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002 私、冒険者になります!

「うーん、ひとりで薬草採取はなんかつまんないなぁ……」


 それに、お父さんったら獲物を探すのはいいけど離れすぎじゃない?

 野兎とかならそこらへんにいるのに……。


 そうだ、せっかくだからダリアを調べてみよう。

 ぷるぷる、僕は悪いスライムじゃないよ。とか喋ったら面白いのに。


「ダリアおいで?」

「ピィ?」


 ズリズリと地面を這いながら近づいてくるダリアの体は、移動の度にプルプルと震えている。


 やーん、可愛い~。

 思わず抱っこしちゃうよね、こんだけ可愛いと。


 抱き上げたことで、魔除けの石がダリアの体に触れてしまう。

 ローズの首元で淡く光っていた石は、ヒビが入り輝きを失っていく。


 スライムの体に衝撃を吸収され、ローズは石の異変には気づかなかった。


「はわ~! すべすべー!」

「ピピ~ピー!」


 薬草のことも忘れ、ダリアを隅々まで愛でていく。

 1分か、2分か。

 それくらいの時間、目いっぱいスライムのプルプルボディを堪能する。


 すると突然、ガサガサと周りの茂みから音が聞こえてくる。

 何かの気配を感じる。


「ピィ! ピギィ!」


 腕から離れたダリアが、激しく周囲を警戒し始めた。


「え、なに? なに? なに?」

 

 周囲は更に騒がしくなっていく。

 次第に、何かとても嫌な臭いが鼻を突き始める。

 ドブに落ちた肉が更に腐ってもう一度ドブに落ちた。

 そんな匂いだ。


 思わず口を塞ぎ鼻を覆ってしまう。


 その瞬間、草むらから何かが飛び出してきた。

 それは着地点をローズに定めて落ちてくる。


「ピギィ!!」


 落ちてきた者に対して、ダリアが横から体当たりをかまし軌道を変える。

 予期せぬ事態にうまく着地が取れなかった緑色の生き物は、落下時に腹を打ったために悶えている。


「こ、これってゴブリン……!?」


 なんで!

 この石があれば寄ってこないはずじゃないの!? 


 石を確認しようとしたが、コブ結びにされたのか取り外せない。

 そして紐が短いせいで簡単に見ることができなかった。


 仕方なく首を思いきり下げ、すごい不細工な顔になりながら確認する。


「え……」


 石はヒビが入り、もう光を放っていなかった。

 

「なんで……」


 地面に落ちたゴブリンとは別に、2体のゴブリンが姿を現す。

 手には小さな刃物が握られていた。


 既に倒れている仲間には目もくれず、こちらににじり寄ってきている。


 その間にダリアが立ちふさがるが、所詮はスライムだからなのか。

 ゴブリンたちは怯むことなく笑っている。


 そしてダリアを避けるように2方向へそれぞれ迂回していく。

 私を挟み込むように陣取ると、そのまま走って向かってきた。


「いや……!」


 ダリアがその体を大きく膨れ上がらせ、私を包み込んでくれた。

 その体を突き破ろうと、ゴブリンたちは猛然と体当たりをかましている。

 けれども打ち破れないみたい。


 ダリアは広げた体を、私から遠ざけるように閉じていく。

 閉じるように折り重なった地点で2匹ゴブリンはぶつかり合い、それぞれ持っていた刃物が体に突き刺さっている。

 そのまま液状の体に取り込まれ、空気を求めるかのように喉を押さえながら苦しんでいた。


「ローズ!!」


 お父さん!

 遅い!


「なぜゴブリンが……!」


 腹を打って倒れているゴブリンの首を飛ばし、ダリアの中で苦しんでいるゴブリンを一瞬見つめる。

 が、すぐに視線を切り周囲を警戒しながらこっちに駆け寄ってくる。


「大丈夫かローズ?」

「遅いよお父さん! ダリアが助けてくれなかったら死んじゃってたかもしれない!」

「ああ、すまない。ひとりにするんじゃなかったな……。本当にすまない……」


 全く、8歳児を残していくなんて今後はしないでもらいましょうか!


「ダリア、本当にありがとう。ローズを助けてくれて本当にありがとう……」

「ピ、ピキィ……!」


 少し照れくさそうにしているダリアだったが、その腹の中には目玉が飛び出て既に溶け掛けているゴブリンが見える。

 控え目に見てもグロい。

 

「うぶぅ……」

 

 吐きそう。


「ど、どうしたローズ! どこか怪我したのか!?」

「ピ!? ピキィ!!」


 いやちょっとダリア来ないで。

 お父さんも気づいて。

 そのグロ死体は8歳児に見せていいものじゃないよ!

 ダメだってば!


「オボロロロロ……」


「!? ダリア! 掴まれ!」

「ピィ!!」


 嘔吐物をまき散らしながら、お父さんに揺られて森を抜け出していく。

 心配そうに私の傍に寄ってくるダリアが可愛い。

 中に何も入ってなければだけど。

 

 あ、目玉と目が合っちゃった。


「オボボボボ……」


「ローズ!? 毒か!? 待ってろ! すぐにお母さんに見せてやるからな! すぐだから辛抱してくれ!」

「ピギィ!!」


 ゆら、さな、いで……。





 ◆





「ふぅ、なんてことないよ。毒なんか受けてないし、かすり傷ひとつない。全く、びっくりさせないでよ」

「め、面目ない……」


 お父さんがお母さんに怒られてる。

 一緒にダリアも怒られてる。


 なんか面白い絵面。


「で、この子が守ってくれたっていうスライムなのね? ダリアって名前なんだっけ。ありがとうねダリアちゃん」

「ピ、ピキィ……!」

「ふふ、嬉しそうね。でも娘にグロ死体を見せたのは良くないことよ?」

「ピ!?」


 お母さんがすごい凄んでる!

