表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/242

062 地上での出来事

「それにしても、ダリアはずーっと何してたの? 教えてよ~」

「ピピ~」


 出口を目指し、1階層を雑談しながら歩く。

 数日間、日中に姿を見せなかったダリアが何をしていたのかを何度も聞いたが一向に教えてくれない。


 期待しておけと言わんばかりに跳ねまわっている。


「じゃーいいですよー! 私の方も教えてあげないからねー!」

「ピ!?」


 ちょっとしょんぼりするダリアだった。 


「あ、そろそろかな……」


 入ってきた時に通った大き目の通路。

 ここを抜ければ地上へと出るための階段が見えてくる。


 テクテクと通路を進んでいくが、何か変な感じがする。

 ああ、そうか。


 人の気配がしないんだ。


 ここは1階層だ。

 それなりに他の冒険者に遭遇してもおかしくない。

 なのに冒険者どころか魔物1匹見かけない。


 階段を上り始めているのに、全くと言っていいほどに気配がない。


「休憩中……とか?」


 階段を1歩1歩踏みしめ、ついに地上の景色をその目に収める。

 だがやはり、人の姿はどこにもない。

 魔石を徴収するであろう役人の姿も勿論ない。


 あったのは、不自然に黒く染まった大地。


「なに……これ……?」


 乾燥しているのか、黒い塊は触れるとパサパサと崩れていく。

 欠片は粉状になって風に攫わていった。

 太陽の光に照らされ、部分が微かに赤く見える。


「これ……血? 血!?」


 眼前に広がる黒い地面全てが血だとするならば、ひとりふたりの騒ぎではない。

 しかし死体も無ければ肉片すら落ちていない。


 恐らくは血で間違いないが、何があったのかは把握できない。


「……ダリア!」

「ピィ!」


 ダリアを肩に乗せ、城下町まで駆け抜ける。

 ダンジョン入口で何か揉め事があったにしても、そこに人がいないのは異常だ。

 何が起きてるのかを確認する必要がある。


 以前よりも身体能力が上がっているおかげか、かなり速く移動できる。

 修行のおかげもあるだろうが、あの時の影響が大きいと思う。

 体から虫を出していたあの変態との戦闘を思い返しながら、到着した城下町の様子を窺った。


「あ、あれ……。普通?」


 特に変わった様子はない。

 しいて言うなら、歩く人々の元気が前にも増して無いという事だ。


「ん、お前はあの時の娘か」


 声のする方を向くと、そこには知らない男が立っていた。


「……どちら様でしょうか?」


「そのスライムに救われたダンジョンの見張りだ。あの時は本当に助かった。改めて礼を言わせてもらおう」


 あ~。

 あの慌てふためいていた割に態度の大きい……。

 にしては、なんか随分とラフな格好というか。

 鎧はどうしたの?


「お前もダンジョンに入ったと聞いていたが、無事だったのだな」


「そのダンジョンの入口ですけど、あれは一体なんですか……?」


「……まさか今出てきたばかりか? ならばうちに来るといい。礼も兼ねて今どういう状況かを教えてやる」


 礼を兼ねてとか言いながらなんでこんなに上から言うのこの人。

 怪訝な目を向けていたせいか、


「なんだ、安心しろ。お前のようなお子様の体に興味はない」


 と、言われた。


 こいつぶっ殺そう!


 


 ◆




 結果、本当に殺すわけもなく。

 招待されるままに家に上がらせてもらった。


 まぁ何かあっても多分私の方が強いしね。

 今は情報を優先したい。


「まぁ座れ。もうこの国を出るとこだったのでな。茶だけで悪いが、我慢してくれるか」


「お構いなく」


 飲みませんしね!


