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047 悪魔の偽王国

「ウーエポンマースタ~ポンマスポンマス~ウェポンマスマス~」


 軽い足取りで平原を歩くローズとダリア。

 創作という点においては、姉妹仲良くセンスは壊滅的だった。


「ポーンポーンマースマース! ウーエポーンマースタ~」


 姉妹仲良くセンスは壊滅的だった。


「うん! いい歌が出来たと思わない!? ダリア!」

「ピ……」


 センスは壊滅的だった。


「なによぉ。そうでもないって言いたいのぉ? もしかして私の歌唱力の問題?」


 他愛無い話をしながら、国境へ向かう。


「あーでも寄っておいて良かった~」

「ピ~」


 レグレスへと向かう前に、挨拶のためにヘイルヘイムに寄ったのだ。

 そこでなんと、新しいプレートをもらった。


「じゃーん! どお! 似合う?」

「ピピ~?」


 胸の上で青く光を反射するプレート。

 そう、青プレートになったのです。


 本来なら昇格テストがあるらしいんだけど、誕生日という事もあってこっそり用意してくれてたみたい。

 実績も信用も十分だってさ!


 へへっ!


 そしてこれ、なんとレグレスに入国する際にかかるお金とか、取り調べとか免除する効果があるらしい。

 基本的にギルドというのは、それぞれの国に別個で存在する。 

 なので青プレート冒険者としての活動自体は出来ない。

 レグレスにはレグレスのギルド固有のライセンスが存在するからね。


 でも、ダンダルシアとレグレスは親和国なので、色んなライセンスで身分が証明できれば、諸々免除されるんだとか。


 白プレートだと、取り調べで何日か拘束されるんだそう。

 偽造とかもあるから、そういうの厳しいのかもね。


 まぁなんにしても万事順調です!

 この白プレートは記念に持っておく事に。

 

 大事に鞄に入れておこう。


「ん?」


 見慣れない本が入ってる。

 入れた覚えはない。


「なんだろうこれ……。『悪魔の偽王国』……まさかお姉ちゃん……」


 こんなものまで忍ばせておくなんて……!

 怪盗リーズシリーズを置いていくのを予想していたとでもいうのか……。


 とりあえず、今はそっとしておこう。


 

 ――30分後。



「うん。仮にも国境を超えるんだもんね。歩きとか無謀!」


 途中立ち寄れる街を発見したが、馬車は無かった。

 仕方なく徒歩で進み、すっかり夜。

 丸1日歩いたので疲れました。


 朝、ちょうど国境近くの村まで行く馬車を発見。

 やったぜ!


 数人の乗客と共に馬車に揺られていく。


 馬車の目的地カノッサまでの道中、暇だったのであの本を手に取った。


「まさか暇つぶしに利用できようとは……。いざ!」


 内容は、風変わりな物語と言えなくもないもの。

 69の悪魔が存在し、残った12体を倒していくお話。

 ただ、主人公の成長とか、心情の描写とか。

 そういったものが一切ない。


 代わりに、召喚するのに適した時間、儀式の手順、位階秩序の正当性。

 およそお姉ちゃんが思いつくとは思えない設定が、物語本編よりもかなり細かく記載されている。

 

 倒すべき悪魔の名は……。


「バエル……。マルファス……。ウォラク……。ベリアル……。ボティス……。プルフラス……――」


 そこまで読んで、猛烈に気分が悪くなってきた。

 吐き気がひどい。

 頭痛もする。

 関節の節々が痛む。 


「うっ……」

「おっとお嬢ちゃん、吐くなら馬車の外で頼むよ」


「ぷぁい……」


 馬車の後ろ側から頭だけ出し、胃の中の物を全て吐き出した。

 服が汚れなくてよかった……。


 でもそれどころじゃない。

 これ、絶対お姉ちゃんが書いたものじゃない。


 読み進めるたびに感じる違和感。

 一体誰がこんなものを。


 振り返ると、本が燃え上がっている。

 『悪魔の偽王国』と題されたそれは、宙に舞い上がり、パラパラとページを送りながら尚も燃え続ける。


 周りの乗客たちも、それを見て慄いている様子だ。


 数秒の間、空中で燃え続けたそれは、燃えカスも残さぬままに消えてしまった。

 

