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046 準備期間

「どうしたぁ? 脇が甘いぞローズ!」

「甘くないし!」


 カルカスから戻って3日。

 3人と別れて、クライムさんに報告して、お父さんとお母さんにも報告して。

 あ、もちろん左腕を斬られた件は内緒。


 そして、これからの指針を明確にした。


 すぐには出ていかない。

 それは、1度出たら全てのダンジョンを回ろうと思っていたからだ。

 別にひとつひとつ行けばいいじゃん?

 ひとつ終わったら帰ってくればいいじゃん?


 遠すぎる場所だとそうはいかないだろうけど、両隣の国くらいならそう遠くはない。

 ただし、北東端の国々に比べて軽いとは言え、戦争の影響が無いわけではない。

 この国よりも危険なのは間違いないのだ。


 なので半年間で準備に専念する事にした。

 その間にお父さんから盗める技術は全部盗んでしまう。

 

 アルケロって人と戦った日から、後悔ばかりが頭の中を駆け巡っている。

 あの時、優先すべきものを秤に掛け、私は正しい選択をしたと思う。

 

 そのおかげでこうして生きているし、他の3人も、使用人の人たちも無事だった。

 

 でも、私がもっと強かったら。


 物資も奪われず、あの男を捕らえる事も出来ていたかもしれない。

 私なら、もっと上手くやれてたんじゃないかって。


 まだ人と戦うのは怖かったりするけど、それでも強くなって損はない。

 強くなればそれだけ、やれることも増える。


 それに私には元より、目標があったのだから。


 そう!

 ウェポンマスター!


 正直響きのカッコよさに惹かれているだけと言われても否定できない。


 でもなりたい!

 そういう伝説的な存在になってみたい! 

 その衝動が、以前よりも遥かに強くなってる!


 コアさんにも会いに行かないといけないしね。


 なので、ここで強くなれるだけなってからダンジョンの攻略に乗り出す。


 ということで、バッチコーイ!

 おらおらどうしたー!

 脇は甘くないぞオラー!

 やる気あんのかー!

 あーん?


「浮足立つな! 木剣といっても怪我はするんだぞ! 気を引き締めろ」

「引き締めてるし!」



 ――1日目。


 文句を言いながらも、お父さんに剣技、戦技の打ち方を教わった。

 1回でも発動出来ればスキルとして獲得できるらしいけど、全然出せない。

 指導の仕方が悪いのではないでしょうか。  



 ――2日目。


 基礎の見直しをすると言って打ち込み稽古が始まる。

 指導の仕方が悪いのでは、というひと言のせいだろうか。



 ――6日目。 

 

 模擬戦が始まる。

 細部の動きに注意しろと言われた。

 お父さんの動きが遅すぎて相手にならないと思っていたら、意識を外されたりして苦戦した。

 恐るべし父。

 学ぶべきことは他にもあったようだ。



 ――10日目。

 

 模擬戦は今後禁止となった。

 うん。

 ごめんねお父さん。

 強く生きて欲しい。

 


 ――15日目。 


 お母さんも加わって色々な戦技を見せてもらった。

 想像よりもずっと地味だった。

 物理系のスキルはそういうものらしい。


 もっとこう、ズバーって。

 シュバーってならないの?



 ――24日目。


 一向に使えるようにならない。

 才能がないのでしょうか。


 へこむ。



 ――37日目。  


 今日はお姉ちゃんの新作が完成した。

 私はヘイルヘイムで適当な依頼を受けて時間を潰した。

 明日帰ろう。



 ――39日目。


 お父さんの元気がない。

 超大作だったらしく、読み終わるまでにかなりの時間を使ったようだ。

 居眠りしてる。


 自主トレにしよ。



 ――40日目。


 ベッドの上に本が置かれている。

 私はそっと片付けて眠った。



 ――41日目。


 今日も本が置かれている。

 しかし片付けられない。

 お姉ちゃんの視線を後ろから感じる。



 ――44日目。


 なんでそういう展開になるの。

 お色気ものを書くなとは言わないけど、主人公の正体がお姉ちゃんだったとか暴露されたらもう続きが読めない。

 冒険譚とかにしてください。



 ――46日目。


 構成の甘さが目立つ。

 プロットの練りが甘いと言わざるを得ない。

 途中で矛盾も出ているし、これでは話の前後が繋がらない。

 ボツです。



 ――49日目。


 登場人物のキャラがブレブレです。

 もう少し固めてから書きましょう。

 日誌風にして尺を稼ぐのを2回もやるのはどうなの?

 楽だろうけどちゃんと考えよう?

 え? 

 これで最後?

 本当?



 ――55日目。


 長い悪夢を見ていた気がする。

 私は今すべき事を見失っているのではないだろうか。

 そう思い、剣を振る。


 己が身に掛けられた呪いが晴れていくような、そんな清々しい気分だ。


 汗を流すって素晴らしい。



 ――57日目。


 私は正気に戻った。

 おのれ姉上。

 許すまじ。



 ――72日目。


 つ、ついに!

 ついに戦技をひとつ使えるようになった!

 と言っても、獲得したわけじゃないみたい。


 見様見真似で何度も反復してたら偶然出た感じ。

 でも1回でも使えば獲得できるんじゃ……?



