039 狡賢い行商人
「おはようございます!」
「ピィピピー!」
今日は商隊護衛依頼の日!
集合場所はここ、ヘイルヘイムの北側出入り口。
集合時間はお昼前!
遅刻などしない!
「おはようございますローズさん、ダリアさん。随分と早いですね」
「ザトラスさんこそ! でも少し早すぎましたかね?」
張り切り過ぎてちょっと早く着いてしまった。
家のあるサムワリ村から、初めてヘイルヘイムに来た時は確か4時間くらい掛かったっけ。
今は1時間半くらいだ。
足腰がだいぶ強くなりましたよ!
不思議と全然疲れない!
私つよい!
「まぁ遅れるよりはいいと思いますよ。それより、なんか真新しい傷が出来てませんか?」
「あ、あははー。これはちょっと……特訓をしまして!」
「特訓ですか。既にこの街で1番強いかもしれないのに、向上心がすごいですね……」
「そ、そうですかね……」
ステータスではそうかもしれないけど、まだまだ駆け出しなんですよ私。
白プレートなんですよ。
忘れないでお願い。
「あ、来ましたね。ふふ、なんだかんだ皆さんお早い」
ゲイルさんが、馬車とそれに乗った男性と共に合流した。
どうやらこの荷馬車が護衛対象のようだ。
だけどちょっと。
思ってたよりも……。
「はは、早めに来ようと思っていましたが既におふたりともおられましたか」
「おはようございますゲイルさん。ミランダさんは?」
「ああ、ミランダ殿なら4つ目の馬車の中ですぞ。少々困ったことになりましてな……今はだいぶ機嫌が悪いのです」
機嫌が悪い?
もしかしなくても、この状況が関係してるのかな。
「そうですか。それにしても、その……随分と多いですね……」
そう、護衛対象と思われる荷馬車はざっと見ただけでも10台。
えーと……正確には13台だね。
元々聞いてたのは馬車4台の護衛。
最悪ひとり1台を護衛するっていう作戦。
そのための最低4人パーティだったのでは。
「これはこれは! あなたが赤プレート魔術師のザトラス様ですか! 私は行商人のゴルムと申します。今日はどうかお願いしますよ!」
小太りのおじさんが馬車から降りてきてすぐ、ザトラスさんにすり寄っていく。
「え、あ、はい……よろしくお願いします……」
「ほほほ、前髪でお顔はよく見えませんが……なかなか男前の様子……。よければ髪飾りなど如何ですか? お安くしますよ?」
「い、いいえけっこうです。それよりもこの馬車の数は一体……」
「ああそれはですね。いつものような黄色や青ではない、赤プレート冒険者様が護衛に付いて下さるという事でしたので、今回一気に荷を運ぼうと思いましてな! なぁに! ザトラス様なら余裕でございましょう?」
なんだそれは。
そこら辺の契約ってどうなってるの?
新米の私には分かりません、教えて先輩! そして言ってやって!
「当初の契約では4台のはずです。これでは契約違反となりますので御受けできませんが……」
そーだそーだー!
いってやれー!
「やや? 先ほどよろしくお願いしますと、了承してくださったではないですか? 口約束と言えど、それは契約したことになるのでは?」
ちょっと!
それは屁理屈でしょ!
「で、ですがこんな数の馬車を守る用意などしていません! 料金も割も合わない! そうでしょう? ゲイルさんもなんとか言ってください!」
「拙僧もそう言ったのですが、青プレートのいう事など聞けぬという事でしてな……」
「冒険者をランクで差別しているのですか……!?」
あーこれか。
ミランダさんが機嫌の悪い原因はこれに違いない。
そんで、その場合私とかどうなるんだろう。
白なんだけど。
「いえいえ滅相もありません。ただ、最もランクの高い方に決定権があるだろうという配慮でございます。まぁですがそうですね。ならば当初の予定通り4台だけで構いません。前側4台の馬車、これの護衛をお願いしたいと思います」
「前4台だけ……?」
「はい! それ以外は野盗に襲われようが魔物に食いつかれようが無視してくださってけっこうです!」
「そ、それは……。ゲイルさん、どう思いますか……?」
前4台だけなら、契約と変わらないのかな?
ついてくるだけって事?
え、でもそれって……。
「分かりました……。ですが、馬車の量が増えて死角が増えています。警戒の仕方を変える必要がありますので、料金は倍にしていただきたい」
「承知致しました! 受けていただけてこちらも大変うれしく思いますよぉ! では金額も変わりましたし、こちらの契約書にサインをお願いします。私が後で元の金額だと言い出しても困るでしょう?」
終始ニコニコしている行商人のおじさん。
なんか気に入らない。
ザトラスさんは1度ゲイルさんと顔を見合わせ、渋々サインしている。
私は参加させてもらってる身だし、ふたりが決めた事なら従おうと思う。
正直かなり胡散臭いし、なんか騙されてる気がする。
「して、失礼ですがそちらのスライムを持ったお嬢さんは?」
「あ、私も冒険者です。この子は私の相棒ですので、今回同行させていただきます」
「ん~? 白プレートォ……? まぁ構いませんが……」
サインを終えたザトラスさんが、紙を突っ返しながら私を援護してくれた。
「この子は白プレートですが優秀な冒険者です。見下すような目を向けるのはやめていただけませんか」
お、おおう。
なんかこうして庇われるとキュンってする。
いやいやダメダメ。
ザトラスさん見た目よりも年齢いってるらしいし!
