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003 能力鑑定

「何を言ってる! お前はまだ12歳だろう!」

「12歳は立派な成人でしょう!? ならなんの問題もないでしょう!?」

「お前は女の子だろうが! ちょっと腕っぷしがあるからって冒険者を甘く見るんじゃない!」


 お父さんが全力で反対してくる。

 そりゃあ12歳の女の子がいきなり冒険者になるって言ったら反対するだろうけど、お母さんも12歳で冒険に出たって言ってたし!

 いいじゃん!

 

 スローライフ決め込もうとも思ってたけど暇なんだもん!

 無理! 

 退屈! 

 死んじゃう!


「お母さんも言ってやってくれ……。ローズが我儘を言い出してる……」

「ええそうね。……ローズ? あなた冒険者になるって言うけど、具体的にはどんな冒険者になるつもりなの?」


 ふふ、そんなの勿論、既に決めてあるわ!


「魔術師になりたい!」

「それは無理ね」


 え!?

 なんで!?


「お父さんもお母さんも魔術素養が無いもの。その娘であるあなたにも、魔術素養は無いわよ?」

「そ、そうなの……?」

「ええ、そうよ」


 え、え~……。

 ファンタジー世界なんだから魔法とか使ってみたかったのに……。


「それよりも、お父さんの得意な剣で行ってみたらどお? 使い方は教えてもらってたでしょう?」

「剣かぁ……。いちおう一通りは使えるようになってると思うけどぉ……」


 うーん、別に剣が嫌いなわけじゃないんだけど。

 

「魔術も、完全に使えないわけじゃないし、おいおい覚えていけばいいのよ。まずは安定した戦闘能力を確保しないと、本当に大変よ?」

「なるほど……。じゃあ最初は剣で頑張ってみる!」

「ふふ、それがいいわ」


「ちょ、ちょっとまってお母さん。引き留めてくれてると思ったんだけど、なんか違くない?」

「あら、私は11歳の時に冒険者になったのよ? 12歳のこの子なら大丈夫よ」


「大丈夫じゃあなあああああああああい!」


 今日のお父さんはテンションがなんか高いなぁ。

 ハハ。


「自分の娘なんだぞ! 14歳のリーズだって家の手伝いをしてるんだぞ! 12歳のローズが冒険者になんてなれるわけないだろう!?」

「あら、あなただって12歳の成人と同時に冒険者になったんでしょ?」

「俺は男だからいいの!」

「私は女で11歳よ? お隣さんところのマルクス君だって、こないだ12歳になって冒険者になる~って出ていったじゃない」

「マルクス君は男の子だろう!?」


 この世界では、12歳で成人となり大人と同じ扱いを受けるようになる。

 そうなれば皆、それぞれ自由に生き方を選ぶようになるのが普通で、貴族とかじゃない限りはその意思を尊重される。

 だから私の意思も尊重されるべきだと思う!


「全くもう……もう成人してるんだから、ローズのやりたいようにさせてあげなさいよ」

「いやだいやだいやだ! ローズはお父さんと一緒に暮らすんだー!」

「はぁ……」


 お母さんがため息をついてる。

 この駄々っ子の父親を見てたら、私までため息が出そう。


「よし分かった。なら条件がある、ダリアも一緒に連れていくんなら渋々許可しよう」


 渋々って言っちゃうんだ。

 でも初めからダリアは連れていくつもりだったから問題ないよ!


「「え!?」」


 お母さんと、少し離れた位置で聞いていたリーズお姉ちゃんが反応した。

 

「それはほら……ダリアは家族の一員だし? 無理に連れていく必要ないんじゃないかなぁ?」


 お母さん?


「私もダリアは家にいた方がいいと思うなぁ」


 お姉ちゃん?


「ね、リーズもそう思うものね?」

「うん! 思う!」


 こ、こいつら……!

 私のことは引き留めないくせにダリアのことは引き留めるのか……!

 冒険者にはなりたいけどすんごい複雑なんだけど!


「ならダリアに決めてもらおう! ダリアがローズに付いていくって言うなら、冒険者になってもいい。だが、ダリアが行かないのならば、冒険者になるのは無しだ! いいなローズ?」


 なんか勝手に話をまとめられてる。

 

「うん、いいよ」


「じゃあダリア! ローズと一緒に冒険者になるのならローズのもとへ! そうでないのなら俺かお母さん、もしくはリーズのもとへ行くんだ!」


 ダリアは最初こそ右往左往していたけど、すぐに私のもとに来てくれた。

 ふふ、やっぱり私と一緒に居たいもんねー?