 怒ると怖いんだよねぇ。

 これも試練だ!

 頑張れダリア!


「まぁ、そんなに怒っていないから大丈夫よ。それよりもお父さんよね?」

「ヒッ……」


 お父さんの体が一瞬ビクついた。


 良かったねぇダリア。

 怒りは全てお父さんが請け負ってくれるみたいだよぉ。


「ローズもリーズも、外に出てなさい。ダリアちゃんも連れてってあげるのよ」

「「はーい!」」


 家の外に出ると、中からお父さんの叫び声と、お母さんの怒声が聞こえてくる。

 ついでに何かの衝撃音も。


 ――何がピクニックよ! 大事な娘を危険な目に遭わせてどういうつもりよ!

 あああ! ごめんなさい!

 何かあったらどうするつもりだったのよ! まだ8歳なのよ!

 でもあの石があるから大丈夫だと思って……!

 石があろうが目を離すべきじゃないでしょう!?

 その通りです! 本当に申し訳ありませんでした!!――


 基本的にはかっこいいお父さんだけど、この時だけはすごくかっこ悪い。

 まぁでも、素直に謝れるのは良いことなのかも。

 夫婦の中が対等だからこそ、なんだと思う。

 なんでそう思うのかは分からないけど……。


「ねぇローズ。その子、私が触っても大丈夫?」

 

 リーズお姉ちゃんだ。

 さっきからダリアに興味津々みたい。


「うん、大丈夫だと思うよ。ダリア、いいよね?」

「ピ! ピキィ!」

「大丈夫だって!」


「え、何喋ってるか分かるの?」

「なんとなくだよ!」

「そ、そうなんだ……」


 リーズがゆっくりとダリアに手を近づけていく。

 その感、ダリアはピクリとも動かない。


 私の時もそうだったけど、驚かせないようにするために動かないでいてくれているのかな?

 もしそうだとすれば、やっぱりものすごく頭がいいってことになるんじゃないかな。


「あ、冷たい……」

「ひんやりして気持ちいいよね! しかもすんごいスベスベなんだよ!」

「ああ、これ良い……。枕にしたい……」


 リーズは寝そべったまま抱きかかえている。

 目を閉じて夢見心地といった表情だ。


「お姉ちゃん? あげないからね?」

「え? ああ、うん。大丈夫よ? お姉ちゃんだからね? 私は?」


 疑問符がどこまでもついている感じ。

 あわよくば自分の物にしようとしていたようだ。

 その表情は焦りと物欲しそうな感情が入り混じり、複雑なものになっていた。



「ふたりとも、戻ってらっしゃい。せっかくだから皆でお昼にしましょう」

「「はーい!」」


 どうやらお叱りタイムは終わったようだ。

 ダリアと一緒に、家の中へと入っていく。


「渡してあったお弁当が勿体ないから、お皿に分けたわ。私とリーズの昼食分も分配して、混ぜこぜのランチにしましょ」

「「美味しそう!」」


 姉妹だからか、息がぴったりだ。

 お父さんは奥でぐったりしている。


 そういえば、ダリアは何を食べるんだろう……?

 やっぱり死骸とか……?


「ローズ、ダリアちゃんにもご飯をわけてあげて? スライムは雑食でなんでも食べるから大丈夫よ」

「そうなんだ! はいダリア!」


 サンドイッチを丸々ひとつダリアに近づけると、器用に体を使ってそれを受け取る。

 そのまま体の中へと吸収してしまった。


「「おお……」」


 体の中でパンや具材がシュワシュワと溶けていっているのが見える。

 なんだこれ。

 神秘だぁ……。


「ふふ、スライムの食事風景は見てるとちょっと楽しいわよね」

「うん!」


 楽しい家族団欒の時間。

 お父さんはボロ雑巾になっていたけど、これもひとつの家族の姿。

 この中に、これからはダリアも加わるんだ。

 毎日楽しくなりそう!


「……」


 ローズの母は、鋭い眼光で一瞬ダリアを見やるが、すぐに笑顔で食事に戻る。

 その胸中にあったのは、これを信用すべきかそうでないか。

 刹那の品定めとでも言うべきか。


 それに気づいていたのは、ダリアだけだった。

 

 







 ◆









 4年後……。


「ひまああああああああああ!!」


 12歳になった私は、毎日ダリアと外に出かけて遊んでいた。

 勿論家の手伝いとかもちゃんとやっていたし、サボったことも無い。


 でも暇! 超暇!

 刺激が足りない!

 

 森へのお出かけも、ウサギ狩りも!

 12歳にしてゴブリンを単独で倒せるようになったこともあって、本格的に刺激が無くなってしまった!


「ねぇダリアぁ? どうする? すごい暇だよね?」

「ピ……? ピキィ……?」

「え!? 冒険者になればいい!? すごい名案じゃないそれ!?」


「お、おいローズ……何を言って――」


「というわけでお父さん! お母さん! 私、冒険者になります!」

・父親から渡されたものを、「父を問答無用で呼びつける笛」から「魔除けの石」に変更しました。


上記に伴い、描写等の追加と修正を行いました。

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■ 本小説の世界の中で、別の時代の冒険を短編小説にしました。
最果ての辺獄

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