そうじゃなくてもちょっと好みじゃない。
というかまだ12歳だから不要!
「おっと、失礼を働いたようで申し訳ありません。仕事さえちゃんとこなしてくれれば文句はありませんよ」
そう言いながら契約書を確認する商人には、悪びれた様子がない。
コイツ嫌い。
「ふむ、契約書は問題ありませんな。では早速出発しましょう! 何か出てくるまで皆さんは4台目の馬車でお休みください!」
不安を残しながら、私たちは隣町へと出発した。
◆
やられた。
人の良さに付け込んだ詐欺だよこれ。
「あ、あれが護衛だと言うのですか……」
前4台以外の馬車には、行商人が用意したという護衛が付いている。
しかし、どう見ても使用人に粗悪な装備をさせただけのものだ。
私たちが住むこの国『ダンダルシア』では、全面的に奴隷が禁止、廃止されている。
だが、使用人という名目で同じような扱いをする者がまだいるそうだ。
奴隷と違って衣食住はしっかりしているが、それでも従事する仕事内容は苛烈を極めるものが多いとか。
「あんなの、奴隷と何が違うんだ……」
「申し訳ありませんザトラス殿、ローズ殿。それにダリア殿も……。拙僧がこんな依頼でパーティなど募集したばっかりに……」
「い、いえ! ゲイルさんのせいではありませんよ! あの商人がいけないのです!」
「私もダリアも気にしてません!」
「ピー!」
でも、やっぱりこれは断るのが正解だったんじゃないかと思う。
だってこれ、4台を守るじゃ絶対済まない。
少なくてもザトラスさんの性格なら、使用人で構成された護衛が襲われたら助けに行くだろう。
見捨てるなんて出来る人じゃないと思う。
「4台目の馬車に乗せたのも、これを見せるためだろうな……」
ミランダさんが口を開いた。
かなり怒ってる感じ。
怒気を孕んだ声が低く響いてくる。
「奴隷扱いの護衛をあたしらに守らせようって魂胆が丸見えだ」
「守る義務はないはずですが……」
「ザトラスさんよ。あんた、あれを見捨てられるのかい?」
荷が多く、けん引する馬も2頭ずつのためか馬車の速度は遅い。
人が歩くのよりもちょっと早い程度だ。
その速度の馬車の横を、追随して歩く使用人たち。
全員が全員、疲れ切った表情をしている。
「……ッ」
噛みしめる唇が、ブツっと切れた音がする。
「……すみません。私は、いつも誰かの後に付いていくだけだったので、こういう事の判断力が弱いようです。口車に乗ってまんまと契約させられた私の責任です」
座り込み、顔を俯かせるザトラスさんだったけど、すぐにミランダさんがフォローする。
「まぁそんな気にすんな。受けちまったもんは仕方ない。私もイラついてて止めなかったしな。なるようになるさ。やれることをやればいいだけだよ」
「……そうですね……。ありがとうございます。……魔術師として精一杯頑張ります!」
「わ、私も頑張ります!」
「ピー!」
「拙僧も頑張りますぞ!」
「エセ神官、お前は戻ったら説教だ」
「自分で悔い改めますのでご容赦を……」
「却下だ」
「おー神よ……私をお救い下さい……」
「ふふ……」
ゲイルさんとミランダさんのやり取りで、笑みがこぼれ始める。
ちょっと雰囲気が良くなってきた。
嫌な雰囲気で始まった仕事だったけど、ずっと重い空気のままだと嫌だったから助かる。
冒険者として人と関わってれば、いつかはこういう気分の悪い仕事に当たると思ってたけど。
白プレートの内にそれを体験するとは思わなかったなぁ。
「そういえばローズ殿、聞きましたぞ。あの英雄殿とお会いになったとか」
「あーはい。そうですね。その時は気付かなかったんですけどね……」
「それは羨ましいですね。私もひと目見ておきたかった」
「大陸の端からだと、2か月はかかると言う話でしたが随分早く到着されたのですね。やはり規格外という事ですかね。ちなみにどんな方でしたか? 拙僧は筋肉もりもりの屈強な女性だとお聞きしましたが」
「細身の綺麗な方でしたよ。ちょっと変な人でしたけど……」
「大丈夫、ローズちゃんの方が絶対可愛い」
「あーははは、ありがとうございます!」
突然褒めないで!
ミランダさんのキャラが本当に掴めないんだけど!
そんな当たり障りのない会話をしつつ、隣町のカルカスへと向かう。
馬車特有のゴトゴトという揺れに身を任せながら。