「「「 ああああああ!! 」」」」


 3人が膝から崩れていく。

 お父さんは私のことなんだろうけど、お母さんとお姉ちゃんはダリアが居なくなるからよね。

 

 え、私に行ってほしくないのはお父さんだけなの?


「うう、ダリアが自分で決めたことなら仕方ないわね……。ダリアと一緒にこっちにいらっしゃいローズ」






 ◆






 今私は、商業都市『ヘイルヘイム』へと向かって街道を歩いている。

 故郷であるサムワリの村から、歩いて3時間といった道のり。

 思ったよりもきつい……。


 しかし、出てくる時のお父さんの諦めの悪さと言ったら酷いものだった。

 あんなにかっこ悪い父を見たのは初めてかもしれない……。


 それよりも、お母さんが私とダリアをテイム状態にしてくれたことの方が重大だ。

 今までは問題なかったけど、さすがに大きな街にそのまま魔物を入れると騒ぎになっちゃうから、ということだった。


 スライムと言えど確かに魔物。

 そんなこと全然考えてなかった。


 でもこれで、私も冒険者になれる!

 まだ見ぬ私自身の実力がきっと開花するはず!


「ピキィ!」

「ふふ! 楽しみだねダリア!」


 期待に無い胸を膨らましつつ、軽やかな足取りで街道を進んでいく。




「着いたー!」

「ピキィー!」


 と、遠かった。

 いやほんと割としんどい。

 子供の足じゃあ3時間なんて無理でしょ……。

 結局4時間も歩きっぱなしだった……。


 それにしても、すごい人の数。

 街並みもすごい立派だ。

 サムワリの村がどれだけ田舎だったのかが分かる。

 これが都会か……!


「とりあえず、ギルドを探そっか」

「ピー!」


 はぁ、ダリアがいてよかった。

 なんだかもう心細くなってきちゃったよ。

 でもこのまま帰ったりしたら、お母さんに怒られるかも……。


 あ、ここかな?

 冒険者ギルド発見!


「よし! 行くよダリア!」

「ピッピィ!」


 扉を開けて中へと足を踏み入れる。

 そこには屈強な冒険者に、知的な魔術師たちの姿があった。

 実用性に長けた装備のせいだろうか。

 彼らの誰もが輝いて見える。


 ついに、私も冒険者になるんだ!


 先ほどまでのホームシックはどこかに消えてしまっていた。


 駆け足で受付まで向かうと、お姉さんが優しく対応してくれた。


「いらっしゃいお嬢さん。依頼に来たのかな?」

「違います! 冒険者になりに来ました!」

「……え?」


 ギルド内の冒険者たちがが一斉に注目する。

 私なんか変なこと言った?


「えーと、年齢を教えてくれる?」

「12歳になりました!」

「うーんとね。お嬢さん? 冒険者には16歳からじゃないとなれないの? 知らなかった?」

「え……!? で、でもでも! お父さんもお母さんも同じくらいでなれたって!」

「昔は今ほど平和じゃなかったし、仕事も無かったからそこらへんは緩かったのよ……。ごめんなさいね。規則だから、また4年後に来てくれる?」


 え~うそ~……。

 まさかの即日出戻り?


 うう、かっこ悪い……。これはかっこ悪いぃ……。


「ピキィ!」

「あら、スライム? もしかしてあなたテイマーなの?」

「え……?」


 お母さんはテイマーだけど、私は違う……と思う。

 というか、職業の概念ってどういう仕組みなの?


「ちゃんとテイムされてるみたいね……。せっかくだし、能力鑑定だけでもしていく? 4年後に向けた方針も決まるかもしれないしね!」


 記念受験みたいなもの?

 まぁでも一応やってもらおうかな。

 自分のことを知っておいて損はないしね!

 うん!

 切り替えて次のことを考えよう!


「していきます!」

「ふふ、じゃあこっちにいらっしゃい」


 お姉さんに案内され、地下へと続く階段を降りていく。


「はい、ここで鑑定を行います! そのスライムちゃんの名前は?」

「ダリアです!」

「じゃあダリアちゃんは、あっちの部屋に行きましょうね。正確な種別を調べます!」


 別のお姉さんにダリアが連れていかれた。

 頑張れダリア!

 なんならすごいスライムであれ!


