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038 話を聞かぬは愛しさ故に

 リーズの小説事件から一夜明けたお昼頃。


「お母さん、お父さん。話があるんだけど」

「ピー」


「んおー! そうだった! ちょっと出掛けないといかん! お母さんに話しておきなさいローズ!」

「わ、私もちょっと薬をね! ちょっとね! うん!」


 あからさまに私の話を聞こうとしない。

 私が何を言おうとしているのか分かっているからだろう。

 逆の立場なら、私もそうしたかもしれない。


「ふたりとも! 何も聞かないままで()()()()()()いいの!?」


 つい、声を荒げてしまった。

 でもそのおかげでふたりの動きが止まった。

 

 観念したように椅子に座り込むふたりは、少し悲しそうな表情だった。


「ふぅ……。分かった、話を聞こう」


 ダンジョンでの出来事。

 クライムさんに話した内容に付け加えて、何と戦ったかを詳しく話し、どうやって生活していたかを細かく説明していく。

 そして、『武具の支配者(ウェポンマスター)』について。


 そのために、各地のダンジョンを回りたいという意思を、明確に伝えた。


「……そうか。ダンジョンに入れなくなった事で、遠くへと冒険に出るって言い出すだろうと思っていたが……まさか全部回りたいとはな……」

「そうね……。そうなると、私たちではすぐに助けに行けない……」


 うん。


「なぁローズ。大人になったとは言え、お前はまだ12歳だ。今急いで遠くまで冒険に出なくていいだろう? 12歳で大人というのは、家だったり親だったりの仕事を手伝わせる名目から来ているものだ。実際はまだ子供なんだ。ヘイルヘイムで依頼をこなしながら、冒険者としての経験値を稼いでからでも遅くないと思わないか?」


 うん?


「私もそう思うわ。いくら私達よりも強くなったからと言っても、あなたは紛れもなく私たちの可愛い娘で、手放したくない存在なの。だからもう少し大人になるまで、近くにいて欲しいの……」


 うんん?


 あれ、私の話し方がいけなかったのかな。

 まるで今から行こうとしてるのを止めるみたいな雰囲気になってない?

 別に今すぐ出るって言ってるわけじゃないんだけど。


 話を盗み聞きしていたリーズお姉ちゃんが、自室の扉を乱暴に開けて駆け寄ってきた。


「ローズ! まだ行かないでよ! 帰って来たばっかりじゃない!」


 抱き着いてくるお姉ちゃんの目には、涙が溜まっている。

 零れないように必死に耐えているが、既に目じりが赤い。


 おっとぉ。

 この流れは~?


 今すぐ行くつもりじゃないって言いづらい雰囲気になってきたぞ……。

 

「ダリアも行かないでよ! せめて私の小説が完成するまではいてよ!」


 早く出て行かなければならないようだ。

 いや各地にすぐ飛ぶは気はないけど。

 とりあえずこの家からは出て行かないとまずい。


「あ、あのさ……」


 ◆


「なぁによ! もっと後の事だったの!? てっきりすぐにでも出るつもりで話して来たんだと思ったじゃない!」

「はぁ~……お父さんは寿命が絶対縮んだと思うぞ……」

 

 親なりに感じ取っているのは分かってたけど、そこまで勘違いされていたとは。

 いやでも、私でもそう思うかも?


 でも帰って来たばっかで、しかも冒険者になって2か月程度よ?

 いきなりそんな怖いって。


「ローズ……。そんなにお姉ちゃんの小説が読みたかったのね……。それにダリアも……」


 それはないです。

 ピ。


「はははぁ、でも良かったぁ……。それで、これからはどうするんだローズ? この家に戻ってくるか? お前の部屋はちゃんと残してあるし何も触ってないぞ?」

「移動だけでけっこう時間もかかるから、基本的にはヘイルヘイムの宿で生活するよ。ちょくちょく帰ってくるつもりだけどね」


「1週間に1回は顔を見せに来るのがいいと思うぞ? なんせお父さんは右腕がなくて大変だからな!」

「この付近じゃあお父さんが後れを取る事はないんでしょ?」


「あ、ああ……そんな事も言ったっけかなぁ……」


 ふふん、恰好つけようとするから、そうやって墓穴を掘るのだ!


「まぁなんにしても良かったわ。お母さんも嬉しい。せっかくだから今度お父さんに剣技を習ってみたらどお? あなた戦技なんてひとつも使えないんでしょう?」


「え! 習う!」


「それはいいかもな。いくらステータスが上回っていようと、戦技ひとつで戦況がひっくり返る事の方が多い。覚えておいて損はないぞ」

「魔力はなくても、剣技なら大丈夫でしょ」


「じゃあその特訓の合間に、私の小説で癒されるわけね?」


 ――!?


「り、リーズ。それはもっとゆっくりしながら読むべきだと思うぞお父さんは……」

「え? でも今書いてるのは癒し効果抜群の……」

「い、いいから! その話はあと!」


 お父さんがお姉ちゃんを説得し始めた。

 もはや小説関連ではお父さんの言葉が1番届く。


 そしてなんとか阻止してください。

 もしそうなったら私の休憩時間は休憩ではなく刑罰になる。


 ……冗談じゃあない。


「あ、そうだ。明日から依頼で隣町まで行くから、帰ってくるのは3日後以降だと思う」

「あら、もしかして商隊の護衛?」

「うん。よく分かったねお母さん」


「大丈夫なの?」


「な、何が?」


 近づいてきたお母さんの大きな目が、私の眼前まで来た。

 黙って見つめ続けてくる。


「お、お母さん?」


「相手は人間の可能性が高い。その意味が分かってる?」

「い、一応は……」


 まるで睨みつけるかのようだ。

 何か見極めようとでもしている雰囲気。


「ふーん。まぁいいわ。じゃあここはお父さんに任せようかしらね」


「え?」

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■ 本小説の世界の中で、別の時代の冒険を短編小説にしました。
最果ての辺獄

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