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050 黒寂の介入

指摘いただいた誤字の修正を行いました。

内容、流れに変更はありません。

 ――正午。


 もう何度目か分からない小競り合い。

 今日もいつもと変わらない防衛線が幕を開ける。


 そう思っていた。


「よう坊主。調子はどうだ」

「はは、変わりませんよ……しいて言えば体が怠いってことですかね」


「それは皆同じよ。ろくに休むことも出来ねぇんだからな」

「そうですね……」


 いつまで続くんだろう。

 毎日、毎日。 

 うんざりだ……。


「お前、軍に入って何年だ? もう3年くらいいるか?」

「い、いえ。まだ2年目に入ったばかりですよ……」

「なんだそうか。毎日顔を見てると、随分長い事いるように思えてくるな」


「そんなもんですかね」


 この人は僕がいる弓兵小隊の隊長殿だ。

 戦場に駆り出されて間もない頃から、こうやって世話を焼いてくれる優しい人。


 ん?


「今日はいつもより慌ただしいですね。何かあったんでしょうか」

「さぁなぁ……。俺ら下っ端には全然情報が下りてこねぇから分からねぇ。が、良い事では無さそうだ」


 ここに来て良い事なんて何ひとつ無かったというのに、更に悪い事が起きるのか?

 勘弁してくれ……。


 襲撃を知らせる警報が突如鳴り響く。

 やけに不安を煽ってくるこの音が、僕は大嫌いだ。


「っと、今日の奴さんはお早い出勤みたいだな。休憩は終わりだ。配置に着くぞ」

「は、はい!」


 早いと言っても、もうお昼だよ……。



 ――レグレス国境砦。


 イシュバルとレグレスの間に存在する国境から、レグレス側へ数キロの位置にあるくたびれた砦。

 防衛する側の僕らは、この砦の内側から弓を射るのが仕事。


 砦前には500ほどの歩兵が陣を敷き、ボロボロの砦に取りつかれるのを防いでいる。

 最も消耗の激しい前線歩兵。

 必ず日に数人死ぬ過酷な環境に身を置く者達。


 弓が得意で良かった。

 あんなところにいたら、僕なんて初日で死んでる。


「なんだありゃあ……」


 いつも中途半端な攻め方しかしてこない奴ら。

 適当な歩兵が、ちゃんと戦ってますよアピールをしているだけのそれとは、明らかに違う。


「なんだあの数……」


 弓兵ではあったが、僕はそれほど目がいいわけではない。

 それでも、ハッキリと分かる。


 今までの、いつもの小競り合いをする気が無い。

 趨勢を決めに来ているであろう軍勢。


「か、数! およそ8000!」


 8000!?

 こっちは1000もいないんだぞ!

 

 あんなに沢山、1度に攻め込まれたら間違いなくこんな砦落ちる。


 やばい。

 これは死んだ。


 死ぬ死ぬ死ぬ。

 

 僕はきっと今日死ぬんだ。



「て、敵陣内にて異常発生!」


 え、え?


「なんだよおい……何が起きてんだ……」


 びっしりと並んだイシュバルの軍勢。

 その端から人のようなものが宙を舞っているのが見える。


 遠目からでもハッキリと見える。


 な、なんだ……。

 あいつらに何かあったのか?

 襲われてる?


 や、やった……!

 英雄があそこにいる?

 いや、獣でも魔物でもなんでもいい。


 あいつらをあそこから追い払ってくれ!

 頼む、僕はまだ死にたく――。


「敵襲うう! 敵襲うう!」


「今度はなんだよ!? おい! 行くぞ坊主! 走れ!」

「え、あ、ま、待ってください!」




「――迎撃……を……総員……げい……げき。……げい……」










「少し早いな。待てなかったか」


「そのようですね」


 離れた位置に群生する林。

 その木々の上から、戦場を観察するアルケロと黒寂の団長。


 ふたりは介入戦闘には参加しない様子だ。


「どう見るアルケロ」


「30分ほどで終わるかと」


「ふふ、面白い事を言うなお前は。それは少し早すぎる」


「……あの程度の数に6人なら、30分でも遅いかと思いますが」


「あの場所だけなら10分もかからないさ」


「あ、ああ。その先も含めて……でしたか。思い至らず申し訳ありません」


「いや、くだらない問答をした。さて、どちらの観戦に行こうか」


「それでしたら、イシュバル側の方が見応えはあるかと……」


「……そうだな、賑やかな方がいい。多くが死ねばあいつも顔を出すかもしれない。先に行っててくれるかアルケロ……」


「承知しました。観覧席を作っておきます」


「ああ、頼む」



 戦場は見る見るうちに朱に染まっていく。


 危機を察して逃げ出す者。

 敵を認識して立ち向かう者。

 状況を確認しようとする者。

 死んでいる味方の亡骸を抱きかかえる者。

 ただ泣き叫んでいる者。


 誰もが衝撃で弾け飛び、臓物をまき散らし、圧力に押し潰され、儚い命を散らしていく。

 

 その様子を眺めていると、いつも何故か、あいつの言葉を思い出す。



 人の一生は非常に短い。僅か100年もしない内に死んでしまいます。何の価値もないと思いませんか?

 いずれ消え去る者が、その時に何を成そうと、後世に何を残そうと、意味などないと思いませんか?

 

 生きる事に意味などなく、死ぬ事にも意味はない。

 何を成そうと、何を残そうと、いずれ自身は消えるのみ。


 あなた方限りある者は、永劫でない存在は例外なく――。


「――無価値なのだから。だったか……」


 殺しを肯定するための体のいい言い訳か。

 自身を正当化するための酷く独善的な思考によるものか。


 ありえないほど極端なその考えに、何故か共感したのを覚えている。


「何処にいるんだ……? 寂しいだろう、クロ」


 そう呟く黒寂の長は、光の差さぬ瞳で戦場を見つめ続けていた。

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■ 本小説の世界の中で、別の時代の冒険を短編小説にしました。
最果ての辺獄

― 新着の感想 ―
[気になる点] 「なんだあの数……とありましたが「」の」が抜けています。 仕様ならすみませんm(._.)m
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