「で、お嬢さんのお名前は?」

「ローズ!」

「あら、綺麗な名前ね。じゃあこの水晶に触れてくれる? これは適性鑑定するための水晶でね、持ってる適性を全部教えてくれる優れものなのよ~。レアな適性がひとつでもあれば有望株になれるわよ~」


 あ、ちょっとドキドキする。

 

「い、いいですか?」

「ええ、どんと触っちゃって!」


 恐る恐る手を触れてみると、目の前にウィンドウビジョンが映し出された。



『ローズ・クレアノット


 【武器適性】


   刀剣武器類 :A

   鈍器武器類 :B

   竿状武器類 :B

   投擲武器類 :B

   射出武器類 :B

   格闘武器類 :B

   魔術武器類 :B   

   その他武器類:B

   

 【防具適性】   


   鎧系統   :B

   盾系統   :B

   兜系統   :B

   靴系統   :B

   衣類系統  :B

   魔布系統  :B

   

 【装飾適性】

 

   全適性   :B


 【魔術適性】

 

   無し


 【技能適性】


   物理系技能 :B  』



「え……」


 あら、見事にBばっかりだ。

 唯一刀剣武器類ってのがAだけど、これはお父さんのおかげかな?

 魔術適性の無しが一番悲しい。

  

「あの、これっていい方なんですか?」

「え? ええ、悪くないと思うわよ? ひとつだけどA適性もあるしね!」


 じゃあやっぱり、剣メインの冒険者になるのが無難かなぁ。


 バタン! という大きな音と共に扉が開かれる。

 そこは先ほどダリアが入っていった部屋だ。


「たたたたいへんです! あのスライム! あれ!」

「な、なに!? 落ち着きなさい!」

「ああああれ! あのスライム! れ、レクティ・スライムなんです!」

「え、えええ~……。とりあえずギルド長呼びましょ……」


 レクティ・スライムって何?

 なんかすごいスライムだったってことかな!?

 大物だったのか!

 でかしたダリア!


「ローズちゃんも一緒に来てくれる? ダリアちゃんを連れてきてもらえると助かるわ」

「あ、はい」


 なんかこう……どう受け止めるのが正解なのか分かんない。

 とりあえず付いてこ。




 


 応接用の部屋に通され、ソファに腰かける。

 

 こんな柔らかい椅子がこの世界にもあるとは……!


「えーと、ローズだったか。それとレクティ・スライムのダリアか……。俺はこのギルドの責任者のクライム・オバロスタだ」

「あ、どうも。ローズ・クレアノットです」


「硬くならなくていい。それで、そのスライムとはいったいどこで出会ったんだ?」

「え、どこって村の近くの花畑でしたけど……」

「そんな身近にこんなのがいたら身が持たんぞ……」


 どゆことなの?

 この反応からすんごいやばめのスライムなのはなんとなく分かるんだけど、結局どれくらいやばいの?


「ふぅ……。レクティ・スライムってのはな、分かりやすく言えば神様だ。種族として神性を持つようになったスライムのことをレクティ・スライムと呼んでいる」


 え!?

 神様なの!?

 スラ神様なの!?

 

「どの程度の力を持ってるのかは正直分からない。過去に国を滅ぼしたって逸話を持つグラン・スライムが、数百匹いてもレクティには太刀打ちできないって伝説があるだけだ」

「つまり……超強いってこと……!」

「ま、まぁそういうことだ。種族鑑定しかできないから、その能力は分からないがな」


 お、おおお。

 私自身ではないけど、身近なところにチートが!


「で、次はお前さんだ。自分の適性は見たな?」

「あ、はい。ほとんどBでしたけど……へへ」

「それだがな、適性が無いものは普通表記自体がない」


 え?

 そうなの?


「適性ランクはBが出ればいい方だ。Bは伸びしろがあって、鍛え方次第で大きく成長する可能性がある。メイン適性ってやつだな。それ以外の適性は、あっても良くてCが普通だ。Cは無いよりは使いこなせるってレベルで、将来性にはほとんど期待できない。まぁ優秀な冒険者はAやBが2個あったりもするがな」


 ほぇー。

 でも私いっぱいBあったよ?


「じゃあ私のはいったい……?」

「お前さんはあらゆる武器を極められる可能性があるってことだ。うちで把握してない武器種まであったみたいだしな。恐らく全種類の武器が使えるんだろうよ」


 おー!

 やっぱそうなのか!

 すごい!

 のかな……?


「まぁ勿論、鍛錬と研鑽を積む必要があるから、鍛えなきゃあ宝の持ち腐れだな。それに全種類の武器に適性があっても、同時に全て使えるわけじゃない。選択肢が広いってだけだと思っておけ」


 お、おおう。

 なんとなくそんな気はしたけど、実際に言われるとへこむ……。

 結局意味ないのか……。


「じゃあ本題に入るぞ」


 え、なに。

 何この重い雰囲気。


「お前さんには、ギルドの保護下に入ってもらう」



 …………え!?

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■ 本小説の世界の中で、別の時代の冒険を短編小説にしました。
最果ての辺獄

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