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040 想定外の襲撃

 目的地であるカルカスまで。

 出来る事なら何も出てきませんように。


 そんな甘い願いが叶う事はなく、13台の荷馬車は案の定襲撃される。

 貴金属、食料、嗜好品。


 大量の荷を運ぶ私たちは恰好の的だ。

 容易に想像できた展開。


 ひとつ、想定と違う事があるとすれば……。



「ひとりで前に出すぎるな! 無理に倒さなくていい! 守る事だけ考えろ!」


「ザトラス殿! グラスグリズリーが馬車に食いつきそうですぞ!」


「は、はい! 【ドゥロ・トネル】……!」


 雷撃が走り、大きな巨躯を持つ熊の腕を焦がしていく。

 怯んだのか、熊は馬車から離れるように走り出した。


「なんで魔物が……!」


 護衛中に想定していたのは野盗の襲撃。

 だが、実際に現れたのは魔物だった。

 一応警戒はしておこうという話ではあったが、こんな数は予想していなかった。

 多くの魔物に取り囲まれ、13台という大所帯のために逃げる事もままならず歩みは完全に止まってしまっていた。


 ミランダさんが中心となり、使用人護衛たちに指示を飛ばしている。

 ザトラスさん、ゲイルさんはそのサポートとして要所要所で的確に動く。


 当の私はと言うと。


「次ぃ!」


 馬車隊列の右側を走り回り、接敵する魔物から切り伏せていく役を担っていた。


「ピィ!」


 同じようにダリアは、馬車隊列の左側を跳ねまわり、触腕で次々と殴り飛ばしていく。


 私とダリアが大部分をカバーし、隙間を縫って近づいてくる魔物をミランダさんの指示を受けたザトラスさんが迎撃する。

 荷を守るために手傷を負った使用人たちには、すかさずゲイルさんが治療を施す。

 ミランダさん自身も、自慢の斧で魔物を叩き潰していく。


 全体を見ながら自らも動き、周囲に指示を飛ばす。

 その指示が的確なものかどうかは私には判断できないけど、少なくとも私にはできない。


 ミランダさんって思っていた以上にすごい人かもしれない。



 手傷を負った魔物が退いていくのに釣られ、他の魔物たちもどんどんと姿を消していく。


 咄嗟に取った作戦だったが、なかなか型にハマったようで人的被害は少ない。


 だが残念ながら最後尾の馬車はズタボロだ。

 馬車としての機能を果たせない姿に変わり果てている。

 

「よし! もう一息だ! ふんばれよお前らぁあ!」


「「お、おおおおお!」」


 使用人たちが勝利を目前に湧いている。

 いや、勝利に対してではないかもしれない。

 生きている事に対して、なのかもしれない。



 しつこく食い下がる大きな虫の魔物を追い払い、全ての魔物がその場から姿を消した。

 残ったのは10数体の魔物の死骸に、荒らされた最後尾の積み荷。

 その馬車を引いていた馬は2頭ともどこかへ行ってしまって行方が分からない。


 もしかすれば、そのおかげもあって魔物たちは引いていったのかも。


「あーあー……荷が台無しだ……。こんの役立たず共が! 体を張って守らんかぁ! お前らよりも高いんだぞ! 馬鹿どもが!」


 魔物がいなくなるまで馬車の中にずっと隠れていた行商人が、無残な姿の積み荷を見て使用人たちを叱りつける。

 手に持った短鞭を振り上げ、抵抗できぬ者たちを叩いていく。


 こいつ……。


「やめ――」

「やめろ」


 止めに入ろうとしたら、ミランダさんが一歩早く行商人の腕を掴む。

 睨みつける目には微かな殺気と明らかな怒気が見えた。


「な、なんですか! これは私の使用人なのですからあなたには関係ないでしょう!」

「そうだな、関係ない。お前がこいつらを鞭で打つ行為自体は私には関係ない。だがお前の打つ鞭の音が耳障りだ。それは私に関係ある」


 う、うおお……かっこいい……。

 ミランダさん超かっこいいよ……。

 

