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007 1週間の最後

 特訓を開始して既に1週間。

 今日が最終日だ。


 最初は死んじゃうと思ってた特訓も、それほど苦ではなかった。

 それというのも武器適性のおかげだ。


 適性のある武器を使用する場合、体に対する負担が軽減されるらしく結構簡単にこなすことができた。

 そのせいで素振りは1種類につき3000回に跳ねあがってしまったけど。


 そして今現在、私の武具適性はほとんどがAになっていると思う。

 実際に鑑定したわけではないけど、素振りの最中に武器が軽くなったのだ。

 クライムさんの話では、適性ランクが上がったことで体への負担が更に軽減されたからだとのこと。

 心無しか、手に馴染む感じもして気分が良かった。


 そして鎧の方。

 最初はまぁまぁ重かった鎧も、今では装備したまま長時間飛び跳ねることができる。

 ひとつランクが上がっただけですごい恩恵だ。


 目標の武器種が全てAになると、途中からは武装変更の特訓に切り替わった。


 より素早く、より的確なタイミングで武器を入れ替える。

 スムーズにできるようになればなるほど、動きから淀みが消えていく。


 これだけでも相当強くなった気がする。



「それで何個目だローズ」

「わ、分かりません……もう1000は超えてると思うんですけど……」

「底なしだな。もうこれ以上測定しても意味が無さそうだ。個数限界は無いものと考えよう」

「はい……」


 適性ランクが上がる度に武器の霊装化をやらされ、気づけばすごい数を取り込んだと思う。

 これらはどこにどう消えてるんだろう?


「じゃあ今まで飲み込んだ武器を返してもらおうか」

「え!? くれるんじゃないんですか!?」

「バカ野郎。そんなに資源が潤沢なわけじゃねぇんだよ。それにそんなにあっても使わねぇだろうが」

「ちぇー……」


 両の手のひらを前に掲げ、横にスーっと動かしていく。

 等間隔に武器が現れ、順に地面へと突き刺さる。

 私の周りを、剣が丸く取り囲む形になった。


「あ、あの、これ全部出すんですよね……」

「当然だ」


 え、え~……。

 1000個以上あるんだよぉ……。

 すんごい時間かかるじゃん……。

 

 ああ、そうだ。

 一気に出しちゃお。


「じゃあ全部いっぺんに出しちゃいますね!」

「ん? おいちょっと待てそれは――」


 地下の訓練場に次々と武器が出現していく。

 次第に武器は重なり続け、行き場を求めて転がっていく。


「やめろ!! ローズ!!」

「え……?」


 気づけば目の前には、武器の山が出来上がっていた。

 最初に出して地面に突き刺さっていた剣が無ければ、この武器の山は私に雪崩れ込んでいたかもしれない。

 

 考えただけでもゾっとする。


 すると、山の中腹にあった斧が滑り落ちた。

 それを皮切りに、武器たちは滑るように周囲へと拡散していく。


「あ……」

「今すぐ霊装化しろ!」

「う――!」


 間一髪、武器の刃先が私に到達する前に全てを霊装化できた。


「バカ野郎! 少し考えれば分かるだろうが!」

「す、すみません……」


 ちょっと思慮に欠けていた。

 一歩遅ければあの山に飲み込まれていただろう。

 そうなれば無事では済まなかった。


「……はぁ、まぁいい。怪我もなかったみたいだしな。とりあえず武器の回収は明日にする。集中力が切れてんじゃ危ねぇからな。今日はここまでだ」

「は、はい……」


 最後の最後で失敗してしまった……。

 

「…………まぁなんだ。1週間よく頑張ったな。明日はライセンスプレートも戻ってくる。景気づけに飯に連れてってやるよ」


 え……。

 楽になっていたとは言え、けっこう疲れてるんですけど。

 更に最後の失態で意気消沈しているんですけど

 そこに追い打ちで上司とのタイマン飯?


 拷問のなんたるかを心得ているようだな……。


「支部長~。さっきの大声はなんですか~?」


 ザミさん!

 そうだ、ザミさんも道連れにしよう!


