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005 スキルの将来性

「うぷ……」


 薬草の納品を終え、部屋まで戻ってきた。

 まだちょっと吐き気がする。


「この吐き癖を直さないと、冒険者としてやっていけないかも……」

「ピピ~?」


 ダリアはチョコチョコと回りで動き回っている。

 捕食したゴブリンの姿はもうどこにも見えない。


「そういえば、ダリアはすごいスライムだったんだよね。どこらへんがどうすごいんだろう?」

「ピ?」


 普通のスライムに比べると、その体は白く透き通っているらしい。

 らしいというのも、私はダリア以外のスライムを見たことがない。

 

 スライムはそもそも、地上には生息していない。

 主にダンジョンの中にいる魔物で、ゴブリンなどの雑魚とは比べ物にならないくらい強い。

 その体の特性から、黄プレート程度の冒険者なら逃げるしかないという。

 初めからそれなりに強い魔物なのに、更にそれの最上位格にあたるというのだから驚きだ。


 お母さんは分かってたのかな?


「でも結局、どう強いんだろう?」


 基礎ステータスが暴力的に高いとか?

 それかレアスキルてんこ盛り?

 

 ギルドでは魔物のステータス鑑定はできないらしく、そこは分からなかった。


「まぁそのうち分かるかな?」

「ピィ~」


「それよりも! 今はこっちのスキルだよ!」


 先刻獲得したスキル『適性武具霊装化』だ。

 名前から察するに、適性のある武器や防具を霊装? というのにできるんだろうけど。


「物は試しってね」


 家から持ってきた剣を手に持つ。

 いつも狩りについて行くときは粗悪な短剣だったけど、家を出るときにお父さんがくれた物だ。

 無銘ながらに良い剣みたい。

 

 少し細すぎる気もするけど。


 とりあえず、霊装化しろ! と念じてみる。

 すると剣が細かい粒子へと変わり始め、あっという間に消えてしまった。


「お、おお……? 消えちゃうの? え、待って返して! それしかないんだけど!」


 祈りが届いたのか、手元に光の粒子が集まりはじめ、すぐに剣が姿を現した。


「お? おおお! すごい! こういうことか! 持ち運びに便利ってことね!」


 装備した武器を戦闘時にだけ出せるようになったってことよね?

 重い武器とかもあるだろうし、すごい助かる!


「ってことは他のもいけるんだよね?」


 付けっぱなしだった胸当てに、同じように念じてみた。

 けれど何も起こらない。


「あれ……?」


 何度も繰り返したが、やっぱり何も起こらない。

 途中、何回か剣で試していたが、それはちゃんと成功する。


「何か条件があるのかな? 違うのは……」


 ああ、そうか。

 もしかしたら適性ランクが関係してるのかも。

 剣は確か適性ランクがAだったから、これが条件だと思う。

 他に分かりやすい違いも無いしね。


「じゃあ、適性ランクが上がれば他のも霊装化できるってことね! あ、でも適性ランクって上がるのかな……」


 後でザミさんとかに聞いてみよう。


「ふふふ、なんかやる気が更に出てきた……! ダリア! 次の依頼を受けに行こ!」

「ピピィー!」







 ◆







「はい! 今度は狩りをします! いいですかダリアさん! 目標はホーンラビット3匹です!」

「ピッ!」


 早速ギルドで納品依頼を受けてきた。

 納品対象はホーンラビットの角が3本。

 角を持つ小さなウサギで、ゴブリンよりも更に脅威度は低い。 

 場所も平原で、非常に見晴らしがいい。

 そのため、大きく警戒しなくていいから助かる。


「とりあえず、歩いて見てまわろっか」

「ピ~」


 景色を眺めながら少し歩くと、背の低い草むらの中に影を発見する。


「いた……!」


 ウサギが4匹。

 まとまって行動しているようだ。

 4匹とも角がある、ホーンラビットで間違いない。


 集中し、具象化させた剣を強く握る。


「行くよ! ダリア!」

「ピキィ!」


 ダリアが先行して突貫する。

 それに気づいたウサギたちは咄嗟に散開した。


 バラついてしまったが、1匹はダリアがその体の中に捕えている。

 残りは3匹、というかダリアに任せてたら角ごと溶かされちゃうね、まずいね。


 飲み込まれた仲間を見て、ウサギたちがダリアを激しく威嚇し始める。

 私のことは見ていない。チャンスだ。


 横から即座に近づき、剣を薙ぎ払う。

 その斬撃を受けたウサギは臓腑を飛び散らせながら一度宙に浮き、そのままぐったりと地面に落ちた。


 何この剣、すごい切れ味なんだけど……。


 切り裂かれた仲間を庇うように、2匹が私の前に出てきた。


「ビギィ……!」


 ダリアは捕食に夢中のようで、動く気配がない。

 でも大丈夫。

 これくらいこなせる!


