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072 ディオールの村

宗教国家の名前を別の国と間違えていたのを修正しました。

正:宗教国家スピリア


特定の描写を削除、内容を修正しました。

(2020/08/04)

 騎士王国ディオールに入って2日。

 これがディオールでなければ絶景だったろうと言える景色が見える。

 というのも、この国は大陸の中でも特に位置が低く、国全体がまるで陥没したかのようになっているのだ。

 四方を崖に囲まれた国ってやつで、僕らはその崖の淵にいる。

 まぁ、北側は海だから四方ではなく三方なんだけど。


「は~……こんなに赤茶色だと、なんとも景観が勿体ないねぇ……」


「で、ですね……」


 そう、見える景色のほとんどが赤茶色。

 奥に行けば緑が多少は見えてくるが、森と呼べそうなものはここからは確認できない。

 代わりに存在する切り立った岩山が、この国の森とでも言えばいいのだろうか。


 これはこれで、そういう芸術と言えなくもないけど……。


「あそこ、村があるよ」


 ローズさんがぼそっと呟きながら、一点を指さすが僕には何も見えなかった。

 見てる場所が違うのか、遠すぎて見えないのか。

 僕だけがそうなのかと思ったけど、ライアスさんも見えないみたいだ。

 ローズさんの目がやばいんだなきっと。うん。


 その村へと行くために崖を降りる場所を探したが、どこにも見当たらなかった。

 あまり時間を掛けてもいられないという事で、そのまま降りる事になった。


「え、ちょっと……本気なんですかライアスさん……」


「まぁこれが1番安全だしな。絶対離すなよ、離したら多分死ぬぞ」


「は、はいぃ!」


「じゃあ頼むぞクラウン」


「クェエー!」


 鳥の魔物であるクラウンさんの脚をライアスさんが掴み、そのまま下へと運んで貰う。

 僕はそのライアスさんに掴まっている。

 それはもう必死で掴まってる。


「ヒ、ヒェッ……」


 地面へと降りても、しばらくは謎の浮遊感に襲われた。

 体にうまく力を入れられなくてフラフラしていると、すぐ横にローズさんが着地した。

 怪我をした様子などはなく、ケロっとしている。

 

 まじかぁ。

 この高さを自由落下で降りられるのかぁ……。

 身体能力の違いを再度思い知らされる。

 

 そして今降りてきた崖、よく見れば30メートルかそれ以上はある。

 高すぎるよ。

 

「はは、ははは……」


 僕の乾いた笑いは誰にも反応されぬまま、ローズさんが見たという村を目指して歩き出した。





 ◆





 歩いて30分くらいだろうか?