「ああ、なんでもねぇ。気にすん――」

「ザミさん! クライムさんがご飯を奢ってくれるそうなので一緒に行きませんか!」

「え! タダ飯ですか! 当然のように行きます!」


「お、おい、誰もお前に――」

「行きましょうクライムさん!」

「行きましょう支部長!」


「……いやだからおご――」

「ありがとうございますクライムさん!」

「ありがとうございます支部長!」


「……人の話を――」

「鳥肉が食べたいですクライムさん!」

「私は肉ならなんでもいいです支部長!」



「……はぁ、分かったよ。さっさと支度しろ」

「「やったぜ!」」


 ザミさんと腕を組みガッツポーズを決める。

 クライムさんは諦めたかのように財布の中身を確認し、ひとりでブツブツとぼやいていた。


「ザミかぁ……こいつの胃袋ぶっ壊れてんだよなぁ。俺の資産もぶっ壊れるかも……」







 ◆







「このお肉追加でお願いします! エールも2杯追加で!」

「あ、私はこのサラダが欲しいです。ダリア用のお肉も追加お願いします」

「ピキィ~!」


「お、お前ら……」


 ダリアも入れて4人で食事中だ。

 お酒も入って豪華な夕食になった。

 テーブルの上に並べられた料理の数が凄まじく、宴会にしか見えない。


「はぁ、もういい。好きにしろ……」


 クライムの頭皮から髪が無くなった原因はザミさんかもしれない。

 そんなことを考えながら、鶏肉の香草焼きに舌鼓を打つ。


「ダリアおいしい?」

「ピィ!」


 ダリアの体の中には、色々な肉が浮いていた。

 相変わらず捕食はゆっくりだ。


「おいローズ。食べながらでいいから聞け」

「ふぁい?」


 ちょうど肉を頬張っていたタイミングに話しかけられ、変な返事をしてしまった。


「明日改めてお前の適性と能力値の鑑定をする。まぁステータスが多少低くても、あのスキルがあれば十分だろう」


 噛みちぎった肉を2回ほど咀嚼してすぐに飲み込む。


「何が十分なんですか?」

「ちゃんと噛んで食え」

「あはい……」


 急いで答えようと思って飲み込んだのに。

 噛めと言われたので鶏肉に齧りつき、咀嚼し出す。


「お前、明日ダンジョンに潜れ」

「ハンジョンれふか?」

「飲み込んでから喋れ」


 こいつ……!

 こいつぅ……!


 言ってることが正論なだけに何も言い返せない……!


「何もひとりで潜れと言ってるわけじゃない、信頼できる冒険者を付けるから一緒に潜ってこいって話だ。依頼をこなすのもいいが、ダンジョンの方が稼ぎはいい。今のうちに慣らしておくべきだろう」


 モグモグ……。


「おい、返事をしろ」


 あああああああああん!?

 今噛んでんだよぉ!?

 飲み込むまで待てやぁあ!


 ゴクン……。


「ケホッゴホ……」


 怒りで飲み込むのを焦り、むせてしまった。


「全く、ほら水だ。食事はゆっくり取るものだぞ。落ち着いて食え」


 ………。

 無だ。

 無になろう。

 そしていつか殴ろう。


「で、ダンジョンに行ってこいって話だが、どうだ? 行く気はあるか?」

「ええまぁ、でも慣らしておくにしても、少し早い気がしますけど」


「お前ももうここに来て1週間だ。それに明日から正式な冒険者になる。自分の生活費は自分で稼ぐべきだと思わないか?」


 ああ、なるほど。

 出費がかさみ過ぎてそろそろやばいから、早く巣立ってほしいと。

 そしてこの会食がトドメになりつつあると。


 まぁでも、いつまでもお世話になるわけにもいかないのも事実だ。

 特訓までつけてもらったんだし、これ以上負担をかけるのは正直申し訳ない。


「お前の現在の宿と食費に関しては、既に2週間先まで支払いが完了している。だからそれまでの間に、生活ができるだけの収入と基盤を作っておけ」

「分かりました。色々とありがとうございます」

「は、別に気にするな。礼ならお前の母親に言ってやれ」


 素直に人の感謝を受け取らない人だな本当に。


「あはー! ダリアちゃんすごいじゃん! それもいけるの!?」

「ピピィ! ピッピキィ!」


 横ではザミさんとダリアが盛り上がっている。

 この店の激辛名物を、ダリアがどんどん吸収しているようだ。

 凶悪なほど赤い肉が見える。

 どんな味なんだろう。


「あはははは! 支部長! 飲んでますか~!」

「…………」


「あーもう暗い~。そんなんだからハゲるんですよ~?」

「ハゲは関係ないだろうが! それからお前どんだけ食べるんだ! どこにこんな量が入るんだこの体のどこに!」

「あ! セクハラですよ支部長! そういうのは許しません! ねぇローズちゃん?」

「え? あ、はい! ダメだと思います!」

「んああああん? 人の頭をなじるのはセクハラじゃねーのかぁあん?」


 セクハラって概念があるのね。

 それにしても、なんか久々だなこういう食事。


 いつもはダリアと一緒で別段寂しくはないけど、こうまで賑やかなのは街に来てからは初めてかもしれない。 

 お父さんとお母さん、お姉ちゃんとの食事がもう懐かしく感じられる。

 3人とも元気かな?



 食事はその後も続き、閉店時間までザミが粘ったが、クライムに引きずられて店を後にする。

 解散してひとりになった私は、宿の部屋へと戻り寝る支度を済ませた。


 ベッドにダリアとふたりで入り込み、自分の将来の姿を想像しながら夢の中へと落ちていった。

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■ 本小説の世界の中で、別の時代の冒険を短編小説にしました。
最果ての辺獄

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