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060 剣の訓練 了

「ん……えふ……ふへへ……うん……んあ!?」


 ベッド……?

 あれ、昨夜はどうしたっけ……。

 剣を振り続けてて……なんか上手くいって……そんで……。


 記憶がないぜ!


「何してるんですか……?」


 あばばばば。

 寝起きでテヘペロドヤ顔してるところをロウルさんに見られてしまった。


 あ、もしかしてロウルさんがベッドまで運んでくれたのかな。

 大丈夫かな。

 お尻触られてないかな。


「あ、ご安心ください。1回揉んだだけですから」


「なにを!?」




 ――昼過ぎ。


 私が目覚めた時にはもうお昼だったようで、軽い昼食を取ってからイヴァンさんの元へと行く。

 先に向かったエナさんとロウルさんもいた。


「あ、来たわねローズちゃん」

「お、おふぁやいほとうたくふぇひたね(お早いご到着でしたね)」


 弓のお兄さんの顔はボッコボコ。

 罪悪感があったのか、私の暴行に一切抵抗しなかったので念入りに殴りました。


「よう来たのうお嬢ちゃん、昨日のあれ。ここで見せてくれんか」


 おや、どうやら見られていたようだ。

 ぶっ倒れてもすぐ介抱出来るように見守ってくれてたのかな?


 ならロウルさんの蛮行も止めてほしかった。


 そんな事を考えながら、発現させた剣を握る。


「い、いきます……!」


 昨日の感覚。

 脱力して、無駄な力を省いて……。


「ふ……ッ!」


 重く、鈍い音が響き、斬撃の軌跡が数秒残った。

 イヴァンさんに見せてもらったあれと、ほぼ同じ現象。

 紛れもなく成功したと言っていい。


「ふむ、上出来じゃ。その感覚を忘れんようにな。後は、そこに力や重さを乗せていけるようになれば面絶ち(おもてだち)は完成じゃ」


 お、おもてだち……?

 固有の名称があったのかこれ。


「ここで覚えた事はほとんどが基礎の基礎じゃ、勿論普通の人間にとってのものではない。各武器を扱うマスタークラスが基礎としているものじゃ。それらを反復し完全に自分のものとした時に、お主だけの道が開けるじゃろう。……その時、道に行き詰まったらまた来るといい。ワシらが教えられるのは、ワシらの道のみじゃが、何かのヒントにはなるはずじゃ」


 私だけの……道。

 漠然としかイメージは出来ないけど、なんかいいな。

 そういうの。


「はい……。ありがとうございました!」


「まだ早いぞお嬢ちゃん。いや、イズミ・サクライ殿。せっかくじゃ、ブロックマスターとはどういうものか。その肌で感じていかれよ」


 え……。

 なんか良い感じでまとまったと思ったのに。

 ちょっと興味はあるけど、なんか不穏な空気を感じる。


「ワシらブロックマスターは、ブロックマスターとなった時点でひとつの固有スキルを授かる。……それがこれじゃ」


 空気が重く、暗くなっていく。

 パリパリと電撃が老人の周囲で渦を巻き、その身を黒く包み込んでいく。

 10秒ほどでその変化は止まり、老人の姿は無くなっていた。


 そこにいたのは、黒い鎧に身を包み、肌の一切を露出しない騎士。

 イヴァンさんとは思えぬ覇気が、ビシビシと飛んでくる。


 ついでに身長も高くなっていた。


「これが、ブロックマスターが本気で戦う際の形態【形骸化霊装強化骨格】じゃ」


「う、うそだー! 身長が高くなってるし腰もピンとなってる! そんなのイヴァンさんじゃないよ!」


「お、おおう。ザ・老人みたいな評価も、面と向かって言われるとけっこう来るもんがあるのう……」


 フンスフンス!

 なんなのあれ!

 強化骨格て! 

 どう見ても鎧ですけど!

 

 正直かっこいいです!

 ずるいです!

 私もほしぃぃぃぃいいい!


「ローズちゃーん、全力でやらないと死んじゃうかもしれないから頑張ってね~」

「翁! 至高のケツを傷物にしたら許しませんよ!」


 エナさんの忠告が思ったより重いんだけど、あのケツ趣味弓野郎のせいで緊張感が消えていく。


「ほっほ、そういう事じゃ。準備はいいかの……?」


 和んでいたはずの空気は、イヴァンさんのひと言で露と消える。

 重くのしかかるプレッシャーに、剣を握る手が震えた。

 

 でもこれは……大丈夫。


 ……武者震いだもの。 


「いつでもいけます!」


「良い覇気じゃの……!」



 剣のブロックマスターそのものである騎士が、地面を剣で打ち付ける。

 頭上高くまで上がる砂や岩。

 

「目くらまし……!」


 何かが横切ったのを、目の端に捉える。

 巨大な気の塊とでも言うべきそれが、既に後ろで気配を発していた。


 後ろに回り込まれた……!


 体を回転させている最中、それとは逆の方向に何かの揺らぎを感じ取った。

 本当に小さな違和感。

 それでも確かに感じ取ったそれ。


 気配は後ろ。

 でも、この感じは……!


