015 渇望の舌
ダンジョンに落ちてからのダリアを見て、思っていたことがあった。
それは、『ダリアは一度見たスキル、または受けたスキルを使えるようになる』のではないかというもの。
これまで4年間一緒に居て、スキルを使ったところなど一度も見たことが無い。
ダンジョンに落ちてから使ったライトパルスが初めてだった。
そのライトパルスは、あの3人とダンジョンに入った時にゲイルさんが使っている。
私の腰のポーチの中にいたので、効果の恩恵を受けたことになったのか、あるいはその発動を見ていたか。
そして先ほど使ったであろう熱線。
規模は全然違ったけど、どう見てもあの竜が放ったのと同じものだった。
これも直前に一度その攻撃を受けているし、見ていたと言っていい。
勿論初めから持っていたスキルという可能性も無くはないが、使用したものがその二つだけなのだ。
条件が見ることなのか、受けることなのかは分からないけれど、確実に一度体験してから使っていると言える。
そこから考えるに、ダリアはラーニングかそれに準ずるスキル、またはその上位のスキルを所持している可能性が高い。
そういうスキルが存在するのかは不明だし、あくまで憶測の域を出ないが。
それでも、そう考えるのが自然な気がする。
「…………ダリア、これできる?」
「ピ?」
ダリアの前で武具の発現と霊装化を行う。
既に見ているだろうが、何をやらせようとしているのか分かりやすく伝えるためだ。
2、3回繰り返した後、ダリアに剣を渡す。
「ピ? ピ? ピィ?」
触腕をふたつ作り、右へ左へと剣を持ち換えているが、一向に霊装化する気配がない。
「うーん……。じゃあやっぱりラーニングの方かなぁ」
――ラーニング。
某RPGにも出てくるパッシブアビリティの一種。
受けた特殊な攻撃を己の技として習得する類のものだ。
ダリアから剣を受け取り、霊装化する。
「ま、なんにしてもやばいのはこれだよね……」
どこまでも暗闇が続く穴へと視線を向ける。
この大穴のせいでダンジョン自体が崩れないか心配したが、いまのところなんとも無いようなので気にしないことにした。
「ま、いっか。よしダリア! せっかくだし次行くよ~!」
「ピキィ!」
次の相手のもとへと向かう。
残るリベンジの相手はひとり、いや1匹? 1頭?
以前調子に乗って手痛い傷跡を付けてくれた相手。
巨大なシルバーウルフ。
通称ボスウルフ(命名:ローズ)
そのボスウルフのいるはずのフロアまでやってきたが、姿が見えない。
フロアの奥には、以前無かったはずの穴が開いていた。
穴の大きさは直径で3メートルほど。
覗き込んでみると、巨大な横穴に繋がっている。
「あ、これ……」
その横穴はダリアが作った穴だった。
これに繋がったことで、恐らくは移動してしまったのだろう。
「ぬぅ……逃がしたか……。仕方ない、今日はもう戻ろっかダリア」
「ピィ~!」
目標がどこにいったか分からないのでどうしようもない。
ふたりはセーフティエリアへと戻っていく。
◆
「はい! 今日は残しておいた牛肉を使います! わーわー! ぱふぱふ!」
「ピーピピーピピー!」
いつの間にか明確な目標となっていた魔物を倒せたことを祝って、今日の食事はいつもよりは豪勢だった。
「リベンジ祝いだよ! わーわー!」
「ピーピー!」
テーブルに並べられた料理は、どれも芳醇な香りを放っている。
鼻孔をくすぐる肉の匂いが食欲をそそり、腹の虫を殴りつけてくる。
ひんやりした印象を与えてくるサラダの盛り合わせも、みずみずしい新鮮さが喉を鳴らせてくる。
ここに穀物があれば完璧だったのだが、あいにくとそれは手に入らない。
いつも通りの肉と野菜。
確かにいつもよりは多少手の込んだ見た目ではあるが、基本は変わっていなかった。
毎日できる限り使う肉の種類を変えてはいるが、若干の飽きはもうしょうがない。
「ふふ……無理にテンションを上げても、メニューは変わらないか……。お米が食べたい、それが無理でもせめてパンが欲しい……」
このご飯も美味しいことは美味しいんだけど。
一か月ずっとこればっかりじゃ……。
そんなローズの横で、いつも通りの様子のダリアは満足そうに肉を消化していく。
「…………」
肉と野菜をモッシャモッシャと噛みながら、呆けているダリアをジトっと見続けて食事は終わった。
◆
「ルシアたちはどうしてる?」
「現在6階層の完全制圧に向かっています。5階層からはフロアが広くなるため、かなり大型の魔物が出ているようで手間取っているみたいですね」
「そうか……」
商業都市ヘイルヘイム。
ローズが所属するギルドの長クライムは、受付嬢のザミとふたりで暗い話題に顔を俯かせていた。
「ローズちゃんがいなくなってから、もう一か月ですよ……。本当に生きてるんでしょうか……」
「ルシアが言うんだ。間違いないだろう」
ローズたちがダンジョンに落ちてすぐ、そのことを察知した母のルシアと父のハワードは商業都市へと急行した。
都市の人間が誰も気づいていない中、大きな崩落があったはずの場所に辿り着くが、せいぜい4、5メートル程度の縦穴があるだけだった。
崩落が崩落を呼び、ローズが落ちた穴は既に塞がってしまっていた。
だがローズは生きているとルシアは言う。
父ハワードが持たせた剣は、過去にルシアが祝福した剣であり、その魔力を微かながら追うことができる。
それは、ローズが生きている証拠というには弱すぎる根拠だったが、母ルシアは頑なに娘の生存を主張し続けた。
現在は、ダンジョンから溢れて出てくる魔物の殲滅に手を貸している。
ダンジョンの落ちたと思われるローズが戻ってこられるよう、もしくはこのまま救出に行けるよう自分たちから協力を申し出た。
その間、娘のリーズと3人でギルドの厄介になっている。
その時のふたりの様子はあまりに痛々しく、クライムが全てを負担している。
ハワードは元赤プレートの冒険者で、ダンジョンの最高到達階層は38階層。
ルシアは元黒プレートの冒険者でダンジョンの最高到達階層は52階層。
勿論それぞれソロで到達したわけではないが、それでも実力者であることはこの指標で分かるだろう。
階級の違うふたりが何故結婚したのかは置いておいて、ひとまずルシアがいればダンジョンの制圧は時間の問題だろう。
「ザミ、ローズがダンジョンに行く前に鑑定した能力表はあるか」
「はい、こちらに保管してあります」
ザミは整理された書類棚からファイルを取り出し、その中に保管してあった紙切れをクライムに手渡す。
「……」
『ローズ・クレアノット
ステータス
平均膂力値:35
平均防御値:22
平均魔力値:0
平均敏捷値:31
平均闘気値:28
平均聖気値:23
スキル【戦技】
無し
スキル【魔術】
無し
スキル【その他】
『適性武具霊装化』
恩恵
無し
総合評価 D- 』
「駆け出しもいいとこだな……」
「12歳の女の子にしては高いと思いますが……。一般人のE評価は超えています」
「魔力値を差し引いて考えても白プレート後半だ」
「…………」
紙をザミに突っ返し、椅子へと椅子の背もたれへと体を預けるクライム。
「だがまぁ……、伸びしろはでけぇはずだ。生きてりゃあ今頃、すげぇ冒険者になってるだろうよ……」




