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081 手前勝手な願望

後書きを追加しました。

「オルタナさんがまさかやられるとは、凄まじい成長を遂げたものですね」

 

 ――!?


 聞き慣れない声に振り返ると、以前一度だけ遭遇したあの男の姿が目に映る。

 私に護衛任務の苦々しさを植え付けた、あの鮮血のアルケロだ。

 多少距離はあるけど、声を聞くまでいる事に気づけなかった。


「お久し振りです。3年ぶりくらいですかな……?」


「何か御用ですか……?」


 オルタナって、あの女の人の名前……?

 こいつと知り合いって事は、まさかこの女の人も黒寂の……。

 え、待って。じゃああのケランドールとかいう変態も……?


 思考を巡らせていると、アルケロが近づいてくる。

 考え込んでる場合じゃなかった。

 今はこいつに集中しないと……!

 

 さっきの戦闘のダメージは残ってるけど、動けないわけじゃないし疲労も感じない。

 大丈夫、問題ない。


「ああ、そう身構えないでください。やり合う気はありませんよ、あなたがあれを破壊してしまったのでもう帰らないといけません。まぁどのみちもう必要ありませんでしたが」


 壊れた傘を指さしながら、アルケロはどんどん近づいてくる。

 やり合う気が無いという言葉通りに、敵意も害意も殺気も、まるで放っていない。

 そのまま警戒する私の横を通り過ぎ、オルタナと呼ぶ女性の元までゆっくり歩いていく。


「彼女は剛腕のオルタナなんて呼ばれていた事もありましてね、その名の通り団内で最も力が強いのですよ。搦め手の無い戦闘であればそれこそ団内で一番強いかもしれません。本気でなかったとは言え、よくぞ勝てたものです……」


 辿り着いたアルケロは、そんな事を言いながらオルタナに突き刺さった武器を無遠慮に引き抜いていく。

 引き抜く度に血が噴き出しているが、その行動に一切の躊躇が無いせいで狂気じみて見える。

 全てを抜き終えると「オルタナさん、帰りますよ」と、死んでいる彼女に声を掛け始めた。


 何を言ってるんだと理解できぬままに眺めていると、死んだはずの女性が動き出す。


「ん……。んぁ~?」


 うそ……。

 生きてるの……? 

 あれだけ串刺しにされて生きてるはずが……。


「あーアルケロ……。私……穴だらけに……なっちゃった」


「穴だらけのあなたも素敵ですよ」


「あ~……眠い……から……。後、よろしく……」


 起きたと思ったがまた沈黙した。

 でも死んでない、微かな寝息が確かに聞こえてくる。


 そんな馬鹿な。なんで死んでない。絶対に、確実に殺したはずだ。

 心臓を突き刺し、筋を千切った感触を間違うはずがない。

 骨の隙間を通し、重要な内臓器官は全て貫いたはずだ。

 どうして生きている。

 

 その疑問を口に出そうとしたが、アルケロの言葉が先んじて発せられる。


「おや、聞こえてきましたね。まだ距離があるというのに、随分と強い地鳴りだ」


 直後、地面に転がる石が不自然に動き出すのが目に入る。

 集中して聞けば、小さくではあるが確かに地鳴りのような振動音が耳に入ってくる。

 なんだ……?

 なんの音……?


「ふふ、色々と画策していたようですが残念でしたね。一度始まった戦争はそうそう止められませんよ……」


「……何を言って」


 不敵に嗤いながら、アルケロは眠った彼女を抱き抱え更に言葉を続けた。

 

「ディオールの騎士王と栄光の軍勢、ヴォルドールの魔術結晶体にゴーレム部隊。かなり大味な戦になりそうですね……。当然止めるのですよね? あなたがどれだけこの戦いに影響を与える事が出来たのか、生きていれば次の機会にでも聞かせてください。それでは……」


 足元から沸き立つ黒い影に包まれ、不穏な事を言い残したアルケロはオルタナと共に姿を消した。

 そのすぐ後、様子を見ると言っていなくなっていたクラウンが、勢いよく私の影に入り込み、厚みのある影になって早口で報告してくる。


「ローズ! やばいぞロンメルの奴が捕まった! それとディオール側からとんでもない数がこっちに向かってきているのが上空から見えた! ヴォルドールのゴーレムどもも動き出してるぞ! どうなってるんだ!?」


「え、ええ!?」


 なんでディオールから……!?

