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051 まるで絵にかいたような変態

「う、うげぇ……」


 第65階層。


 大広間と呼んで差し支えない空間に、巨大なネズミが1匹。

 体中からは虫が這い出し、絶えず蠢いている。

 ネズミの眼光は鋭く、真っ直ぐ私を見据えている。


「う、うわわわあああ!」


 その巨大な質量で押し潰そうと、何度も体当たりをかましてくる。

 躱しても這い出た虫が体を伸ばし、私を絡めとろうとしてくる。


「もう虫はいないかと思ったのにぃぃいい!」


 60階層を過ぎてからは、ほとんど虫を見なくなった。

 出てくるのはげっ歯類や爬虫類に蝙蝠など。

 そして、スケルトン系のファンタジー色の強いだけ。


 そのせいか、体から虫を生やすネズミに面を食らってしまった。


「ピ~!」


 ダリアの触腕がネズミの頭部を殴りつける。

 だが、大量の虫が庇うように集まりクッションを作った。


「なにあれ……ネズミを守ってるの……!?」


 共生関係。

 ひと言にそうは言っても、多種多様な意味が内在する。


 この場合は、複数種の生物が相互関係を持ちながら同所的に、互いに助け合いながら生きる事を指す。


 寄生されている、というよりは寄生させているのだろう。

 ネズミが虫を邪険に扱う様子はない。


「今は……、考えるよりぃもぉぉおおお!」


 間合いを詰め、黒い斧を発現。

 一息に群れる虫を切り刻む。


 反撃を入れてくるネズミの腕も斬り飛ばし、体勢が崩れたところへダリアの触腕が直撃。

 ギチっと歯ぎしりのような悲鳴を一瞬あげたネズミの首は、そのまま斧に刈り取られた。



「……ふぅ!」


 最初は胴体を真っ二つにとか思ったけど、大きすぎて無理。

 ダリアのパンチがナイスタイミングだったおかげで、首が狙いやすかったぜ。


「よくやったぜ相棒!」

「ピー!」


 それにしても、このネズミ……。


 よく見れば体中に縫い合わせたような跡がある。

 どう見ても糸で縫合したもの。

 まるで手術痕のような……。


 まだ生きている虫がいるので、不用意に近づけず、近くで観察する事はできない。

 というか気持ち悪いので近づきたくない。


 だが、これが人為的な物なのは明らかだ。


「一体誰が……」


 まさかブロックマスターが?

 だとしたら超会いたくない。


 暇すぎてこういうのが趣味になってるとかだったらどうしよう。


「うへぇ……」


 虫だらけのセーフポイント。 

 想像するだけで気分が悪くなってくる。


 そうでない事を祈りながら、ローズとダリアは先を進む。



 ――68階層。


 もうセーフポイントがある下層の終着点はすぐだ。

 過去最高到達階層を既に超え、ここらへんに人はいない。


 そのはずなのに、気配がする。


 松明が燃える音がパチパチと聞こえてくる。

 近づくと、鼻歌まで聞こえてきた。


「……」


 少し先のフロアから聞こえてきている鼻歌。

 その音の原因を確かめようと、ローズはコッソリと岩場から様子を窺う。


「フンフーン……。フフフーンフーン……」


 誰あれ……。

 なに……してるの……?


「アハハハー。いいぞ~、君は優秀だなぁ~」


 白衣のような衣装に身を包み、眼鏡を掛け、長髪を後ろで1本に結んだ男。

 その男は、椅子に座った男性の後頭部で何かしている様子だ。


 いや、何かをいじっている?

