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042 御者

 失態と申し訳なさを抱えて進む、護衛依頼2日目。

 この日は1度の襲撃も無く夜を迎え、昨日のようにならないように気を張って見張りに従事した。

 ダリアナイトも禁止した。


 そのおかげか、見張り番もしっかり出来た。

 ダリアだけは丸々起きてたけど。


 そして3日目。


 今日には目的地であるカルカスに到着の予定だ。

 最後にこの森を抜ければすぐに見えてくる。


「……何人だ?」

「10から15……多くても20は無いと思います」


「ピ?」


 馬車の上で警戒し続けているダリアは、警戒を強める私たちに不思議そうな様子。

 それもそうだろう。

 ダリアが警戒しているのはあくまでも魔物。


 道中何度すれ違った旅人などは今まで無警戒だった。


 私たちは、不審な気配を察知し警戒していた。


「止まりましたね……」


 まだ何の姿も見えない。

 襲撃された様子もないのに突然止まるとは……。


 馬車から下りてきた行商人が、ニコニコと寄って来る。


「皆さん、お疲れでしょう? もうじき街には着きますが、その手前辺りが1番野盗に襲われるのです。最後に油断しないようここで休憩を挟みましょう!」


 全く姿を見せなくなっていたのに、急に調子がいい。

 薄汚い魂胆が丸見えだ。


「ささ、こちらで軽い食事も用意しましたので!」


 使用人たちが綺麗に盛り付けられた食事と、綺麗な瓶に入った水を持ってくる。


「いえ、私達はけっこうです。どうかお気になさらず」

「おや? そうですか? まぁ少し休憩したら進みますので、食べたくなったらお食べ下さいませ」


 誰がこの状況で食べるんだろう。

 どう考えたって一服盛られている。


 そそくさと戻っていく行商人を尻目に、ひとまず休憩のために腰を下ろした。


「どうやら、そういう事らしいですね」

「ですなぁ……。全く、これだから商人は……!」

「お前が持ってきた仕事だろうが」


 毒を盛って私たちを殺し、依頼のお金を払わないようにするって事だろうか。

 それとも毒で動けなくなったところを?

 まぁ即死系じゃなければ私に毒は効かないけど。


 今は分からないけど、待ち伏せていたであろう人数は10人以上。

 そっちに支払う方が高くつくんじゃないの?


「あの、これって私達を排除するためなんですよね? なんとなく、割に合わないんじゃないかと思うんですが……」

「ん? ああ、これはね。恐らく違約金狙いさ」


 違約金?


「護衛依頼は達成できなかった場合、その失った価値と同等の財貨をギルドが支払う必要があるんですぞ。恐らくはそのために、前4台は貴金属類ばかりなのでしょうな」


 保険みたいなものか。

 つまりこれは保険金詐欺!

 

 ……なんか違う気がする。


「でもそれって、抱き込んだ冒険者がいればいくらでも騙し取れるんじゃ」


「そこは信用問題ですよローズさん。護衛依頼は一定以上の信用がある青プレート以上が受けられる依頼なんです」

「え、でも私、白プレートなんですけど……」


「受注した方がその条件を満たしていれば問題ありません。信用のある人間が集めたメンバーならって事ですね。それに、受注者が生きてれば、負債は全てその冒険者に行きますから」


 なるほど。

 ランク昇格の条件に信用度があるのは、こういうのも関係してたのかも。


「それよりも、この後どうするかですね」

「先手を打つか?」

「こちらから手を出して、ただの旅人だと言い張られたら面倒ですぞ」


「うーん、じゃあこれ、食べちゃいましょうか」


「「「 え? 」」」


 毒を盛られたであろう食事を食べようと提案するザトラスさんを、私たちは目を丸くして見つめた。



 ◆



「ご、ゴルム殿! あの食べ物には何が入っていたのですか! 皆倒れてしまいましたぞ!」


「ん~? 食べたのですかぁ? あなたは?」


「私もひと口だけ頂きましたが! まさか何か……!」


「はーはっはっははは! 馬鹿ですねぇ! 本当に食べたんですか! あんなあからさまな罠を!」

「罠ですと……!」


「そうですよぉ……。後で使用人どもに別のものを持って行かせるつもりでしたが、手間が省けましたよ。まぁ毒といってもただの痺れ薬ですのでご安心ください。女ふたりは死なすにはもったいないですからねぇ。あ、男には価値がありませんので死んで貰いますがね?」


「まさか初めから……!」


「ええ、そうですよ? ふふふ、みなさぁあん! 出てきても大丈夫ですよぉお!」


 茂みから、数人の野盗が姿を現した。

 ボロボロの衣服に、薄汚れた顔。

 小汚い感じが全面に出ている。


「ん……? 他の方々はどうしたのです?」

 

