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073 王都ブリトンへ

NEW → 表現を一部修正しました。最終から20行目あたりから(2019/10/20)

誤字の修正をしました。(2019/**/**)

 無人となった村の外れに簡易的な野営地を作り、お茶を飲みながらエメリッヒさんの話を聞く。

 先の涙が本心から流れたものかの判断は軽々にできないが、情報だけは得ようという流れだった。

 僕は信用してもいいんじゃないかなって思う。 


 まずこの男性について。

 エメリッヒ・ローラーさんは騎士王国ディオール第7兵団に所属しており、剣の腕前はからっきし。

 主に雑務や伝達系統の仕事をこなしていたそうだ。

 伝達担当なのは好都合だったうえに、現状を知るに十分な情報を教えてくれた。


 ひとつ目、ディオールが戦争行為をやめない理由と前のめり過ぎる布陣について。


 上層部の思惑が分かるわけではないが、軍全体に知れ渡っている内容として「崖上を取られる事の不利」が挙げられた。

 崖沿いにはいくつかの洞穴があり、本来はそこを通って上に行くらしい。

 その頭上に布陣されてしまえば、高低差を利用した一方的な攻撃を受ける事になる。

 取り返そうと大規模な部隊を送り込んでも、上からの投擲で入口を塞がれたり、洞穴内に毒物でも散布されてしまえばどうにもならない。

 離れた位置に誘い込めればいいかもしれないが、降りてくるのは十分な準備が整ってからだろう。

 枯れた大地しかないこの国では、持久戦自体が自殺行為なのだ。


 そもそも食糧を作るに適さないこの土地で、今まではどうしていたのか。


 右隣にある聖王国フォートギアからの食料輸入でなんとかなっていたという。

 しかしフォートギアは1年前に滅んでしまっている。

 滅んだ理由は割愛するが、大部分をそれに頼っていたために大規模な食糧難に直面しており、肥沃な大地を求めて軍事行動を継続させているのだとか。


 つまりこのまま座していれば、食糧難の問題と戦略的にも戦術的に重要な場所を失う危険性により、国はいつでも滅ぶ準備OKな状態になってしまう。

 和平を結ぶって思考に至らないのは何故だろうと聞いてみたが、そこまでは分からないという。


 次に、つい先日の大規模戦闘。


 ヴォルドールとディオール合わせて約1万にもなっただろう戦闘だ。

 あれは徐々に徐々に送らせた大隊が終結した結果で、目的は足止め及び膠着状態を作り出す事。

 エメリッヒさんはその補充部隊のひとりとして向かっている最中、指揮官が戦場の異変に気付き急行するも、数名が命令を無視して引き返した。

 伝達が仕事のエメリッヒさんはそれを連れ戻すように指示され、追いかけた果てに現在に至る。


 そして膠着状態にしたかった理由。


 それは、騎士王国の全軍を使った大規模進行準備の時間稼ぎ。

 今集められている戦力は人員にして約3万ほどであり、その全てがディオール王都であるブリトンに集結しているとの事。


 正直ちょっと少ないのではないかとも思ったけど、行軍を行えるギリギリの量と聞いて納得した。

 食糧難の話を聞いていたから、逆に3万人とそれを動かす馬の分の糧秣が確保できている事に驚いた。 

 実際に確保できているのかは分からないけど。


 かなり重要な情報を聞けたと思うが後ひとつ、大事な情報がある。


 騎士王ディオール・ペンドラゴンの迷走。

 戦争強硬派と富国推進派の2派閥に別れるらしいのだが、戦争強硬派の意見を取り入れて進めた戦争行為の効果が芳しくないために、御心が揺れ動いているのだという。

 現在投入可能な全戦力を放出して、もしも負けたらどうなるのか。

 当然滅びるだろう。

 そんな大博打を打たさせられる王の内情は、察するに余りある。



「この情報が正確なものかと言われれば少し自信はありませんが、大体はこんなところです」


「行軍の予定は分からないのか?」


「私のような末端ではさすがに細かくは……。ですが数が数ですし、遊ばせておく余裕も無いはずですので近日中、もしくは既に……」


「そうか……」


 ライアスさんがいつにも増して真剣な顔で考え込んでいる。


 今何をすべきなのか。

 僕も小さな頭を捻って考えてはみるものの、碌なアイデアが浮かばない。

 3万の軍勢が既に動き出していると考えれば、それをなんとか止めるとか?

 どうやって? またローズさんが頑張るのか? 馬鹿な事を言うな、3万だぞ……。


 じゃあ迷ってる王様を説得するのはどうだろう。

 これならまだ望みはありそうな気がしないでもないけど、どうやって会うとか、会ってもどう説得するとか問題がいっぱい出てくるな。

 軍が既にそこまで来ている場合には間に合わないし、命令を出した後だと撤回は出来無さそう……。

 

 僕がうんうん唸っていると、ローズさんが口を開いた。


「行軍のルートと王都ブリトンまでの距離を教えてください。私がなんとかします」


 僕らはその発言を咀嚼するのに少し時間が掛かった。

 なんとかしますなんて、簡単に言える事じゃないからだ。


「ま、まて嬢ちゃん、なんとかって……どうやってだ?」


「えーとまぁ……そうですね。これしか思いつかなったって感じですけど」


 ローズさんの話した方法というのは、思いつきそうで思いつかなかったというか。


 でもそれはきっと、彼女だから思いついたことだろうし、彼女でなければ成しえないことだ。

 聞く限りではそれが1番可能性はありそうで、次第にそれ以外に手は無いとまで思えてきてしまう。


 確かに上手く行けば、既に軍が動いていてもなんとかなりそうだ。

 最後の部分は相手の出方次第だけど……。


 ライアスさんの顔が歪んでいる。

 有効な手段である事を認めているのだろう。

 あらゆる葛藤が入り混じった、そんな表情のまま下を向いている。


 僕だって同じだよ。

 結局何の役にも立たない情けなさから、唇を噛みしめる程度しかできない。




 エメリッヒさんから欲しい情報を受け取り、ローズさんはひと言だけ


「行ってきます」


 と言い残し王都へと向かった。


 待て、行くな。

 ライアスさんのその言葉も無視して。

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■ 本小説の世界の中で、別の時代の冒険を短編小説にしました。
最果ての辺獄

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