「ちょっとお嬢ちゃん! 馬車の上で火を使うのはやめとくれよ!」

「す、すみません!」


 御者のおじさんに怒られた。

 木の馬車なんだから当然だ。


 先ほど感じた強烈な痛みと吐き気は、いつのまにか治まっていた。


 なんだろう。

 なんであんな本が入ってたんだろう。


 これが実は、手の込んだお姉ちゃんのイタズラだったら……。

 いやないない。

 ありえない。


 じゃあお父さん? お母さんだったり?

 なんのために?

 

 そもそもこんな、途中で燃えて無くなっちゃうような本。

 持たせるならひと言くらい言うでしょ。


 善意なのか、悪意なのか。

 意図の分からない本の混入。


 いくら考えても答えは出ない。

 そういえば、ダンジョンでも分かんない事にずっと頭使ってたような気がする。


 あれ?

 すぐに切り替えたっけ?


 まぁいいや!

 これも考えるのやめよ!

 そのうちに分かるでしょ!

 

 せっかくの新たな旅の始まりに、つまんない事で出鼻をくじかれるのは嫌だ!


「~~~~!」


 気分を変えるためか、ローズはダリアを抱きしめて顔を擦りつける。


「ピピィ」


 体育座りで座ってしまったせいで、パンツが丸見えだった。

 他の乗客が顔を覗かせるのに気づいたダリアが、触腕を使い抱きかかえるようにそれを隠す。


 気づかないローズは、ずっとダリアの感触を楽しんでいる。


 そのまま1時間ほど、カノッサに到着するまで馬車に揺られていた。






 ◆






 カノッサで馬車を降り、そこから少し行くとすぐに看板が見えてくる。


 『ここより先、レグレス国領土』


 ついに国を飛び出す時が!

 初めての外国? にちょっとテンションが上がる!

 

 うははは!

 日本でも海外に行った事などないのに!

 

「行くよダリアー!」

「ピー!」


 相棒と共に、大いなる一歩を踏み出した。


「……」

「……」


 ……。


「そうでもないね」

「ピ」


 一気にテンションが下がる。

 先ほどまでの笑顔が嘘のように無表情だ。


 日本で海外に行くとなれば文字通り海を超える必要がある。

 陸続きの大陸で、外国と言われても正直ピンとこない。

 景色が変わるわけでもないので更にパッとしない。


 もっとこう……。

 なんかね。

 うん。


「行こっか」

「ピィ」




 そこからは歩き続けた。

 ダンダルシアとは違う木々や動物。

 出現する魔物も違う。

 

 そしてしばらくすると緑は見えなくなった。

 ほとんどが土、石、岩。

 お世辞にも豊とは言えない風景。


 行きついた街並みも、どこか疲れ果てた様子だった。


 私が暮らしていた国とは、大きく異なる惨状。


 なのに何故か、ゴブリンだけは全く同じだった。


「オロロロロロ」


 ひ、久しぶりにゴブリンで吐いた気がする……。

 

 後ろを見ると、既にダリアが蹴散らしてくれている。

 ゴブリン以外にも、でかいハチや巨大なバッタなど、虫系が多くて嫌になる。


 しかしダンダルシアの魔物よりは全然弱い。

 肥沃な大地であったほうが、魔物の育ちも良くなるのだろうか。


 そして3つの町を超え、今度は大きめの街に着く。

 どうやら城下町というもののようだった。


 遠目にお城が見える。


「はぁ……この街にも宿屋が無かったらどうしよう……」


 こんな暗くなるまでずっと徒歩。

 馬車どころか馬すら見かけない。

 