 出てきた野盗たちは顔を見合わせる。

 その場にいるのは5人だけ。


 他の奴らが出てこない。


「まさかサボってるのですか? こっちはちゃんとお金を支払っているのですよ!」

「待て待て、今確認するからよぉ……」


 確認にふたりがその場を離れていく。 

 そのやり取りの隙を付いて、ゲイルが持っていた杖で商人の脛を殴りつけてローズたちの元へと駆け出した。


「あいたぁ! こ、この! あなたたち! あの神官を殺しなさい!」

「お、おう!」


 慌てて追いかけていた野盗たちは立ち止まる。

 なぜなら、痺れて動けないはずの冒険者たちが立ち上がったからだ。


「まだるっこしいなぁ……」

「でもおかげで、本性を簡単に見せてくれましたね」

「ゲイルさんの演技、すごかったです!」


 合流したゲイルが、振り向きざまにアッカンベを野盗に向ける。

 おっさんのアッカンベは、見るに堪えない醜悪さを放っていた。


「こんの……!」


 4人の冒険者を相手に、3人の野盗。

 状況的不利である事に、怒りで頭が回らないようだ。


 あのふざけた神官けでも殺す。

 そういう怒りを発しながら野盗は向かってきた。


「【トゥネル】」


 雷撃が野盗の体を数秒間走り続けた。

 多少皮膚を焦がした体をその場に倒れ込ませ、全身の筋肉が痙攣させている。


 大丈夫だ。

 死んでいない。


「お、おい!」


 確認のために離れた野盗が戻って来た。


「へ、変なスライムが! 襲って――」


 茂みから突如現れた触腕に、残った野盗は殴り飛ばされる。

 

 倒れたフリをする私達とは別に、ダリアが周囲の野盗を蹴散らして回っていたのだ。

 魔物にやられたのならば言い掛かりも付けられないという理由で、結局先手を打つ事に。


 そしてそれは上手くいったようで、戦闘をする必要が無いほどに勝敗は決していた。


 青ざめた商人はその場に座り込んでしまっている。


「あ、ああ……。そんな……。そ、そうだ! アルケロ! アルケロォ! なんとかしろぉ!」


 先頭の馬車から、あの御者が下りてくる。

 商人の代わりに取り次ぎをしていた、あの御者だ。


「旦那様、どうなさいました」

「どうもこうもない! 見れば分かるだろうが! 雇った野盗が何の役にも立たなかった! お前があいつらを殺せぇ!」


「畏まりました。まぁこれだけあれば十分でしょう」

「……は?」


 座り込んでいる商人の首が飛ぶ。

 飛んだ首は地面を跳ね転がり、草むらへと消えていった。

 残った首の無い体はドサっと横たわる。


「え……」


 ど、どういう状況!?

 なんで殺したの!?


「さて、皆さん。荷馬車を12台も守っていただいて誠にありがとうございます。おかげで十分な財貨と食料が手に入りました」


 喋り出す御者の声はひどく低い。

 取り次ぎの際に聞いていた声とは全然違う。


「後は、皆さんがいなくなってくれれば、万事解決というわけですが……このままお帰りになられませんか?」


「な、何を言って……」


「荷を全て置いて帰れ。と言っているのです。そちらの使用人を何人か証人に連れて行けば、依頼の成否を証明できるでしょう。この通り、依頼人も死んでいますしね」


 依頼人は確かに死んでしまったし、元より私達を殺すつもりだったのだ。

 今ここで帰っても何の問題も無さそうではあるけど……。 


「どうするゲイル……」

「わ、分かりません……。状況が立て込み過ぎてこの場合どうするのが最善なのか分かりません……!」


 冒険者としても、一般人としても知識が足りない私にも分からない。

 この場合どう行動すべきなの……。


「財産の持ち主が死んだ場合、その妻や子に継承されます。仮にいなかった場合は、国が一時的に管理し然るべき場所、人へと継承されるはずです……」


 さ、さすがは赤プレート!

 ザトラスさん詳しい!


「ふむ……。そうだとしても、護衛契約の破棄に十分な理由が既にあるはずです。もうあなた方が守る必要はないでしょう? 損害を馬車1台で済ませてくれたあなた方には感謝しているのですよ」


「だとしてもだ! あなたの言っている事は野盗のそれとなんら変わらない! ヘイルヘイムの冒険者として、そんな蛮行は見逃せない!」

「……確かにそうですな。目の前に悪い奴がいたらやっつける。それがうちのギルドでしたな」

「私は初めからそのつもりだ」


 皆やる気満々だ。

 それなら私だってやってやる……! 


「私もやります!」


 アルケロと呼ばれていた御者は両手をゆっくりと広げ始める。

 そしてその腕が地面と水平になると、どこからともなく出したふたつの短剣を握った。

 

「そうですか……。残念です」 

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■ 本小説の世界の中で、別の時代の冒険を短編小説にしました。
最果ての辺獄

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