライ。ここに戦争は終結するのだ。


『えー、もう逆らう人はいないみたいですね。ではそれぞれ怪我人を拾いつつ、各陣営に戻って下さい。私はこのままヴォルドールへ戦争行為からの完全撤退を約束させに伺います。ディオールにはその後で向かいます。ですのでこの二国の戦争は終了となります。いいですね? 終了です。約束が取り付けられない場合や、交わした約束が破られた場合、その時はスピリアと同じように滅ぼしに伺います。いいですねー?』


 私のいいですねーに対する返答は無かったが、代わりに別の話題がヴォルドール側で沸き起こる。

 それは、スピリアという国についてだった。

 既に滅んだ国って話だし、私が滅ぼした事を言えば脅しの効果も上がるだろう。

 どこまで信用されるかは不明だけど。


 まぁ何はともあれ、ここでの仕事は終わった。

 ディオール約4万の軍勢がいつの間に整列して退いていく。

 ヴォルドールは状況についていけてない様子の者も多かったが、ゴーレム数百と人間の兵2万弱がぞろぞろと林の中へと消えていく。


 今度こそ万事オッケーでしょう!

 

「とんでもないなローズ……。まさか本当に止めてしまうとは……。」


「うん、自分でもちょっとびっくり」


 本当にびっくりだ。

 確実に出来る。そう思って実行したこの介入だったが、実際に成功したらしたでちょっと心臓がバクバクいってる。

 死傷者も出来る限り減らせたと思っていい結果だと思う。

 既に転がってる死体の人たちには申し訳ないけど……。


「それで、次はどうするんだ。ロンメルたちの元へ行くのか?」


「んーん、まずはヴォルドールの野営地に行って話をつけてからかな」


「妥当だな」


「じゃー行こー!」

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■ 本小説の世界の中で、別の時代の冒険を短編小説にしました。
最果ての辺獄

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