「ぐ、ふん! ふ!? ふんぬぅっ!」


 掴まれた腕を振りほどこうともがくが、膂力に差がありすぎるためかビクともしない。

 

「なんだ? まだ鞭の音を響かせるつもりか?」

「ち、違います! 離してください! もう鞭は使いませんからぁ!」


 それを聞いてミランダさんはパッと腕を解放してあげた。


「ぬぅ……。おいお前ら! 残った積み荷はお前らが背負って来い! いいな! ひとつも――」

「【フィアンマ】」


 地上に散らばった積み荷が炎に包まれて燃えていく。

 ザトラスさんが魔術を突然放ったからだ。


「あ、ああああ! 何をするんですかぁ!」

「何って、魔物の体液が大量に付着していましたからね。燃やしておかないと疫病の原因になります。でも安心してください、今回は特別に無料で処理して差し上げますから。それに、前4台以外は護衛対象ではありませんでしたしね?」


「ぬぐぐぐぐぐ! そうですか! そうでしたね!」


 プリプリと怒って行商人は先頭の馬車へと戻っていく。

 腕をさすっていたけど、だいぶ強い力でミランダさんに掴まれてたみたい。

 隙間から赤くなってるのが見える。


「あ、あの……ありがとうございます。私どものような者のために……」

「いえ、気にしないでください。虫型の魔物が疫病の原因になるのは本当ですから」


 疫病の原因になるの?

 まじで?


「お、先頭が進み始めましたぞ。行きましょう」


 4台目の馬車へと足早に戻る。

 後続の馬車に追随する使用人たちは、心なしか笑顔を向けてくれている気がする。


 ザトラスさんとゲイルさんが、その笑顔に対して軽く会釈を返していた。 


「しかし、やりますなザトラス殿。拙僧スカッとしましたぞ!」

「いえ、それを言うならミランダさんですよ。あの鞭を止める理由が私には思いつきませんでしたから」


 私も思いつきませんでした!


「別に、鞭の音が嫌いなだけだよ」


「いえ! 私もダリアもかっこいいなぁと思って見てました!」

「え、そう? じゃあローズちゃん……」


 両手をこちらに広げ、何かを待っているミランダさん。

 もしかして来いって事?


「ご褒美を……」


 え、どうしよう。

 女同士だけど、こういうのって大丈夫かな。

 まぁそれくらいいいか。


 ダリアを抱えたまま、背中を向けてミランダさんの胡坐をかいた足の上に座り込んでみた。


「ふぉおおおお!? ローズちゃんが……! 足の上に……!」


 あ、両手を広げてたんだからハグの方だったかも。

 まぁでも喜んでるみたいだしいいよね。


 ハグの方がなんか恥ずかしいし。 


「ろ、ローズ殿。拙僧もだいぶ頑張りました……。それはもう、鬼人の如き活躍でしたぞ……」


 今度はゲイルさんが両手をこちらに広げてくる。

 目までつぶっている。


 なんでちょっとキス顔なの。

 キッツ。


「ローズ殿?」


 いや絶対行かないよ!

 待たなくていいよ!

 さすがに無理だよ!


 それに鬼人の如くなら少なくても私の方がそうだったと思うよ!?


「いつでも構いませんぞ?」


 正面でずっとキス顔をしている老け顔の神官さんは、耐えきれなくなったダリアに触腕で殴られ、その場に横たわった。


 こ、これは自分も同じことをする流れなのかっ? とザトラスは両手を上げるべきか悩んだ末、横たわる事になった。








「クソっ……! あんの貧乏冒険者どもが……! もっとしっかり積み荷を守らんかい! 役立たず共が!」


 先頭の荷馬車の中。

 荷があるはずの場所に出来た優雅なスペースで、ひとり何かを飲み食いしている行商人。

 まるでドライブでもしているようだ。


「穏便に済ませてやろうと思っておったが……これ以上荷が失われたなら、その分の埋め合わせはせんといかんなぁ……!」

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■ 本小説の世界の中で、別の時代の冒険を短編小説にしました。
最果ての辺獄

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