 後ろへと向きかけた体を無理矢理正面に戻すが、背後から多大なプレッシャーが向かって来ていた。

 頭が後ろを向けと、強烈に訴えかけてくる。

 本能はそのまま前を見据えろと語りかけてくる。


 直感を信じて、前を見続けた。


 突如、前方を舞う砂煙や土砂の中から、騎士が姿を現し剣を横に薙ぎ払ってくる。


 現れてからほとんど一瞬だった。

 前を見ていなければ対応が間に合わず、真っ二つにされていたかもしれない。


 微かにそんな自分を想像しつつも、不思議と笑みがこぼれる。


「イヒ……!」


 斬撃を斜め上へと受け流し、そのまま刃を返す。

 騎士は剣から手を離し、地べたに這いつくばりるほど低い姿勢で躱すと、その体勢のまま蹴りを放ってくる。


 完全に返したと思っていた故か、動きが俊敏すぎるせいか。

 モロに脇腹に直撃し、踏ん張っていた軸足が宙に浮く。


 その隙をついて、騎士は宙を舞う剣の刃先を掴み、鍔の部分を振り下ろしてきた。

 そして直感する。


 これ、受けたら多分死ぬ。


 その直感が、受け止めるという選択肢を放棄させた。

 バランスの崩れた状態から長槍を発現させ、少しだけ斜めの縦設置で軌道を逸らす。


 後少しでも横に向いていれば逸らせなかっただろう。

 逸れた軌跡は、重く鈍いあの音を響かせていた。


「ほぉ……やりおる……」


 脚が地面についた瞬間、剣を横一直線に振るが、支えが不十分だったため威力が弱く片手で受け止められてしまった。

 そして硬直したところを、剣の柄で腹を突かれる。


「うぶッ……!」


 思った以上の衝撃に、体がくの字に曲がる。

 体勢を整えるために後ろへと飛び退いたが、これがいけなかった。


「愚か、退いて掴むる勝機なぞ無し……!」


 すぐに間合いを詰めてくる騎士。

 その連撃は凄まじく、防ぐだけで手一杯。

 いやそれどころではない。


 敷き袈裟(しきげさ)面割り面頬(めんわりめんほほ)本胴(ほんどう)大袈裟(おおげさ)唐竹割り(からたけわり)太々(たいたい)

 体中を斬り刻むという斬撃ではない。


 まさにそのまま斬り開くが如く、または斬り離すがための斬撃。

 まともに受ければ武器ごと体を、いや命を持っていかれるだろう。


 受け流していてさえ、次々と武器を交換しなくてはならない。

 騎士の斬撃に、2回と耐えきれる武器がなかった。


「ふぬ……うぎ……ッ!」


 反撃する余地などない。

 流れるような連撃に、付け入る隙がひとつも見いだせない。


 これが……ブロックマスター……!

 でも、ただやられるだけじゃ……面白くないよねぇ……!


 防御のための武器を、腕に対しての空中固定により一気に増やす。

 破壊されようがお構いなしに受け流しを行い、向きも長さもバラバラの武器で次の一手への躊躇を与える。


「……」


 どうだ!

 無理に攻めればこの武器たちに自らが斬り裂かれる!

 大胆に攻めては来れないはず!


「浅慮じゃな……」


 一振り。

 大きく薙ぎ払った騎士の剣は、ひと際大きな軌跡を作り出しながら私の出した武器全てを粉々に砕いていく。


 衝撃で吹き飛ぶ少女に詰め寄り、剣を振り下ろす騎士。

 その時騎士が見たのは、してやったり顔で微笑む少女の顔だった。


 振り下ろしたはずの剣は、いつの間にか宙を舞っている。

 そして視界に映る奇妙なもの。

 それは先端に宝石のような物が付いた鞭だった。


「なに……?」


 そのまま鞭は騎士の横腹を殴りつけた。

 数メートル飛ばされるほどの威力。

 自身の体にかかる圧力を制してすぐ、少女の姿を確認する。


 少し離れた位置にいる少女は、弓を引き絞っていた。


 すぐさま放たれる矢。

 短弓ではない、長弓による至近距離での攻撃。

 轟音を立て、弓は自分の道を形作るように軌跡を残していく。


 ギチッと歯を噛みしめる騎士。

 体を捻りながら、掠る矢の威力に鎧を剥がれつつも前に出る。


 その様子に、少女はギョッとした顔をしている。


 目標へと辿り着いた騎士は、依然として宙を舞っていた剣の刃先を握った。

 そのまま、剣に持ち替えた少女へと全力で振り下ろす。






 ふたつの軌跡が、残響を重ならせている。

 騎士が振り下ろした剣は、中腹から柄の先までが無くなっていた。

 少女の剣は騎士の喉元で止まっている。


「ほっほ、力み過ぎたかのう……。お主の勝ちじゃ、イズミ・サクライ殿」


「ぶはぁー! あ、焦ったぁ……」


 こ、殺されるとこだった……。

 弓で終わりのはずだったのにまさか躱されるなんて……。


 咄嗟に面絶ち(おもてだち)が出来てなかったら……。


 うん、多分死んでたよね。


「翁コラァじじぃがぁああ!!」


 ロウルさんだ。

 なんか怒声を発しながらこっちに走って来る。

 その後ろからはエナさんも来てる。


「殺す気ですか!? あなた最後完全に本気だったでしょう!?」


「んおー? そうじゃったぁ? ちょっと物覚えが悪くてのう……覚えておらんのう」


「ブロックマスターにボケが来るわけないでしょうが!」


 はは、騒がしいな……。

 あれ……。

 なんか体に力が入らないや……。


「しかし、よく勝てたわねぇローズちゃん。あの爺殺す気は無かっただろうけど、かなり本気だったと思うわよ」


「へへ、どうも……」


 あーなんか、怖かったような気もするけど……。

 楽しかったなぁ今の……。


 もう1回やりたいなぁ……。

 次はもっと上手くやれそうな気がする……。

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■ 本小説の世界の中で、別の時代の冒険を短編小説にしました。
最果ての辺獄

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