 漸く、人が普段通っているであろう道を見つける。

 そして人がいるという生活感も見えてくる。


「そろそろですかね……」


 疲れを匂わせる僕のひと言は、ローズさんの言葉と行動に掻き消された。


「なんか変……」


 僕らの反応を待たず、彼女は突然走り出した。

 何も分からないままに追いかけるが、速過ぎて追いつけない。

 でも幸い目的の村はすぐだったようで、1度見失った姿をすぐに見つける事が出来た。 


 着いた村は農村だった。

 枯れた大地の上に耕された畑がある。

 こんな土地でも実る農作物があるんだろうか。


 いや、今はそれよりもローズさんだ。

 民家の扉を、ちょうど開けたところだった。


「…………」


 駆け寄って、ローズさんの体越しに見えた家の中。

 数秒しか経っていないのに、既に状況は終わっていた。

 真新しい鮮血を散らす騎士風の男たちが、鎧ごと串刺され、家屋内の壁に磔にされている。

 壁から大量の血が流れ、遂には地面に到達する。


 この家屋内での用事を、終えるとローズさんはすぐに家から出て、別の民家へと向かった。

 今のあの人はスイッチが入ってしまっている。

 全員殺すまで止まらないだろう。


「ひでぇなこりゃあ……」


 そのスイッチが入った原因だが、家屋内で倒れている女性らだろう。

 介抱しようと試みたが、残念ながら既に事切れているようだった。

 身体中に裂傷がある。面白がって斬り付けられたのかもしれないが。だが首には深い絞め痕が残っている。それも、手で直接絞め殺した痕だ。

 最後は苦痛に歪む顔を見ながらということだろうか。

 酷いことをする……。


「こいつら、ディオールの騎士兵だな。あの時の残党だろう……」


「自分の国の民をって事ですか……」


「そうなるな。……生存者がいないか確認してくれロンメル。俺は他を見てくる」


「分かりました……」


 倒れた女性の手を握ったまま、僕はライアスさんの頼みを承諾した。

 その手は、まだほんのりと暖かいような気がする。

 他にも、倒れている女性ひとりひとりを確認して回った。全員同じような絞め痕が残っていて顔は青ざめたまま。

 最初の女性以外は全員は体が冷たかった。

 つまり、あの人はついさっきまで生きていたんだと思う。

 もう少し早く着いていれば、もしかすれば……。


 その場の生存者確認を終え、外に出ようとした時に叫び声が聞こえてきた。


「まぁってくれ! 私は何もやってない! 私は誰も殺してない!」


 聞いた事が無い男性の声。

 内容からして騎士兵っぽいけど。


 外に出てみると、無表情のローズさんが鎧の男に剣を突き付けている。

 その横にはライアスさんがいた。

 

「本当か嬢ちゃん」


 その問いに、コクりと頷いて見せるローズさんの目は、戦闘モード時の冷たいそれのままだ。


「分かった。後は俺は任せて落ち着いてこい」


 再度頷くと、ローズさんはすぐその場を後にした。

 

 ライアスさんの後ろに行くように回り込んで近づくと、脅えて座り込んでいる男の顔が見える。

 眼鏡を掛けて髪を後ろで束ねている、少し知的な雰囲気のする人だ。

 鎧から伸びる腕は細く、本当に騎士兵なのかを疑ってしまう。


「こいつは俺が見張っておくから、他の民家の確認を頼む」


 1度頷き、僕は言われた通りに他の民家へと向かった。






 ◆






「こ、これで……! よろしい……! でしょうか……!」


 息を切らしながらも、鎧の男は墓穴を4つ程作り終えて報告してくる。

 その横で、僕は7つの墓穴を作り、ローズさんは12の墓穴を作った。

 僕より体力ないのかこの人……。

 

「まぁいいだろ。次は遺体を運べ」


「は、はい……」


 手分けして殺された人たちを墓穴へと運び始める。

 村の犠牲者は全部で23人。

 そのうち若い女性は6人、小さな男の子が4人、そして男性が9人と老人が4人。

 生存者はいなかった。


 絞殺された女性以外は、全員が体中を斬り裂かれて死んでいた。

 まるで遊んでいたかのように、何度も何度も斬られた跡があった。


「よくもまぁこんな殺し方が出来たもんだなお前ら。自分の国の守るべき人々を」


「だ、だから私は誰も殺して――」


「関係ない。国の兵が民を弄んで殺したんだ。お前と同じ騎士兵がだ。そしてお前は止めなかった。もし止めようと動いていれば、そんなに綺麗な顔のままではなかっただろう」


「…………」


 そこから、男は口答えをしなくなった。

 黙々と遺体を運び続け、墓穴にひとり納めるごとに胸に手を当てて数秒の祈りを捧げている。

 単純に僕らに対するポーズなのかもしれないが、思いのほか真剣な眼差しに僕はほだされつつあった。


 全員を墓穴に納めると、ローズさんがひとりひとり丁寧に燃やしていく。

 綺麗で力強い白い炎が、彼女らの肉体を浄化していく。


 呪具『白炎浄化の指輪』だ。


 宗教国家スピリアに滞在した際、そこのダンジョンでローズさんが獲得したもの。

 半年くらい籠っただろうか。

 他にもいくつかあるはずだけど、使ってるとこはほとんど見たこと無い。


「綺麗な炎ですね……」

 

 そう言うと、鎧の男は膝を着き頭を下げてくる。

 

「本当に申し訳ありません。仲間の蛮行を諫める事も止める事も出来ず、無辜の民を快楽の犠牲にしてしまった。ディオール騎士王国の兵として謝罪申し上げます。そして、彼らの体を埋葬する機会を与えて頂き、深く感謝申し上げます」


 その場凌ぎの障りのない言葉。

 とは、僕には思えなかった。


 頭を上げた彼は、額に付いた土を払う事もせず、涙を流しながらに真っ直ぐとこちらを見つめてくる。


「私の首では足りぬでしょうが、彼らの墓の前に晒してください。私には他に出来る事がありません」


「いやいらねーよ。せっかく静かなところに眠ったのにお前の首があったら落ち着かないだろうが」


 ごもっともだ。

 僕がその立場なら生首を置いていくのはやめて欲しいと思う。


「それよりもだ、情報が欲しい。このくそったれな戦争を終わらせるための情報が」


 ライアスさんのその言葉に、一拍置いてから鎧の男は立ち上がる。


「……私はエメリッヒ・ローラーと言います。どんな事でも話しましょう。もし許されるのならば、その手伝いをさせていただきたい」


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■ 本小説の世界の中で、別の時代の冒険を短編小説にしました。
最果ての辺獄

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