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035 いなくなった青年

「おはよーございます!」

「ピピー!」


 3日も休んだおかげで超元気!

 今日から冒険者稼業を再開します!


 と言っても、ダンジョンにはもう入れないから、地上でのお仕事になるけど!


「いらっしゃいローズちゃん。ダリアちゃんもね。で、体はもうすっかり良くなったの?」

「はい! このとーりです!」


 ザミさんが応対してくれたけど、なんかちょっと元気ないみたい。

 何かあったのかな。


 変なポーズを取っていたら後ろから肩を叩かれた。

 セクハラ?


「おうローズ。昨日の時点で体調は良さそうだったが、もう復帰して大丈夫なのか?」


 クライムさんだ。

 今日は頭の輝きがいつもよりすごい。


「大丈夫です! もうすっかり!」


 ぺかーん!

 再度変なポーズをかましてやった!

 ダリアも一緒になってやっている。


 なんか、ポーズ取るのちょっと気持ちいい。


「あ、ああそうか。いやなに、ルシアとハワードがよく許したと思ってな」

「あ~まぁ、はい……」


 正直あまりいい顔はされなかった。

 でも、予想していたよりは否定されなかった。


 何か含みがあるような、隠し事をしているような。

 親としての勘みたいなのが働いたのかもしれない。


 私が言い出すのを待ってるみたいな感覚。

 私が言い出さない事を願ってるような感覚。


 そして私は、それが何なのかを知っている。


「とにかく、病み上がりには違いねぇ。あんま無茶すんなよ。それと、復帰すんなら後でお前のステータスを確認させろよ」

「……はい」


 ……。


「それで、ローズちゃん。今日はどうするの?」

「え、あはい。そうですね……ちょっと見てきます!」


 クエストボードへと駆け寄り、目を凝らす。

 前見た時より、依頼の数は少なかった。


 そんな中、パーティを募集する受注中を表す紙を見つける。


「これって……」


 依頼番号を覚えて、ザミさんの元へと戻る。


「ザミさん、2の87って依頼なんですけど」

「あ、ああ……。それね、ローズちゃんなら言っても大丈夫かな……」


 最初よりも元気を無くしたザミさんが、事の経緯を説明してくれる。


 私が伝えた番号の依頼は隣町までの商隊の護衛。

 そして受注中で、メンバーを募集しているパーティというのが、ミランダさんとゲイルさんだ。

 そこにフィオさんの名前はなかった。


「なんかね、いなくなっちゃったらしいの。フィオ君」

「いなくなった……?」


「うん、あの騒動の後から様子がおかしいってミランダちゃんが言ってたんだけどね。今朝部屋に呼びに行ったらもういなかったそうよ。部屋の中も綺麗になってて、女将さんの話だと早くに引き払って出て行ったとかで、パーティメンバーだったふたりにも何も言わずに消えちゃったんだって……」


「え……」


 出て行ったってどういうこと?

 なんでフィオさんが出ていくの……?


「ごめんね、ちょっと元気なかったでしょ私。フィオ君は駆け出しの頃からの付き合いだから、ひと言も無く消えちゃうなんてなんか寂しくてね……」


 誰にも何も告げずにいなくなる原因。

 おかしくなり始めたのが落とし子の騒動の後なら、原因は間違いなくそこにある。


 フィオさんの胸中を推し量る事は出来ないけど、お世話になった人だもん。

 そのままにするのは後味が悪い。


「ゲイルさん達は今どこにいますか?」

「今の時間なら酒場だと思うよ」

「分かりました! 行ってみます!」

「ん、行ってらっしゃい」


 



 ◆





「こんにちわゲイルさん! ミランダさん!」

「ピキー!」


「おー! ローズ殿! 昨日ぶりですな! ほほ、ダリア殿も元気そうで!」

「こんにちわ……」


 まだお昼前なのにお酒飲んでる……。

 ゲイルさんは相変わらずだけど、ミランダさんは今日は寡黙な感じだ。

 未だにキャラが掴めないのはミランダさんだけだな……。


「それで、拙僧たちに何か用ですかな?」

「はい! 護衛依頼のパーティに加入させていただければと思いまして!」

「お、おお! そうですか! それは助かります! これで4人揃いましたぞミランダ殿!」

「そうだな……」


 4人?

 もしかしてフィオさん?