 飛び掛かってくるウサギを躱しざまに斬りつけ、そのまま奥のウサギへと向かう。

 そのウサギは角をこちらに向け、迎撃態勢に入っていた。

 

「――!」


 私が到着するよりも早く、その角を突き刺しに飛んでくる。

 だが予備動作が大きいおかげで、なんなく躱す事が出来た。


 そのまま着地した隙を付いて剣で一刺しにする。

 小さく断末魔の悲鳴をあげたウサギは剣に突き刺さったまま、もがき始めた。


「あ、ちょっと動かないで!」


 爪で地面を掴み、剣ごとその場に固定してくる。

 骨にぶつかっているのか、切り払えない。


 そうしてモタついたところに、最初に飛び掛かってきたウサギが再度飛び掛かってきた。

 軽傷ではあるが、その動きはどこか弱々しい。


「ぬ、ぐぬぅ!」


 引き抜きながら力いっぱい剣を上に振り上げる。

 固定していたウサギの体を切り裂き、そのまま飛び掛かってきたウサギも両断する。

 

「はわぁ……」


 デコピンを放る時のような、力を溜めた形になったためか、両断されたウサギは綺麗に真っ二つだ。

 思いもよらぬ渾身の一撃に、自分でもびっくりしてしまった。


「……はっ! 倒したんだ! ダリア! やったよ! 3匹ともひとりで倒したよ!」


 振り返ると、ダリアはまだ捕食中だった。

 

「あ、見ないようにしよう」


 無事にホーンラビットを3匹撃破したが、今度はその体を解体しなくてはならない。

 その場に横たわる死骸たちの前へ行き、しゃがみ込む。

 

 ローズは淡々とウサギの解体を始めた。


「ふーんふーん、このウサギのお肉美味しいんだよね。持っていけば調理してくれるかな?」


 解体を進める手に淀みはない。

 8歳の頃から父親の狩りに付いていき、血抜きや解体などを行なってきていたので実はこういうのは当然平気だ。

 命を頂く以上、自分で命を終わらせることができないとダメだという、父の教えの賜物だった。


「ゴブリンじゃなきゃ平気なのになぁ……人型なのがダメなのかな……」


 吐いてしまう原因を考える。

 これはよくて何故ゴブリンはダメなのか?


 単純に、『生きている目玉がこちらを見ている』と連想できてしまうものに対するトラウマだった。

 これを克服する日が来るのかは分からない。


「ふぅ……。よし!」


 捌いた肉を、持っていた香草で包み鞄の中へと仕舞う。

 皮も丸めて鞄に入れる。角も一緒だ。


「ダリア行くよ~?」

 

 剣を霊装化する前に、血糊を頑張って拭いてみた。

 だが上手くとれない。

 仕方ない、戻ってからちゃんと拭こう。


「ピキィ~」


 すっかり消化を終えたダリアが寄ってくる。

 触腕を作り、小さな短剣を持っていた。


「あれ、どしたのそれ」


 どうやら拾ったらしい。

 わざわざ持ってきてくれるなんて、本当に賢い子。


「うーん、ただのナイフかなぁこれは……」

 

 武器はこの剣があるから必要ないし、売ればお金になるかな?

 二束三文かもしれないけど、アイテムゲットってとこだね。


「ありがとね。じゃ、もどろっかダリア」

「ピ~」


 剣を霊装化する。

 すると、持っていたナイフも一緒に粒子となって消えた。


「んえ……?」

 

 え?

 装備してたわけでもないのに、霊装化できた?

 もしかしてこれ、複数装備できるってことになる?


 出し入れ便利系のスキルかと勝手に思ってたけど、複数の武器を一度に霊装化できるとしたら……。

 その都度武器を変更して戦うとかができる……!?


 試しに、右手に剣、左手にナイフを出すように念じてみる。


 すると思い描いたようにふたつとも現れた。


「お、おおおお!? これはすごいかもしれない! いっぱいあった武器適性もこれで利用できるのでは!?」

 

 今のところ刀剣類だけっぽいけど、それだけでも十分すごいんじゃないかなこれ!

 

 夢が広がる~。

 スキルの可能性は無限大なんだね~。


 そして更に思いつく。


 ナイフだけを残し、剣を霊装化する。

 そのままナイフを振り、途中で剣と入れ替えるように念じてみる。


 これも思い描いた通りに実現された。


「きゃ~! すごい! これかっこいいかも! ダリア! ねぇ! すごくない!?」

「ピッピッピィ~」


 攻撃の最中に武器を変更する。

 私はこの事象を、単純にかっこいいとしか思っていなかった。


「あ、ちょっと暗くなってきたね。急いで戻ろ!」

「ピキィ!」


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■ 本小説の世界の中で、別の時代の冒険を短編小説にしました。
最果ての辺獄

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