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028 崩れる戦闘

「…………ギビゴッ……ギグブ……!」


 鳴き声なのか、言葉を発しているのか分からない。

 意味不明な音を垂れ流しながら、落とし子は両手を上げ、10本の爪を伸ばしてくる。


「――ッ!」


 横に飛んで躱すと、その爪は奥の岩場に突き刺さる。

 まるで粘土でも貫くように易々と。


 落とし子は腕を横に広げ、続けざまに爪をローズへと向けた。

 薄い爪が、空気を切り裂きながら迫る。

 

 上体を仰け反らせてこれも躱す。

 通り過ぎていった爪は、なんの抵抗も無く岩場を易々と切り裂いていく。

 

 どうする。 

 様子見してる間に追い詰められるかもしれない。

 もし回避が間に合わなくなれば……。


 あの切れ味はほとんど致命の一撃となる。

 回避を前提にしなければならない攻撃。 

 受ければその時点で死。


 武具を出して防ぐ?

 いやだめ、視界を塞いで邪魔になるだけ。 


「なら……!」


 距離を取ったまま、複数の剣、槍を発現させ投擲する。


 落とし子はそれを躱そうとしない。

 そのまま直撃し、深々と突き刺さる。


 だが、ぶにょんと肉に押し戻された剣と槍は地面に落ちてカラカランと音を立てる。


 斬撃の効果がないのか、投擲では威力が足らないのか。

 落とし子の皮膚には傷ひとつない。


「……ぬぅッ! インチキモンスターめ!」


 醜悪な口が嗤ったように歪む。

 肩や腕、足に突如無数の眼球が現れ、まるで馬鹿にするかのようにニヤけた眼を向けてくる。


 ビキッ。


 そんな音が、頭の中で鳴った気がした。


 怖い怖いと思っていたけど、なんかムカついてきた……。

 おーおー、やったろうじゃない。

 

 こっちだって伊達に1か月以上もダンジョンで生活してないのよ。

 ダンジョン系女子の実力を見せつけてやろうじゃない。

 本気の全力のガチのマジで!

 

 はじめっからそのつもりだったけども!


「ダリア! 離れてて!」

「ピ!?」


 ローズの声に、ダリアは来た穴まで駆け足で避難すると、岩陰からこっそりとその様子を見始めた。

 



 ――戦闘開始から3分。


 その場から動かず爪を走らせる落とし子と、縦横無尽にフロア内を駆けまわるローズ。

 ローズの眼は瞬きを忘れ、攻撃を躱しながらもその間ずっと落とし子の動きを観察していた。

 口の中は勿論、肩や腕についたそれぞれの眼球の動き、視線。

 体の微弱な動き、重心の変化。

 指の先がほんの少し動いただけのような、小さく些細な物まで。


 その全てを見逃さない。


 対して落とし子は、次第に瞳から笑みが消えイラ立ちが見え始める。

 どれだけ爪を向けようと、一向に当たる気配がない。

 詰将棋のように追い詰めようが、詰む前には打開される。


 更には、ローズの攻撃の手数も増えてきている。

 今のところダメージは無いが、それでも煩わしいことこの上ない。


「ギギィィゴギガアアア!!」


 溜まった鬱憤を晴らすかのように、落とし子はフロア全体を伸ばした爪で切り裂いていく。

 だがその全てを見切られ、ローズにはかすりもしない。


 崩れた岩々が折り重なり、奇跡的にバランスを保っているだけの壁は、軋みながら徐々にフロア内を狭く圧迫していた。


 集中しろ……集中しろ……。

 見逃すな、見続けろ、観察しろ。

 判断を間違えれば即、死。

 

 ひとつも見落とすな……!


 瞬間的に速度を上げたローズが、落とし子の背後を取る。

 反動を利用して回転し、勢いを増した斬撃を浴びせた。


 微かに、ほんの微かにだが。

 ついに落とし子の体に傷を付ける。

 小さな傷からは、青い液体が噴き出してきている。


 効かないわけじゃない……!

 単純に威力が足りていなかっただけだ……!

 攻撃が通じるならいける!


 すぐそばのローズを迎撃するために、落とし子は振り向きざまに爪を走らせたが、既にそこに目標はいない。

 私を捉えきれぬ爪をすぐに戻そうと落とし子が大きく動いた時、その爪は岩にひっかかり動けなくなる。


「ギ……?!」


 爪による斬撃は、横の鋭利な部分でならば岩だろうがなんだろうがチーズのように切り裂くが、上の平な部分ではそうはいかない。

 流れに逆らって動かしたことで、不自然な角度で岩へ切り込みつっかえてしまったようだ。


 ちゃそす(チャンス)……!


 ローズはその瞬間を見逃さない。


 足元に低く現れ、回転しながら足に1撃目。

 そのままもう1度回転して腹に2撃目。

 飛び上がって更に縦に回転して胸に3撃目。

 着地までの間に回転したまま脚の付け根に4撃目。

 着地時に回転の勢いを活かしたまま、初撃と同じ位置に5撃目。

 

 その5連撃を放ち終えるまで1秒と掛かっていない。

 人間では考えられない運動性能と瞬発力で渾身の斬撃を見舞う。


 強引に爪を岩から抜き、そのままローズへと向ける落とし子だったが。

 左足が切り離されていたために、体が横を向く。


 爪は地面を伝って天井まで振りぬかれ、豪快に周囲を破壊していく。


「ギィイイイイガアアアアアアアアア!!」


 地面にドサッと倒れ込んだ落とし子は、痛みからか耳障りな叫び声をあげている。

 少し離れたところで動きを止めているローズは、呼吸が荒い。


「うぶ……ッ」


 目、鼻、耳から少量の血が垂れ流されている。

 腕の血管もいくつかが切れたのか、小さく出血していた。


「ハッ……ハァ……ハァ……」


 まずい……。

 血で鼻が詰まって呼吸がしづらい……。

 動き回るのにもっと空気が、酸素がいる……!


「すぅー……。……ゴボッ」


 口の中に鉄臭い味が広がる。 


 あらら……。

 自分の動きに臓器が耐えられなかったのかな……。

 喉まで詰まっちゃうじゃん……。


 ローズの肉体はボスウルフとの戦闘での負傷がまだ癒えていない。

 そんな状態で、未成熟な体を再度酷使した結果。


 既に内側はボロボロだった。


「ギギギギガガガガガ!!」


 地面に横たわる落とし子は、まるで駄々をこねるように暴れまわっている。

 無作為に迫りくる爪をローズは瞬発力だけで躱し続けるが、周りの壁まではそうはいかない。


 打ち付けるように壁に当たる爪のせいで、次々と瓦礫が崩れていく。

 こんな場所で戦っていればいずれこうなるのは目に見えていた。


「やば……」


 そこから数舜もしなかっただろう。

 上からではなく、横から。


 鉄砲水のように凄まじい勢いで土砂が流れ込んでくる。

 不安を掻きむしる轟音と共に。

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■ 本小説の世界の中で、別の時代の冒険を短編小説にしました。
最果ての辺獄

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