 地鳴りはゴーレムの移動の影響……!?

 というかロンメル君が捕まったってどういうこと!?


「おい嬢ちゃん!」


 慌てた様子でライアスさんとハゲ頭の男性が飛び出してきた。

 クラウンの叫び声が聞こえていたようで、その場の全員がそれぞれ捲し立てるように現状の確認を急いだ。


 クラウンが持ち帰ってきた情報とハゲの男性オーサスさんの話から、ロンメル君がヴォルドールの地下牢に囚われているのは間違いないようだった。

 さっきまで私が戦っていた女性はオルタナ・ルビィアイズという名のヴォルドール議会最高顧問に当たる人間らしい。

 だが黒寂の人間である事が判明し、オーサスさんは国の動きとロンメル君の安否を気遣い始めた。

 そして陰謀めいたものを感じ取ったのか、機密と思われるような情報をベラベラと喋ってくれた。


 数日前から既にヴォルドール側ではディオールの軍勢を観測済みだったようで、恐らく野営地からはゴーレムの中隊が既に動き出しているだろう。

 この地鳴りこそが、ゴーレムが移動している証拠と言えた。

 有視界戦闘でなければ十分な効果を発揮できない魔術師らしく、布陣を展開するのは森を抜けた先にある平地。

 野営地からの中隊が到着するには1時間も掛からないだろうが、陣を敷き終えるには更に時間が掛かる。


 オーサスさんはオルタナに引きずられるまでは城にいたそうで、その目的は魔術結晶体と呼ばれる兵器の運搬。

 その不穏な名前の兵器が今どうなっているのかは不明だが、ディオールを迎え撃つための運搬だったのだから既にここに向かっているとみていいだろう。

 

 そしてディオールの軍勢だが、クラウンが上空から見た限りではこの先の平地に到着するまで3時間ほどの猶予しかない。

 問題は規模、クラウンがとんでもない数と言ったそれは目算で約8万。

 いったいどこにそれだけの戦力があったのか、どうやってそれだけの数の行軍を成功させたのか。

 疑問は尽きないが今はそれについて考察している場合じゃない。


 約3時間後には両軍がぶつかってしまう。

 これまでに無い規模の戦闘が、戦争が始まってしまう。


 上手く回避できると思っていたのに。

 回避できたと思っていたのに。


「なんで……!」


 悔しさから語気を強めに荒げてしまった。

 今は嘆いていても仕方ないが、それでも口惜しい。

 なにせ私の苦労は水の泡だ。

 徒労感は当然あったが、それ以上にムカついてきた。


 苛立っていても始まらないので、ひとまずそれぞれの動きを決めた。

 ライアスさんとクラウン、それにオーサスさんはロンメル君の救出へ。

 そして可能な限りヴォルドール上層部の背景を探る。

 

 事がここまでになってしまっては、もう止める事は叶わないだろう。

 だが、黒寂が裏で何かをしていたのは間違いない。それだけでも探る必要がある。


 オーサスさんが信用できるのかという話もあるが、それはライアスさんが強く保証していた。

 数日ロンメル君と共に生活した仲らしく、その話から信用して良しと判断したそうだ。

 その逆で、オーサスさんが私たちの話を信用したのも、ライアスさんが信用出来たからだそうだ。


 そっちは任せる事にして私はディオール側へ行く。

 アルケロは「ディオールの騎士王と栄光の軍勢」と言っていた。

 つまりディオール・ペンドラゴンがいるんだと思う。


 きっと全軍を率いてヴォルドールに攻めに来たんだ。

 なら私はその理由を聞かなきゃならない。


 戦争はやめ、富国に注力すると言ったあの言葉はなんだったのか。 

 あの王様の言っていた事は嘘だったのか……!

 信用するべきではなかった……!


