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061 修行を終えて

「どお? しっかり直せてると思うけど、変なところない?」


「はい、大丈夫です! ありがとうございます!」


 ボロボロだった私の服は、綺麗に修繕されている。

 心なしかスカートは短めに、ところどころ露出が増えてる気がしないでもないけど。

 直してくれたのだから有り難く受け取ろう。


「それと、これ。あげるわ」


 黒い繊維が何重にも絡まっているような、細めの鞭。

 かなり長めで、先端にはひし形の青黒い石が取り付けられていた。


「竜の髭を編み込んだ『ウィルンローの鞭』って呼ばれる鞭よ。伝説になるほどのものではないけど、かなり丈夫で質がいいから大事に使ってね」


「私からはこれを」


 丸みを帯びた可愛いデザインの短弓に、ゴテゴテで尖っている長弓。

 長弓はそのまま打撃武器にしても良さそうなくらいデザインが凶悪だ。

 どちらも良くしなり、ピンと張られた弦が薄い光沢を放っている。


「『リベンゲルの短弓』と、『豪弓エーレンベルグ』です。かなりの一品ではありますが、使い手を選びます。まぁローズさんなら大丈夫でしょう」


「ワシからはこれじゃの」


 無駄な装飾のない、私の身長より少し短いくらいのシンプルな直剣。

 刀身は鈍い輝きを放ち、眺めているとどこか見入ってしまう。

 鍔もシンプルな形状で小さめだ。

 でも、鞘だけはちょっと豪華。

 基本、黒を基調にした色合いに、黄色く斜め線が入っている。


 嫌いじゃないです。


「この剣に銘は無いが、ワシが若い頃に使っておった相棒じゃ。刃こぼれひとつした事のない自慢の一品じゃぞ」


「い、いいんですか。こんな……」


 色々と教えてもらったうえ、更にこんな高価そうなものまで。

 至れり尽くせりでちょっと申し訳ない。


「気にしなくていいのよ? 私たちにはブロックマスター専用の武器があるから、基本的に使う事ないのよそれ」


 せ、専用武器ですって。

 ちょっと見たい……。


「そうですよ、気にしなくていいんですローズさん。特にこの爺は加減ってものを知らないから……!」


 昨日の模擬戦か。

 冷静になって考えてみたら完全に殺しに掛かってた気もするような攻撃だったね……。


「何を言う、本気を出したのだってあの長弓の一矢を躱した時だけじゃぞ? それ以外は加減しておったじゃろうが。のう? 鞭の」


「うーん、まぁローズちゃんならあれくらい大丈夫だとは思ってたわよ。普通の人なら初撃受け流せなくて真っ二つだったと思うけどね」


 そ、そうなの?

 あれで加減してたの?

 割とショックなんですけど!


「いいえ、もっと手心を加えるべきです。仮にも女の子なのですよ?」


 ロウルさん……。

 途中から私のお尻しか見てないと思ってたけど、1番まともに扱ってくれてる気がする。

 まぁ変態尻趣味マンだったけど。


「それもそうじゃな。では、その詫びの印と思って受け取ってくれんか、イズ……お嬢ちゃん」


「はい、頂戴いたします……!」


「お? なんじゃそういう礼も弁えておったか? ほっほ」


 う……。

 師事を乞うた相手から何かを貰うならこうかなって思ったのに笑われてしまった……。


「で、話は変わるんだけどねローズちゃん。このペンダント、どこで手に入れたの?」


 エナさんの手には、私がお父さんから貰った小さなペンダントが握られている。

 その表情は少し渋めだ。


「お父さんから、お守りとして貰ったものですけど……」


「ふーん、なら大事なものなのね。でも、これは此処に置いて行ってくれないかしら」


「え……どうしてですか……?」


 な、なんで?

 お父さんから貰った大切な物なのに……。


「理由は今は言えないわね。あなたがブロックマスターになれば分かる事だけれど、今はそのつもりがないでしょ? なら、黙ってこれを置いて行ってくれると助かるわ。何も意地悪してるわけじゃないし、私が欲しいからとか、そういう事じゃないわ。これは持ってちゃダメな物よ」


 そんな事を言われても、簡単には納得できない。

 お父さんが私のために用意してくれた、特別性のペンダント。

 それには、私の旅の無事を願うお父さんの想いが込められてるはずなんだから。


「簡単には了承してくれなさそうね。でも、あなたのために言ってるのよ。もし、どうしてもこれを奪い返したいというのなら……、アタシたち3人が全力であなたを潰しに掛かるわ」


 目の前にいた3人のブロックマスターが、次々と黒い鎧を纏っていく。

 徐々に強くなるプレッシャーが、重く圧し掛かって来る。


「い……ぎッ……」


 とんでもない殺気。

 体が震え、まともに動く事は出来ず、、呼吸をすることすらままならない。 

 思考が恐怖に染まっていく。


 じょ、冗談とかじゃない……!