 おかげでもうクッタクタ。


 なんともくたびれた感じの街並みを歩いていると、唯一灯りが零れてくる店がある。


「あ、ダリア……あそこで聞いてみよ……」

「ピ……」


 扉を押して中に入る。

 客がひとりふたりいるのが見える。


 疲れた体を、半ば引きずるようにカウンターへと座る。

 ダリアはその横の席に飛び乗った。


「いらっしゃいお嬢ちゃん。何にする?」


「えーと、とりあえず水とメニューをください」

「おっとここは酒場だぜぇ? エールでいいかい?」


「水と、メニューを、ください」

「お、オーケー分かった。そう睨むなよ嬢ちゃん」


 眉間にだいぶシワが寄ってしまった。

 疲れているのです。


「はいよ、水とメニューだ」 


 せっかく違う国なんだから、郷土料理とか食べてみたいな。

 あ、これなんだろ。


「あー……。このサラダと……燻製肉のパルパソ焼き? っていうのをください」


「他には? これなんてオススメだぜぇ? そっちのスライムちゃんにどうだい?」


 出っ歯の店員さんが、紙を見せるようにこちらに向ける。


 そこには、『当店オススメ! ファンゴの骨付き肉!』と書かれてある。


「じゃあそれもください」


「あいよぉ! すぐ持ってくるからなぁ!」


 店員が注文を伝えにホールから消える。

 なんとも、あのテンションに今は付き合える気がしない。


「はー……疲れたぁ……」

「ピピ~」


 テーブルの上で腕を伸ばしてなんとか寛ぐ。

 ダリアは相変わらずだ。


 本当に疲れ知らずだなぁ。


「あいよ! サラダとパルパソ焼きだ!」


「はやっ!」


「おう! うちは早い! 高い! 旨い! がモットーだからな!」


 高いんかい。


 まぁでも、サラダは美味しそう。

 特に変わった様子はないけど。


 問題はこのパルパソ焼きの方。

 どんな料理なのかと思えば、ただの燻製肉にタレが掛かっているだけだ。

 パルパソの要素を見たかったんだけど。


「あの……パルパソってなんなんですか?」

「ん? なんなの、とは?」


「え、いや。料理方法の名前とかですか? 材料にパルパソってのがあるとか?」

「あー、嬢ちゃんも旅人? 踊り子とかそういうのかい?」


「冒険者ですけど……」

「冒険者!? そんなヒラヒラで!?」


「ダメですか?」

「え、いやそんな事は無いぜぇ嬢ちゃん。怒るなよぉ……」


 人を見かけで判断してはいけませんよ!

 

 ……ゲイルさんの顔がチラつく。

 今は失せろ!


「で、パルパソってなんですか?」

「魂さ」


 は?


「パルパソってのは、うちのシェフの名前だ。つまり、奴の魂が刻まれた一押しの一品ってわけだ」


 なんだそれは。

 なんの意味もないって事じゃん!

 違う国の郷土料理を期待したのに!


 ファッキン出っ歯!



 その後、ファンゴの骨付き肉が出てきた。

 かなりデカいしすんごい美味しそうだった。


 ダリアにちょっと交換しよう?

 とおねだりしたけど断られた。



「じゃあお会計、大銅貨8枚になりまーす」


 やっす!

 高いんじゃなかったんか!

 激安だよ!


 ちなみに貨幣価値を日本円にするとこんな感じ。


 小銅貨1枚=1円

 銅貨1枚=10円

 大銅貨1枚=100円

 

 小銀貨1枚=1000円

 銀貨1枚=1万円

 大銀貨1枚=10万円

 

 物価は基本的に日本と比べれば半分程度。

 それでもここの食事代は安い。


 ダンダルシアなら間違いなく小銀貨2枚くらい持ってかれる。


「まいどぉ!」


「あの……ここらへんで宿屋ってありませんか?」


「ん? 宿屋ならここを出て左に行けば、でっかい建物が見えるからそこだよ。そういや、あの兄ちゃんも旅の冒険者っつってたな」

「兄ちゃん?」


「ああ、青い髪の容姿の整った丁寧な青年だよ。ダンダルシアから来たとか言ってたかな。ひと月前まではよく来てたんだけどなぁ」

「え……」


 青い髪の?

 ダンダルシアから来た冒険者?


 それって。


「あ、あの! ご馳走様でした!」


 ダリアを抱きかかえ、私は駆け足で店を飛び出した。


「ありがとよー! またのお越しをー!」

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■ 本小説の世界の中で、別の時代の冒険を短編小説にしました。
最果ての辺獄

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