 そんな後悔だけがドス黒く胸に渦巻くのを感じる。


「いいか嬢ちゃん! 絶対に戦うなよ! 8万なんてまともにやり合える数じゃねぇ! いいな! 絶対だぞ!」


 時間が無いために全員が早々に行動を開始。

 去り際に聞こえたライアスさんの叫び声、私は振り返る事をせず聞こえない振りをした。


 

 

 


 


 ◆








 約1時間が経過。

 ゴーレムのそれとはまた違った地鳴りが聞こえてくる。

 遠巻きに見えるのは、ディオールの軍勢だろう。


 先頭で馬を駆るは黄金の鎧を着た騎士。

 その後ろから真っ黒な鎧を着こんだ騎士達が、走りながら馬に追従している。


 正直とんでもない光景だった。

 目の前に広がる黒、黒、黒。

 中央にポツンと、とんでもなく目立つ金色。


 色合いが大地を揺らしながら押し寄せてくる光景は、津波にでも襲われるような不安を掻き立ててくる。 

 今まで抱いた事の無い種類の緊張を胸に隠し、私は王の到着を待った。


 そして数分、やっぱりあの金色は王様だった。

 金色に光り輝く派手な鎧だが、色以外は地味だった。

 シンプルな形状で軽装備に分類されそうな鎧で、動きやすさを重視しているように見受けられる。


「数日ぶりだなイズミよ。よもやここで会おうとはな、休むよう言ったはずだが……」


 王が手を掲げると、後ろにいる8万もの騎士たちは一斉にピタッと動きを止める。

 あの時遭遇した5万の兵とは全然違う風貌の騎士たちだった。

 全身を鎧と兜で覆い、素肌の露出が一切ない。

 

 出で立ちも異様だったが、馬と同じ速度で走って息を切らしている様子がない事に違和感を感じる。

 動きを止めてからはピクリとも動かないし、まるで機械のようで人間味が無い。


「王様こそ何故ここに」


「言ったであろう。ヴォルドールについては余がなんとかすると……」


「それは、ヴォルドールを攻め滅ぼすという事ですか?」


「可能ならばな、だがそれは不可能だ。この軍勢が如何に精強であろうとな」


 精強な兵が8万もいれば十分可能だと判断してもいいのではないだろうか。

 ヴォルドールの戦力を正確に把握しているからの発言……?


「それで何用だ。余にはあまり時間が無い。大した用がないのであれば先を急がせてもらうが、よもや止めるつもりではあるまいな」


「兵は富国のための政策に動員するんじゃなかったんですか……?」


 すると、王は左手を前に出す。

 それに合わせてひとりの騎士が前に出てきた。


「……見よ」


「……!」


 兜を取り外した騎士に、私はほんの少し驚いた。

 そこには人の頭が無かったのだ。いや頭どころか何も無い。首から上には何も存在しない。

 驚きが少しだったのは、人間味を感じていなかったから

 人間味が無いのは当然だった、見た通り人間ではないのだから。 


「この軍に生きた人間は余ひとりだけよ。この者たちは皆、過去ディオールのために戦い散っていった選りすぐりの英傑たちだ。騎士王の名と、聖剣を持ってして初めて可能となる英霊召喚により呼び出したのだ。まさかこれほどの数が力を貸してくれるとは思わなかったがな」


「そ、そんな事が出来るなら、いくらでも防衛のしようがあるんじゃ……?」


「時間が無いと言ったであろう……。ゆっくり説明している時間も無ければ、其方にこの秘儀について詳しく教える理由もない。戦争をやめさせたいという其方の想いは分かっている。だが、実際のところ其方には戦争をやめさせる力も権利も無いのだ。其方の都合に合わせて祖国を滅ぼすわけにはゆかぬ」