 ――85日目。


 あれからけっこうな量の戦技を使えるようになった。

 しかしひとつも獲得には至っていない。

 無理矢理発動させてるような、そんな感じ。


 だいぶ慣れたから、別に戦技として獲得できなくてもいいかなって思えてくる。



 ――104日目。


 今日はミランダさんとゲイルさんが遊びに来た。

 あのアルケロって人の調査が打ち切られた事を伝えに来てくれたみたい。

 だいぶ時間が掛かったけど、結局進展は無し。

 本物かどうかすら掴めなかったとか。


 せっかくなのでミランダさんの持ってる戦技を見せてもらうことに。



 出来るようになった。

 


 ――112日目。

 

 もうお父さんの指導はなくなった。

 後は反復していつでも出せるようにしよう。

 戦技というのは、結局のところ手軽に出せる技のようなもの。

 獲得してさえいれば、自分の力量以上の攻撃力を持つ技が出せるという理解で相違ないらしい。

 なので理論上はスキルが無くても放つ事ができる。

 魔術も同様だそうだ。


 勿論、十分な膂力があっても角度、拍子、力み、速度が関係してくるので通常は不可能との事。

 私の類まれなセンスがあって初めて出来るのだと、お父さんからメッチャ褒められた。


 嬉しいです。

 へへっ。



 ――130日目。


 もうどの戦技も淀みなく出せる。

 技、というのはやっぱりすごい。


 岩を斬ろうと思いきり穿てば、岩は粉々になるけど。

 戦技で同じ事をすれば綺麗に真っ二つ。


 スキルって先人たちの技術の結晶なのかな。

 もしかしたら、それを伝えやすくしたのが、この世界ではスキルなのかも。



 ――150日目。


 残すところ1か月。

 もうじき、何故半年にしたのかが判明するだろう。

 ふふふ。



 ――160日目。


 来たる日のために、お姉ちゃんが新しい小説を書いてるらしい。

 私に魔術が使えたなら……!


 燃やすのに……!



 ――179日目……。


「おめでとー!」

「おめでとう娘よ!」

「おめでとうローズ」

「ピッピ~!」


 今日は私の誕生日。

 そう、13歳の誕生日だ。


「いや~ははは。ありがとう!」


 テーブルの上に豪勢な料理が並ぶ。

 肉の焼けたいい匂いが鼻孔を刺激し、サラダの瑞々しさが彩りを飾る。

 ちょっとした果実酒まで用意されている。

 なんだかんだ誕生日を祝ってもらえるのはやっぱり嬉しい。


「では! ローズの13歳を祝ってー! かんぱーい!」

「「「 かんぱーい! 」」」

「ピッピー!」


 13歳か~。

 更に大人になっちゃったなぁ~。


「じゃあお姉ちゃんからはこれ!」


 うっ……!?


「じゃじゃーん! 『怪盗リーズの跳躍スキルが凄すぎて世界を軽く救っちゃいました!』全13巻セットだよ!」

「あー、ありがと……」

「ピィ……」


 い、いらない!

 しかも多い!

 全13巻て! いつ読むんだよ!

 変なアドバイスしたせいでラノベ感すごいし!


「は、はは……お母さんからはこれよ」


「え!? わー! きゃー! なにこれ! 可愛いー!」


 白と黒を基調にしたワンピースのような重ね着を意識した上着に、フリルの付いた黒いスカート。

 スカートに合わせた黒いヒール型のブーツ。

 よく見ればどれもバラの刺繍が入っている。


「お母さんが昔使っていたものを改修したから、お古ではあるんだけど素材は丈夫なはずよ。冒険に出ると言っても、女の子なんだから少しはオシャレしなきゃね?」

「うん! めっちゃする! ありがとうお母さん!」


「いいなー……」

「リーズにも今度作ってあげるわよ」

「ほんとー!? やったー!」


 服を抱きしめながら喜ぶ私の横で、約束を取り付けたお姉ちゃんも喜んでいる。


 あーでもこれ本当可愛い。

 テンションが否応にも上がる。


「お父さんからはこれだ」

「……? ペンダント?」


 小さくて主張し過ぎない可愛いデザインのペンダント。

 お父さんのセンスとは到底思えない。


「女神ロデュオンの加護が施されたペンダントだそうだ。きっとお前を守ってくれる」

「……ありがとうお父さん」


 可愛い。

 服も嬉しいけど、これはもっと嬉しいかもしれない。

 お父さんの気持ちが伝わってくるみたい。


「改めて、13歳おめでとうローズ。お父さんもお母さんも、お姉ちゃんも勿論。お前が帰ってくるのをここでずっと待っているからな。勿論、ダリアもだ」

「ピピ!」

「大丈夫。すぐ帰ってくるよ!」


「ああ、すぐ帰ってこい」

「うん!」


 父の胸に飛び込んだ私は、少しだけ涙目だったかもしれない。

 お父さんに抱き着くなんて本当に久しぶりだった。


 その夜、お酒に酔ったお父さんが潰れるまで、ささやかな家族での誕生日パーティは続いた。

 たくさん食べた。たくさん飲んだ。たくさん喋った。たくさん笑った。


 いっぱいいっぱい、お祝いしてもらった。


 来年も、こうして祝ってもらいたい。

 私も皆を祝いたい。


 そんな、家庭的な幸せを夢に見ながら、誕生日は過ぎ去った。



 ◆



「よし! 行くよダリア!」

「ピィ!」


 翌日、家族に見送られて、私はダンダルシアに隣接する国。 

 レグレス共和国へと向かった。


 お姉ちゃんの新作小説『怪盗リーズの跳躍スキルが凄すぎて世界を軽く救っちゃいました!』全13巻セットは勿論置き去りです。

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■ 本小説の世界の中で、別の時代の冒険を短編小説にしました。
最果ての辺獄

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