 この3人……本気で……!


 ――ダメダメダメ。

 あれはダメ。

 あれは私の。

 渡しちゃダメ。


 突然、よく分からない感情に包まれる。

 あれだけは、絶対に渡してはいけない。

 そんな気がしてくる。


 ブチッ。


 舌を噛み切り、痛みで思考を逸らす。

 そしてすぐに横へと動いた。


 ……つもりだった。

 

 両手両足は鞭に絡めとられ、数本の矢が私の周囲に刺さり、2本の剣が喉元で光っている。


 何も、何も見えなかった。

 鞭が私を拘束する瞬間も、矢が刺さった瞬間も、剣を突き付けられた瞬間も。


 動きの予兆すら捉えられなかった。


「のう、鞭の……。少しくらい話してやってもいいんじゃないか?」


「ダメよ。それはこの子が自分で選択しなければならない事。そしてまだ選択する時じゃないわ」


 選択?

 何を……?


「私もエナさんに同意見です……。ローズさん、何も言わず、私たちを信じてはいただけませんか……?」


 何かは分からない。

 けれど、この人たちの言葉からは悪意は感じない。


 初めから、私のためにと言っていたのに、数日間お世話になって人たちを信じずに体を動かしてしまった。

 取り返さないといけないって思ったら、つい……。

 申し訳ない気分が溢れてくる。


「すいません……勝手に体が動いちゃって……。それは差し上げます……」


「いいのよ、理由は分かってるわ。それと安心しなさい。これはまた来た時にはちゃんと返してあげるわ。ちょっと時間が掛かるから、数か月は先になるかもだけど」


 強化骨格を解除した3人が、申し訳なさそうな顔でこちらを見ていた。


「手荒な真似をしてすまんのう……」


「い、いえ大丈夫です……」


「お姉さんも謝るわ! ごめんねローズちゃん! でも信じてくれてありがとうね! お礼に抱きしめちゃうわ!」


 エナさんの行き過ぎたスキンシップで、場の空気は少し穏やかになった。

 ガチの脅しだったせいでいたたまれない感じだったから、本当助かる。


「では、私からもお礼に……」


 両手を広げてロウルさんが迫って来る。


「それはけっこうです」







「――ピピィ!」


 飛び跳ねるダリアと、草むらを歩く。

 周りには3人のブロックマスターも一緒だ。


「それじゃ、気を付けてねローズちゃん。このペンダントは必ず返すから、少し預からせてね」


「はい! 信じてますから大丈夫です!」


 修行漬けの数日間は今日でおしまい。

 イヴァンさんが1階層まで転送してくれるという事で、他ふたりも見送りに来てくれた。


「教えた事を忘れないように励んでください」


「重心の重要さも忘れちゃ駄目よ?」


「脱力と力みのバランスものう」


 名残惜しそうな3人が、最後に助言をくれた。

 勿論忘れたりしない。

 大丈夫、毎日反芻しちゃうんだから!


「はい! 絶対に忘れません! 完全にマスターしたら見せに来ますから!」


「ほっほ、楽しみにしておるよ。では、送るぞい……」


 周囲の地面が青く、淡く光り始め私とダリアを包み始める。

 

「数日間本当にお世話になりました! 本当にありがとうございました!」


 懇親のお辞儀を放つ。

 なんだかちょっと別れが寂しい。

 でも、また会いにくればいいだけだもんね。


 大丈夫、泣いたりしないし。


「またね、ローズちゃん。それにダリアちゃんも」

「ローズさん、ダリアさん。またお会いしましょう」

「また来られよ、イズミ・サクライ殿とその友よ」


「はい!」

「ピピィ!」


 辺りが光り輝き、白一色になっていく。

 目を開けていられないほどの眩しさなのに、不思議と目を閉じなくても平気だった。

 光に包まれたまま、私はダンジョンの1階層へと転送される。










「行っちゃいましたね……」


「そうじゃのう……」


「じゃあさっさと戻って、あのペンダントの呪いを解きましょうか。あのクソ女神の加護をね」

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■ 本小説の世界の中で、別の時代の冒険を短編小説にしました。
最果ての辺獄

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