 ではないよね……。


「ささ、ローズ殿は私の横にお座りください。もう少しすれば彼も合流しますので」

「待て、ローズちゃんは私の横に座る」


「あ?」

「ぁあ?」


 いや嘘でしょ。

 今ここで喧嘩する気なの。


「あ、あああの! ミランダさん! その節は斧を借りてしまったみたいで、本当にすみませんでした!」

「ん? 大丈夫だ。別に気にしていない。むしろもっと使ってくれてもいい」


 落とし子との戦闘で使用していた黒い斧。

 あの時すぐ傍にいたミランダさんから、強引に奪って使っていたのだ。

 やったのは私だけど私じゃない。


「しかし、ローズ殿が加わってくれるなら百人力ですなぁ」

「ああ、私もそう思う」


 喧嘩しそうだと思ったら意気投合するふたり。

 なんかいいなこういうの。

 

「あの……」

「…………フィオ殿の事ですな?」


 席に着くよう再度促され、ミランダさんの横に座った。

 一瞬、世界の終わり、くらいの表情をするゲイルさん。

  

 ふたりは交互に口を開く。 


「あの騒動からずっとフィオ殿は、自分には冒険者としての資格が無い。そんな器じゃなかった。ただの卑怯者だ。とすぐに口にするようになりましてな……」

「落とし子に向かっていくハワードさんの姿を見て、自分と比べてしまったらしい……」


 酒を飲む手も、食事を摘まむ手も止まる。


「そして、ローズ殿が落とし子を倒すのを見て、これまで自分は何していたんだ。と……」

「ああだけど、ローズちゃんは悪くない。むしろ、ローズちゃんの姿を見て、今頃どっかで修行でもしてるんだよ」

「拙僧もそう思いますぞ。フィオ殿は自分が努力してるのを見られるのを嫌がる方でしたからな」

「そのうちひょっこり現れるさ。強くなった自分を見てくれ、みたいにな」


 ……。


 私のせいじゃない。

 私は悪くない。


 そう言われても、素直にそうは思えなかった。

 いなくなった原因に私が関わっていたのが分かったら、申し訳無い気持ちがこみ上げてくる。


「すいません、遅くりました」

「おーザトラス殿、お待ちしておりましたぞ!」


 魔術師っぽい恰好の男の人が、ゲイルさんの横に座る。

 首からは赤いプレートを下げていた。

 礼儀正しい印象の人。

 

「やぁローズさん、昨日ぶりですね。ここにいるって事はもしかしてパーティ加入の話を?」

「あ、はいそうです」


 昼前だからか、暇そうな店員を呼びつけ、お酒とサラダを注文する。


「一緒に何か頼みませんか?」

「ああ、そうでしたな。ローズ殿も好きに頼むとよいですぞ」

「じ、じゃあ……」


 果実水と軽く摘まめる程度の物、それとダリアが肉を食わせろとアピールしてくるのでウサギの香草焼き。

 注文を終えると、店員さんは元気に去っていく。


「さて、これで4人集まったわけですね?」

「そうなりますな!」

「ローズさんが一緒なら心強いですね」

「い、いえそんな……! 私の方こそ赤プレートの方とその、恐縮です!」

「はは、そんなに畏まらないでください。あなたの方が強いんですから」

 

 目上の人間に、お前の方が優秀だ。

 的な事を言われたらどう反応すればいいんだ……。


「ご注文のエールと、果実水になります」

「どうも」


 注文した飲み物がやってきた。

 いいタイミングだ!

 よし話題を変えよう。


「そ、それで、商隊の護衛ですけど!」


「あ、それなら、拙僧から説明しましょう。既に依頼書で知っている通り、隣町であるカルカスまでの護衛になりますな。馬車に乗り込んでの移動ですが、3日ほどの行程です。出発は明後日。注意点としては、地震の影響で野盗が増えているという事ですな」


「増えた野盗って元農民とかだろう? 地震で田畑がダメになったとかで出てきたっていう」


「そうですね、なので可能な限り捕らえるべきですぞ。本物の野盗だった場合はその限りではありませんが」


 え……。

 護衛って魔物から守るんじゃないの?

 人が相手なの……?


「あの、魔物とかは出てこないんですか……?」

「基本的には出てきませんな。ですが、地形が変わった影響で出てこないとは言い切れませんので、注意は必要かと」


 そ、そうなんだ……。


「では、当日の集合場所と連携を……――」


 フィオさんの事ばかりに頭が行ってちゃんと依頼書を見てなかったのが悪いんだけど……。

 もしも人間が襲ってきたら……。

 ……私は動けるんだろうか。



 そんな不安を抱えながら、私は話し合いに耳だけを傾けていた。



「ウサギの香草焼きにカットパンの卵揚げ、それと山鏑のおろし和え風サラダになります。ごゆっくりどうぞ~」

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■ 本小説の世界の中で、別の時代の冒険を短編小説にしました。
最果ての辺獄

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