020 絶体絶命の危機
私はローズ・クレアノット。
現在、ミルドダンジョンと呼ばれる超ヤバイくらい広すぎマックスな迷宮(語彙力)に落ちてしまい、地上を目指して歩いているところである。
今いるのは66階層である。
その間、色々あった。
本当に色々あった。
でもそれは省略します。
そして私はダンジョンにいる間、できる限り全力を尽くして避けてきた話題があります。
ええ、乙女の生命線をぶった切るレベルの話題……。
アイドルであればもはや都市伝説と化しているであろうそれ。
それは……トイレ。
そう、花も恥じらう12歳の少女である私のトイレ事情など禁句中の禁句……。
絶対に面に出してはならない秘中の秘……。
セーフポイントにいた頃は問題ありませんでした。
ええ、本当に快適な生活空間でした。
そのせいで完全に失念していたのです。
地上に出るまでの間、私はトイレをどうすべきなのかを……。
「ゲバッフッ……!」
顔面蒼白で倒れ込んだローズの横で、ダリアは複数の魔物の相手をしている。
何が起きたのか把握できないダリアは、チラチラとローズの様子を窺いながら戦っている。
ぬ、ぬかったぁ……。
最後に食いだめしようと昨日出発する前にドカ食いしたのがいけなかったぁ……!
まぁ仮に、本当に仮に。
1万歩くらい譲って初動(隠語)はいいとしよう。
一番の問題はその後だ。
紙が無い……!!
致命的なミス。
圧倒的敗北。
あってはならない最悪の事態。
ここまでの絶体絶命は、未だかつてなかっただろう。
乙女的に。
「あああががががががお腹がイタイイイイ……」
う、うぐう……。
だがしかし、ダムを決壊させるのだけはダメだ。
それだけはダメ。
以降、着るものが無くなってしまう。
もしそうなったら私は下半身丸出しで地上へ出ることになる……!
もちろん、1度セーフポイントに戻ればいいかもしれないが、結局は丸出しで戻る事になる。
それだけは!
絶対にダメ!
いやていうか全部ダメ。
もうホント乙女的に絶対ダメ。
ああああああ!
……。
あああああああああああああああ!!
「ピキィ!?」
ダリアの防衛線を抜け、1匹のカエルがローズへと向かう。
気づいたローズは内股の状態で立ち上がり、左手で斧を掴んだ。
「じぇええぃッッ!!」
今まで出したこともない掛け声でカエルを両断する。
あ、やばい。
力ませないでホント。
産まれそう。
新たな生命が誕生しそう。
ここに新しい宇宙ができちゃう。
私はあまりの極限状態についに閃く。
そうだ。
ダリアなら……。
ダリアならきっと私を受け入れてくれるんじゃないだろうか。
ダリアになら全てをさらけ出しても恥ずかしくない……!
今まで一緒に生きてきた仲だもの。
きっと私を綺麗(?)にしてくれる。
ダリアは現在戦闘中だが、今いる魔物共では相手にならないだろう。
すぐにでも戦闘は終わる、
なら私にできることは……!
「ピピ~……」
戦闘を終えたダリアがローズの元へと寄って来る。
そしてその異変を目の当たりにし、一瞬動きが止まった。
「だ、ダリア……、ちょっとお願いがあるんだけど……」
上はいつもどおりだが、下には何も身に着けていない。
そう、下着すらも。
内股でヨタヨタとダリアに近づいていく。
だが、何かを察したダリアはジリジリと離れていく。
「え? ダリアどうして離れるの? ねぇもうちょっとこっちにきて?」
「ピ……ピィ~~!!」
猛然とその場を離れていくダリア。
心なしか恥ずかしそうだ。
そしてその場に残ったのは、下半身丸出しで限界が近いローズだけだった。
「そ、そんな……万事休すとはこのこと……」
ゆっくりとその場に倒れ込み、仰向けで虚空を見つめる。
「お母さん、お父さん、お姉ちゃん、私はどうやらここまでのようです。ごめんなさい……」
死を覚悟し、これまでの半生を振り返る。
本当に色々あった。
ダンジョンに落ちる前も、落ちた後も。
思えばここに来てからの生活が一番濃密だった。
骸骨騎士くんとの戦闘、スライムだか竜だか分からないやつ。
巨大なシルバーウルフ……。
辛く苦しいものではあったが、それでも充実していたと思う。
ダンジョンマスターについてや、コアさんとの出会い。
サバスで受けた呪いも、コアさんがいなければきっと助からなかっただろう。
せっかく拾った命を、ここで散らしてしまうなんて……。
ん?
ふと、コアさんが言っていた言葉を思い出す。
――『嘔吐物武器類』とは、体内の物質が全て対象になります――
――この適性に対応する物は、『口から出せるもの』となります。そのため、ローズ様の体内に入ったものは全てその対象となります――
――体内に入った毒、ウィルス、呪いなども対象になるため――
…………。
「いけるのでは!?」
◆
いけた。
スキル名称を変更しました。
吐しゃ物武器類 → 嘔吐物武器類