「戦争自体があなた方の都合でしょう!?」


「だとしてもだ! ディオールの民でも無ければヴォルドールの民でも無い其方に口出しをする権利は無い!」


 最も過ぎる意見に、言い返す言葉が見つからない。


「其方が戦場に乱入し荒らしまわっていたのは、其方の我儘を押し通すためであろう! 民たちを憐れんでくれるその心意気は受け取ろう。だが、実際に苦しんでいるのは其方ではない! そこに住む民たちだ! 既に長く続いているこの争いを、正式な形で終わらせずに有耶無耶にすれば! それはそのまま民へと影響する! 国同士の軋轢が生む暴威を一番初めに被り、最も心と体を痛めるのは民である! 余はそれを良しとは出来ぬ。……例え愚王と蔑まれようとも、余は民のために戦いたいのだ」


「そ、それなら戦う以外の方法だって!」


「無い。既に対話が出来る状態ではないが、和平を結ぶにしても対等の力がある事を示さねばそれは為されない。魔術結晶体という兵器を知っているか? 余も数日前に知ったばかりだが、聞けば聞くほど悍ましい兵器でな。せめてそれだけでも破壊しなければディオールはいずれヴォルドールに隷属させられるであろう。そうなれば兵も民も皆ただの労働力として扱われ、希望無き未来を生きる事になる」


 魔術結晶体、どこでそれを……。

 私もつい1時間前に聞いたばかりだけど、ヴォルドールの最高機密って話だった。

 諜報活動が無いとは思わないけど、タイムリー過ぎる……。


「思いの他時間を食った。イズミよ、同じ師を持つ者同士だ。出来ることなら敵対したくはない。大人しく下がっておれ」


 私にはもう、王を止める事が出来なかった。

 それ以上言葉を交わす事も無く、王は軍勢と共に先へと進んでいく。

 英霊と呼ばれた騎士兵たちは、私を避けながらそれに追従していく。


 激しい軍靴の音に包まれながら、王に言われた言葉が頭から離れず私は自問自答を繰り返した。



 滑稽だ。部外者がヒーロー気取りで横やりを入れてくる。なるほどそういう風に見えていてもおかしくない。

 私は何のために武力介入などしていたのか。

 何のために動いていたのか。

 

 目的は確かに我儘なものかもしれない。国に帰りたい。そのために戦争を止めたかった。 

 戦争で苦しんでいる人たちが可哀そうだと思ったのは本当だ。

 だがその可哀そうというのが、所詮は当事者でない者である証。憐憫から来る行動には真実味がこもらない。


 民の救済だけが目的の行動なら別だろうけど、私には故郷へ帰りたいという明確な目的が存在する。

 そのせいか、民の救済を謳っても聞こえのいい建前や言い訳にしか聞こえない。


 そういえば、兵にも家族や守る人がいるって言われたっけ。

 大陸中の人たちが戦争で苦しんでいる中、故郷に帰るために戦争に介入し、家族ある兵たちを無残に殺していった。

 殺した言い訳に民を使っていただけなんじゃないだろうか。

 自分の行動を正当化するために、可哀そうと断じた人たちを利用していただけなんじゃないだろうか。


 屍で作った平和。


 それは、大義という名分が絶対に必要なものなのに。

 家族に会いたいという理由だけで、それを実現しようとした私が確かに存在する。


 結局のところ、自分の我儘を押し通す言い訳に弱者を利用して、さも良い事をしていますって宣っていたようなもの。

 恥ずかしい。

 なんて恥ずかしい人間だろう。

 

 いつからこうなった。

 どうしてこうなった。

 もう自分の行動に自信が持てない。


 ずっと考えないようにしていたのは、これだったのかな。


 いつもなら襲ってくるはずの頭痛が、今は全くない。

 いつもよりも冴える頭が、自分自身の対する疑問を鮮明を見せつけてくる。


 なんとも言えない粘り気のある虚無感を抱えたまま、私はその場に立ち尽くすしかなかった。

今回から数字の表記方法を変更します。

基本的に数を表す場合に数字を、そうでない場合には漢数字を使いたいと思います。

一撃など、二撃三撃と使う場合に、今まで1,2,3を使用していましたが、違和感に耐えられなくなって今後は漢数字に。

ケースバイケースではありますが、自分なりに適切だと思われる方で記載していきたいと思います。

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■ 本小説の世界の中で、別の時代の冒険を短編小説にしました。
最果ての辺獄

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