026 始動した魔物と徘徊する魔物
ダンジョン内を徘徊する魔物たち。
それらは1匹1匹、確実に姿を消していく。
這いずりまわる虫も、駆け回るトカゲも、飛び回るハチも。
小型のゴーレムや大型の蛇も。
その全てが次々と命を散らしていく。
新たに生まれた1匹の化け物の手によって……。
「ウハハハハ! イケー!」
丸い流線形の体に、無数の伸びる腕。
ぴょこっと飛び出した別の生き物の頭部。
今までダンジョンにはいなかった新たな生命。
「そう! 私がスライムナイトである!」
なんのことはない。
ダリアの体に埋まった私だ。
「いた! ダリア! 向こうだよ!」
「ピピ!」
ふふ、これが某RPG、フフフンクエストのスライムナイト、いやもはやダリアナイト様だ!
ぶよんぶよんと飛び跳ねながらダリアは標的へと大胆に近づいていく。
その接近に魔物たちが気づいた時には、伸びた触腕が悉く殴りかかり彼らの体を潰していく。
スライムナイトなどと言ってはいるが、実際に動いて攻撃をしているのはダリアだ。
私は首から上が出ているだけで口しか動かしていない。
スライムから生首が出ている異様な姿だった。
「つ、つよい……。ダリアナイトがこれほど強いとは……!」
ダリアと合体することでダリア視点での戦闘が見れる……!
それがここまで臨場感溢れるものだとは!
そして何よりすごい快適。
最初はちょっと水っぽいのが気になったけど、今はヒンヤリした感触が気持ちいい。
眠る時も硬い地面に寝るよりよっぽど楽。
なぜもっと早くこうしなかったのか……!
「ピ~ピピ~!」
上層を目指しながら遭遇する魔物を蹴散らし続けるダリアと私。
先導するために遅かったダリアの歩みが、私を飲み込んだことによって一気に加速していた。
それはもうびゅんびゅんと飛ぶように進み、ボスウルフとの戦闘から僅か1日で既に52階層。
この調子でいけば、出口なんてあっという間に着くだろう。
私は抜けきっていない肉体のダメージを忘れ、ダリアナイトに夢中になっている。
はしゃぎながらふたりは、颯爽と上層へと昇っていく。
◆
「よし、解体おっけー」
「ピピ~」
解体した魔物の肉を、セーフティエリアから持ってきたフライパンで焼き始める。
調味料は塩だけだが、無いよりはマシといった感じ。
出来上がった簡素な食事を、ふたりで食べ始めた。
「それにしても、魔物全然いないねダリア」
「ピー」
ダリアナイトが始動してから2日。
食料は既に尽きたが、水はまだ多少残っている。
ダリアが移動する事で、ローズの運動量を減らし水の消費を抑えていた。
ローズが働くのは倒した魔物の肉を捌く時くらいだ。
そして現在、なんと32階層。
もう上層が目の前の位置まで来ている。
その理由として移動速度が上がったことも勿論だが、一番の理由は魔物とほぼ遭遇しなくなったことが挙げられる。
ゴーレムなどの基本その場を動かない系の魔物を除けば、各階層ごとに遭遇しても1匹や2匹。
立ち止まるのは食べられそうな魔物を倒した時のみ。
疲れ知らずのダリアは、私が寝ている間も延々と進み続けたのだ。
「……上に行けば強い魔物がいっぱいだと思ったんだけど、もう外に出ちゃったからいないのかな……」
ダンジョンの広さから考えて、私たちが戦わずに済んだ魔物の数は少なくても100や200はあるはず。
もしそれが全部地上に出てしまっていたなら……。
「大丈夫かな……ギルドの人たち……」
「ピキィ……」
……。
「でもダリアのおかげでホントすごい進んだよね。大丈夫? 疲れてない?」
「ピ~!」
元気モリモリであることをアピールしてくるダリア。
その動きはどこか愛らしく余裕が見える。
街も心配だけど、今は出る事を考えなきゃ……。
「じゃ、そろそろ行こう!」
「ピ! ……ピピィ! ピピピィ!」
突然ダリアが激しく動き出し、荷物を背負ったばかりの私を包み込んで物陰に隠れ始めた。
「え!? ええなになになモゴォ……」
触腕で口を塞がれ、喋れなくなった。
すると、何かが歩く地響きが聞こえてくる。
それは次第に近づき、震動で辺りが震え始めた。
「……」
頭だけの私は、岩の隙間から音の正体を確かめようと目を凝らす。
視線の先、通路の分岐点から下顎の無い狼の頭がひょこっと出てくる。
あれは、ボスウルフ。
こんな上まで来てたんだ……。
だがなにかおかしい。
頭の位置が明らかに高い。
徐々に体が見えてくると、その下半身を巨大な蛇に飲み込まれているのが分かった。
あ、ああ……。
他の魔物にやられちゃったのか。
あんなサイズの蛇は初めて見た。
ダリアが咄嗟に隠れるくらいだし、相当強いんだろうな……。
「ピ……」
プルプルと振動が伝わってくる。
大蛇が体を這いずらせている振動とかではない。
ダリアが震えているんだ。
え、そんなに?
そんなにやばいの?
確かにサイズは規格外だろうけど、別にそこまで――。
大蛇の体が不自然な動きで前に出る。
蛇が這いずっているとは思えない異様な動き。
その動きジッと見続けていると、すぐに巨大な足が曲がり角から姿を現した。
紫色で絶えず何かが表面を這いずる脚。
それを見た瞬間、私は体中の毛が逆立ち、嫌な汗が全身から噴き出してくるのを感じた。
その脚には醜悪な口が付いており、そこから大蛇の体を出している。
ボスウルフを捕食したはずの大蛇は、更に別の何かに捕食されていたのだ。
不揃いな歯は絶え間なく動き、ゆっくりと大蛇の体を飲み込んでいっている。
紫色の脚が動くたびに地響きと震動を作り出す。
あれが何なのかは分からない。
でも冷や汗が止まらない。
絶対にやばい。
ダリアが全力で警戒したのは蛇じゃなかった。
あの何かだ……。
現在、その何かがいるのは通路の分岐点。
何かから見て私のいる方が天井の低めな右、左は天井が高い。
そのおかげか、得体の知れない存在は私たちとは違う方向へと進んでいく。
こちらの天井は低いと言っても4、5メートルはある。
それでも去っていく何かの全貌を見ることはできなかった。
見えたのは恐らくだが、膝裏まで。
過ぎ去るまでの数分間。
生きた心地のしないまま、その姿が見えなくなるまでジッと待ち続けた。