「さて、まずダンジョンの入口だな。あそこは5日、いや6日だったか。とにかく数日程前だ。青い髪の男が出てきてな……――」



 男は名乗りもせずに喋り始めた。


 ダンジョンから出てきた青い髪の男。

 最初はフィオさんの事かと思ったけど、聞いていくうちに分からなくなった。


 歪な体に、顔面から飛び出した虫。

 まともな言葉も話さず、出て来るやいなや見張りの兵に飛びついたと言う。

 

「俺はその場にはいなかったから詳細は分からないが、巨大なワームを出しては人を丸のみにしていったそうだ。すぐにその場から逃げ出したという冒険者の話だから、どこまで信じていいかは分からないが、検証する余裕も無くてな」


「余裕が無い? 何故ですか? あれはこの国の大事な収入源なんですよね?」


「そうだな。国がまだあるのなら、必要な収入源だ」


「その言い方だと、まるでもう国が無いみたいに聞こえますけど」


「無いんだよ、もう。レグレス共和国は無くなったんだ」


 

 ――約10日前、イシュバルとの小競り合いをしていたこの国に、ある一団が攻め込んできた。


 それは、黒寂の傭兵団。


 僅かふたりの敵に、戦力として各国に劣るレグレス共和国は、応戦するもその甲斐なく全滅。

 防衛戦力を失った国の重鎮たちは、自分たちが殺される事を恐れ逃亡。

 残った兵たちもそれに合わせて離散。


 手足を失った共和国の元首が、城でひとり玉座にしがみついているという。


 国としての機能が無ければ兵というものは動かない。

 結果、ダンジョン入口の異変の調査も行われず、見張りが追加される事もなかったのだ。


 現在、この国には犯罪者を取り締まる力も人もないが、元々廃れていたために犯罪行為に走る者は少ない。

 それゆえ町に住む人々のはとっては、そこまで大事にはなっていないらしい。


「傘を持った女にフードを被った男。そのふたりが暴れまわる戦場は、それはそれは酷かったらしいぞ。特に女の方」


 傘の先端を人間に突き刺しては何かを注入する。

 それをされた人間は膨らんで破裂するか、グズグズに溶けだしていくか。

 はたまた、体中に穴が開いてしぼんでいくなど。

 

 聞いていても信じられない。


「本当に黒寂だったんですか?」


「唯一見逃されたという若い弓兵が、黒寂の長の偉業を世に広めよとかなんとかって、その女に言われたらしいぞ。脅えている割には事細かに答えるそうで、何かされてるんじゃないかって話だったがな」


 レグレスの防衛戦力は、平時で僅か1000ほどらしい。

 前に聞いた話が本当なら、ふたりで2千人分の戦力になる黒寂には太刀打ちできないだろう。


 その弓兵の人や、傘を持った女も気になるけど……。 

 正直、今はそっちよりも青い髪の男性の方が気になる。


 体から虫を出すという特徴。

 あの変態に似ているし、あの場にはフィオさんも倒れてた。

 偶然、全然違う人だったというには、あまりに出来過ぎている。

 つまり……。


 この想像は、出来れば当たっていて欲しくない。


「…………」


「ま、そういうわけだからな。俺は明日にはエメロードに行くつもりだ。なんだったら一緒にくるか?」


 そう言いつつ男は立ち上がり、自分のコップを持って少し後ろのテーブルへと行く。

 そしてケトルのような物からお茶を注ぎ始めた。


「なんでエメロードなんですか? 交流のあるダンダルシアに行けばいいんじゃ?」


「あーそれは無理だ。レグレスが落ちた事で、外交を完全に閉ざしてるからなダンダルシアは。よほど諸外国が怖いようだ。時間があるなら後で酒場に行ってみるといい。帰れなくなったダンダルシアの冒険者でごった返してるぞ」

 

 え!

 なら話を聞きに行く!


「お茶! どうもありがとうございました!」

「ピピィ!」


 私は、もてなしてくれた小さな家を飛び出した。


「……ありがとうございました、ね。……ならひと口くらい飲んでいけよ……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
■ 本小説の世界の中で、別の時代の冒険を短編小説にしました。
最果ての辺獄

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