 白衣の男の腕は忙しなく動き続けている。


 座っている男性は縛られており、時折ビクビクと体を痙攣させていた。


「ん? あ、ちょっと……。もうちょっと……そう! 頑張って! 君ならいけるって! 大丈夫大丈夫! まだいける! ……あー!」


 何をしているのか詳細が分からないが、状況からなんとなく分かる。

 きっとあれは……。


 使い物にならなくなったのか座っていた男性を椅子から乱暴にどかし、男は舌打ちをする。

 その奥には、頭を麻袋で隠された人たちが5人ほど倒れていた。


「まぁいいやー。つぎつぎ~。あ、でもその前に」


 白衣の男は顎に手を当て、何かを悩んでいると思ったら。


「君は誰?」


 そう言って私の後ろから声をかけてきた。 


「――!?」


 咄嗟に剣を後ろへと振りぬく。

 だがそれは空を斬っただけで、白衣の男には当たらない。

 それどころか、後ろから声がしたと思ったのに見当たらない。


 フロア内へと視線を向けなおすと、先ほどと変わらぬ場所に立ちこちらを見ている。


「出ておいでよ~! ここまで来る冒険者なんて珍しいからお話でもしようよ~!」


 どうするダリア。

 ピ……。

 ……分かった。


 ローズはひとり陰から体を出して姿を見せる。

 足取りはゆっくりと、まだ距離があるうちから警戒を最大限に。

 白衣の男へと近づいていく。


「あなたはここで何をしているんですか?」


「ん~? 僕かい? 僕はねぇ~ここで実験をしてるんだ~」


「実験……? なんの実験ですか?」


「何ってそりゃあ、人間と魔物の融合さ~」


 は?

 漫画に出てくるようなマッドサイエンティストじゃん。

 風貌も絵に描いたようなそれだし。


「ここの寄生虫にヒントを貰ってね~。まずは脳にだけ虫を寄生させたらどうなるか実験してるんだよ~。君も埋め込んでみないかい?」


「……けっこうです」


「あ~そう? 出来れば協力してほしいなぁ。このモルモット達はきっと弱いからダメなんだと思うんだよね~。その点、お嬢ちゃんは強いでしょ?」


「こんな小さな少女のどこら辺が強く見えるんですかね……」


「何言ってるのさ~。ここは68階層だよ? 弱いのが到達できる階層じゃないよ~。それに、ここにいるって事はあのネズミも倒しちゃったんでしょ?」


 あのネズミ……。

 そういうことか。

 こいつが作ったのかあれを。


「ふふ、僕はね~。ケランドール・パラケルススっていうんだけど、お嬢ちゃんは?」


 どうする?

 正直に名乗る?

 いや、後々の事を考えれば、変にリスクを負うのは避けたい。

 なら……。


「イズミ……。イズミ・サクライです」


「ん~イズミちゃんか~。綺麗な名前だね~……でも見たとこ14、5歳? いやもう少し若い……?」


 ケランドールと名乗った男は、ぶつぶつとひとりで呟き始め、ある程度考え終わると再度口をひらく。 


「君、転生者かい……? いやそうだよね、そんな名前、転生者か転移者くらいしかいないもんね。若すぎるし、多分転生者でしょ。アハ」


「だ、だったらなんですか……」


 ダリア!

 早くしてよ!

 なんかこいつ怖い!

 デフォルトで気持ち悪い!


「アハ、アハハハハハハハ! いいね! いいよ! 転生者とか1回解剖してみたかったんだよ! 脳の構造は違うのかな!? 虫を入れたらどうなるんだろう! 気にならないかい!? やってみないかい!? ぜひやってみようよ! 君なら魔獣とか落とし子とかとくっつけても大丈夫なんじゃないかな! ねぇ! 試したいよね!?」


 う……本格的に狂ってる。

 やるわけないじゃん。


「でもねぇ。その前にねぇ」


 先ほどまでの笑顔が消え去り、暗い陰りが顔に張り付いた。

 そのままグルンと、後ろで横たわるモルモットと呼んだ者たちに視線を向ける。


「何してるの、スライム君」


「ピ!?」


 麻袋をされた者たちを縛るロープ。

 それを溶かして解いていたダリアだったが、突然向けられた激しい敵意に動揺する。

 

「ねぇ?」


 顔全体が黒く、見開いた目玉以外が見えぬ男に迫られ、ダリアは救出を諦めて颯爽とローズの元へと戻る。

 白衣の男性に近寄らぬよう遠回りをして。


「ダメだよ。これはわざわざ僕が自分で捕獲したんだから、それなりに苦労したんだよ」


 突如、空気が張り付いたような。

 剥き出しの害意を向けられる。


 それは動物や魔物、あの落とし子とも違う異質で気持ち悪いもの。

 生きるために向けられたものでも、怒りから向けられたものでもない。


 知的好奇心を満たすためだけの、命を賭すには確実に不純なもの。

 

 更には、股間が膨らみ始めテントが形成される。


「変態……」


「アハ……そんなこと言わないでよ。大丈夫、僕の実験は痛くないからぁああ!」 

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■ 本小説の世界の中で、別の時代の冒険を短編小説にしました。
最果ての辺獄

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